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711 【真・結城編】返事


 七百十一話  【真・結城編】返事



 図工室近くの女子トイレ前。 小畑が来るものだと思ってスマートフォンの画面に集中している三好にオレは早速声をかける。



「三好」


「ふきゃあ!?!?」



 オレが声を発したと同時に三好の体がビクンと反応。

 すぐにスマートフォンから顔を上げて正面にいたオレと視線が合った。


 

「ふ、ふふふふ福田!? な、なんで……!!!」


「すまんな三好。 どうしてもお前と話がしたくて協力してもらったんだよ」


「協力って……あ、美波!?」


「おお、正解」


「美波あいつーー!!! 私をハメたなーー!!!」



 三好はすぐに視線を逸らすと激しく髪を掻き乱しながらスマートフォンを耳に当てる。 おそらくは小畑にかけているのだろうが……いくら待っても小畑が電話に出ることはなく、痺れを切らした三好は「んあああああ!!! もう!!」と通話を切って早くこの場から離れようとオレに背中を向けた。



「いや待ってくれ三好」


「いたっ! は、離してよ!」



 咄嗟に手首を掴んだオレの手を三好がキッと睨みつけてくる。



「いや、離したら三好逃げるだろ」


「当たり前じゃん! わ、私は別に福田と話すことなんてないんだから!」


「そうか。 でもオレにはある」


「し、知らないし! そんなワガママに付き合ってらんな……」



「三好、オレのこと嫌いか?」



「!!」



 それは思わず口から漏れた……何一つ偽りのない心からの言葉。

 三好は口をキュッと閉じ、大きく目を見開きながらオレを見上げる。



「な、なんでそんな……」


「教えてくれ。 三好はオレのこと、もう顔も見たくないほど嫌いなのか?」



 そう尋ねるとどうだろう。

 三好はゆっくりと視線を外しながら「んなわけないじゃん」と小さく呟いた。



「おお……おおおおおおおお!!!」



 よ、よかったぁーーーーー!!!!!!!



 本来ならここでカッコいい台詞でも言えたら完璧なのだろうが、完全に安堵してしまったオレは一気に緊張の糸が解けてその場で膝から崩れ落ちる。



「ちょっ……え!? 福田!? だ、だだだ大丈夫!?」



 とうとう三好の方から話しかけてくれたぞ。

 あまりの嬉しさからオレの目頭はカッと熱くなり、それと同時に一気に視界が涙で埋め尽くされていく。



「うっ……うううう!!!」


「えええええ!?!? な、なんで泣いてんのさあああああ!!!!」



 ちくしょう!! 元々の予定では唐突に三好にセクハラをして……そこでいつもの言葉プロレスに持ち込んだタイミングで小畑たちに突撃してもらう手筈だったのに!!!


 全てがグチャグチャだ!!!!


 オレは心の中でこんなはずじゃなかったとツッコミを入れながらも三好に嫌われていなかったという事実に大号泣。 先ほどまで距離を置こうとしていた三好も「ああああ、ちょっともう、どうしたのさ福田ぁ……!」とオレに寄り添い背中を優しくさすってくれていたのだった。



「す、すまん。 こんなはずじゃなかったんだ……んぐぐっ」


「分かってるって。 でも今はほら、落ち着いて泣き止みなよ。 そんな泣いてたら私がイジめたみたいじゃん。 後で話はちゃんと聞いてあげるからさ」


「ーー……いや、その話はもういい」


「なんで?」


「オレは三好に嫌われてなかった……今日はそのことが知れただけで十分だ」



 そう、嫌われていないのならそれでいい。

 嫌われていなかったのなら今すぐに……ではなくとも、いつでも話せるチャンスはあるのだから。



 また別のタイミングでセクハラするさ。


 

 オレはゆっくり立ち上がると、三好に「じゃあ……突然話しかけてすまんかったな」と謝罪。 涙を腕で拭いながらペコリと頭を下げる。



「え、あ……うん。 別にいいけど」


「また話しかけるから……今度は普通に接してくれ」



 そう伝えて三好に背を向けたと同時。

 一体何がどうなってそうなったのか。 今度は三好がオレの腕を掴むと半強制的に女子トイレの中へと連行。 今朝小畑と話した奥の個室へ入り扉を閉めると、三好は何も言わず突然オレを抱きしめてきた。



