689 【真・結城編】修学旅行1日目の夜①
六百八十九話 【真・結城編】修学旅行1日目の夜①
修学旅行1日目の日程は変なアクシデントもなく無事終了。
部屋割りは流石に班ごとに……とはならず、同じクラスの男子数人との部屋でオレは一言二言話す程度の会話しかしていなかったのだが……
「ーー……ん?」
あまりにもガキすぎる会話に飽き飽きしてスマートフォンをいじっていたところ、メールが届く。
【受信・三好】エレベーター前にすぐ来ること!
「な、なんだ?」
とりあえず行ってみるかと思ったオレは「ちょっと出てくるよ」と近くで話していた男子たちに報告。
すると男子たちは怪訝そうな顔をしながら互いに顔を見合わせ、「ちょっとさ、聞きたいことあるんだけど」とオレに近くに来るよう手招きをしてきた。
「な、なにかな」
「あのさ、多分……だけど、女子ん所行くんだろ?」
「ーー……っ!」
あまりにも確信をついた言葉にオレは不覚にも動揺。
手にしていたスマートフォンを落としてしまい、三好からのメールが表示された画面が男子たちの視界に入る。
「なになに、『エレベーター前に来ること』?」
「ちょ、ああああ!!! 1組の三好さんからじゃん!」
「がああああ!!! なんでお前ばっかりーー!!!!」
男子たちは「うがあああ!!!」と悶えながらオレの周囲へ。
これは弱みを握られてしまった……そう感じ戦慄していたオレだったのだが、男子たちから浴びせられた言葉は意外なものとなっていた。
「なぁ福田、どうやったらあんな上位勢の女子たちと親しくなれるんだ!?」
運動神経抜群の男子が真剣な表情でオレに尋ねてくる。
「え……え? どうやったらって……普通にしてるだけだけど」
「そんなわけないだろ!! 俺なんかサッカーで地区大会優勝してんのに、全然気になる子に振り向いてもらえないんだぞ!?」
「そ、そうなの?」
「あぁ!! 勉強面だって頭いいって思われたいから塾も通って毎回90点台叩き出してるのに……まるで相手にされないんだ!」
運動神経抜群男子は悔しそうに布団に顔を埋めると、「クッソーー!! なんで俺はああああああ!!!!」と嘆き始める。
「い、いやそんなわけ……でもキミあれじゃん、結構モテてる印象あるけど」
「本命じゃないと意味ないんだよ!! 俺は一途なんだ!!」
おぉ、かっこいい。
「そ、それはすごいね。 ちなみにそれって誰か教えてもらっても……」
流石に片想いの相手を大して仲良くもないオレに教えることはないだろう。
そう考えた上で聞いてみたオレだったのだが、やはりそこは爽やか系運動男子。 少しも躊躇う様子も見せず、堂々と想い人の名前を口にした。
「エマ・ベルナール……エマさんだよ!!!」
「え……えええええ!?!? エマああああ!?!?」
「ちょっと呼び捨てマウントやめてくれよ!! どんだけお前は俺を苦しめるんだあああ!!!」
「エエエエエエエ!?!?」
聞いてみたところこの運動神経抜群男子、6年生になってからかなりエマにアピールをしているとのこと。
何かあるたびにエマの気を惹こうととしていたらしいのだが……
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『エマさん! ほら見てくれよこれ!! サッカー地区大会のMVP選手しかもらえないメダルだぜ!!!』
『へー、すごいじゃない』
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『エマさん! 今度の土曜日遊びに行かない!?』
『あ、ごめんなさい。 今週の土曜日はダイk……友達が妹と遊びにウチに来るのよ』
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『ね、ねぇエマ!』
『ーー……なんで急に呼び捨てなわけ?』
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ーー……なんて悲惨な片想い。
オレが心の中で同情しているとそれに感化された男子たちもそれぞれの推しとその想いを口にし始める。
『僕は4年の頃から三好さんのことが好きだったんだ!! それで5年の途中からなぜか急に柔らかくなって更に魅力的になっていって……だけど三好さんってほとんど福田くんと話してるよね! なんなの付き合ってんの!?』
『俺は隣町出身だから6年になってからだけど、断然西園寺さんだな!! 聞いたところによれば5年の時はかなり尖ってたって聞いてさ、今はあんなにお淑やかなのに……そのギャップが堪らん!!!』
『美波ちゃんが1番……うひゅひゅ、美波ちゃん……名前で呼んじまった』
なんてこと……こんなにもオレが絡んでた奴らがモテてていたなんて!!
ていうかまぁエマや西園寺や小畑は学年マドンナ四天王の1人だから分かるけど、まさか三好まで!!!
