688 【真・結城編】特別編・あの子の自慢の地獄耳
六百八十八話 【真・結城編】特別編・あの子の自慢の地獄耳
どうして……どうしてこうなってしまったの?
福田くんを誘ったのは私なのに。
希の瞳に映っているのは前の席に座っている福田ダイキの後ろ姿。
彼の足の上には何故か三好佳奈が乗っていて、その隣では多田麻由香が座っているのだが、麻由香もダイキと同様……何故か足の上に小畑美波を乗せていた。
「なんてうらやまs……ねぇちょっと福田く……!」
「ねぇ西園寺見てえー! この写真、めっちゃ私ら可愛く写ってないー!?」
希がダイキに話しかけようとしたところで、隣の席に無理やり座っていた綾小路 恵子が希にべったりくっつきながらスマートフォンの画面を見せてくる。
「ちょっと綾小路、黙ってて。 あのさ福田く……!」
「ほら見てよー! これと水槽のライトが反射してて、西園寺が超美人に見える!!」
「ああああ、もう!! なんでこうなるのーーーー!!!!」
◆◇◆◇
まぁ多分こうなる……綾小路が自分にくっついてくるであろうことは大体予測していた。
でもまさかここまでとは。
「うわああああ!!! みてみて西園寺!!! 教科書と一緒だ……お寺全部が金ピカすっごおおおおお!!!」
綾小路が希と繋いでいる手をブンブン振り回しながら目の前のお寺……金閣寺を指差している。
「ほんとだね、それで写真は? 撮るの?」
「えー! いいの西園寺!」
「はぁ……どうせダメって言っても撮るんでしょー?」
「やったぁー!! じゃあ西園寺、そこ立ってから笑って! はい、ピースぅ!!」
希は綾小路……恵子に言われるがまま彼女のスマートフォンカメラに視線を向け小さくピース。
「わああ!! 西園寺ぎゃわい……好きーーーー!!!!」
「はいはい」
ーー……普通ならこんな面倒な要望なんてお断りなんだけど。
しかし希には、どうしても恵子の望みを叶えてあげたい理由があったのだ。
「あれだからね。 ほんとならこんなこと絶対にしてないからね」
「分かってるって!! あの日の恩返ししてくれてるんでしょ! 分かってるから大丈夫!」
あの日の恩返し……それは人知れず学校の中で起きた小さな事件。
6年生になって少し経った頃だろうか。 希はエマや美波たちとともに女子トイレでいじめられていた同級生を発見……結果、それを実行していた加害者生徒は自宅謹慎等の処分を受けていたのだが、その仲間たちが何故か希1人にターゲットを絞り、復讐を企てていたのだ。
「でもなんで私をターゲットに選んだんだろうね」
「そんなの決まってるし。 西園寺が女子の中では一番力持ってるからだし」
「けどさ、普通最初に力持ってる人を狙わなくない? まずはその下っ端からジリジリと攻めてくものだと思うけど」
「チッチッチ、隣町生徒ナメんなよー? どんなに実績がなくても力あるやつを倒したら、その日からそいつが力持つんだから」
「なるほど……ほんと単細胞ばっかなんだね」
「うむむ……それは否定できない。 でもよかったじゃん、呼び出されたところでアタシが通りがかって」
「確かにねー」
そう、希が無事でいられたのは恵子のおかげ。
近くの公園へと呼び出された希だったのだが、そこにいたのは数人の隣町出身女子。 皆木の棒やホウキを持って自分を倒すべく武装していたのだ。
『武器とか卑怯じゃないの?』
『うるせーな!! お前には痛いめにあってもらわないと気が済まないんだよ!』
『まぁ別にいいけどさ、キミらが武器使うのならこっちも手加減しないけどいいんだね?』
『あぁ!? 調子乗らないでもらえますー!?』
調子には乗ってない。 本当にそれくらいなら希にとって脅威ではないだけのこと。
叩かれる前に相手の懐に潜り込んで堕とせばいい……そう覚悟して戦闘の構えをとる希。 しかしそこでまさかの乱入……いや、これから起こるはずだった殺戮を止めるものが現れたのだ。
『ごーらあああああああ!!! 西園寺を痛めつけようとしてただろお前らあああああああああ!!!!!!」
恵子が猛犬のような唸り声をあげながらこちらへ全速力で駆けてくる。
そしてその手にはホウキや木の棒のような飾りの武器ではなくカッターナイフ。 飛び出た刃先が不気味に光っていた。
『うわっ……恵子じゃん!』
『やっば、あれ完全にキレてる……あいつ絶対ワタシらのこと刺すんじゃない!?』
『だよね!! 前に恵子ってそれで問題起こしてたもん!!』
『ーー……ってそんなこと言ってないで早く逃げるよ!!!』
隣町出身女子が恵子から逃げるように一目散に四方八方へと散っていく。
そんな彼女たちに恵子は『今度西園寺に危険なことしたら……覚えとけよおおおおお!!!!!』とカッターの刃先を向けながら警告。 それ以降彼女たちが希に喧嘩を売ることはなくなったのだった。
「多分あのままやりあってたら私、多分補導されて学校に連絡されてただろうね」
「そらそうよ。 西園寺強いもん」
「綾小路はあれから別に嫌がらせとか受けてないの?」
「当たり前じゃん。 多分あいつらも何かしたら絶対にアタシがやり返してくるって分かってると思うし。 それにアタシって結構粘着質なの有名だからね」
「そ、そうだね。 よく分かってるじゃん」
あの日の綾小路の登場がなかったら私はおそらく出席停止処分……もしくはもっと酷い罰を受けていたかもしれない。
もしそうなっていた場合、この修学旅行に私はいない。 皆と楽しい時間を過ごすことも出来なかっただろう。
だから、それだけの大きな感謝を綾小路に。
希は夏休み前にそれとなく恵子に望みがあるか聞いてみることに。
そして返ってきた答えが『別に他の人誘ってもいいけど、アタシ西園寺と一緒の班で修学旅行を回りたい! 大好きな西園寺の写真をいっぱい撮りたい!!』だったのだ。
「あーあ、でも幸せだなー!! 今日だけで超西園寺の写真増えたし!!」
恵子が目にハートマークを浮かばせながら自身が撮った写真を見つめる。
「ほんと綾小路って私のこと好きだよね」
「もちろん!! 福田になんか負けないんだから!!」
「は?」
「そりゃあアタシの方が女ってことで恋愛面では不利だけどさ! いつか絶対に西園寺を振り向かせてやるし!!」
「いや、それは流石に……」
「分からないよ!? だってこれはアタシが自慢の地獄耳で聞こえてきた話なんだけど、福田って今失恋して気持ち沈んでるんでしょ!? てことは西園寺に構ってる余裕なんかない……てことはアタシ今超有利じゃん!!」
「え」
お読みいただきましてありがとうございますー!!
感想や評価・レビュー・いいね等、お待ちしておりますー!!!
とうとう西園寺ちゃんの耳にも……!