「み、三好!?」



 三好がオレの耳元で「ごめん福田。 私の勝手で待たせちゃって」と小さく呟く。



「え」


「本当は言わないつもりだったけど、今返事言うから……でも最初にお願いがあるんだけどいい?」


「お願い? なんだ?」


「私が福田にどんな返事をしても、卒業まででいい……この学校にいる間は私と今まで通り仲良くして欲しいの」


「ーー……なるほど」



 三好のやつ、その言葉で既にオレをフってるということに気づいていないんだな。

 一瞬ツッコミを入れそうになるもオレはそれをぐっと我慢。 何も気づいてないフリをしながら「分かった」と頷いた。



「ぜ、絶対に絶対?」


「あぁ。 絶対に絶対」


「今までみたいに接してくれる?」


「もちろん。 それは逆にオレからもお願いしたいくらいだ」


「そ、そうなんだ。 じゃあその……言うね」



 三好はゆっくりとオレから手を離して一歩下がると、扉にもたれながら若干俯き、そして……



「ーー……ごめん、なさい」



 ですよねー。



「そうか」


「私も福田のこと好きだけど、どうしても付き合えない」


「なるほどな。 ラブとライクの違いってやつか」



 オレがそう尋ねると三好は間髪を容れず首を左右に振る。



「ううん、ラブ」


「は?」


「私は福田のこと、付き合いたいし結婚したいくらい大好きなんだけど……でも無理なの」



 三好の声が……肩が細かく震えている。

 オレのことをラブなのにどうして付き合えないというんだ? 


 詳しく聞きたかったオレではあるが、今の三好の様子から尋ねることが出来ず。

 そのまま黙って立ち尽くしていると、三好が目に大量の涙を溜めながら顔をあげ、再び口を開いた。



「福田……、私も福田が好き……! でも私が好きなのは今の福田であって記憶がなくなる前の福田じゃないの! 福田と付き合えたらきっと毎日が楽しくて幸せなんだろうなって思う。 でも、いつ前の福田に戻ってしまうか分からないのに、そんな不安を毎日抱えながら過ごすなんて私には無理!! 耐えられない!!!」



 あぁ……そういうことか。



 その後も三好の話を黙って聞いていたオレだったのだが、やはり三好がオレを付き合いたくない理由第1位はオレがいつ元祖ダイキに戻るか分からないから怖いということ。

 いかにラブラブで幸せな生活を送れていたとしても、元祖ダイキに戻った途端にそれが一気に崩壊し……その落差に絶望する自分を想像するだけで耐えられないということだった。 



「本当にごめんなさい。 自分勝手な女で」


「いいさ」



 ぶっちゃけ元祖ダイキはこの体に戻る気もなさそうだし、今やあの褐色少女・陽菜の姉・愛莉に一目惚れしてるらしいからオレの精神が再び元祖ダイキに戻ることはないのだが……まぁそれも今後何があるか分からないしな。 オレも『そこは大丈夫、安心しろ!』とは堂々と言えないし、言ったとしても信じてもらえないだろう。



「そうか。 でも三好はちゃんと中身を見て好きになってくれてたんだな。 シンプルに嬉しいぜ」


「うん。 私は今の福田が本当に好き。 だから少し前に福田が病院の階段で足を滑らせて意識がなくなってた時も不安でほとんど眠れなかった。 前の福田に戻ったらどうしようって……。 もうあんな思いをしたくないの」


