90 あの子のスカートの中
九十話 あの子のスカートの中
「えーと……三好と多田は味方で、小畑は泳がせ中っと……」
夜。 オレは自室の勉強机に向かいながらダイキのいじめノートに最新情報を書き込んでいく。
「このブスとこのブス……あとあの歯抜けと天然パーマは杉浦の配下。 杉浦がいる場合のみ動く……よし!」
オレは自分で書き込んだいじめノートをマジマジと見つめる。
「それにしても杉浦の奴、考えたな」
暴力系ならまたどこで撮られてるか分からないからじわじわと精神的に追い詰める集団いじめに切り替えてきやがったか。
ーー……しかしどいつもこいつも可愛くもなんともないブスばっかりだな。
オレはいじめノートに書かれている杉浦の名前の周囲をボールペンでグルグルと囲う。
結局はこいつさえどうにかすれば周囲の取り巻きは黙るって話だ。 なんか西園寺を思い出すな。
「見てろよ杉浦、今度はもっと強烈なカウンターお見舞いしてやるぜ」
◆◇◆◇
翌日の放課後。
「福田、ちょっと来て」
杉浦の取り巻きの歯抜けが帰宅しようとしていたオレの腕を掴む。
「あーーー! 私のおもちゃがーー!! 今日も楽しもうと思ってたのに!!」
少し遠くで小畑の声が聞こえてくる。
それを必死で三好と多田が口を押さえてなだめていた。
ーー……マジか、今日もお楽しみできてたのかよ。 ていうか杉浦の奴呼び出し早くね??
オレは歯抜けに連れられるがまま運動場の体育倉庫裏へ。
そこにはもちろん杉浦と他の取り巻きの姿もあった。
「福田、お前よくも俺をハメてくれたな」
杉浦の手には部活で使われているのであろう木製のバット。
ふむ、これは痛そうだ……だがな。
オレは視線を一瞬外へ向ける。
ーー……よし。
オレの視界に入ったのは建物の隅に隠れてスタンバイを完了している三好と多田の姿。
実はこんなこともあろうかと、オレが学校から出るまではいつでも動画を撮れる状況にしておいてくれと頼んでおいたのだ!!
ちゃんとスマートフォンも持っているなよしよし。
これなら1撃だけ我慢して次は逃げれば証拠はバッチリ……オレの大勝利だニヤァ!!
オレは笑いそうになるのを我慢しながら杉浦の目の前に座らされる。
「おし、じゃあ福田を押さえてろ」
杉浦が取り巻きに指示。
歯抜けや天然パーマがオレの四肢をロック。 身体の自由を奪う。
ーー……え? これだと逃げられなくね?
予想と違った展開に一瞬動揺する。
ま……まぁアレだ、痛いの我慢さえすればオレの勝ちが揺らぐことはな……
「あれ、三好さんたち何してるのー?」
「ーー……!!!」
声のした方に視線を向けると三好たちのところに以前のダイキが好意を寄せていた女の子・水島花江の姿。
なんてタイミングで声をかけやがるんだ!! しかもこっちにまで聞こえるようなでかい声で!!!
その声はもちろん杉浦たちにも聞こえていたようで杉浦は舌打ち。
「ーー……場所を変えるぞ。 何人かは誰か近づいてこないか見張ってて」
ええええええええ!?!?!?!?
オレは身体をロックされたまま体育倉庫の中へと連れてこられる。
ちょっと待ってくれこれじゃあ写真も撮れないし痛い思いするしで詰んだやつじゃねーか!?
逃げようと腕を振りほどこうにも歯抜けたちのロックが強くて全く外れない。
「じゃあ俺にたてついたことを後悔するんだな!!」
杉浦がバッドを大きく振りかぶる。
痛いのいやああああああああ!!!
杉浦がオレに狙いを定めて腕に力を入れた……その時だった。
「あーーー!! こんなとこにいたんダーー!!!」
「「「ーー……!!!!」」」
勢いよく倉庫の扉が開かれたかと思うと、そこには昨日すれ違った金髪外人の女の子。
「だ、誰だお前……!」
「ワタシはオマエじゃないヨ? ワタシのナマエはエマ・ベルナール! フランスからきた転校生ダヨー!!」
金髪外人の女の子……エマはかなりのカタコトの日本語……かつハイテンションで杉浦たちに挨拶をする。
エマは近くにいたブス女たちの間を割って入りオレの前へ。
「ーー……え?」
「せんせーが探してたから呼びにきたんだヨ? ほら、エマと一緒に行こ!?」
エマが満面の笑みをオレに向けながら手を伸ばす。
あぁ……光の反射した金髪がめちゃめちゃ尊い。 ずっと見ていられるぜ。
「え……でも」
我に戻ったオレは杉浦に視線を移す。
「そ、そうだ転校生。 こいつ……福田は今俺らと遊んでんだよ。 引っ込んでろ!!」
杉浦はバッドを強く地面に叩きつけてエマを威嚇する。
「んー、わかった! じゃあエマ、せんせーに言っとくネ!! ーー……バッドで叩かれて遊ばれてるって」
「「ーー……!!!」」
エマの言葉に杉浦たちの動きが止まる。
「バ……バカかお前、そんなことしたら今度はお前がどうなるか分かって……!!」
「エマわっかんなーい!! だからせんせーに聞いてくるー!!」
エマはくるりと方向転換。
オレや杉浦たちに背中を向け、そのままどこかへと走り去っていってしまう。
そしてオレは一瞬だったがそれを見てしまったんだ。
体を回転した時に捲れたスカートの中身をーー……
まさか……履いてなかったなんて!!!
「ーー……おいどうするんだ杉浦くん。 あの転校生、本当に先生呼びに行ったんじゃ」
「くっそ!!!! 次だ!! 次はお前をボコボコにしてやるからな!! おいみんな、早く逃げるぞ!!!」
オレが1人で鼻の下を伸ばしている間に杉浦たちは焦りながらその場から逃走。
そして金髪外人の女の子……エマ・ベルナールの偶然の登場に助けられたオレは無傷のまま体育倉庫の中から脱出することに成功したのだった。
そういや先生が呼んでいたって言ってたな。
とりあえず行ってみるか。
オレは外国にノーパンの文化ってあるのだろうか……とか考えながら職員室へと向かった。
◆◇◆◇
「あのー、先生」
「どうした福田」
「なんか先生がオレを呼んでたって聞いたんですけど……」
「は? いや、俺はそんなこと一言も……誰にも言ってないぞ?」
「ーー……え?」
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