692 【真・結城編】特別編・恋のライバル?【挿絵有】
六百九十二話 【真・結城編】特別編・恋のライバル?
ゲームに敗北した佳奈の罰ゲーム遂行のために希の部屋へと移動したダイキ・佳奈以外の面々。
美波考案のゲームが意外と面白かったため、移動してきたメンバーだけで再び何回か遊んでいたのだが……
「いやー、カナがいなかったら誰が負けるか分からなかったわね!」
脳をフルに使い疲弊したエマが「もうこれ以上は脳が動かないわ」とベッドに横たわる。
「そうだねー! 花ちゃんも流石に疲れちゃったよー」
「何言ってんのよハナエ。 さっきから全部ハナエの圧勝だったじゃない。 エマ、なんだかんだで自分が勝つって思ってたから結構悔しいわよ?」
「あははー。 そりゃーそうだよー。 花ちゃん、やるときはやるんだからー」
ちなみにエマは総合2位。
1位と2位が互いの健闘を称えあっている隣では美波が「くやしーー!!!」と悶絶。 そしてそんな美波を麻由香と希が「まぁまぁ」とまるで泣き止まない赤ちゃんをあやすように、優しく宥めていた。
◆◇◆◇
美波を宥め初めてしばらく。
希はこの空間に1人……桜子がいないことに気づく。 そのことを麻由香に尋ねると、麻由香は「え、気付かなかったの?」と驚いた表情で首を傾げた。
「うん。 いつからいなかったの? 普通にゲームは一緒にしてたよね」
「そうだね。 確かゲーム終わって順位決めが終わったくらいじゃないかな。 『ちょっと出てくる』って言って制服に着替えて部屋出てったじゃん」
「え、そうなの気付かなかった……でもさ、なんで制服に?」
「そりゃーこの格好で1人でうろついてたらロリコンに目をつけられるからじゃん?」
「あー、そっか確かにね。 でもそうだとしても、もう15分くらい帰ってきてないよね」
「そだねー。 まぁあれじゃない? お母さんと電話してるんじゃないの?」
あぁ、そういえば桜子のお母さんって今入院中だったっけ。
だとしたら長電話も理解できる……そう1人で納得していた希だったのだが、ここで先ほどまで敗北の悔しさから悶絶していた美波が唇を突き出しながら小声で麻由香に話しかけている声が耳に入ってきた。
「桜子といえばさ、なーんかまだ福田見てると同情しちゃうよね。 なんかめっちゃ不憫だわ」
「あーそれ分かる。 まだちょっと福田、無理してる感あるもんね」
一体2人は何の話を……。
もしかして今日綾小路が言ってた、福田くんが失恋して気持ちが沈んでいる件について何か知ってるのだろうか。
その詳細を2人から聞きたくて仕方のなかった希だったのだが、生憎ここにはそのことを知らないかもしれないエマや花江もいる。
ここで彼のプライドを傷つけたくない。
希はこのモヤモヤした感情を一瞬でも忘れるべくホテル内を散策することに。
ついでに桜子を見つけたらお母さんの容態のことでも聞いてみよう……そう考えた希はゆっくりと立ち上がると、『私も親に電話してくるよ』と口実を作り、桜子と同様念のため制服に着替えて部屋を出た。
◆◇◆◇
部屋を出て外の夜景でもみようと大きな窓のあるエレベーターホールへと向かった希。
するとそこで簡易ソファーに座っている桜子の姿を見つける。
「あ、桜子」
「あ」
希が桜子を見つけたのとほぼ同じタイミング。 桜子も希の姿を確認するなり、目に涙を溜めながら「希……」と小さく呟いた。
どうして桜子は泣きそうな顔になっているのだろうか。
もしかして電話した結果、母親の様態が良くないのでは……?
