694 【真・結城編】優しさ!
六百九十四話 【真・結城編】優しさ!
結城から届いた『起きてたら返信がほしい』メール。
「ん、なんだ? 借りた使用済み靴下はちゃんと返したんだけどな」
オレは頭上にはてなマークを浮かばせながらも起きてる旨のメールを返信。 するとすぐにそれに対する返事の通知が届いた。
【受信・結城さん】ちょっと聞きたいことがあって。 美波が、福田くんと佳奈がいい感じだったって言ってるんだけど何してたの?
お……Oh。
なに言いふらしてんだあの女王は。
【送信・結城さん】え、いや特に大したことはしてないよ。 三好はなんて言ってるの?
【受信・結城さん】佳奈も福田くんと一緒で『大したことしてない』って。 でも顔が赤かったから何かあったのかなーって思ったんだけど……。
ふむ、別にオレに恋心を抱いているわけでもないのにどうして結城がそこまで気になるんだ?
やはりそこは思春期女子という生き物の特性・【多くの情報を皆で共有したい】によるもの……自分だけが仲間外れにされてると感じているのだろうか。
「それにしても……言えるわけねーだろ」
オレは『ほんと盛り上がるようなことは何もなかったよ』と返信。
その後オレもいい感じに眠気が襲ってきたので横になり目を瞑ろうとしたのだが、ここで怒涛の迷惑メールラッシュ……受信通知音がオレの耳元で鳴り響いた。
【受信・三好】だーいき、大好きだよー♪
【受信・三好】ちげういまのは美波げ
【受信・三好】今のは美波が怒ったかた
【受信・三好】美波が送ったやつだから気にすなう
【受信・三好】気にしないで!
「ぐあああああああああああ!!!!! うぜええええええええええええええ!!!!!!」
結果オレが寝落ちするよりも早く生臭さ漂う男子たちが部屋へと帰還。
そりゃあこいつらはすぐ寝れるよな、さっき体力と精神力を使ったばかりなんだから。
オレがイビキと臭さのダブルパンチであまり眠れなかったことは言うまでもない。
「ねぇダイキ大丈夫? 目の下クマ出来てるわよ?」
翌朝の朝食時。
バイキングエリアで対面に座っていたエマがオレの顔を覗き込んでくる。
「んーにゃ全然。 エマはよく寝られたのか?」
「それはもうぐっすりよ。 ハナエと1対1で頭使うゲームで戦ってたからね。 目を瞑ったと同時に寝落ちしたわ」
「いいなぁそっちは平和で。 さぞかし部屋の中もいい匂いと可愛い寝息で天国だったんだろうな」
オレが重い瞼を必死に開きながら朝食を摂っていると、結城が「大丈夫? 眠気覚ましになるか分からないけど、熱いお茶淹れてきたよ」とオレに熱々の湯呑みを差し出してくる。
「あー……ありがと結城さん。 カフェインと熱さで目が覚めるかも」
「うん、おかわり欲しかったら言ってね。 私また淹れてくるから」
ちくしょう。 ありがたいけどこの暑い時期に熱いお茶なんて……これも全部、寝息がうるさい&生臭い男子たちと迷惑メールを連発してきた三好のせいだ。
オレはお茶の果てしない熱さと苦味を感じながらなんとか脳を覚醒。
しかし身体の重さは回復しなかったため、三好に「三好ってあれだよな、今日の修学旅行が終わるまでオレの彼女だったよな」と確認をとった上でオレのサポートをするよう頼み込んだ。
ーー……のだが。
「えええ!? あれやっぱまだやるの!?」
やはり三好は昨夜の一件で終わった気でいたのか、顔を真っ赤にさせ驚きながらオレに目を合わせてくる。
「当たり前だろ。 それが勝者である小畑さんの意志だ。 嫌なら直訴してこいよ」
「ていうか福田、彼女のことをなんでもしてくれるお手伝いさんと勘違いしてない? 私は福田の彼女役だけどお願い事を全部聞くお手伝いさんじゃないんだけど」
「そ、それは確かに。 さっきのはオレの認識違いだったな。 すまん」
「まぁいいけどね、支え合いも必要って言うし。 じゃあ……どーすんの? その汚れてる口周り拭けばいい?」
おお……軽い冗談のつもりだったのに、なんだこの母性溢れる三好の優しさは。
先ほどの発言に三好への申し訳なさが残っていたオレは、三好に「いや冗談だから別に何もしなくていいぞ」とお願いを撤回。 その後もう少し眠気を覚ますためにお茶を自分で淹れに行こうと立ち上がったのだが、ここで近くに座っていた水島が「あ、ちょっと待ってぇー」とオレを呼び止めた。
「ん、どうした?」
「ごしゅ……福田くーん、花ちゃんもお茶飲みたいから淹れてきてー」
「は? なんで」
「だって福田くん、昨日新幹線のババ抜きで負けて花ちゃんの執事になってるじゃんー」
「は? いやあれは昨日1日の話だろ。 もう期限切れだ自分で行け」
「えー。 でも昨日ほとんど一緒にいなかったんだよー? それって罰ゲーム成り立ってなくないー? まぁ福田くんがそんなちっちゃい男なんだったら花ちゃん別にいいんだけどさー」
ーー……ぴき。
なんだって? オレの某所がちっちゃいだと?
