☆731☆【作者の気まぐれSP】特別編・ラブ手帳①
特別編・ラブ手帳①
これは福田ダイキたちがまだ小学六年生の学校生活を謳歌していた、とある冬の日の話。
その日、天界では、白髪・白髭の神が一冊のノートを、目を輝かせながら天に掲げていた。
『ついに完成したぞ……! 人間界でインスピレーションを得て早数ヶ月、試行錯誤を繰り返しながら作り上げた最強の神器……ラブ手帳が!!』
神は人間界へと続く神専用通路を覗き込むと、とある人物を探し始める。
『んー……あの者はどこに……。 お、おったおった』
その対象は福田ダイキ。 神はダイキの姿を見つけるや否や、彼の目の前に落ちるように、先ほど完成した手帳を放り投げたのだった。
『まったく。 いくら見守っておってもまったく進展しないとはの。 ワシに感謝するのじゃぞ』
手帳はまるで落ち葉のように揺らめきながら天界から人間界へ。 そしてそれは神の狙い通り、寸分の狂いなくダイキの目の前に落下した。
◆◇◆◇
冬。 もう少しで小学生生活最後のバレンタインデーが差し迫っていたある日の放課後。
オレが白い息を吐きながらのんびり下校していると、一冊のピンク色の手帳が目の前にパサリと落ちてきた。
「おわわ!! なんだなんだ!?」
条件反射で一歩後ろに下がり上空を見上げてみるも、マンション等の高い建物はない。
それに目の前を誰も歩いていないことから、誰かが落としたとは考えられない。
「ということは……誰かが別の場所で落として、風に飛ばされてきた……とかなのか?」
普通ならそんなものを見かけても、あまり気にも止めずにその場を通り過ぎるであろう。
しかし今のオレは思春期ゆえにムラムラ期真っ最中。 ピンク色の手帳ということで、十中八九その持ち主は女の子。 見た感じそこまで汚れていないことから、落としてまだ間もない……新鮮な手帳ということなのだ!!!
「女の子の匂いって本当に癒されるからな。 誰のものかは分からんが、少しだけ失礼するぜ」
オレはその手帳を手に取ると、何の躊躇もなくページを開く。 そしてそれに染み付いているはずの香りを確認するべく顔を近づけた……のだが。
「ーー……ん、なんだ?」
一番初めのページ。
そこにはとても可愛らしい文字で、大きくこう書かれていた。
=====
☆ラブ手帳の使い方だよ☆
①この手帳に名前を書くと、その対象者は三分後に記入者のことが好きで堪らなくなるよ。
②名前を書くときは、知らない人の名前は書かないでね。 面識のない人だと意味がないの。
③別の新しい名前を書いたら、効果はそっちに優先されちゃうの。 前に書いた名前の子への効果は消えちゃうから、気をつけてね。
④新しい名前を書かずに、現在名前を書いている子の効果を消したくなった場合は、書いた名前を斜線で消してね。 そしたら効果はすぐに消えるよ。
====
「ーー……は? なんだこれ。 新手の、女の子の間で流行ってる遊びとかなのか? まぁでも、そんなことはいいか。 書いてるのが恋愛内容だし、筆跡も可愛いから、持ち主は女の子で確定だろ!!」
オレは書かれていた文章に目を通した後、大きく深呼吸。
染み付いているはずの香りをキャッチするべく手帳に顔を近づけ、思いきり空気を吸い込もうとしたのだが、ここでまさかの横入り……背後からオレの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「あーー!!! だいきーーー、みちゅけた、のよーー?」
「ん、この甘く可愛らしい声は……」
まさにエンジェルボイス。
振り返り確認すると、やはりそこにいたのは地上に舞い降りた金髪のロリ天使。 エマの妹・エルシィちゃんが満面の笑みで駆け寄ってきているではないか。
「だいきーーー」
実に……可愛い。
オレの優先度は手帳に染み付いているであろう女の子の香りから、目の前の天使・エルシィちゃんへと変更。 それを素早く服の中に隠し、天使との時間を堪能することにした。
「こんにちはエルシィちゃん。 ランドセル背負ってるってことは……今帰ってたの?」
「そうなのよー?」
