82 夏といえば②【挿絵有】
八十二話 夏といえば②
「おぉ……この結城の角度最高だな」
墓地の入口の門前。 しゃがみ込みながらスマートフォンの動画を見てどれくらいの時間が経っただろう。
一向にオレの耳に聞こえてくるのは夏の虫の音だけで陽奈に関する音は何も聞こえてこない。
「おーーい、陽奈ぁーー!!!」
奥の方へ呼びかけてみてもまったく返事がない。
はぁ……オレが行かないとダメってことか?
まぁでも今度は道を覚えながら進めば迷うことはまずない。 問題なのはそう……この怖さだけなんだよな。
「またあそこ向かうのかよ……」
オレは小さくため息。 少しでも心に余裕を持たせようとスマートフォンに移る結城の可愛い浴衣姿をじっと見つめる。
「ーー……よし、行くか!!!」
脳内を結城で満たし、いざ再び墓地へ!
オレが意を決して足を一歩踏み出した……その時だった。
「ダイきちくん?」
「ーー……!!!!」
突然背後から声をかけられたオレは身体をビクンと大きく反応させ、後ろを振り向く。
「ーー……え、だれ?」
そこには月明かりに照らされたオレと同じくらいの身長の女の子。
茶髪がかった髪で長めのツインテール。 花柄のワンピースを着ている。
え? ーー……もしかして幽霊とかそんな感じのやつ!?
オレはその女の子に対して防御の構えをとったのだが……
「あぁ、よかった。君がダイきちくんなんだ」
女の子がクスッと笑いながらオレの腕を軽く叩く。
触れてるってことは幽霊ではないのか?
この子もオレのこと知ってるぽいけど……。
「そんなことよりさ、陽奈ちゃんどこかな?」
「え……陽奈?」
「そう、陽奈ちゃんの帰りが遅いから心配になって来てみたんだよ」
ーー……陽奈の家族?
オレはジッとその女の子を見つめる。
「あぁ、ごめんね。 私、陽奈ちゃんの姉の愛莉っていうんだ」
「あ、お姉さん……。 えっと、初めまして」
ーー……年上だったか。 それにしても見た目の割に陽奈と違って大人びた子だな。
「ごめんねビックリしたよね。 私あんまり外に出ないからさ、陽奈ちゃんからよくダイきちくんのこと色々聞いてたから私だけが知ってる感じになっちゃってたね」
「あぁ……いえいえ」
「それで、陽奈ちゃんどこかな。 そろそろお母さんたちも心配する時間だから迎えに来たんだけど……」
「あー、それがですね……」
オレは陽奈の姉・愛莉に、陽奈が絶叫したままどこかへと走り去っていった経緯を話すことにした。
「ーー……あー、なるほどね。 まったく陽奈ちゃんったら」
オレの説明を聞いた愛莉が小さくため息をつく。
「その……すみません。 追いかけたかったんですが、色々とその時動けなくなってた事情がありまして」
「ううんいいよ。 元はと言えば勝手に走り出しちゃった陽奈ちゃんが悪いし」
「いやでも……」
「じゃあさ、今から私と一緒に陽奈ちゃん探すの手伝ってくれないかな? ダイきちくんがよかったらだけど」
「あ、それはもちろん。 ていうかオレもさっき探しに行こうとしてたところでしたので」
こうしてオレは陽奈の姉・愛莉とともに、陽奈を探しに再び墓地の奥へと進むことにした。
◆◇◆◇
「うーん、いないね」
愛莉が周囲を見渡しながら小さく言葉を漏らす。
「ですね」
てかあれだな、愛莉……まったく怖がってる気配ないよな。
愛梨は普通に何か出そうな不気味な雰囲気が漂ってる茂みの中でも何の躊躇いもなく覗き込んだりしている。
ーー……実に心強い。
そんなことを考えていると、何の前触れもなく愛莉がオレに話しかけて来る。
「そうだ、ダイきちくんゴメンね。 ここ最近陽奈ちゃんよくダイきちくんのところ遊びに行ってるよね」
「あ、いやまぁ……はい」
「ありがと。 ごめんね私のせいで……」
愛莉が少し悲しそうに地面の石を蹴る。
「えーと……どうして謝るんですか?」
「んー、私小ちゃな頃から身体弱かったけん、陽奈ちゃんと外で遊ぶこととか出来なかったんだよね。 だからほら、私の肌、陽奈ちゃんのと比べて日焼けしてないでしょ?」
愛莉が両腕をオレに見せつけてくる。
「なるほど」
「多分陽奈ちゃん、ダイきちくんに私を重ねてるところがあると思うんだ。 ダイきちくん私と違って元気だから外で遊べるでしょ? やけんダイきちくんに外の楽しさとか分かって欲しいって思ってるんじゃないのかな」
「いや、それはどうでしょう。 オレ、草むしりに手伝いやらされたっぽいですよ。 覚えてないですけど」
「それはあれじゃない? 草むしりした後はご褒美にもらえるアイスがあるんだけど、ダイきちくんと一緒に食べたかったんだよ」
ーー……え、そうなの? そんなことが後にあったの?