内心かなり驚いてはいるが、早く三好の待っているであろうエレベーター前へ行かなければならない。
オレはなんとかこの話題を終わらせて部屋を出る努力を開始。 しかし全くこの場から解放してくれず、オレがかなりの焦りを感じていると、突然部屋の扉がトントンと叩かれた。
「ん、誰だ? 見回りの先生かな」
「いや、それはないだろ。 もう点呼終わったじゃん」
「じゃあ誰だ? 枕投げのお誘いか?」
「ここは俺が」と運動神経抜群男子が立ち上がり扉の前へ。
皆先ほどまでしていた恋愛話は聞かれたくないのか、ピタッと話すのをやめて一斉に扉の方へと視線を向ける。
トントントン……トントントントントン
なんだ、まるでギャルJK星が家に来た時のインターホンのテンポじゃねーか。
オレはそう心の中でツッコミを入れながらも視線を皆と同じ扉の方へ。
そして運動神経抜群男子が扉に手をかけゆっくりと開けると、そこには衝撃的な光景が広がっていた。
「あー、ほら普通に福田いる……起きてんじゃん」
「あら、ほんとね。 てっきり寝てるもんだと思ってたわ」
「福田……くん、よかった。 何かされてるのかと思った」
そこにいたのは体操服ではなく、このホテルの各部屋に備え付けられていたロングTシャツタイプのパジャマに身を包んだ三好・エマ・結城の姿。
その後ろから「福田遅すぎー! あとで罰ゲームだかんね!」と小畑が顔を覗かせ、西園寺が「先生にバレたら面倒だから早く来て」と手招きをしてきている。
「え、エエエエ、エマさん!?!?!?」
もちろんエマ一筋を豪語していた運動神経抜群男子はその場で硬直。
三好推し・西園寺推し・小畑推しも同様にそれぞれの推しのロングTシャツパジャマの姿を必死に目に焼き付けていた。
「や、やぁエマ。 ごめん話に夢中になっててさ」
「そうなの? まぁでもほら、早く来なさい。 ミナミが面白いゲームを思いついたらしいのよ」
「いやでもほら、さすがにもうここにいる皆にバレてるしマズくないか?」
「なーに言ってんのよ。 男子たちが黙ってたら済む話じゃない」
エマは呆れ顔で息を吐くとその視線を目の前にいた運動神経抜群男子へ。
「ね、黙っててくれるわよね?」とかなり魅力的な笑みを浮かべながら運動神経抜群男子に問いかける。
「いやでもそれはズル……こほん、ううん! 先生に後々バレたら大変だし」
「そこは上手くやってよ。 キミ、爽やかイケメンなんだから先生も信用すると思うし」
「さ、爽やかイケメン!? 俺が!?」
「そうよ。 だからお願いできるかしら」
「で、でも……それでも流石に……!」
「はぁ、しょうがないわねー。 じゃあこれあげるからお願いできる?」
そう言ってエマが手渡したのはヒトデのキーホルダー。
そういやなんか水族館のガチャガチャで欲しいのが手に入るまで回したって言ってたっけ。 ペンギンのキーホルダー狙いだったかな?
「ええええええ!?!? いいの!?」
「いいわよ」
可哀想に……何も知らない運動神経抜群男子はエマから貰った突然のプレゼントに大歓喜。
「わ、わかったよ! エマさんの期待を裏切らないよう、全力を尽くすよ!!」とビシッと習ってもいない敬礼をエマに向ける。
「じゃ、そういうことでダイキ借りてくわね。 ほら、行くわよダイキー」
「え、あ、はい」
一応裏切り者が出るかもしれないと予想したオレは残りの男子たちに『それぞれの推しから何か貰ってくるから』と約束。
全員から期待の眼差しを向けられながら部屋を後にしたのだった。
「てことで後であいつら用に何かプレゼントお願いします」
「はぁ!? なんで私見て言うのさ!」
「お前結構人気あるぞー?」
「は、はぁ!? べ、べべべ別に嬉しくないし!」
「西園寺も頼むな」
「わ、私も? 分かった、考えとくね」
「小畑さんもお願いします」
「仕方ないなー。 んじゃ後で私の写真撮っていいよー」
「それとエマ……」
「なによ」
「これもう何度目かわからんけど、やっぱお前、悪い女だなー」
「ふふ、子供だと惚れてるってのが丸わかりなのよ。 ダイキはエマに惚れんなよー?」
「そして結城さん」
「な、何かな」
「そのミズクラゲのぬいぐるみ、今も持ってるんだ」
「うん、抱き心地いいんだよ? 福田……くんも触ってみる? ほら、もふもふ」
あああ、修学旅行、最高なんじゃああああ……!!!!
お読みいただきましてありがとうございます!!!
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