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5話 眷属にはなりたくありません

 永遠の森での失敗で「強いモンスターがたくさんいるエリアのダンジョンは避けるべき」という教訓を得た私たちは、次はプロックトン山脈に最近できたというダンジョンにやってきていた。


 詩織とお喋りしながらゆっくりと最深部を目指しているが、今のところ他のモンスターによる襲撃は一度もなし。


 私たちの姿を見たり気配を感知したりして逃げ出すモンスターはD級かC級モンスターばかりだったから当たり前か。しかも数は少なくなさそうだったから、エサには困らないはず。


 そしてまだ新しいからなのかダンジョン内はとても綺麗で、ダンジョンがあるプロックトン山脈も日本と似たような感じの気候だから非常に暮らしやすそう。ものすごく気に入った。


「ここ、なかなかいいね」

「わたしも気に入った。一応奥の方まで見てみて、特に問題がなければとりあえずここにしよう?」

「うん!そうしようそうしよう♪」


 詩織も気に入ってくれたみたい。だよね、いいよね、ここ。気候も環境も食糧事情も文句なしだもんね。


「わぁ!」

「すごーい!!」


 どんどん奥に進み、おそらく最深部ではないかと思われる場所にたどり着いた私たちは、思わず感嘆の声を漏らした。


 ダンジョンの最深部と思われる場所は、大きな地底湖だった。しかも地底湖がある広いスペースの天井のどこかに外と直接つながっている穴があるらしく、太陽の光が透明度の高い地底湖を照らしていてとても幻想的で美しい光景を作り出していた。


 うん、これはもう確定だね。


「詩織!ここにしよう!私ここがいい!」

「わたしも!ここで暮らせるならダンジョンのボスモンスターやってもいいかも」

「そうだね。D級とC級しかいないから強い冒険者はあまりやってこないんだろうし、二人でこのダンジョンのボスやろうか♪」

「途中まで初心者向けなのにボスはS級2匹とかめちゃくちゃ理不尽なダンジョン!」

「確かに。完全に初心者殺しのダンジョンだわ」


 理想的な新居が見つかったことで、テンションが上がってしまった私たちは、自分たちに近づく巨大な存在に気づくことができていなかった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「……ずいぶん盛り上がってるな」

「…!?」

「誰!?」

「それはこっちのセリフだ。勝手に俺の家に入ってきたお前らこそ誰だ」


 いつの間にやってきたのか、地底湖の中から顔を出して盛り上がっている私たちを見つめている者がいた。


 ルビーのような真っ赤な両目、他のどのモンスターのものとも似ていない美しく立派な4本の角、黄金色に輝く威圧感たっぷりの巨大な爬虫類の顔。


 でもその表情は怒りに震えているというよりは、私たちを好奇の目で見ているような気がした。あれ?なんで私、ドラゴンの表情をなんとなく読めているんだろう。同じ爬虫類だからか?


 てか詩織はなんで今にも戦闘を始めそうな雰囲気でちょっと相手を威嚇しようとしているの?向こうは今のところ敵意は持っていないみたいだし、威嚇して良い相手でもないだろうに。


 あれかな?彼女、蛇だけじゃなくて爬虫類全般苦手だったっけ?特に苦手なのが蛇なだけで。ま、いいや、いずれにしてもここは私が話をしよう。


 そう考えた私は、震えながらも私をドラゴンから守るような場所に立ってくれていた詩織の左肩に手を置き、彼女に優しく微笑みかけることで「ここは私に任せて」の合図を送った。


 詩織はすぐに私の意図を理解して、後ろに下がってくれた。前に出た私は、地底湖の中からこちらを見つめているドラゴンに向かって深く頭を下げた。


「大変申し訳ございません。ドラゴン様のお住まいだと気づきませんでした。私はアミ、彼女はシオリと申します」

「…カラタシャールだ」


 おっ、普通に名乗ってくれたぞ。狂暴なレッドドラゴンやブラックドラゴンじゃなくて、比較的温厚なゴールドドラゴンでよかった。


 …怒らせたら一番ヤバい相手らしいけど。


「私たちはカラタシャール様に敵対するつもりは全くございません。この宝石をすべてこちらにおいて速やかに立ち去りますので、どうか見逃してはいただけませんか」


 そう言いながら黒の塔から持ち出した宝石がすべて入っている袋を地面において、ドラゴンに見えるように中身を出した。結構な量だし、宝石の質もかなり良いはず。


 ドラゴンはみんな、宝石大好きらしいからね。黒の塔から持ち出してきてよかった。これで満足してくれるといいんだけど…。


「お前らはここに住みたかったんじゃないのか?」

「ここが自然発生のダンジョンだと勘違いしていましたので…申し訳ございませんでした」

「…いいぜ?ここに住んでも。…俺の眷属になるなら、という条件付きだけど」

「……」


 竜の眷属か…。ドラゴンの加護を受ける代わりに、生涯そのドラゴンに絶対服従を誓わなければならないという、なんとも言えない微妙なお仕事。歴史上、竜の眷属になった人間は多くの場合、人間界では英雄とか聖女扱いされるけど…。


