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99 絶望をプレゼント☆

九十九話  絶望をプレゼント☆




 「本当に大丈夫なの」



 朝・登校中。 エマが心配そうにオレを見つめる。

 そう、今日は歯抜けこと柳に絶望をプレゼントする日……昨夜10分くらいそれに関して西園寺と電話したんだよな。

 電話で10分程度だったんだ。 直接話していたらもっと早いはずだったのに昨日の昼休みの西園寺ときたら……はぁ。



 「ーー……ダイキ?」


 「あぁごめん、色々考えてた。 何も心配ない。 大丈夫だ」


 「本当にー??」


 「本当だって。 だからくれぐれも横から変な茶茶入れんなよ」


 

 あのハイテンションの外国人キャラ、まだあんまり掴みきれてないからな。

 


 「もう、なにーそのエマが邪魔みたいな言い方ーー」


 「してねーよ」



 オレとエマが軽く言い合いみたいなことをしていると、小さな何かがオレたちの間に割って入る。



 「ん?」

 「なに?」



 それはもちろんーー……あの子だよ!!



 「エマおねーたん、だーいき。 ケンカはだーめよー?」



 そう……金髪の天使ことエルシーちゃん!!

 エルシィちゃんは左右の人差し指を口の前でクロスさせてバッテンと作り、少しムッとした顔でオレたちを見上げる。



 「あぁ……」

 「可愛い」



 エルシーちゃんの上目遣いにオレとエマは一瞬でメロメロ。

 2人とも目をトロンとさせてさっきまで言い争っていたというのがまるで嘘のようにエルシィちゃんの頭を仲良く撫でていたのだった。



 ◆◇◆◇



 休み時間。



 「うわー、麻由香今日の運勢めっちゃいいじゃんー」


 「ほんとだー、すごーい!」



 三好の席前で三好と多田が演技をして盛り上がる。



 「なになに、どうしたの?」



 それにつられてやってきた女子が数名。


 

 「面白い占いしてくれるところ見つけたんだよねー。 期間限定っぽいんだけどさ、SNSサイトのこの人にダイレクトメールを送るんだけど、本文に名前と誕生日を書いて送信するだけで今日の運勢占ってくれるんだって」



 三好が見せびらかすようにSNSのとある人物のプロフィール画面を開く。



 「そうなの!? 三好さん、私にも教えて!!」


 「いいけど1日に占ってくれる人抽選ぽいんだよね。 あれだったら私今日抽選当たったから何回でも聞けるけど……やったげよっか?」


 「えーいいの!? やってやって!!」


 「おけー、じゃあ誕生日教えてよ」


 「えっとね、3月ーー……」



 ブーッ


 ポケットの中に入れていたスマートフォンが震える。



 「ーー……きたか」



 画面を開くとSNSのメッセージ受信通知。

 昨日アカウントを作っておいたんだよな。


 みんな三好が送っている相手がオレだとは想像もつかないのだろう……ワクワクしながら結果を楽しみに待っている。

 オレはそのメッセージに1つずつ返信。



 【瀬川愛】今つけているであろう赤い髪ゴムが今日のラッキーアイテム


 【原田歩】運動部のイメージ。 しかし今日は運気が少し下降気味……無理せず体を休めるのが吉



 オレはそいつらの身なりを見ながらそれっぽいことを適当に書いて送信。



 「きゃーー!! なんで私が赤い髪ゴムしてることわかるの!?」

 「私も!! 運動部だってなんでわかったんだろう!!」



 所詮は小学生脳……まんまとオレの嘘に引っかかった女子たちは近くにいた人にも話しかける。

 そこには三好の席の近くに座っていた男子……歯抜けこと柳にも。

 誰も声をかけにいかなかった場合は三好が話しかける作戦だったが丁度いい。



 「ねね! 柳くん、誕生日いつ?」


 「なんで?」


 「三好さんが教えてくれた占い師の人、めっちゃ当たってんだって! 柳くんもやってみなよタダだし」


 「あー、じゃあ……」



 ブブーーッ



 スマートフォンが振動。

 オレは考えておいたメッセージを手早く入力していく。



 【柳陽平】今年で1番の勝負運の強い日。 好きな人がいるならアピールして告白すべし。 



 「きゃあーー!! 柳くんみてよこれ!!!」


 

