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☆729☆ 【作者の気まぐれSP】特別編・舞、新たな人生へ


 七百二十九話  【作者の気まぐれSP】特別編・舞、新たな人生へ



「それじゃあ……おそらくこれで最後の荷物だと思いますので、もし他に見つかった場合は捨ててもらって大丈夫です」


 

 卒業式が終わってしばらく経った三月末の、とある日。 結城家の玄関前で、高槻舞は「お世話になりました」と目の前に立つ二人に頭を下げた。

 その二人こそ、結城桜子と、その母親・結城美桜。 舞が名残惜しそうに小さく手を振ると、桜子が目に涙を溜めながら舞の胸に飛び込んでくる。



「ママ……ママあああああ!!!」



 あぁ、きっかけはこの『ママ』という言い間違いからだったなぁ。

 そんなことを思い出しながら、舞は優しく桜子の頬を撫でる。



「桜子、ほら、後ろに本当のママがいるじゃない。 一時はどうなっちゃうかと思ったけれど、この結果こそが一番幸せなことは確か。 美桜さん……ママと仲良く暮らすのよ」


「やだ、ママ……ママあああああ!!!」



 本来なら桜子の母・美桜が退院してすぐに引っ越せばよかったのだが、あまりにも桜子が『ヤダヤダ』とぐずったため、ここまでずるずると延期する羽目に。 結城家に泊まりながら別の物件を探して契約し、少しずつ荷物を移動させていき、やっと今日……という次第だ。



 泣きじゃくる桜子を母・美桜に剥がしてもらい、「それではお元気で」と改めて別れの言葉を口にする。



「舞さん、本当に今までありがとうございました。 この御恩は私も桜子も、一生忘れません、何かお困りごとなどあった際は遠慮なく仰ってください」


「いえいえ、私の方こそ母親になるという貴重な体験をさせていただきました。 なのでお気遣いなく」


「いえいえいえ、本当になんでもいいので仰ってください。 全力で舞さんの力になりますので」


「じゃあ……そうですねー、私の結婚相手でも探してもらいましょうか」


「あっ……」


「ふふ、冗談ですよ。 それでは失礼いたしますね。 桜子も、またメールもするし遊びにも行くからね」



 舞は二人に背を向け、新たな自宅へ向けて歩き出す。



「ママああああ……!!」



 後ろからは桜子の……心から自分を欲してくれている声。

 短い期間だったとはいえ、何度も聞いたその呼称。 とめどなく溢れる涙が舞の頬を伝い落ちる。



 今振り返るわけにはいかない。

 振り返ってしまったら……きっとまた甘えさせて……私自身も甘えてしまう。



 舞はスマートフォンを取り出すと、気持ちを一新させるべく壁紙の写真を変えることを決意。 桜子とのツーショット写真から、以前まで使っていた……約十年前に受け持っていた思い出深い生徒との写真に変更する。



「さてと、これから真っ直ぐ帰宅してお酒を飲むのもいいけど……それだと今までと変わらないよね。 この勢いのまま、あそこ……行ってみようかな!!」



 涙はどうせしばらくは止まらないので無視しよう。

 舞は目的の場所を検索して、その方角へと行き先を変更。 しばらくはマップ画面と睨めっこしながら歩いていたのだが、涙が邪魔でちゃんと前方が見えていなかったのだろう。 かなりふくよかな体型の男性とぶつかってしまい、尻餅をついてしまった。



「ひゃあっ、ご、ごめんなさい!! 私、画面に集中しちゃって……!!」


「おうふ、こちらこそすみませんです!! ドラマCDに集中しすぎて、脳内がロリロリになってしまってました!!」


 

 ロリロ……うん?



 慌てて視線を前に向けると、そこにいたのは少しどころではない……かなりふくよかな体型をした、三十代くらいの男性。 昔、どこかで見たことがあるような気もするが……そんなことを考えながら見つめていると、その男性はいきなり土下座。「すみませんでしたあああああああ!!!!」と何度も自身の額を地面にぶつけ始める。



「えええ!? どうしたんですかいきなり!!!」


「その……パンちゅ……ごほん、ロングスカートの中から下着が見えてて……凝視しちゃいましたあああああ!!!」


「下着……? あ、ごめんなさい。 でも転んだのも原因は私なので、気にしないでください」

 

「本当にありがt……すみませんでしたああああああ!!!!」



 お、おかしな人に出会ってしまった。

 でもそのおかげもあってか涙は引いており、舞は「本当に大丈夫なので」と言いながら立ち上がる。 するとどうだろう、男性は自らを「工藤」と名乗ると、何の躊躇いもなく一万円札を複数枚差し出してくるではないか。



