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700 【真・結城編】これも作戦!?


 七百話  【真・結城編】これも作戦!?



 とんでもなく三好のことが愛おしくなり抱きしめていたオレ。

 インターホンが鳴っても三好の温もりを感じていたオレだったのだが、この状況が耐えられなかったのだろう……三好が「は、はい終わり!!」と声を張りながらオレを引き剥がし、駆け足で階段を下りて玄関へと向かう。



「別に居留守使えばいいのによ……」



 一体誰が来たんだ?

 しばらく待っていたものの三好は一向に戻って来ず。 気になったオレはそっと三好の様子を見に行くことにした。



「営業の『お母さんいるかな』系だったらガチで許さん」



 音を立てないよう静かに階段を下りると玄関の扉が開いている。

 オレは外で三好が何をしているのかこっそりと顔を覗かせたのだが……



「い、いや……だから親今いないんで。 それによくわかんないんで大丈夫です」


「だったらご両親が帰ってくるまで待つから中に入れてもらえない?」


「いやいや、だからムリですから」


「断るとはなんて可哀想な子。 これはまさに神の啓示……教えが必要だわ」



 んんん、なんだ?



 外の様子を見ていると、玄関の数メートル先で三好とデブババァが何やら言い合っている。

 ババァの手には1枚のプリントと小さな冊子……目を凝らしてよく見てみると、その冊子には『神によってこの世界は救われる』と書かれていた。



 あーね、宗教系の勧誘ってことね。

 今の時代も勧誘ってあるんだな。 オレは冊子に書かれていた文章をスマートフォンで検索し、どこのものなのかを調べてることにした。



 ◆◇◆◇



「は? なんだこれ。 3大宗教とは別の個人的なやつなのか?」



 検索結果は考えるまでもなく、どこぞの悪知恵の働く馬の骨が考えたようなちっぽけな内容。

『願いが叶う』やら『死後救われる』やら『災厄から逃れることができる』やら、中二病もいいところだ。



「まぁこれならオレが出る幕もない。 こんなクソみたいな文言に騙されるほど三好もバカじゃないだろうし、早く戻ってこいよ」



 それからオレは玄関裏に身を潜めながら三好がどう断るのか聞き耳をたてる。

 すると……なんということだろう。 ババァは三好の一向に引かない態度に苛立ちを覚えたのか徐々に強めの口調に。 「アナタじゃ話にならないから……電話でもなんでもいいからご両親に代わって頂戴!!」と激しく三好を責め立て始めた。



「えええ、で、でも……」


「いいから!! イヤなら私から電話をかけるからほら、番号教えなさい!」


「ば、番号?」


「早く!」


「ーー……っ!」



 あー。 こりゃあアカンやつや。



 三好の反応に怯えを感じたオレは玄関を飛び出し三好の前へ。

 若干震えていた三好の手を握り、「あーいうのは相手にするだけ無駄だからほら戻るぞ」とババァを相手にせず家の中へ引き入れようとしたのだが……



「あれー、佳奈。 なんで外いんの? てかこの人だれー?」



「「え」」



 声がしたのはババァの後ろ。

 視線を向けてみると、そこにはなんとドSの女王・小畑の姿。 小畑が「えーなに? もしかしてデート行くところだったー?」とニヤニヤしながらオレたちに尋ねてくる。



「福田ー、もしかして私、邪魔しちゃったぁー?」


「あーいや、そういうわけでもないけど今は……」


「もー、なにさー。 せっかく麻由香から聞いて面白そ……コホン、進展させてあげるために美波ちゃんが来たっていうのにさー」



 進展? 一体小畑は何を言っているのだろう。



 小畑はババァのことなどフル無視で「あははは」と弾丸トーク。

 そしてそれはしばらく続いたのだが、ババァも我慢できなくなったのだろう。 小畑に対して「ちょっとアナタ、今は私がここのお嬢さんと話してるんだから後にしてくれる?」と若干キレ気味で小畑の前に立った。



