669 【真・結城編】特別編・女同士の会話②
六百六十九話 【真・結城編】特別編・女同士の会話②
「じゃあ……話すね」
朝の静かな保健室。
隣に腰掛けた桜子がカーテンの隙間から差し込む太陽の光に照らされながら柔らかく佳奈に微笑んでくる。
「えっ……いいの?」
「うん。 別に絶対内緒にしよう……とかそういうつもりでもなかったし」
それから桜子はゆっくりと話し始める。
内容としては、やはりダイキの告白を断った大きな要因の1つが『今はそれどころじゃない』だった。
「それどころじゃない?」
佳奈が聞き返すと桜子はうんと頷く。
「今私のママ、入院してるの。 それでママ、私が近くにいたら嬉しそうに笑ってくれて……だから私、出来るだけママのところにいてあげたいんだ」
桜子はスマートフォンを取り出し電源をつける。
そこ映し出されていたのは桜子のその母親らしき2人のツーショット。 かなり弱った……しかし幸せいっぱいの笑みを桜子に向けている母親が印象的な壁紙となっていた。
「そこに写ってるのが桜子のママ?」
「うん」
「その……病気は大丈夫なの?」
「分かんない。 でも私はきっとママは病気に勝ってくれるって信じてるから……」
桜子がスマートフォンをぎゅっと胸で抱きしめる。
確かに桜子の言い分……母親のことで恋愛してる暇がないということは理解した。 しかしそれと同時に佳奈はもしこの桜子の母親が最悪の結果を迎えてしまった場合に桜子が壊れてしまうのではないか……そうなってしまった時のためにも、他に心の拠り所を用意しておいた方がいいのではないかと小学生ながらに感じた。
「だ、だったらさ、付き合うだけならいいんじゃないの? 別にデートとかはしなくてもさ。 福田ならそこらへん理解してくれると思うけど」
「そうだね。 でもさ、デスティニーランドでも言ったけど私、福田くんのことは好きだけど恋愛として……なのかは分からないんだ。 一緒にいるともちろん楽しいけど……将来結婚とか考えたらそこまで想像できないっていうか」
「えええ、そこまで気にしなくてもいいんじゃないの? まだ私ら小学生だし……とりあえずちょっとでも好きなら付き合ってみても」
「ううん。 それは福田くんに悪いよ。 本当に好きでもないのに付き合ってもろくなことにならない……それは前のママの彼氏を近くで見てた私がよく知ってるもん」
「ま、前の彼氏?」
「うん。 色々とあったんだ」
なんだろう。 桜子の言葉1つ1つがかなり重たい。
まるで桜子が自分では想像もつかないような苦難や困難を経験してきたような……
小学生らしからぬあまりにもしっかりとした理由に佳奈はこれ以上桜子に何も言えず。
しかし最後に……これだけは聞いておきたい。 佳奈は桜子を見つめたまま小さく深呼吸。 「あと1つ聞きたいことあったんだけど……」と桜子の前で人差し指を立てた。
「なに?」
「桜子が福田を振った理由の1つに、私のことを思って……ってことはないよね」
「佳奈のことを?」
「うん。 私が福田のことを好きって聞いてたから……もし仮に福田と付き合ったら私に悪いと思ったから……とかではないよね?」
この佳奈の問いかけに対し桜子はすぐに否定。 「う、うん。 違うよ。 ただ私にとってママが大事だっただけで、決して佳奈に悪いって思ったからじゃ……」と必死に首を左右に振る。
「じゃあなんでさっきトイレで『ごめんなさい』って謝ってきたの?」
「え」
「私が福田のことを桜子に話した時、桜子はずっと私に『ごめんなさい』って謝ってきたよね……あれはなんで? 別に私に酷いことしたわけでもないのに」
そう伝えてみるとどうだろう。
桜子は一瞬佳奈から視線を外すも再び見上げ、ゆっくりと口を開く。 そして発せられた内容は意外なものだった。
「だって佳奈は福田くんのこと……付き合う気はないけど好きって言ってたでしょ?」
「う、うん。 言ったけど……」
「好きな人が近くで悲しんでたら辛いって私が一番知ってるのに、私はそんな佳奈の好きな福田くんに酷いことしちゃったから。 だけど私にはもうどうすることも出来なくて……また前みたいに一緒に笑ってお話とかしたいけど、そんな資格私にはないし……」
桜子が再び涙を浮かべながら「ほんと私って最低だよね」と自虐気味に笑う。
あぁ、なんて綺麗な心の持ち主なのだろう。
別に桜子はなに1つ悪くない。 ただあいつの気持ちに応えてあげられなかっただけなのに、全部自分のせいにしようとして……
温かい。
私が表面的に明るくさせるのが得意だとするのなら、桜子はその逆で内側から優しくじっくりと温めてくれるようなタイプ。
懐の大きさがまるで違う。
この子には敵わない。 お兄が色々と気遣いの出来て優しい優香さんを好きになるように、福田が桜子を好きになるのも納得がいったよ。
「こんな優しい子そんないない……そりゃあ惹かれるよね」
「か、佳奈? どうしたの?」
「ううん、なんでもない。 ありがと、教えてくれて!」
「え、うん」
佳奈は桜子の手を取り固い握手を交わすと、壁にかけられた時計の時間を確認して「あーまだ時間あるねー」とベッドの上に倒れこむ。
「んじゃー、どーしよっか。 ちょっくら作戦会議でもするー?」
「作戦会議? な、なんの?」
「えー、そりゃー決まってんじゃん。 桜子と福田がまた前みたいに仲良しになるためのだよー。 前みたいに話したいんしょ?」
「そ、それは……う、うん」
「じゃー決まり! 私もずっと桜子と福田がギスギスしてるの見てるのも辛いしさ。 チャチャっと動いてパパッと解決しちゃおーよ」
佳奈の言葉を聞いた桜子が目を大きく見開く。
「で、できる……かな」
「当たり前っしょー? 私を誰だと思ってんの? 佳奈ちゃんだよー? 頭はそこまで良くないけど、行動力には自信あんだからねー」
「う、うん。 じゃあその……お願い。 佳奈」
「うん任された! じゃあ早速だけど……」
こうして佳奈と桜子の話し合いが開始。 チャイムが鳴った頃には2人とも満面の笑み……仲良く雑談を交わしながら保健室を後にしたのだった。
「てかあれだね。 桜子が福田をフったってのは聞いたけど、まさか桜子が返事もせずに泣いて走り去っちゃったなんて……案外桜子もエグいことするんだねー」
「あ、あの時は気持ちに応えられなくて……今まで福田くんにしてもらった恩を仇で返すような感じがして申し訳なかったんだもん」
「それにしても普通は後でメールとか送るっしょー?」
「お、送るの?」
「いや送るよね? 『さっきはごめんなさい。 でもやっぱりお母さんのことが一番なので今は付き合えません』って」
佳奈がそう言いながら桜子の顔に視線を向けると目が合うなり桜子がクスッと笑う。
「な、なにさ」
「ううん、佳奈……見た目によらずマメなんだなーって思って」
「は、はああああああ!?!? 今のどういう意味……桜子まで私をいじるわけーー!?!?」
「あはははは」
そう、私は福田と付き合うつもりはない。
だっていつ以前の福田に戻ってしまうかも分からないから。
でも今いるのは私の大好きな福田。 そんな福田には笑っていてほしい。
そのためには……
佳奈は桜子と話しながら改めて自分の気持ちを確認。
絶対に2人を仲直り……とまでは言わなくても少しでも前の状態に戻してみせる。 そう心に決めながら教室へと戻ったのであった。
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ダイキは幸せ者だ。。