「三好……お前その時からオレのことを?」


「うん、好きだった。 でも好きだからこそ自分の手で終わらそうってさっき決めたの。 今までの関係性で続けるよりも……きっと後悔しないと思うから」



 三好はオレにそう伝えると、「変な理由でごめん」と改めて謝罪。 

 その後「それでも今まで通り仲良くしてください」と、深く頭を下げてくる。



「三好……」


「お願い! 福田が私に幻滅してることくらい分かってる……でもこれが私の答えなの! これからも一緒に言い合いしたり仲良くしてください!」



 まったく……これだとどっちが告白してどっちがフラれたのかわかんねーな。

 なんというか、このよく分からない結末もオレと三好らしいぜ。



「くくく、あははははは!!!!」


「な、なにさ福田! 急に笑い出したりして……!」


「いやいやすまん。 やっぱオレと三好はこうだよなって思ってさ」


「え……えええ? どういう意味?」



 オレの答えはもちろん「こちらこそよろしく」。

 三好と固い握手を交わして外に出ると、ちょうど扉を開けた先……扉付近で聞き耳を立てていたらしき小畑&多田の姿を見つけた。



「うわわちょっと!! 出てくんなら『出る!』って言ってよ福田!」

「美波ー、それ今ウチらがいうことじゃなくない? 福田の合図なしに勝手に近づいちゃったのウチらだし」



 突然のオレたちの出現に戸惑う小畑と多田。

「ちょっと麻由香、どうすんのバレちゃったじゃん」やら「いやウチに言われても」などと言い合いを始めていたのだが、それを三好が許すはずもなく……



「ちょうどよかったよ美波ー、よくもメールで私を騙してくれたね。 麻由香も知ってたのー?」


「ぎく」

「ぎく」


「詳しく話を聞かせてもらおっかなー。 知ってたら麻由香も言った方が身のためだよー?」


「だ、だってさ麻由香!」

「し、知んないよ動いてたの美波じゃん!」


「もんどーむよおおおおーー!!!!」



 三好が勢いよく2人のもとへ飛びかかる。

 しかしなんでだろうな、三好に怒りを向けられているはずなのに、小畑も多田もどこか嬉しそうな表情で三好の相手をしているではないか。



「あと、盗み聞きしてたみたいだけど、どこまで聞いてたのさーー!!!」


「それがあんま聞き取れなくてさ。 今ここでもっかい言ってみてよ! ぱーどぅーん?」

「じゃあ美波が福田の役やらないとねー」

「おー、ほんとだ! よし佳奈! 私を福田だと思ってさぁどうぞ!!」


「言うかあああああああああ!!!!!」


「「あはははははは!!!!」」



 なんだろう。 よく分からないけど今までの雰囲気が戻ってきたぞ。



 ◆◇◆◇



 しばらく3人のじゃれ合いは続き、ようやく落ち着いたところでオレたちは下校するべく女子トイレを出る。


 そしてオレは忘れない。 小畑たちを含めた4人で正面玄関へと向かっていた際、三好と多田が雑談している後ろで小畑が小声で「結果はドンマイだったけど……ありがとね福田」と囁きながら優しく頭を撫でてくれたことを。



「え、小畑さん今のは……」


「シーっ、静かに。 佳奈たちにバレるっしょ? 今のはファンサだよー」


「ファ、ファンサ?」


「ファンサービス! 伝説のセンターからのファンサ貰ったんだから、自信持ちなね」


「う、うん」



 おおお、眩しいぜその笑顔。 マジで力が漲ってきたぜ。



「ん? なにどうしたの美波。 それに福田もめっちゃニヤけてない?」



 オレの表情に気づいた三好が不思議そうに尋ねてくる。



「あ、いや。 なんでもないぞ」

「そーそ。 なんでもないよねー、ただ美波ちゃんの可愛さにニヤついちゃっただけだもんねー」



「は?」

「え?」



 小畑に視線を向けると、小畑がドSに満ちた笑みを浮かべながら「あれれー? 福田、なーに図星っぽい表情してんのー?」とわざとらしく煽ってくる。



「え、お、小畑さん……え?」


「うんうん分かるよ分かる。 とうとう福田も伝説のセンター兼マドンナ四天王の美波ちゃんの魅力に気づいてしまったかー。 いいよ、佳奈が修学旅行でやってたように今度は私が彼女役してあげよっかー?」


「え、ええええええええ!?!?!?」



 そ、そうだったああああああああああ!!!!

 結局はこいつ……ドSの女王なんだったあああああああああああ!!!!!



 少し前までの平和な空気は何処へやら。



「ふ、福田ああああああ!!!! この……浮気者ーーーーー!!!!」


「い、いやいやいや!! 浮気ってかオレたち付き合ってねーじゃねえかあああああああ!!!!」


「うっさい!!! てんちゅーーーー!!!!!」



 三好の蹴りが勢いよく前から飛んできてオレに直撃し、小畑はそれを見て大爆笑。 多田も何故か「今日だけウチも蹴らせてもーらお!」と参加してきてのまさにオレたちらしい放課後となったのだった。



 てかあれだな、もし仮にオレの精神が消えて元祖ダイキに戻ったとしても、おそらく三好が世話をしてくれることでオレ以上に恋愛にチョロそうな元祖ダイキはそんな三好に惚れて……そうだな、卒業式あたりで告白とかしてたんだろうな。 分からないけど。



 オレの視界に映った三好は久しぶりに生き生きしていて眩しくて……夕焼けのせいもあるのだろうか。 彼女が付けていた太陽の髪ゴムもいつも以上にキラキラと輝いているように見えた。



お読みいただきましてありがとうございます!!!


ダイキが予想した元祖ダイキ復活ルートの未来は果たして合っていたのか外れていたのか。

答えはそう、第375話『IF・輪廻転生を選んだ場合の未来②』を知っている神様と読者さんたち、そして作者のみぞ知る。

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