720 【真・結城編】もう1つの勝負の結果
七百二十話 【真・結城編】もう1つの勝負の結果
12月初め。 一般入試よりも早く決まる高校3年生のみの特権……公募推薦の結果発表日。
「み、美咲……準備はいい?」
「だ、だべ。 『せーの』で押すべ」
オレの目の前では今まさに優香とギャルJK星が緊張した面持ちで合否結果を調べるべく……その大学の合格発表特設サイトにアクセスしようとしていた。
「ま、待って……もうちょっと待って美咲。 私の方がまだ心の準備が出来てないや」
優香が手を震わせながら大きく深呼吸。
「もう私心臓がどうにかなっちゃう」と呟きながらギャルJK星に肩にもたれかかる。
「うん、さすがのアタシも気が狂いそう。 受験者IDと受験番号を入力して、あとは【結果を見る】を押すだけなのにこんなにも先に進むのが怖いなんて……」
「美咲が普通の話し方するってことは本当に緊張してるじゃん」
「そ、そんなの当たり前でしょ! 泣いても笑っても結果はこれで決まって……もしこれでダメだったらセンター試験か、絶望しかない3月の一般入試なんだから」
あぁ、懐かしいぜ。 これこそ大学受験。
オレも前世では公募推薦組だったから気持ちはよく分かる。 オレの場合は郵送で書類が届いてそれが分厚かったら資料が入ってて合格……不合格だったら小さな薄っぺらい封筒って感じだったなぁ。
「ね、ねぇ美咲、私の受験者IDと受験番号、打ち間違ってないよね?」
「だったらゆーちゃんもアタシの確認してよ。 これで『IDと受験番号、どちらかが正しく入力されていません』とか出たらもう吐血もんだって」
うんうん、その不安もかなり分かるぞ。
でも2人とも今まで必死に勉強を頑張ってきたんだ。 分からない箇所はその都度担任やその教科専門の教師に聞いたり、受験日が近づいた土日には高槻さんがわざわざ駆けつけてくれたり……やれることはおそらく充分にやった。
だから後悔するべきとことはまったくないはず。
オレは2人の感じる緊張を共に共有しつつ、2人の心の準備が整うのを待つ。
そしてついに……
「よし!! ずっとこんなウジウジしてても変わらないし、行こうか美咲!!!」
「だべぇ!!」
「結果がどうであれ、先に言っとくね! 美咲は普通に塾に通うことも出来たのにわざわざ私に合わせてくれて……付いてきてくれてありがとう!! 問題が難しすぎて心が折れかけた時もあったけど、美咲のおかげで耐えることが出来て乗り越えられた。 本当にありがとう!!!」
「だったらアタシだって。 ゆーちゃんがいなかったらバカなアタシはきっと大学進学なんて道選ばなかった。 それにこんなに勉強したのも今回が生まれて初めて。 中学や高校生活もそうだったけど、何かの目標に向かって頑張るっていう貴重な青春をありがと!! 出来れば一緒に受かって大学も一緒にいたいけど……もし離れることがあっても親友だかんな!!」
2人は互いに握手を交わして頷き合い、その後視線をそれぞれのスマートフォンの画面へ。
「「せーの!」」と声をシンクロさせて、同じタイミングで【結果を見る】というタブをタップした。
◆◇◆◇
夕方。 スマートフォンの電源をつけると数人からのメール受信通知が表示されている。
【受信・三好】お兄、優香さんと同じ大学受けてたらしくてさっき『合格した!』って騒いでた。 それで優香さんどうだった? 自分で聞く勇気のないお兄が私に聞けってうるさくて。
【受信・結城さん】お姉ちゃんと美咲ちゃん、どうだった?
おいおい三好兄。 どこから優香が志望してた大学聞きつけてたんだ?
そして結城はさすが天使だな。 ちゃんと優香とギャルJK星の合格発表日を覚えてくれていたなんて。
オレがどう返信しようか考えていると、そのタイミングで今度は高槻さんからの着信通知。
通話ボタンを押し電話に出ると、かなり心配そうな高槻さんの声がスピーカー越しから聞こえてきた。
『すみません福田くん、いきなり電話かけちゃって』
「いえいえ、どうしました?」
『今日が合格発表日でしたよね。 お姉さんたちどうだったのかなって思って。 優香さんに美咲さん、どちらに連絡しても繋がらないもので』
まぁそうだな。
高槻さんは受験日ギリギリで手伝ってくれてたし、頑張ってる2人を近くで見てたらそりゃあ結果気になるわな。
オレが懐かしさから思い出していると無言が長く感じたのか高槻さんが『福田くん?』と名前を呼んでくる。
「え、あぁ、すみませんちょっと受験日前の土日を思い出してまして」
『結果は……もう出てるんですよね』
「はい。 今日の昼頃に2人揃って結果をネットで見てました」
『それで……どうなりました? 何回か優香さんや美咲さんにメールで連絡入れたんですが2人とも音沙汰なくて。 それで電話もかけてみたんですが繋がらなかったのでその……』
高槻さんは一瞬言葉を詰まらすも、かなり気まずそうな声色で続けた。
『お2人は今どうされてますか?』
あぁ高槻さん。 あなたは受け持ちの生徒でもないのになんでそんなに親切で慈愛に満ち溢れているんだ。
オレはそんな高槻さんの温かさに改めて感想。 ありのままを伝えることにした。
「お姉ちゃんと星さんならあれから2人で部屋にこもってます」
『部屋に? えっ、てことはまさか……』
「あーいや。 受かりましたよ」
そう答えるとどうだろう。
再び沈黙が訪れたかと思うと、かなり腑抜けた高槻さんの『エ?』が聞こえてくる。
『えっとあの……受かったんですか?』
「はい。 めでたく受かってました2人とも」
