87 尾行作戦①
八十七話 尾行作戦①
オレは優香と三好兄の尾行をしながら少し思ったことがあったので三好に尋ねることにする。
「それにしてもなんでショッピングモールなんだ?」
「え、逆に福田はどこか予想してたの?」
三好が虫眼鏡をオレに向けながらオレを見る。
「ん? そりゃあもちろんラブーー……ゲフンゲフン、なんでもない」
「ラブ?? なに??」
「な、なんでもねーよ。 てか三好の予想ではキスなんだろ? だったらなんでキスするのにショッピングモールなんか行くんだよ」
「はぁ……福田、あんたもっと大人になって考えてみなよ」
三好が大きくため息をつきながらオレの肩を叩く。
「は?」
お前より実際はかなり年上なんですけど。
オレが三好を軽く睨みつけようとすると、目の前で三好が人差し指を立てる。
「あのね、キスするのにも順番ってもんがあるでしょ」
「ーー……順番?」
「そう順番。 福田、わかる?」
そんなこと言われてもオレ、自慢じゃないけど生まれてから死ぬまでにキスしたことなんてないしな……。
しかし大人のオレが小学生に負けるのもなんか腹がたつ。
ここは何が何でも当ててみせるぜ!!!
「わ、わかるよ! あのーーあれだろ? じっくり見つめあって、女の子が目を閉じたのを確認してからそっと抱きしめて顔を近づけてーー……」
「違うわバカ!!! その順番じゃないっての!!!」
オレが答えている最中に三好が顔を真っ赤にしながらオレの口を塞ぐ。
「ーー……じゃあなんだよ」
「段階じゃん!! あのね、確かに会ってすぐキスする人もいるかもしれないけど、そんなのごく少数なはずだよ! 普通は買い物行ったり遊んだりしてから、別れ際とか静かなところで雰囲気作ってからキスするものなの!!」
三好がドヤ顔をかましながらオレの前で腰に手を当てて説明する。
「ーー……なに、お前そんな経験あんの?」
「あるわけないじゃん!!! ドラマとか漫画ではそういう感じってこと!!」
「なんだよそれ……」
◆◇◆◇
ーー……え、まじ?
三好とさっきからずっと尾行しているのだが、楽しそうに買い物を楽しんでいるらしい。
これ第三者から見たら完全にデートじゃないか!!
オレは手のひらを自分の胸に当てる。
「ーー……どうしたの福田」
三好がオレの顔を覗き込む。
「見てるのが辛すぎて心臓が痛い」
「ちょっと大丈夫ー? ていうかそんなに気になるんだったら直接聞けばいいじゃん」
「お前な、そんなことしたらどこで盗み聞きしたんだって思われるだろ」
あぁ……オレは昨夜なんて言葉を聞いてしまったんだ。
あの時優香の部屋に向かわなかったらこんな思いしなくて済んだんだよな……あ、でも知らなかったなら知らなかったで、辛いよな。ぐあああああ……もどかしい。
今ここにわら人形と五寸釘、三好兄の髪の毛が置いてあったら今すぐにでもゴスゴスと打ち付けてやりたい気分だぜ。
そんなことを考えながら脳内をぐちゃぐちゃにしていると、優香たちはショッピングモールの上の階にある映画館へと入っていく。
「なぁ、今話題の映画ってなんだ?」
「えー、分かんないよそんなの」
三好が映画館前にたくさん貼られている告知ポスターを見上げながら答える。
くっ……もしかして映画館の中でキスするつもりじゃなかろうなぁ!!!
「よし、三好!」
オレは隣で考えている三好の腕を掴む。
「な、なに!?」
「ここはお前に賭ける。 金はオレが出すから三好、お前が見たい映画のチケットを2枚買ってきてくれ!」
「え、私が決めるの!?」
「あぁ! お前オレより大人なんだろ? だったらオレが選ぶよりも大人なお前が選んだ方がそこに優香たちがいる可能性が高いかもしれないからな!」
「なんでもいいの? ーー……うん、わかったよ」
三好が悩みながらもお金を握りしめて券売機の方へ。
「あ、席は後ろの方で頼むな。 じゃないと監視できないから!」
「はーーい」
こうしてオレは三好に映画チョイスを任せ、そのシアタールームに優香たちがいることを願ったのだった。
◆◇◆◇
「ーー……おい三好」
「なに?」
シアタールームに入り席に座ったオレはチケットに書かれた映画のタイトルを見て手を震わせる。
「お前……! 姉ちゃんたちがこんなもの見たいわけねーだろおおお!!!!」
オレはチケットを三好の目の前に突き出す。
今から見る映画はそうーー……『映画ピカ衛門! ピカ衛門のドタバタ白米世界冒険記!』
どう見ても小学生低学年が好みそうなアニメ映画だ。
こんなものを高校生の優香たちが見にくるはずもないし、実際にこのシアタールームに優香たちの姿はない。
「だって私の見たい映画っていうからー」
「あのキスの順番のくだりを聞いてたらもっと大人びたものが好きだと思うだろ! なんだよピカ衛門って!!」
「いいじゃん好きなんだからー」
三好は口を尖らせながらここに入る前に買ったポップコーンをオレの口に放り投げる。
「な……なにすんだよ!」
「え? このポップコーン口に詰めて黙らせようかと」
「き……貴様ぁ!!」
「あはは! なんか私らがデートしてるみたいになってんね!」
「ーー…え?」
「え?」
オレと三好はお互いに黙り込んで見つめ合う。
「「ーー……!!!!!」」
オレたちは同時に顔を真っ赤にさせると視線をスクリーンの方へ。
「な……何言ってんだよ三好!」
「そ……そっちだって恥ずかしがるのやめてくれる!?」
その後室内が暗くなり映画がスタート。
結構激しめな音が多く熱い展開っぽかったのだが、オレはまた別の……三好のさっきの台詞で熱くなってしまっていたのであまり作品に集中できないまま気づけばエンドロールが流れていた。
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