「珍しく遅いんだね。 用事でもあった?」
「んーん、エッチー、おももたちの、おうちに、あしょびに、いってた、のよー?」
「えー! そうなんだ、エルシィちゃんがお友達の家に……それエマが聞いたら喜ぶだろうね!」
「そうなー? だったらエッチー、かえったら、エマおねーたんにも、おしえう、のよー」
エルシィちゃんが柔らかく微笑みながら、その小さく可愛らしい手でオレの手を握りしめてくる。
あぁ、小さい、温かい、柔らかい、可愛い。
オレは手帳のことなんか忘れてエルシィちゃんと手を繋いで帰宅。 服の中に隠していたそれに気づいたのは、自室でランドセルを下ろした時だった。
「あー、そういえばコイツの存在すっかり忘れてたぜ。 でもエルシィちゃんに癒されたオレには、もうお前は必要ない。 だからお前は明日拾った場所に戻しておくから……」
そうクールに話しかけていると、ふと脳裏に手帳に書かれていた内容を思い出す。
確か、名前を書いた人が自分のことを好きになるとか、そんな乙女心に溢れた……
「改めて思い返してみると、ちょっと面白そうじゃねーか」
筆圧弱めで書けば、後で消してもバレないだろう。
女児の遊びに興味を示してしまったオレは、早速ページを開いて勉強机の前へ。 とりあえず一番記憶に新しい、エルシィちゃんの名前を書いて、溢れ出てくる好奇心を満たすことにした。
「えーと、エルシィちゃんの名前は……」
====
エルシィ・ベルナール
====
「これで、この手帳の力が本当なら、エルシィちゃんはオレのことが好きで堪らなくなるってわけか。 ははは、おもしれ。 まさかな」
好奇心の満たされたオレは、手帳を閉じて引き出しの中へ。
その後ベッドの上で横になりながら寝落ちしたのだが、その約一時間後のこと。 オレはけたたましく鳴り響くインターホンの音で目を覚ました。
「んん、なんだ?」
優香が帰ってくるには少しだけ早い。
玄関の扉を開いてみると、そこにいたのはエマ。 エマはオレと目が合うなり、「ちょっとダイキ、あんたエルシィに何を吹き込んだのよ!!!」と激しく肩を揺らしてきた。
「おおお!? な、なんだ!? 一体どうしたんだエマ!!!」
「それはこっちのセリフよ!! エルシィあの子、エマが家に帰ってくるなり、急に『ダイキに会いたい、ダイキと結婚したい』って騒ぎ出して……!!」
「はあああ!?」
驚きながらもエマに視線を向けていると、その後方で手を後ろにしてモジモジしているエルシィちゃんを発見。 エルシィちゃんはオレを見上げており視線があったのを確認すると、顔を赤らめながら、ゆっくりとその口を開いた。
「だいき」
「は、はい。 どうしたのエルシィちゃん」
「エッチー、だいきのこと、だいしゅき」
「あ、ありがとう」
「だから、けっこん、しゅうのよー? エッチー、だいきと、こども、ちゅくうのー」
エルシィちゃんとの子供!?!?
それってつまり……!!!!
オレの変態脳が、とてつもなくいかがわしいシーンのエルシィちゃんを妄想。
もちろんそんな感情を完璧に抑えられるわけもなく、オレは勢いよく鼻血を噴射して後方に倒れていく。
「きゃあああ!! ダイキ、ちょっとアンタ、今エルシィで変な妄想したでしょ!!」
「だいき、だいじょぶ、なぁー!?」
お、おいおい待ってくれ。 これはどういうことなんだ!?
ぶっちゃけエルシィちゃんがそんな急にオレのことを好きになるなんて考えにくい。
じゃあなんで……
ーー……は、もしかして、アレか?
オレは少し前に拾った手帳のことを思い出す。
確かにオレは、あの手帳にエルシィちゃんの名前を書いた。 もしこれが……このエルシィちゃんの状況が手帳の力だとするのならば、オレはとんでもないブツを手に入れてしまったことになる。
「クククっ……、あははは」
これさえあれば……。 勝った、勝ったぞ。
まさに神器。
人生の勝利を確信したオレは、ニヤリと口角を上げながらそのまま意識を失ってしまったのだった。
お読みいただきましてありがとうございます!!
このラブ手帳全3話で、今の作者のやりたいこと全てとなります!!




