679 【真・結城編】天使の抱擁
六百七十九話 【真・結城編】天使の抱擁
三好発案&エマ主催のお泊まり会は見事大成功。
その日は結局夜遅くまでゲームしたり雑談したりと盛り上がったのだが、最後の方には結城も『あ、福田……くん、コップ空になってるよ。 ジュース入れよっか?』と自然に話しかけてくれるようになっていたのだ。
そんなこんなで週が明けて月曜日の朝。
久しぶりに学校へ行くのが楽しみになっていたオレはリズムに乗りながら朝食をパクパクと口に運んでいく。
「もー、ダイキ、昨日からずっとそんな感じだよね。 そんなに嬉しいことあったの?」
「うんっ! もうかなり!」
「そっか、ダイキが嬉しそうだとお姉ちゃんも嬉しいな。 おかわりいる?」
「あ、うんっ! ていうかお姉ちゃん、ちょっといいかな!」
「うんいいよー、なにー?」
「処女を卒業しに行ったという件に関して、詳しく教えていただいてもよろしいでしょうか」
「えっ……」
◆◇◆◇
あれから優香も観念して教えてくれたよ。
ゆくゆくは卒業したいから、そういう相手……将来の旦那さんとなる人と出会うために縁結びの神社に行っただけなんだと。 そんな心配しなくとも優香もギャルJK星も普通にモテてるはずなのに、気づいてないのか? どんだけ鈍感なんだよ。
出会い系サイトとかそういう危険系ではなかったことに安心したオレは更に晴れやかな気持ちでエマたちとともに学校へ。
「それでね、とうとうエルシィがエマに隠れてゲームするようになっちゃったのよ。 どうしたらいいと思う?」
「ええ!? エルシィちゃん、悪くなったねー!」
「んー? エッチー、わうく、ないのよー? エマおねーたんだって、かくれて、コショコショしてうこと、あうのよー?」
「そうなの?」
「ええ? エマ別にエルシィに隠れてしてることなんてないわよ?」
「んーん、エッチー、しってうのよー? エマおねーたん、エッチーがねんねしたら、おへやで『んっ、んっ』って、あしょんでうのよー?」
エルシィちゃんのこの発言を聞いたエマの顔が一気に赤く染まる。
「ちょまああああああ!!!! マジかエルシィちゃん!!!」
「そうなのよー? ベッドのうえで、がたごと、あしょんでうのよー?」
「うおおおおおおおお!!! もっと……もっと詳しくうううううう!!!!!!」
「こらダイキーーーー!!! 今のは忘れなさーーーーーい!!!!!」
◆◇◆◇
「ま、まったく! 変に勘違いしないでほしいわ! エマはその……そう、筋トレ! 筋トレしてただけなんだから!」
「えー? わざわざベッドの上でー?」
「なによ! ベッドの上でしちゃあダメなルールなんてどこにもないでしょ!! エマは柔らかいベッドの上が一番いいの!!!」
「わかったわかった本気になるなよ」
「ったくダイキはもう……」
「それで、昨日の夜はどうだったんだ? 筋トレ……満足いくまで出来たのか?」
「ダイキーーーー!!!!!」
「あっははははは!!!!!」
そんな他愛のない雑談をしながら歩いていると、突然エマが「ていうかダイキ、ちょっと話変わるんだけどさ」と小声でオレに話しかけてくる。
「ん、今度はTバッグの話か?」
「違うわよ」
「じゃあなんだよ?」
「その、桜子とは……今後どうするつもりなの?」
「え?」
いきなりの結城の話題に困惑するオレ。
しかしエマはそんなオレの様子など気にもとめずに話を続ける。
「なんというか……ほら、ダイキは桜子とはゴールできなかったけど、なんとか前みたいな関係には戻ることが出来たじゃない?」
「うん、おかげさまでな」
「それで……またどこかで告白、アタックするの?」
あー、そういうことか。
オレはエマの聞きたいことをようやく理解。
エマはオレがまた結城にアタックするのか、これまでと同じように友達の関係でいるのかを聞いてきてるんだな。
そんなのもう決まっている。
「告白……ねぇ」
「えぇ。 またするの? もちろんエマにはそれを止める権利はないんだけど、流石に次2人の中がこじれちゃったらもう……」
「やらねぇ。 すっぱり諦めたよ」
「え?」
エマは予想していた答えと違っていたのか目を大きく見開きながらオレを見つめてくる。
「ダイキ……そうなの? 告白しないの?」
「あぁ」
「なんか意外ね。 エマ、ダイキのことだからまた諦めずに行動するものとばかり思ってたわ」
「はは、流石にオレも空気読むさ。 そりゃあもう未練が全くないって言ったら嘘になるけどさ。 結城もお母さんのこととか色々抱えてるんだ。 もう余計な悩み事とか増やしたくねーよ」
「ダイキ……」
「今後は前みたいに友達として接していく。 そっちの方が結城も気が楽だろうしな」
そう。 あのお泊まり会の翌日、家に帰ってからそう決めたんだ。
オレは結城と付き合うことは叶わなかったけど、結城の笑顔を見ていると心が癒される……結城が笑顔でいてくれるならもうそれでいい。
オレは「だからもうエマたちに迷惑かけることもないから安心してくれ」と自虐を込めた笑みを向ける。
するとどうだろう……エマはじっとオレを見つめていたかと思うと、周りに登校中の生徒がいるにも関わらず、突然オレを強く抱きしめてきた。
「なっ!? どどど、どうしたエマ!」
「わーっ! エマおねーたん、どったあー!」
オレやエルシィちゃん……そしてこの光景を見た他生徒がどよめきだす。
しかしエマはオレに抱きついたまま……オレの胸に顔を埋めたまま、小さく囁いたのだった。
「失恋の辛さはエマも分かるわ。 苦しいし、今後その子の顔を見る度に見えないナイフが心を突き刺してくるの。 でも大丈夫……これも時間が立つとともに少しずつ痛くなくなってくるから。 だから、今後どうしようもなくなって胸が……心が苦しくなったらエマを頼りなさい。 その時は慰めたり……一緒に泣いてあげるから」
「ーー……!!」
そ、そうか。 そうだった。
エマも前世・小山楓の時に壮大な失恋を経験してたんだったな。
エマの場合はその好きだった男の子がどうしようもないクズだったってオチだったけど、それでも好きだったことには変わりはないんだ。
だからエマはこうしてオレのフラれた気持ちを理解して……近くで寄り添ってくれている。
同じ気持ちを経験した者の言葉だから、こんなに胸に響くのか。
「桜子のことを考えるのも大事だけど、ダイキも自分自身のこと……ちゃんと大事にしなさいよね」
「う、うん。 ありが……とう」
もうすぐ夏休みという初夏の朝。
気温では溶かすことのできなかったオレの凍てついた氷の塊はエマの温かさに触れ一気に解氷。 溶けたそれは涙となり、目からとめどなく溢れ出たのだった。
「なー、ダイキー? だーじょぶなぁー?」
「んっ……、ありがとうエルシィちゃん、大丈夫だよ」
「エッチーも、ダイキ、ぎゅーって、したえうのよー?」
ああああああん、もう!!!! この姉妹温かすぎ……天使すぎるだろおおおおおおおおおおお!!!!!
この天使姉妹の抱擁によりオレのメンタルは更に超回復。
心の中がスーパーホットな状態で学校へと向かったのだった。
「なぁエマ、心が辛い。 Tバッグ履いてたら見せて癒してくれ」
「もう調子に乗らないの。 それに……ふふ、残念ね。 今日は履いてないのよ」
「WAO」
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