699 【真・結城編】愛情
六百九十九話 【真・結城編】愛情
「あ、あはははは!! その……福田、さっきの忘れて。 多分寝ぼけてて変なこと言ったんだと思うから」
「お、おう」
三好のお願いをオレは深く追求せずに了承。
だって仕方ないだろ、あの後もトイレの方からは……
『ど、どどどどうしよー麻由香ぁー! 私、福田の前で福田が好き的な発言しちゃったああああ……!』
三好、多田に電話してたのバッチリ聞こえてましたよ。
ていうかいつから三好はオレのことを……その、好きになってくれていたのだろうか。
かなり聞きたくても、そこであえて三好に尋ねる勇気をオレは持ち合わせておらず。 オレはコホンとワザとらしく咳払いをすると、言葉を詰まらせながらも本来の目的……修学旅行の話を切り出した。
「そ、そういえばあれだよな。 京都の水族館……三好は何が印象的だったんだ?」
「え、えーと私は……あー、あれ! ペンギン!! めっちゃ近くで見れてちょー可愛かったよ!!」
三好が子供らしい満面の笑みを浮かべながら顔を近づけてくる。
「おーペンギンか。 オレも見に行けばよかったなー」
「福田見てないの?」
「あぁ。 謎に興奮してたエマから逃げてたからな」
「そーなんだー。 あ、じゃあ私動画めっちゃ撮ったから何個か送ってあげるよ!!」
「まじか! それはありがたい……早速頼むぜ!」
オレは三好に三好チョイスのペンギン動画をスマートフォンに転送してもらいながら別の話をすることに。
お寺や神社、宿泊した際に一緒に視聴したエロアニメのことなど時間を忘れてかなり盛り上がっていたのだが、途中で自身のスマートフォンで時間を確認しようとした三好が「あ、転送終わってるよー」と『転送完了』の通知画面をオレに見せてきた。
「お、ほんとだな。 さんきゅ、後で見るわ。 それでさっきの続きなんだけどさ、京都駅のなににビックリしたかって……」
「あーもう!! それは後でいいからペンギン見ようよ!」
三好はオレの話を無理やり切り上げ、オレのスマートフォンに顔を近づけて見上げてくる。
「え、ペンギン? いやでも今はオレがいかに京都駅に衝撃を受けたかっていう話をだな」
「駅がすごいのは分かったからペンギン見よーよー!! 途中美波や麻由香に置いてかれたことも気づかないくらいに集中して動画撮ってたんだからー!!」
「お前もう何度も見てんだろ」
「いーじゃん!! 福田の反応も気になるのー!! だからはーやーくーー!!!」
ったく、たまに三好ってこういう子供な一面を急に出してくるよな。
まぁでも三好にも今回の結城の一件でかなり助けられたし、ここは三好の要望に応えてあげるとしよう。
オレが三好から送られてきた動画を開くと三好が「あ、これが一番見て欲しいやつ!!」と割り込んできて画面をタップ。 早速動画が再生され始めた。
「おお、1メートルも距離ないとか、本当にペンギン近かったんだな。 ていうか……はあああ!?!?!? 再生時間25分って……長すぎだろ!!!」
「仕方ないっしょー? 時間忘れて撮ってたんだもんー」
だから転送にかなり時間かかってたのか。
されど25分……かなり長いけど話のネタは広がるかもしれないな。
オレは三好の「ほら福田! この子プルプルしてて可愛くないー!?」といった感想を聞きながらペンギン動画を視聴。
たまに聞こえてくる動画撮影時の三好の声にツッコミを交えながらも楽しんでいたのだが……
『お嬢ちゃんお嬢ちゃん』
三好の『かわいい……こっちおいで、こっちー』などと言ったいかにも女子小学生らしい音声に癒されながら見入っていると、三好に話しかけてきたらしい女性の声が画面から聞こえてくる。
「なんだ三好、絡まれたのか? 大変だったなー」
「あー、この動画だったか。 ううん、別に大変じゃなかったよ。 優しそうなオバちゃんだった」
「お、おおそうか。 優しそうな……とか、よく覚えてたな」
「うん。 なんていうかこう……シンパシーを感じたんだよね。 このオバちゃんもペンギン好きなんだなーって」
「ーー……三好、シンパシーって意味分かってて使ってんの?」
「うるさいなー!! でも合ってるっしょー!?」
三好は突然バカにされたことが不満だったのか動画を一時停止させてオレの背中を軽くシバく。