確かに子供の頃、外で食べたアイスは格別に美味しかった記憶があるからその気持ちも分からなくもないが……。
あれ、もしかして今ままでの陽奈の行動に悪気があまりなかったのだとしたら……
「じゃ……じゃあ、オレ、水着持ってないって言ったのに下着で泳げば良いって言われたんですけど……」
「ここ田舎だよ? 低学年の男の子たちとかよく裸で遊んでるじゃない。 純粋に遊びたかったんじゃないかな」
ーー……マジ!?
え、これってダイキが陽奈に色々されてたっていうの……全部ダイキや優香、福田祖父母の勘違い!?
「そっか……陽奈ちゃん、私としたいって言ってたことダイきちくんとやれてるんだ」
オレの話を聞いた愛莉が目に涙を浮かべながら月を見上げる。
「え?」
「この肝試しもさ……陽奈ちゃんずっとやりたがってたんだけど、お父さんやお母さんから小学5年生になったらやってもいいよって小さい頃から言われてて、私とやるのずっと楽しみにしてたんだよね」
「え……じゃあなんで愛莉さん誘わずにオレを?」
「ダイきちーーー」
「ーー……!!!」
少し離れたところから陽奈の声が聞こえる。
「あ、愛莉さん今!」
「うん、陽奈ちゃんの声だね」
「行きましょう!!」
オレはすぐさま声の聞こえる方へと走った。
「あ、陽奈!!」
「あーー!! ダイきちーー!! どこ行ってたの心配したんやけんー!!」
陽奈が頬を膨らませながらピョンピョン跳ねる。
「え、ーー……てかここって」
そう、オレが陽奈のスーパー膝打ちキックを受けて転げ回った場所だ。
「そうだよー。 陽奈、あれからすぐに我に戻って引き返したんだけどダイきち居なくなってたから心配でずっと待ってたんやけんー!!」
陽奈は強がってこそいるがおそらくはしばらくの間ここで泣いていたのだろう……目の当たりがほんのり赤く腫れている。
「ごめんって。 オレだって入り口でずっとお前を待ってたんだって!」
「じゃあなんで来てくれたん?」
「それはあれだ、わざわざお前の姉ちゃんが心配で迎えに来て一緒に……」
「ーー……え、なに言ってるのダイきち」
陽奈が大きく目を見開いてオレを見る。
「え? なにってなにが??」
「どうしてダイきち、陽奈にお姉ちゃんがいたってこと知ってるの?」
ーー……なに言ってんだこいつは。
「いや、知ってるも何も向こうから挨拶してくれたんだけど」
「それはないよ。 だって陽奈のお姉ちゃん、陽奈が2年生の時に病気で死んでるんだよ?」
「お、おい何言ってんだ陽奈。 流石にそれは不謹慎だぞ。 だってオレは今さっきまで一緒に陽奈のことを……!」
急いで後ろを振り返るもそこには誰も居ない。
「ーー……え?」
「ほら、最初に陽奈言ってたじゃん。 陽奈、ここには毎年家族で来てるって」
「う、うん」
「陽奈たちが毎年行ってるの、お姉ちゃんのお墓だもん」
「ーー……マジ?」
そう言われてみればおかしな点がいくつもあった。
普通夜遅くなって心配したら娘じゃなくて親が探しにくるよな。 それに体が弱いって言ってたし、そんな娘を1人で外に探しに行かせるわけがない。
後あれだ、まったくここを怖がってなかったことも納得がいく。
他にもちらほら……
「とりあえず陽奈」
「ん? 何どうしたのダイきち。 疲れちゃった?」
「もう夜も遅い。 親が心配してるっぽいからもう帰ろう」
オレはスマートフォンを取り出して表示されている時間を陽奈に見せる。
「え、もうそんな時間!? やば、ママに怒られちゃう!! ほら、ダイきち帰ろ!!」
こうしてオレたちは早々にその場を後に。 今度はちゃんとオレが道を覚えていたこともあり、スムーズに入り口の門の方へと向かっていった。
その途中。
陽奈がとある一基のお墓を指差す。
「あ、あれが陽奈のお姉ちゃんのお墓だよ!!」
「ーー……そうか」
時期的に今はお盆。 陽奈のことを心配してわざわざ出てきたんだろうか。
お墓にはちゃんと薮内家の文字。
その時に気づいたのだが、なぜか愛莉のお墓だけが月の光を反射して幻想的に光り輝いていた。
まるでこの暗い墓地で再び迷わないよう、周囲を明るく照らすように……。
今回の挿絵も作者、頑張りました☆
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