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1話 人食いの魔物になりました

 気がついたら、魔物になっていた。


 意味わからないって?うん、私も。魔物になってもう1か月近く経つけど、未だに自分でも意味がわからないし、なぜこうなったのかもさっぱり分からないし、そもそもこれが現実かどうかも確信が持てない。


 私の名前は海老原亜美(えびはらあみ)。都内の私立大に通う20歳の女子大生…だった。幼馴染で親友の詩織(しおり)と一緒に温泉旅行に行って、帰りのバスで眠ってしまったのが日本での最後の記憶で、眠りから覚めたらなぜか薄暗い洞窟のような場所にいた。


 目が覚めた瞬間から下半身に強烈な違和感があったので左手で足を触ってみたら、何かひんやりとした感触があった。そして下半身からは何かに触られているような感覚が伝わってきた。


 驚き、戸惑いながら自分の身体を確認してみたら、上半身は人間の女性のままなのに下半身が巨大な蛇になっていた。


 意味がわからなくてしばらく途方に暮れたけど、お腹空いたし喉も渇いたからとりあえず明るいところに出て何か食べ物を探そうと思って洞窟の出口を目指した。


 でも出口は簡単には見つからず、洞窟を彷徨っているうちに剣とか杖とかを持ったコスプレ集団に遭遇してしまった。


 私は彼らに声をかけて、助けを求めようとしたんだけど、相手は私の姿を見た瞬間パニックに陥って問答無用で攻撃してきた。


 そして、騎士風のイケメンお兄さんが持っていた長剣がコスプレ用ではなくて本物の武器で、魔法使い風の赤髪のお姉さんが信じられないことに素手から炎を出して私に放ってきたことから、私は仕方なく自分の身を守るために戦うことにした。


 最初は戦うのではなく、逃げたかったんだけど、相手が逃がしてくれそうになかったし、何よりも相手が本気で私を殺そうとしているのを理解した瞬間、私の理性はぶっ飛んでしまった。


 理性を失って本能のまま暴れた私は、気が付いたら簡単に相手を返り討ちにしていて、暴走状態のままコスプレ集団の全員を夢中になって「食べて」しまった。


 理性を取り戻してからは「人を殺して」「しかも丸呑みにして食べてしまった」自分にドン引きして、次の瞬間「自分は間違いなく人間ではなくなった」ことを痛感し、しばらく放心状態になったのを覚えている。


 一応釈明しておくと、私が人間を食べたのは今のところ理性を失っていたその時だけである。その後も何度か人間に襲われて、死にたくないから襲われる度に毎回返り討ちにはしているけど、あれからはまだ一度も人間を食べてはいない。


 …だとしても今の私が人食いの魔物であることに変わりはないけどね。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 私はたぶん、ラノベなどでよく見る「異世界転生」をしたのではないかと考えている。推測に過ぎないけど、たぶん私が眠っている間に乗っていたバスが交通事故か何かに巻き込まれて、私は眠ったまま死んだのではないかと思う。


 もうそうだとしたら、一切苦しむことなく死ねたわけだから、ある意味死に方としてはベストだったと思うけど…。家族に申し訳ない気持ちでいっぱいだわ…大事に育ててくれたのに20歳で死んじゃうなんて。お父さん、お母さん、お姉ちゃん、本当にごめんなさい。


 そして最後の旅行で一緒だった詩織。幼稚園の頃からずっと一緒だった幼馴染で、大好きな私の一番の親友。それなのに旅行最終日に彼女とケンカをしてしまって、お互い一言も喋らないまま帰りのバスに乗って、そのままの状態でたぶん私は死んでしまった。


 不思議なことに彼女とケンカをした理由がどう頑張っても思い出せないんだけど…。まあ、「前世の記憶」なんだからすべてをクリアに思い出せないのは当たり前かもね。他にもぼんやりしているところ、結構あるし。


 でも最後の最後、大好きだった詩織とケンカしたまま死んじゃったのは本当に心残りである。ちゃんと謝って仲直りしたかったな…。詩織は私なんかより遥かにしっかりしている良い子だから、たぶんケンカの原因は私にあったと思うし。


 最後までダメダメな親友でごめんね、詩織。…そして、どうか事故死したのは私だけで、詩織は大きな怪我もなく元気に生きていますように。


 …まあ、私が「死んだ」というのも推測にすぎず、実際に自分の身に何が起きたかはわからないけどね。


 てか死んだとしてさ、普通、異世界転生といったら、死んだあと女神様か何かが出てきて「あなたはこういう理由で死にました」と親切に状況説明してくれて、何かチート能力をくれるなり、プレイしていた乙女ゲームの悪役令嬢に転生させてくれるなりするものじゃないの?


 チュートリアルも状況説明も一切なしで転生先は人食いの魔物とか、どうなってんの?前世の私、そんなに悪いことしてないよ?真面目に生きてたよ?おかしくない?


 …まあ、単純に能力面だけ考えると、チート能力付きといえばチート能力付きなのかもしれないけどね。


 というのは、私が転生した『ラミア』は、ファンタジー系のラノベやゲームによく登場する魔物だけど、どうやら私が転生した世界においては「S級モンスター」に分類される最強クラスのレアモンスターのようなのだ。


 どれくらいの強さかというと、この世界においてラミアより確実に格上と言えるモンスターは『ドラゴン』しか存在しない。ドラゴン以外のあらゆるモンスターは格下か同格。


 そしてそれをなぜ異世界チュートリアルがなかった私が知っているかというと、最初に「食べた」冒険者パーティーの知識や経験をすべて吸収しちゃったから。


 それがこの世界のラミアが標準装備している能力なのか、それとも私の転生特典なのかは分からないけど、いずれにしても私には食べた相手の知識や経験を吸収できる能力が備わっているらしい。


 最初に食べた4人組の冒険者たちは相当な実績と経験を積んだ一流のパーティーだったようで、私は彼らが持っていた豊富な知識や経験から自分が転生した世界に関する幅広い情報を吸収できた。


 ついでに魔導士のお姉さんの知識と経験から魔法も使えるようになり、私の異世界ライフは最初から割と快適といえば快適だったんだけど…。


 でもさ、私、別にチート能力が欲しかったわけじゃないんだよね…転生するなら普通に乙女ゲームの悪役令嬢の方がよかった。いや、悪役令嬢じゃなくてもいいからとにかく人間として転生させてほしかったな。


 ……どうして魔物なの?

私、別にチート能力が欲しかったわけじゃないんだよね…

あなたのブックマークや☆評価が欲しかっただけなんだよね…。

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[一言] あとがきに草生えた(*´ч`*)
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