「え、ええええ!? なんですかいきなり!!」


「見てしまったお礼……いえ、お詫びです!!! なので、何卒セクハラや痴漢で訴えないでください!!」


「う、訴えませんよこの程度で」


「いえ念の為に!! 僕、女性に優しくされたことがありませんので、保険のために!!」


「いやいやいや!! それにしても、額が大きすぎますから!!」



 舞が全力で断ろうにも、どうやらこの工藤という男、少し前に宝くじで一等を当てたため、お金にはあまりあるほどあるとのこと。

 それでも頑なに断り続けていると、「では今からタクシーを呼ぶので、目的地まで奢らせてください!!」と再び土下座をしてくる。



「タクシーですか?」


「はい!! 見たところスマホと睨めっこをしてたということは……デュフ、どこか行く予定だったのでしょう!? ならせめてそれくらいは出させてください!!」


「あーー……」



 言えない。 今から結婚相談所に行こうとしていたなんて、それも見ず知らずの男性に口が裂けても言えない。



「いや、本当に私、結構なので」


「いえいえ!! 出させてくださいよ!! 僕こんな見た目だから痴漢詐欺とかでよく狙われて……もうりなんですよ!!」


「そんなことしませんから!!」


「信じません!!」


「なんでそうなるんですかぁー!!」



 最初こそ気遣いに出来る真摯な人なのかななどと思ったが、この数回の会話だけでもわかる。



 怖い、勢いがありすぎて気持ち悪い。

 こんな思いをするのならば、最初から素直にお酒を買って帰ればよかった。



 舞は周囲を見渡して荷物を落としていないことを確認。



「デュフ……、どうしましたか? ナナナ、何か、落としましたか?」


「いえ別に!! それでは!!!」



 その後はまさに全力疾走。 舞は工藤という男から逃げるように、全速力でその場を離れた。



 ◆◇◆◇



 結局来てしまった。



 今、舞がいるのは大きなビルの中の、とある扉の前。 その扉の隣には【幸せな結婚生活を】という立て看板が掛けられている。



「と、とりあえず今日は話を聞くだけ……」



 移動中、舞の脳内で再生されていたのは、昔教育実習で一緒になった同期が口にしていた言葉。



『結婚はね、出来るだけ早い方がいいらしいよ。 だってね、年取ってから結婚しようと頑張っても、その時にフリーな男性での当たりはほんの数パーセント。 ニコチン……タバコが大好きだったり、アルコール依存だったり、すぐに怒ったり……何かに問題のある人の割合の方が多いらしい』



 そんな言葉を思い出したら、少しでも早く結婚したいと思ってしまうではないか。



 正直、自分がもっと若かりし頃……大学生の頃に恋愛をしなかったのには理由がある。 だけど、そこから……教師になってからは、目まぐるしい日々が続いていたのもあり、恋愛をするということ自体を忘れていた。


 

「桜子にはほんと感謝だなー。 私の中の無くしかけていた母性を呼び起こしてくれたんだから」



 舞は心の中で、改めて桜子に感謝。 その後小さく息を吐いて気持ちを整え、今まで忘れていた希望溢れる未来へと、一歩踏み出した。



 ーー……のだが。



「デュフ、さ、さっきぶりじゃないですか」


「え」



 眩い未来を思い描き、踏み出した一歩。 しかしその先にいたのは、先ほど舞が若干ではあるが嫌悪感を抱いたふくよかな体型の男性。



「え、えっと……なんで……」


「じ、実はボク、数年前からここの会員なんです。 だけど全く誰とも上手くいかないから、どうしようかアドバイザーさんに相談しに来たんですけど……デュフフ、これ、運命ですかね」



 男性の口角がグニャリと上がる。



「ーー……」



 感情というものは凄い。

 先ほどまでは幸せな結婚生活を夢見ていたのに、今はどうだろう、この男性を見て一気にたかぶっていた感情が落ち込み、心が驚くほど冷静になっている。



「デュフ、ど、どうしましたか? そんな静かな目でボクを見て……。 あ、そうだ、ここでさっき渡し忘れていたお詫びのお金を……!」

 

「あ、結構です。 それでは」



 舞はそう静かに声をかけると、そのまま男性の前を横切って受付カウンターへ。

 冷静になっていたからなのか、アドバイザーの話を冷静に、しっかりと聞くことが出来たのだった。



「えーと……それでは、高槻様がご希望される男性で、身長や年収等で、これだけは譲れない……というような条件等はございますか?」


「いえ、特には。 いていうなら優しい方ですかね。 あ、でも先ほど受付カウンター前にいた男性みたいな方は遠慮したいかと。 それ以外は特にありません。 年収等もあまり気にしません」



 一通りの説明を受けた舞は、そのまま結婚相談所に入会。 アドバイザーの協力・立ち合いのもと、多くの男性と会って話してみることに。



「高槻様はかなりお美しいですし、それだけでなくひんもお有りなので、すぐにいいお相手が見つかると思いますよ」


「ありがとうございます。 今日からお世話になります」



 舞がアドバイザーに深く頭を下げると、少し離れたところから聞こえてくるあの男性の声。



「デュフーン! ぼ、ぼぼぼ僕はいつになったら、お嫁さんが出来るんですかー! できればさっきいた女性とお見合いさせて下しゃーーい!!」



「あの、くれぐれもあの方だけは……」

「はい、重々(じゅうじゅう)承知しておりますので、ご安心を」



 今後将来、舞の幸せを満たし、未来をともに歩む相手が現れるのかどうか……それは神のみぞ知る。



お読みいただきまして、ありがとうございます!!

高槻先生……いいですよね。

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