ふざけるのも大概にしておけ……あれはただベールに包まれてるからインパクトがない……小さく見えているだけなんだよ。
煽りと分かっていながらもオレは自身のプライドを守るべく「いいぞやってやるよ」と了承。 この瞬間、オレは三好の彼氏役なのだが水島の執事というなんとも奇妙な設定が完成した。
「あはははー! じゃあとりあえず花ちゃんが一番偉いんだねー!」
「おいおい、なんで設定ごときで喜んでんだよ。 ほら、同じ四天王の西園寺からも何か言ってやれ?」
「福田くん、元気?」
「え、あぁ……まぁなんだかんだで元気にはなったけど、どうしてだ?」
「ううん、元気になったんだったらいいの。 じゃあそうだなぁ……私は……あ、そうだ。 福田くんの奴隷になろっかな」
ーー……は?
「「「ブフーーーーーッ!!!!」」」
オレが呆気にとられていると、エマ・三好・多田の口から噴き出た水……JS水がオレの顔へと一斉放射される。
それからすぐに少し離れた席に座っていた謎の地獄耳を持つ綾小路が殺気を纏いながらオレの前へ。「福田ああああ!!!! お前ってやつはああああああ!!!」と全力パンチをオレの顔面にお見舞い……完全にオレは目を覚ました。
「おい福田!! アタシの西園寺だぞ!? 奴隷なんか許さないぞ!!!」
「ーー……綾小路。 ちょっと私と2人きりでトイレ行こっか」
「えっ! なになにどうしたの西園寺!! まさか告白……うんっ! ほら行こうすぐ行こう!!」
女子トイレで一体なにが起こったのか。
トイレから戻ってきた綾小路は目が点になっており身体はガタガタ震え……西園寺と目が合う度に「ごめん西園寺嫌いにならないでぇー!!」と謝っていたのだった。
「西園寺さん……かっこいいなぁ」
オレの隣で結城がポツリと呟く。
「ん、なんで? 怖いじゃなくて?」
「うん。 自分の意見をしっかり持ってて……私も西園寺さんみたいになりたいな」
「いや、結城さんは今のままの方が結城さんっぽくていいと思うよ」
「え?」
「え、あーごめん。 別に結城さんの考えや理想を否定したいわけじゃないから気にしないで」
そうだな、もし仮に結城が西園寺化したらどうなるだろう。
オレは脳内で凶暴化結城・ドM結城・姉御結城のビジュアルをそれぞれ思い描いていく。
『福田……くん、殺すよ?』
『福田……くぅん、パンツの中が汗ばんじゃって……ここで脱いでいいかなぁ』
『福田……くん、ここは私がやっておくから後は任せて』
ーー……うん、やっぱり結城は今のままの方がいいな。
この少しおどおどしたような小動物感と滲み出る優しさが守ってあげたい欲を増幅させる……オレはそんな所にも惚れたんだよな。
まぁフラれたんですけどね!!!!!
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