「ん? いやさっき佳奈たち家の中戻ろうとしてたじゃん。 え、まだ終わってなかったの?」


「それは勝手にあの2人が私を無視しようとしてただけ。 ほんと最近の子ってしつけがなってない……神の啓示が必要だわ」


「ーー……は? 何言ってんの? 神のケージ? 刑事さんは警察じゃないの?」



 小畑のそれに対しババァが再びグチグチ言い始めたのだが小畑はやはりそれを清々しいほどにフル無視。

「なんか言ってるけどこの人なんなのー?」と全く怯える様子もなくオレたちに問いかけてきた。



「み、美波……えっとこの人は……」

「あー、小畑さん。 そこの人は何か宗教の勧誘をしに来た……ただの迷惑な人だよ。 オレがここにいるのは三好がギャーギャー言われてたから助けに来ただけなんだ」



 オレが三好の代わりに説明すると、小畑の雰囲気が変わる。



「え、この人、佳奈をビビらせたん?」



 一瞬小畑が見せた何とも冷酷な表情。

 小畑は視線をオレからそのまま三好へと移す。



「ねぇ佳奈、そーなん?」


「え、まぁ……うん。 断ろうとしてもしつこくて……それで家に無理やり入ってこようとしたりして……」



 三好のそんな暗い表情を見た小畑はババァの横を通り過ぎてオレたちの前へ。

 三好の背中をそっと押して家の中へ入れると、オレの耳元で小さく囁いた。



「福田、ちょっと玄関の向こうで佳奈のことお願いできる?」


「え?」


「美波ちゃん久々にキレちゃったわー」



 キレてると口にしながらも小畑の口角は何故かニヤリと上に。

 とりあえずここは小畑の好きにさせてあげたほうがいいのだろう……オレは小畑に「何かあったらすぐに助けに出るから呼んでね」と一言。 小畑とアイコンタクトを交わして玄関の奥へ。 パタンと扉を閉めた。



「ふ、福田……美波大丈夫かな」


「なんか笑ってたし、ドSなことでも思いついたんじゃないのか? ヤバくなったらオレも出るから安心しろ」


「で、でも……」


「三好、もう1度言うぞ? 安心しろ。 小畑さんのドSとオレの悪知恵が合わさった時には……もう怖いものは何もない」



 オレのこの発言に納得したのか、三好は「あ、あはは……確かに」と苦笑い。

 その後オレたちは扉の近くにある小窓から顔を出し、小畑とババァのやりとりを見守ることにした。



「ーー……もしもの時はほんと、私も出るからさ」


「いやほんと大丈夫だから。 すでに小畑さんが何かされた時のシミュレーションは完璧だ」


「そっか。 うん……さすが福田だね」



 ◆◇◆◇



 ぶっちゃけ小畑には悪いけど、オレは十中八九小畑がピンチに陥るとばかり思ってたよ。

 だけど……



「さっきから何アナタ! 人が注意してるのに携帯ばっかいじって!」


「オバサンうるさいなー。 今オバサンの好きな宗教ってのがどんなのか調べてたんじゃん」


「まぁそんな汚い言葉使って……本当にここの子たちには神の教えを……!!!」



 ババァは懲りずに小言をグチグチ呟いているがの女王の耳にはそんなもの届かず。

 おそらく検索結果でも見ているのだろう。 「へぇー、その宗教ににゅーしん?……したら、なんでも願い叶うんだぁ」と興味ありげに声に出す。



「そうよ! だから私はこうして少しでも多くの人に幸せになってもらおうと布教を……!」


「ねね、オバチャンの願いは何なの?」



 流石は女王。 会話のペースは既に女王のものだ。



 小畑がそう尋ねるとババァは待ってましたと言わんばかりに手に持っていた冊子を小畑の前へ。

「私はこの神様とともに世界平和を願っているの! 来たるべき災厄から皆を救うためにね!」と声高らかに演説をし始める。

 ただ……うん、逆に小畑も『それを待ってた』って感じに見えるけどな。



「はいダウトー」


「な、何よ!」



 小畑はババァの演説を無理矢理中断。 ババァの言葉が途切れたのを見計らい、ニヤリと悪戯な笑みを浮かべながらババァを見上げた。



「いや願い叶ってなくない?」


「今叶えてる途中なのよ! 私の願いは世界規模だから、それだけ時間と労力もかかるの!」


「なるほどねー。 じゃあ私みたいな子供の願いだったら一瞬で叶えてくれるのかなー」


「そ、そうね! 私たちの信仰してる神様はとっても寛容だから! 個人レベルの望みならすぐに叶えてくれるわよ!」


「へぇー」



 小畑が興味を示したと捉えたのか、ババァは急に得意げな表情になり「なに? テストでいい点数取りたいとか、好きな子に振り向いてもらいたいとかそんな望み?」と饒舌にまくし立ててくる。



