4話 新居を探しています
一緒に行動するようになった私たちはまず、二人で暮らすための住居を探すことにした。
それまで私は眠くなったら適当な木の上や洞窟の中で眠り、お腹が空いたら狩りをするという、とても魔物らしい原始的な生活をしていた。
でも詩織に出会えたことで元人間としての感覚が少しは戻ってきたのか。どこかに住居を定めて暮らした方が良いのではないかという気持ちが芽生えていた。
ちなみに詩織も今までは私と同じような生活をしていて、私に出会ってから住居を探そうと考えるようになったところまで全く一緒らしい。やっぱ気が合うな、私たち。
そして私たちは、二人が出会ったところから3日くらい移動したところにある『黒の塔』を最初の居住地候補に決め、現地にやってきていた。
黒の塔は詩織が食べた獲物の知識にあった場所らしく、深い森の中になぜか真っ黒な塔が建てられており、その塔には割と名の知れた邪悪な魔導士が住んでいた。
「うーん、ちょっと狭いかな。部屋数も思ったより少ないし」
「きゃあああああ!!」
「もう、露骨にビビらないでよ。…少しずつお互いの姿に慣れていこう?」
「…ご、ごめんなさい。頑張る」
塔の最上部を見に行っていた詩織が、蜘蛛の糸を使って1階にいた私のところにダイナミックに降りてきた。そして彼女が突然真上から私の視界に入ったことによって、私は息が止まるほどびっくりした。
ため息をつきながら私を諭す詩織と、涙目で返事をする私。
…いや頑張るけど、今はまだ心臓に悪いから急に私の視界に入ってくるのはやめてください。普通に階段を使ってください。お願いします。
「で、亜美はどう思う?ここ」
「…確かにちょっと狭いね。外装真っ黒だから夏熱そうだし。あと、ここの住人はやっぱ相当悪いことをしてきたみたいだから、いつ討伐隊がやってきてもおかしくないかも」
……はい、黒の塔に住んでいた邪悪な魔導士は無事私のエサになりました。「相当悪いことをしてきた」というのは、吸収した彼の知識や経験から推測したものです。食べたら拷問や虐待、人体を使った魔法実験の経験や知識が大量に入ってきたからね。
人間は食べないんじゃかったのかって?うん、「人間」を食べるのはできるだけ控えている。
でもこの塔の魔導士の場合、おそらく彼が人間を材料にして合成獣を作っていたことが分かった時点で「あ、こいつは人間とはいえないや」と思えてきて、食べることに対する全く抵抗がなくなった。
だって、彼が作ったと思われる、明らかに身体の一部が人間の、奇妙な合成獣が何匹も私たちを襲ってきたからね。
…まあ、私たちも似たような存在だけど。
最終的に問答無用で魔導士を討ち取った詩織が、自分はこんなクズ食べるつもりはないって言い出して、ちょうどお腹も空いていたし、魔導士の知識や経験ももう少し欲しいなと思っていた私が美味しくいただきました。
で、食べてみたら案の定、人間を使って魔道実験を行っていたから習得できたとしか思えない経験とか知識が大量に入ってきた。
…入ってくるのがあくまでも「経験と知識」だけで、「記憶」そのものじゃなくて本当によかった。
「他の場所探そうか」
「うん、そうしよう。ここは私が魔法で燃やしておくね」
こんな不気味な場所、消しといた方が良い。亡くなった元人間の合成獣たちの火葬を兼ねて、燃やしてしまおう。元住人の魔導士から吸収した知識をベースに取得した新しい魔法も試してみたいし、ちょうどいいや。
『インフェルノ!』
塔から十分距離をとったところで、私は火属性の最上級魔法を塔に向かって放った。呪文は石造建築物で、魔法による補強もされていたはずの黒の塔を簡単に燃やして、しばらくして塔は崩壊した。さすがはすべてを燃やし尽くす地獄の業火。
……てかここの住人、こんなヤバい魔法まで使えるやつだったのか。これ使われたら私や詩織も無傷ではいられなかったかも。
相手が魔法を使う暇もなく、出会い頭に脚で心臓をぶち抜いた詩織の判断は正しかったね。さすが詩織、いつだって頼りになる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
次に私たちがやってきたのは、人間たちに『永遠の森』と呼ばれている、強力な魔物が多数生息いることで有名な森、その中でも最深部にある大きなダンジョンだった。
ちなみに永遠の森という名前は、この森に入った人間は永遠に戻らない、という意味でいつの間にかそう呼ばれるようになったらしい。
実際には凄腕の冒険者の中にはこの森に入ってからも無事に帰還している人もいるらしいので、別に人間が一度足を踏み入れたら絶対に帰れない森でない。
でも森にはA級モンスターがうじゃうじゃいて、S級モンスターも結構な数がうろうろしているから、私が人間だったら絶対にこの森には来たくない。
そして私たちが訪れた最深部のダンジョンは、その永遠の森の魔物たちの発生源であり、総本山ともいえる場所だった。
なぜそんな危険な場所を選んだのか。理由は二つあった。一つ目は魔物が多いからエサに困らないという点。二つ目は人間が永遠の森の最深部のダンジョンにまでたどり着くことはほとんどないから、人間との戦闘をほぼ100%避けることができるという点。
でも現実はそう甘くはなかった。
「…はぁ…はぁ…ねえ亜美、ここは…やめよう」
「……う、うん、やめよう…」
肩で息をしながらそのような会話を交わす私たちの足元には、9つの首を持つ大蛇『ヒュドラ』の死骸があった。言うまでもなくS級モンスターである。詩織と一緒だったからよかったものの、1対1だったら勝てるかどうかわからない相手だった。
苦手な蛇の形をしている相手なのに頑張って戦ってくれた詩織に感謝しなきゃ。
それにしても体力と魔力の消耗がとても激しい。今すぐにでもこのダンジョン…いやこの森から出ていきたい。
だってこの森にきてまだ1日しか経っていないのに、戦闘になったA級以上のモンスターだけでもサイクロプス、グリフォン、ベヒモス、バジリスク、オーガ、ヒュドラ……
何なのこの訳のわからない森は。魔物って本能的に自分と同格か格上の相手にはケンカ売らないものなんじゃないの?普通、S級モンスターが2匹一緒に行動しているところを襲ってくる?
…単純に訪れる人間が少ないからみんな血に飢えているのか、それとも森全体を覆っている妙な瘴気が原因なのか、この森の魔物たちはやたらと好戦的で攻撃的だった。
こんなところに長居したら毎日戦闘で疲弊するし、いつかは殺される。「俺は最強の魔物を目指す」といった感じの武道家タイプのモンスターにはおすすめかもしれないけど、元日本人で平和主義の私たちにはちょっと…いやだいぶきつい。
「魔物視点でのダンジョンって日本基準でいうとマンションみたいなものだよね」というしょうもない会話を詩織としていたけど、だとすると永遠の森のダンジョンは、めちゃくちゃ治安の悪い地域に建てられたセキュリティーガバガバの古いマンションだわ。
…この例えが的を射ているかどうかは自信がないけど、いずれにしてもここはなし。また襲われる前に速やかに出ていこう。
「…いや頑張るけど、今はまだ心臓に悪いから急に私の視界に入ってくるのはやめてください。普通にブックマークか☆での評価を使ってください。お願いします」
……意味不明ですね。すみません。