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706 【真・結城編】真の女


 七百六話  【真・結城編】真の女



 適当に話を流して帰ろうと思っていた矢先に突然の西園寺からの告白。



『私、福田くんのことが好きです』



 え、ええええ? オレのことが……す、好き?



 オレが我が耳を疑いながら固まっていると、西園寺はオレの答えを待たずに静かに言葉を続けた。



「でもね、私は分かってる。 私じゃないんだなってことくらい」



「え」



 思わず顔を見上げるとなんとも切ない表情の西園寺と目が合う。



「さ、西園寺お前……」


「えっと……あまり見つめないでほしいな。 ずっと目が合ってるとその……泣いちゃいそうだから」



 理由こそ分からないが本当に泣きそうなのだろう。

 気づけば西園寺の目には薄っすらと涙。 西園寺はそれをなんとかこれ以上溢れないようにと、そっと目を閉じながら上を見上げた。

 


「い、いや……ていうかどういう理屈なんだよ。 告白してきといて、でも自分ではないこと知ってるとか、顔は見るな……とか。 じゃあなんで言ってきたんだ?」


「なんとなくだけど話は知ってるの。 福田くんが誰のことを気になってたかとか、誰に告白したか……とか」


「ーー……マジ?」


「うん。 だから返事は別にしなくていい……私はこの気持ちを伝えたかっただけだから。 福田くんがある人に告白したことを知ったときから福田くんが私をそういう目で見てないことを……認めたくはなかったけど理解はした。 それでも少しでも可能性があることを信じてたんだけど、最近それもなくなっちゃって。 だから福田くんの顔を見ちゃうと悲しくて悔しくて辛くて……泣きそうになっちゃうんだ」



 西園寺はその場でしゃがみ込むとオレの手を包み込むように握りしめ、「えへへ、私って変だよね」とワザとらしく微笑む。

 その際に溜まっていた涙が頬を伝い、西園寺に握られていたオレの手の甲にポツンと落ちた。



「ま、待てよ西園寺。 オレはまだ返事を言ったわけじゃ……」


「ううんいいの。 返事はいい。 ダメって知ってるから。 それか福田くんのことだもん、もしOKしてくれたとしても、それはきっと私に対する優しさや同情……それは本当の、私の理想としてる両想いじゃない」



 西園寺は首を左右に振りながらオレの返事を完全に拒否。

 そして目の前に顔があることでようやく気づく。 西園寺のやつ、いつも付けてたハート型のヘアピンどころか……髪のサイド自体も結ってないじゃないか。



「ていうか西園寺、ヘアピンは……それに髪型も」


「ヘアピンはあるよ、ポケットに。 でも今日は福田くんに告白するって決めてたから来る途中で外したんだ。 だってあれは福田くんがプレゼントしてくれたものだったから。 あと髪のちょっとした違いに気づいてくれてありがと。 その理由も簡単だよ、今日は何も着飾っていない……素のままの私で福田くんと話したかったから」



 おいおいおいおい。 頭がぐちゃぐちゃになってきたぞ。



 なんだよ余計に分かんねぇよ。 話を聞く限り、嬉しいほどにめちゃくちゃオレのこと好きじゃねーか。

 でもオレにそれらに対する発言権はないとか……もうめちゃくちゃだぜ。



「じゃあ……結局オレはどうすればいいんだ? このまま友達続けていいのか?」


「うん。 福田くんさえ良ければ是非これからも私と友達として続けてほしい……私は福田くんが楽しそうにしてくれてたらそれで幸せだから」


「なんだか告白してないのにオレが振られた気分だぜ。 ーー……でもそっか。 友達として続けるそれはもちろんだ」


「ありがと」


「ただこれだけは言っておくぞ? オレは所詮恋愛初心者。 今後どこかで西園寺のことがかなり気になってしまうときが来て今度はオレの方から告白するかもしれない。 その時はその……逃げないで、離れないでくれるよな?」


「うん。 その時は全力で断るから」


「いや断るんかい!!!」


「あははは。 うん、今日は自分の気持ちにケジメをつけに来たんだから。 これで気持ちが揺らいじゃったら女がすたるよ」



 ああああああ、女って分からねぇええええええ。

 恋愛ゲームとかだったら喜んで了承してくれるところじゃねーのか?