 女子が嘘の占い結果を柳に見せつける。


 

 「へ……へぇー」


 「ねー、柳くんって好きな人いるの?」


 「い……いても言わない」


 「「きゃああああ!!!」」



 その場は大盛り上がり。

 ただこれ以上の返信はオレの負担にしかならないのでオレは本日終了のメッセージを三好に送信。 その後アカウント自体を消去する。

 柳に視線を移すと少し浮かれたご様子なのでオレの作戦は第二段階へ……。



 ◆◇◆◇



 昼休み終盤。

 


 「三好さん、音楽の教科書とかって持ってないかな」



 西園寺が教室へやってきて三好に話しかける。



 「あーごめんね、今日音楽ないから持ってないや」


 「そう……こっちこそごめんね、他のクラスにーー……」



 「お、俺が貸すよ」



 そこで声をかけたのは歯抜け柳。

 柳は後ろのロッカーまで駆け寄ると中をゴソゴソと漁って音楽の教科書を取り出す。

 そしてそれを西園寺へ。



 「助かるわ。 えっと……柳くんだよね、ありがとう」


 「お、おう」



 西園寺の笑顔に柳はノックダウン。

 顔を真っ赤に紅潮させながら視線をずらす。

 

 ーー……お前がロッカーに大量に置き勉してたの知ってたからな。 ありがたく利用してやったぜ。



 「返すの放課後でも良いかな」


 「お、おう」


 「ありがとう、じゃあ放課後また来るね」



 西園寺は小さく手を振るとパタパタと駆け足で3組へ戻って行った。

 その後西園寺からメールが。

 


 【受信・西園寺希】これでよかった?


 【送信・西園寺希】あぁ、完璧だ



 「なんか西園寺さん、良いよな」

 「あぁ。 わかる」



 近くに座っていた男子が西園寺の話を始める。

 実のところ西園寺って結構人気が上がったらしいんだよな。

 どうもいじめっ子をやめてドM……大人しくなってから爆発的にファンが増えたらしい。

 噂では陰で結構告白とかされてるらしいが全て断っているとのこと。 あいつの好きな人って一体……。



 ◆◇◆◇



 待ちに待った放課後。

 今日はエマに自重してくれと頼んだためエマは迎えに来ず。

 エマが来ないことに気づいた杉浦がアイコンタクトで天パの須藤と歯抜け柳に合図を送った後に席を立ち何処かへ……おそらくオレをどうにかしようと思っているのだろう。

 そして天パ須藤と歯抜け柳がオレのもとへ。



 「今日は助け来ないんだな。 残念でしたー」


 「今日こそは俺たちときてもらうぞ」



 2人でオレの腕を掴む。



 「柳くーん」



 教室の出入り口から西園寺が教科書を片手に柳に手を降っている。



 「あ、ごめん須藤、ちょっと……!」


 「は?」



 柳はオレから手を離すと西園寺のもとへ。

 そんなに長くもない髪をいじりながら西園寺に向かい合う。



 「これ、ありがとう柳くん。 助かった」


 「い、良いよ別に」



 柳は西園寺から受け取った教科書を大事そうに抱え込む。



 さぁ……ここからがショータイムだ!!


 オレは軽く腕を引いて天パ須藤に抵抗。



 「ちょ、ちょっと! こら動くな福田!」


 

 その声に西園寺が分かりやすく反応する。

 


 「ねぇ柳くん、福田くんどうしたの?」


 

 純粋な視線を柳に向ける。



 「あぁ、杉浦くんに頼まれてね。 杉浦くん福田のせいで出席停止処分になってたからイライラしてて」


 「そうなんだ……」


 「うん」


 「柳くん……」


 「なに?」


 「いじめって案外かっこいいもんじゃないよ?」


 「ーー……!!!」



 この言葉に柳は完全に反応。

 教科書を抱えたままオレたちのもとへドカドカと近づいてきて天パ須藤の腕を掴む。



 「どうした柳」


 「須藤、やっぱりダメだこういうの」


 「ーー……は?」


 「弱い者いじめは良くないよ」


 「え、急に何言ってんのお前」



 色恋の力はすごいな。 オレの目の前で天パと歯抜けの口論が勃発する。

 


 「俺、抜けるよ」


 「は? ガチで言ってんの柳」


 「うん。 やっぱりいじめってかっこ悪いし」



 柳は音楽の教科書をぎゅっと握りしめながら時たま西園寺のいる方をチラチラ。



 ぷーーーーっ!! くすくすくす!!!