 正直あまり興味ないな。英雄とか聖女になりたいと思わないし、そもそも私魔物だし。ラミアの寿命がどれくらいなのか分からないけど、たぶん人間よりは遥かに長いはず。これから何百年も誰かに束縛されて絶対服従しないといけなくなるのは嫌だな。


 後ろで様子を見ている詩織にアイコンタクトをして彼女の意向を確認してみる。やはり詩織も明らかに乗り気ではなさそうな感じだね。


 OK。ならばここは…!


「申し訳ございません。私たちは二人で静かに暮らす場所を探しておりまして…。どうか見逃していただけませんでしょうか」


 そう言って真っすぐドラゴンの目を見つめる私。私がドラゴンの表情を多少読み取れたということは、ドラゴンは私の意思をもっと詳細に読み取れるはずだ。やつらは存在自体がチートだから。…あと、同じ爬虫類だし。


 だから私はドラゴンへの視線に自分の意思をたっぷり込めてみた。「眷属になるつもりはない。できればあなたと殺し合いはしたくないけど、見逃してくれないっていうなら全力で噛みつくぞ」と。


 ゴールドドラゴンがどれくらい強いかは分からないけど、ラミアとアラクネが協力して本気で抵抗すれば少なくとも無傷ではいられないはず。それはあなたの嫌でしょう?大好きな宝石をあげるから、ここは見逃して?


「…ふん。なら速やかに立ち去れ」

「ありがとうございます!詩織、行こう!」

「…あっ、うん!」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「亜美!!」

「ぐぇ」


 私たちは全速力でドラゴンの巣から脱出した。そして入口から少し離れたところで、詩織が突然後ろから私に体当たりをしてきた。


 …いや、詩織、危ないから、今完全に転ぶところだったから。私がラミアじゃなければ今の体当たりでたぶん死んでるから。


 あと、当たってるから、あなたの硬いものが、私の背中や下半身に…。


 ……もちろん下ネタじゃないよ。彼女の蜘蛛の部分が私の背中や下半身のウロコに当たっているんです。おかげさまで私は上半身全体に鳥肌が立ってしまいました。


 もちろん詩織がそんな私の気持ちを察してくれるはずもなく、彼女は興奮気味に話し始めた。


「亜美ってなんでそんなにカッコいいの!?」

「…カッコいい?」

「めちゃくちゃカッコよかったよ!ドラゴン相手に全く委縮も緊張もしないで堂々と交渉して!」

「いや、どこがよ。全財産差し上げますから命だけは助けてくださいって懇願してたじゃん」

「そんなことないよ!「眷属だと?ふざけんな。噛みつかれたいのか」って感じだったよ?」


 …まあ、確かにそんなことを少しは考えていたのも否定できないけど。でも私そんなオーラ出してた?めちゃくちゃ低姿勢の交渉だったと思うけど。


「いや、あれだよ、なんとなくあのドラゴンが怒ってないことが伝わってきてたから。同じ爬虫類だからかな?」

「それ爬虫類関係ないよ。わたしもドラゴンが別に怒ってないのは分かってたもん。でもそれでも怖いじゃん?相手ドラゴンだよ?わたしなんかドラゴンの顔見た瞬間から全身震えて腰が抜けそうになったのに」

「…それはきっと詩織が爬虫類苦手だからだよ。私も目の前にドラゴンサイズの蜘蛛が出てきたらそれこそ腰抜かして失神してるって」

「ギガンティックブラックウィドウのこと?あいつらはドラゴンよりは全然小さいよ?しかもそんなに強くもないし」


 ……いや、詩織、やめよう、その名前からして恐ろしい生き物の話は。詩織より数倍大きい蜘蛛の姿とかもう想像しただけで鳥肌が立つ。


「…とにかく戦闘にならなくてよかった。宝石はちょっともったいなかったけど」

「宝石なんかどうでも良いよ!…亜美ぃ~本当に本当にカッコよかった!わたし惚れ直しちゃったよ!」


 そうかそうか、可愛いやつめ。


 でもこれで住居探しはまた振り出しに戻っちゃったな。本当にすべての条件が完璧に揃っているダンジョンだったのになぁ


 …残念。まさかドラゴンの巣だったとは。

「全財産差し上げますからブックマークと☆での評k……」ってダメだ。これは絶対言っちゃいけないやつ!

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