仮にそうなのだとしたら修学旅行どころではない。 希は失礼を承知で「桜子……何してたのこんなところで。 何で泣いて……お母さんに何かあったの?」と聞いてみることに。 すると桜子はふるふると首を左右に振った。
「あれ、違うの? てっきりお母さんと電話してたのかと思ったよ」
「ううん。 別に電話とかしてないよ。 スマホ部屋に忘れてきちゃったし」
「じゃあ何でここで座ってたの?」
そう尋ねてみるとどうだろう。
桜子は恥ずかしそうに顔を赤らめながら自身の両頬に手を当てる。
「ーー……桜子?」
「その、部屋番号……分からなくなっちゃって」
え。
◆◇◆◇
詳しく聞いてみると、桜子が部屋を出た理由はダイキと佳奈のことが気になって見に行こうと思ったとのこと。
しかしいざ部屋を出たのはいいものの、ダイキたちが何号室の部屋だったのかを忘れてしまい……更には先ほどまでいた部屋の番号すらも忘れてしまっていたという。
「ええ、桜子部屋番号覚えてなかったの?」
いくらなんでもそれは注意力が足りなさすぎる。
特に桜子は心配性な性格だから何度も確認するはずなのに……。
希は桜子のこの桜子らしからぬ行動に疑問を覚え、悩み事でもあるのかなと判断。
「何かあるなら話聞くよ?」と聞いてみたところ、思いもしない発言が桜子の口から放たれたのだった。
「うんと……何だろう。 最近ここがモヤモヤするんだよね」
「胸が?」
「うん。 なんでなのかな、福田……くんが他の女の子と楽しそうにしてるのを見るとキューッてなって苦しくなるの」
ーー……!!
桜子の話を聞いた希の体が僅かに反応。
そしてそれを桜子は見逃さず、「もしかして希はこのキューってなったりモヤモヤするの……知ってるの?」と首をかしげる。
「え、まぁ……うん、そうだね。 多分だけど心当たりはあるかな」
「そうなの!? じゃあ教えてくれないかな……!」
こんなにも何かを必死に求める桜子は初めて見たかもしれない。
それってもしかして『恋』ではないか……そのことを口にしようとした希だったのだが、桜子が続けた「でもね、このことママにも言ったことあるんだけど、自分で気付きなさいって……あれから結構経つのに全然分からないの」の言葉を聞いて思わず出しそうになっていた声を飲み込む。
「希?」
「あ、いや……そうなんだ、お母さんに自分で気付けって言われたんだ」
「そうなの。 何回か答え教えてってお願いしても教えてくれないんだよ。 いじわるだよね」
桜子が頬を小さく膨らませながら唇を尖らせる。
その後、「それでその答えって何なの?」と目の前で立つ希の手を優しく握りながら上目遣いで再度尋ねてきたのだが……
「い、いやいや。 お母さんが自分で気づくように言ってるんだったら私が教えちゃダメじゃない?」
「そう?」
「うん。 多分だけど……お母さんは桜子に自分の力でその答えに辿り着いて、大人になってほしいって考えてるんだと思う」
そうだ、確かにこのことは自分が教えていいものではないのかもしれない。
これは……恋は誰かに教えられるものではなくて、自分で気づくもの。 だからこそ美しい。
初めてそれに気づいた時は甘くて温かくて優しくて……だけどその世界に浸っていると、いつまでもこのままではいられないと気づいて不安や焦燥感が押し寄せてくる。
きっとそのことを桜子のお母さんは娘に体験して欲しくて……
「ねぇ希……」
「ほら、ずっとここにいても変な人に会っちゃうかもしれないし、早く部屋に戻ろ?」
希は桜子の更なるお願いを華麗に回避して手を引き立ち上がらせると、そのまま手を引きながらエマや美波たちのいる部屋へと歩みを進める。
「どうしてもダメ?」
「だーめ。 言ったら私がお母さんに怒られちゃうでしょ?」
「内緒にするから……」
「ふふ、むりー。 でも、そうだなー……ヒントだったら……」
ヒントだったら、バチは当たらないよね。
希は桜子の後ろに回るとお腹に手を回して桜子を優しく抱きしめる。
「の、希?」と振り返ろうとする桜子の耳元で、ほとんど答えに近いヒントを囁いたのだった。
「桜子、私も今日初めて知ったんだけどね、福田くん……今失恋して傷心中なんだって。 だから慰めてあげて……側にいてあげたらその答えが何なのか分かるかもよ?」
「失恋……」
「うん」
あーあ、まさか桜子まで福田くんのことを好きだったなんて。
いくら親友とはいえ、恋のライバルに塩を送っちゃった……これは今後ますます大変になるなー。
これからのことを予想した希は桜子の背中におでこをつけながら小さく苦笑い。
しかし次に返ってきた桜子の返事はこれまた希を驚かせることとなった。
「希の耳にも入ってたんだ。 福田……くんのこと」
「うん……」
「そうなんだ。 でもさ、私は福田……くんを励ませない」
「なんで?」
「だって福田……くんの告白を断ったの……私だもん」
ーー……
「え?」
えええええええええええええええええええ!?!!?!??!?
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