その後「まぁ見てたらいい人だって分かるから見ててよ」と付け加えて再び再生ボタンをタップした。
『え? お嬢ちゃんって私のこと……ですか?』
『そうそうお嬢ちゃん』
『どーしました?』
『そんな大した用じゃないんだけどね。 さっきからずっとペンギンの動画撮ってたから好きなのかなーって思ってね。 オバちゃんもペンギン大好きだからもしかしてって思って話しかけちゃったのよ』
なんだろう、声色的にも発音的にもどこか馴染みのある感じだ。
でも、まさか……な。
オレがその女性の言葉に懐かしさを感じている間にも2人の会話は続いており、いつの間にかオレは画面に映るペンギンよりも三好と女性との会話に集中してしまっていた。
『あ、はいペンギン大好きです! オバちゃんも好きなんだ』
『うん、オバちゃんとそこにいるオジちゃんもペンギンだーいすきなの! あとここには今いないんだけど、オバちゃん達の息子も大好きだったのよー?』
『そーなんですね! 何歳くらいなんですかー?』
『息子? そうねー……別の水族館だけど前に連れて行ったのは……小学校5・6年生の頃だったかしら。 あの子もずっとペンギンの前でじっとしてて動かなかったのよー?』
ーー……。
『そっかー! じゃあその時に私もそこにいたら友達になってたんですかねー!』
『ほんと。 もしかしたらそこで意気投合して結婚してたかも』
『へ? けっこ……』
『あああ、ごめんなさいね勝手に盛り上がっちゃって。 じゃあオバちゃんはあっちにいるオジちゃんのところ戻るから……お互い楽しみましょうねー』
『え、あ、はい! バイバイー!』
三好が顔と体の向きを女性の方へと向けたからなのだろう。
カメラも自然とペンギンから女性の方へとスライドしていく。
ーー……あ、やっぱりだ。
うん、話の内容的にももしかしてって思ってたけど合ってたみたいだな。
そこに映し出されていたのは以前のオレの……父の元へと戻っていく母の後ろ姿。
『あの子、動画撮ってたのか?』
『えぇ。 真也と一緒で夢中になってましたよ』
『そうか、なんか姿が重なって……可愛いなぁ』
『本当に』
それから三好は何事もなかったかのように鼻歌を口ずさみながら再びカメラをペンギン達へと向け直して撮影を再開。
『もうすぐ屋外ステージでイルカショーが開催されます』のアナウンスが鳴り響くまで可愛いペンギン達の姿が記録されていたのだった。
「どう!? ペンギンめっちゃ綺麗に撮れてたっしょ!!!」
動画を見終えると、三好がドヤ顔でオレの感想を求めてくる。
「あ……あぁ。 撮れてた」
「ふふーん! そうでしょー!! てか……え、なに福田。 なんで泣いてんのさ!」
いつの間にかオレの目には涙。
それはそうだ。 動いてる両親の姿はあの水族館の一瞬以降、永遠に見ることが叶わないと思ってたんだから。
なのにこうした形で……動画としてオレのもとに届くなんて。
「三好……ありがとう」
オレが三好の手を握りしめ感謝を伝えると、三好が「え、そこまで嬉しかったの!?」とオレの意外な反応に驚きながらオレを見上げてくる。
「あぁ、そうだな嬉しかった。 ちゃんと母さ……、オバちゃんと会話してあげてるところにも感動した」
「あーあれね。 なんか子供が好きだったって言ってたね」
「そうだな」
「なんて言ってたっけ……シンヤくんだっけ? ペンギン好きなんてシンヤくんも分かってるよねー。 あの時は急にオバちゃんに『息子と結婚してたかも』とか言われてポカンだったけど、よくよく考えたらそういう場所で運命の出会いってのも憧れるかもー」
運命の出会いか……そうだな。
なんだろう、感謝とかいろんなものは入り混じって三好のことがとてつもなく愛おしい。
オレは三好の背中にゆっくりと腕を回すとそのまま強く抱きしめる。
「え、えええええ!?!!??? ふ、福田!?!?」
三好はオレの腕の中でかなり焦っていたのだが、オレは気にせずハグを続行。
大体10分くらいだろうか……三好家のインターホンが鳴るまでの間、オレはただただ三好の温もりを感じていたのだった。
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