「まぁー……そうだねー。 そんな感じなのかなー」


「そうなの? じゃあ言ってみて頂戴? きっとすぐに願いが叶うから」


「えーマジ!? だったらえっとねー」



 小畑が口にした彼女の願い……それは。



「じゃあまずはあれかなー。 オバチャンの顔、めっちゃブスで可哀想だから私みたいに綺麗にしてもらいたいなー」



「「「!?!?!??!?」」」



 まさかの発言にオレも三好も……そして目の前のババァも驚愕。

 ババァが声を震わせながら「わ、私の顔!?」と前のめりになりながら小畑に詰め寄っていく。



「え、何聞こえなかったー? じゃあ美波ちゃんめっちゃ優しいから、オバチャンの耳も良くしてくださいってお願いてあげるね。 あーでもあれか、顔も変えて耳も良くしてもらうんだったら全部交換した方がいいかも。 ほら、オバチャンの体もデブだし。 てことでオバチャンの見た目全部交換でヨロー」



 あまりにも度が過ぎた発言に呆気にとられるババァ。

 しかしようやく自分がバカにされていることに気づいたのだろう。 「躾がなってない……もうアナタでは話にならない!! アナタの親のところ連れて行きなさい!!!」と鬼の形相で小畑の肩に掴みかかろうとしたのだが……



 ピローン。



 突然流れる電子音。

 見てみると小畑が「キャー、知らないオバチャンが怒ってくる、こわーい」などと声をあげながらスマートフォンのカメラをババァに向けていた。



「な、なにやってるの!」


「えー、動画ー。 オバチャンいま私の腕掴んだっしょー? これ男の人だとセクハラで、それで知らない人にされたら痴漢とか暴力になるんだってー」


「それをどうするつもり!?」


「そーだなー。 まずはママにチクってぇー……その後はケージさんに見せてオバチャン逮捕してもらおっかなー。 よかったねー、神じゃないけどケージさんに会えるよー」


「!!!!!」



 小畑はニヤリと笑うと動画を止めて再びスマートフォンを弄り出す。



「えーと、なんだっけ。 110だっけ?」



 その独り言を聞いて警察を呼ぶのだと確信したのだろう。

 ババァは一度小畑を睨みつけると悔しそうにその場を後に。 日頃運動をしていない習慣が祟ったのか、かなりスローペースで走りながら逃げて行ってしまったのだった。



「あははは……あはははははは!!! やったー美波ちゃんの勝利いいいいい!!!!」



 小畑が女王たる堂々とした姿勢で逃げ去るババァの背中にピースサインを向ける。



「「おおお……」」



 圧倒的な小畑の勝利。

 オレと三好はそんな勝者・小畑を家の中へ招き入れた。

 


「す、凄かったよ美波」

「確かに……オレ出るまでもなかったね」



「よっしゃー!! これでまたアイドルデビューしてからの武勇伝増えたーー!! 佳奈も福田も、インタビューとかされた時はちゃんと今日のことカッコよく言ってよね! 美波ちゃんが変な宗教のオバチャンを撃退したって!!!」



「「え」」



 ま、まさかそのためだけに1人で相手をした……とかそういうのではないよな?

 


 ひと段落したオレたちは小畑を加えた3人で三好の部屋へ。

 しかし小畑は部屋に入るなり、目をキラキラさせながらオレたちにこう尋ねてきたのだった。



「ねね、それでもう2人とも付き合ったっしょ? 付き合ったよね!?」




「「ええええええええええええええ!?!?!?!?」」




お読みいただきましてありがとうございます!!

小畑ちゃんの親友を想う気持ち……あっぱれですね!!! 作者はそういう小畑ちゃんが大好きです!!!

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