 なにお前カッコつけちゃってんだよ歯抜けぇ!! 今更そんなこと言ってもここにいる誰もがお前のことをカッコいいとは思ってないぞーー!?!?

 逆に西園寺の言葉で浮ついた軽い男だって思われてるんじゃないのでしょうかーー!!!


 オレが心の中で大爆笑している間にも天パと歯抜けの口論は激化する。

 


 「もう終わりにしようぜ須藤、もしお前がそれでも福田を連れてくんだったら俺が先生にチクる!」


 「は!? 柳、お前何言ってんのかわかってんの!? じゃあ俺も杉浦くんにチクるぞ!?」


 「良いよ!! 杉浦くんが何かしてきたらすぐに先生に言うし!!」


 

 まだだ……まだ笑うな。

 オレは込み上げてくる笑いを必死に止める。

 あの歯抜け野郎、さっきからかっこつけてるように見えて全部先生任せじゃねえか!!!

 そこがガキの考えっぽくて実に面白い!!


 結果須藤は担任にチクられることを恐れてその場を退散。

 柳は勝ち誇った顔で須藤が教室から出ていくのを見送り、その後ドヤ顔で西園寺のもとへと向かう。



 「その……西園寺さん、この後ちょっと良いかな」


 「え? うん、ちょっとなら良いよ」



 柳はカバンを持って西園寺と何処かへ。

 オレは三好と多田の2人と目が合う。



 【送信・三好佳奈】見に行く?

 

 【受信・三好佳奈】行く行く!!



 こうしてオレたちはこそこそと2人のあとをつけて図書室付近へ。

 柱から顔を覗かせて図書室前にいる西園寺と歯抜けを観察する。



 「ねぇ、告白するのかな」



 三好は目を輝かせながら視線を2人に固定。



 「これはすると思うよ」



 多田も興味津々でその状況を見守っていた。

 そしてその時が訪れる。



 「西園寺さん……その、俺とーー……」


 「ごめんなさい」



 「「「ーー……!!」」」



 西園寺は歯抜け柳の告白を全て聞く前に拒絶する。


 

 「な……まだ俺、ちゃんと伝えて……」


 「ごめんね、柳くん教科書貸してくれたりしたのは嬉しかったけど、柳くんじゃ私を満足させることはできないんじゃないかな」


 「ーー……え?」


 

 「「え??」」



 柱の奥からも三好と多田が小さく声を漏らす。



 「西園寺さん……それはどういう?」


 「んーとね、例えばの話をするわね。 私と柳くんがどこかに遊びに電車に乗ります。 でも私は途中でおトイレに行きたくなりました……さて、柳くんならどうする?」


 「そ、それはもちろん途中の駅で降りてトイレに連れてくよ! 西園寺さんを辛い目には合わせたくないからさ!」


 

 柳はドヤ顔で回答。

 うん、普通の男ならそう答えるだろうな。

 でも……違うんだなぁ歯抜け。



 「はい、それブーー」



 西園寺は唇を尖らせながら首を左右に振る。



 「え、なんで?」


 「それが分からない男子とは付き合うのはおろか、遊びに行けませーん。 じゃあね」



 西園寺はサラッと髪をなびかせながらその場から退場。

 歯抜け柳は訳が分からなかったのか呆然とその場で立ち尽くしていたのだった。



 ◆◇◆◇


 

 帰り道。



 「でさ、結局西園寺さんの答えってなんだったんだろうね」



 多田が頭上にはてなマークを浮かべながら呟く。



 「うん、私も気になってた。 普通は柳くんの言ってた通り、電車降りておトイレ向かうよね」



 まったくみんな分かってねえなぁ。

 あいつの答えはおそらくこれだ。



 『我慢の限界までモジモジさせてたまにちょっかいを出す』



 ーー……今後あいつに惚れた男は大変だな。

 

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 見事な復習劇?でしたなー! 柳くん……御愁傷様です……。 西園寺もなかなかにMを極めていらっしゃる!! 突然カッコつけ出すのは笑いましたw 告白シーンもよかったと思います! [一言] た…
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