『なのになんで2人は部屋にこもって……』
「なんか受験中色々と我慢してたらしいので、2人ともそれをするので必死なんですよ。 特に受験期間中に2人の好きなゲーム……【魔獣ハンター】の新要素追加データが出てたらしくて、今はそれダウンロードしてずっとやってます」
そう伝えた後に優香の部屋へと向かい扉越しにスマートフォンをかざすと、中から「ええええ、その新モーションは古参殺しじゃんーー!」やら「見て見て美咲! この新スキル、複合スキルだって!! 便利すぎない!?」などとかなり楽しそうな2人の声が聞こえてくる。
「ね、楽しそうでしょ」
『はい……それなら連絡に気づかないのも仕方ないですね。 できればすぐにお祝いの言葉を送りたかったのですが……また時間を改めることにします。 あ、そうだ、今夜は私にご馳走させてくださいませんか? その様子だと晩御飯の準備もままならないと思いますし』
「あ、それだったら高槻さ……先生、提案があるんですけど……」
◆◇◆◇
その日の夜。
「福田ー! お誘いありがと! 福田が『いい』って言ったからお兄も連れてきたよ!!!」
「あ、ありがとう弟くん!! 本当にありがとう!!!」
「ダイキー!! めちゃくちゃお菓子買ってきたわよ!! ジュースも足りなかったらウチから持ってくるから遠慮なく言いなさい!!」
「ダイキ、こばんわーー!! エッチー、おなか、グーグ、なのよぉー!」
「福田くんこんばんわ。 とりあえず……優香さんと美咲さんどこですか? まずはお祝いの言葉を早く言いたいのですが」
「ダイキ……くん、来たよ! お姉ちゃんも美咲ちゃんも合格してよかった……。 ね、ママ」
「本当にね。 こんばんはダイキくん。 今日は舞さんと私の大人の財力で豪華に行かせてもらうわね」
急遽開催したのにも関わらず、かなりの人数が来客。
一気にリビング内が騒がしくなったことで流石に優香たちも気づいたんだろうな。 部屋から出てきた2人がリビングを覗くや否や、揃って驚きの声を上げた。
「え、えええええ!?!? これどうしたのダイキ!! てか三好くん!?」
「うわあああこりゃまた大人数で!! 魔獣ハントに熱中しすぎて気づかんかったわ!! うわ本当だ三好くんいるじゃん!!」
優香とギャルJK星が異様な光景に言葉を詰まらせ立ち尽くす。
それでは早速参りましょう!!!
オレが合図を送ると皆が2人に視線を向け、そして……
「「「志望校合格、おめでとーーーーー!!!!」」」
拍手とクラッカー音、そして祝福の声の大合唱が部屋中に鳴り響く。
それらをダイレクトに受けた優香たちは大きく瞬き。 その後ようやく事態を認識してきたのか嬉しさから涙を流し出し、なんとも平和で幸せな祝福パーティーが幕を開けたのだった。
「桜子、これでお姉ちゃんも美咲も、桜子の通う中学の近くの大学行けるよ!!」
「えっ」
パーティーが開始してからしばらく。
突然の優香の言葉に今度は結城が言葉を失う。
「えっと……え? そうなの?」
「うん! 桜子、中学は校区的に違う公立中学になっちゃうでしょ? でもそしたら今以上に会えなくなっちゃうって思って……だからお姉ちゃんも美咲も、桜子にもっと会いたくて頑張ったんだ!!」
「だべ!! だからもし中学になって困ったことあったらアタシやゆーちゃんにいつでも連絡するんだぞ! もし桜子が悲しむようなことをしてくる奴がいたら、学校に乗り込んで美咲ちゃんパンチをお見舞いしてやるべ!」
これには結城だけではなく結城母も初耳だったようで親子揃って大号泣。
高槻さんは『大学の位置的にそうなんじゃないかって思いました』と静かに涙を浮かべながら微笑んだ。
「あ、ありがど……お姉ちゃん、美咲ぢゃん……! 私、嬉じい……!」
結城が滝のような涙と鼻水をすすりながら優香たち2人に抱きつくと、そんな結城を優香は上から包み込み、ギャルJK星は耳元で結城に何かを囁く。
「ーー……え? 美咲……ちゃん?」
「わかった? これ、アタシらと桜子の約束だかんな!」
「えっとその……う、うん!!」
それからは徐々にいつも通りな展開へ。
食べ方の豪快なエルシィちゃんをエマが手伝ってたり高槻さん&結城母の2人が感情のままにビールやウイスキーなどのアルコールタイムに入ったり……
「あああもう、ママたち!! 前も言ったけどここで脱がないでぇーー!!」
「あら桜子いいじゃないー、ここにはほとんど女子しかいないんだしー」
「そうですよー。 それに桜子、まだ私のことママって呼んでくれて嬉しい……お酒が進みますー」
「うわあああああ待ったあああああ!!! お兄……お兄がいるから!!! ちょっとお兄、あっち向いててって……あああああああああ!!! お兄が鼻血出して倒れたああああああああああ!!!!」
「エマおねーたん、あの、おとこのこの、ここ、おっきくなってきたのよー?」
「エルシィ。 あっち向いてましょう」
「なんでなー? でも、あれ、ダイキもなてた……けど、ダイキ、より、おっきいのなぁー」
「ブフっ」
「ダハハハハ!!! 言われてんでダイキー!」
「ダイキ、気にしないでいいんだよ? 三好くんとは年も違うんだし、その分大きさも変わるんだから」
「にしても流石高校生。 服着ててもでっけーなー」
「もう美咲、変なこと言わないの! ほら、タオルケット持ってきて!」
グサァ!!! グサグサグサァ!!!!!!
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