「くそ、ガチでフラれちまったぜ。 じゃあもう話は終わり……ここで解散でいいのか?」


「ううん、話はここから……今から話すこともメインなの」



 西園寺は自身の目を腕で拭うと「じゃあ……ちょっと気まずいけど隣ごめんね」とベンチにそっと座り直す。

 


 もう振り回されてるんだ。 今日はとことん付き合ってやるぜ。



 オレは続けて今日の【メイン2】らしい西園寺の話を聞くことに。

 そしてそれは先ほどの西園寺の告白とはまったく別の……三好の話だった。



「あのね、福田くん……佳奈と最近会えてないでしょ?」


「う、うん」


「告白したんだよね、佳奈に」



 やっぱりそこもお見通しか。



「ーー……うん」


「それで佳奈、理由は教えてくれなかったんだけどどうしたらいいのか分からない感じで……福田くんと顔を合わせるのが怖いんだって。 嫌われちゃいそうで。 だから福田くんの方から会いに行ってあげてほしいんだ」


「え」


「でもそこで答えを迫ったりしないでほしいの。 できればそう……今までと同じ雰囲気で。 優しく包み込んであげてほしいかな」



 西園寺が頬を若干赤らめながら「ほら、こんな感じで」とオレの手を誘導し自身の太ももに当て上下に擦り始める。



「さ、西園寺!?」


「こんな感じ……こんな感じでいつも通りに接してくれた方が佳奈もきっと心が救われるはずだから……。 あとこれは私に関してのお願いでもあるんだけど、私に対してもこんな感じの関係で続けてくれたら嬉しいかな」


「いやいやいやいや!!!! オレそんなセクハラした覚えねーぞ!?」


「パンツは脱がすのに? 同じことじゃない?」


「そ、それは確かにそう……ていうか、グアアアアアアアア!!!! 脳が混乱するうううう!!!!!」



 オレが割とガチなトーンでツッコミを入れると西園寺が楽しそうに「あはは」と笑い始める。



「さ、西園寺?」


「あははは、ごめんね福田くん。 そうそうそれそれ。 今ので私も結構心が軽くなった……それと同じ感じで佳奈にもお願いできるかな」


「どうしてそこまで……」


「うーん、なんだろ。 なんとなく?」


「なんだよそれ」


「うんうんそんな感じ。 じゃあ佳奈のこと、お願いできるかな」


「まぁー……そうだな。 オレも三好と卒業間近で疎遠とか悲しいしな。 オレから動くとするよ」


「ありがと。 もし何かトラブルとかあったらいつでも連絡してね。 協力するから」


「おう、サンキューな」



 こうして公園を出たオレと西園寺はその場で解散することに。

 


「じゃあ、私こっちだから」


「おう、気をつけてな」


「なんか、色々ありがとね」


「それはこっちのセリフだわ。 さっきの続きじゃないけど、オレも西園寺のおかげで心の中の重たい何かが少し軽くなった気がする。 ありがとな」



 西園寺を軽く見送った後、オレも自宅方向へゆっくりと歩き出す。



 明日は三好に会いに行くのか、ちょっとだけ……いや、かなり緊張するぜ。



 オレが心の中で小さく気合を入れた……その時だった。



「福田くんっ!」



 後ろから再び西園寺の声。

 頭上にはてなマークを浮かばせながら振り返ると、西園寺が雲1つない笑顔でポケットに忍ばせていたのであろうハートのヘアピンをオレに向けながら手を振っている。



「なんだ? もしかしてまだ話すことあったとか言うなよ?」


「うんっ、最後に1つ言い忘れてた! 恋を……私に初めての『好き』って気持ちを教えてくれて、ありがと!!! 本当に大好きでした!!!」



 西園寺はそう言い終えると再びオレに背を向け走り去っていく。

 オレはそんな西園寺の姿が見えなくなるまで、ずっとその背中を見続けていた。


 

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