664 【真・結城編】はじめての感情
六百六十四話 【真・結城編】はじめての感情
くそ、この身体……ダイキの身体に転生してから初めて学校に行きたくないぜ。
あの日から土日を挟んだわけだがオレの失恋……心の傷はまったく癒えず。 優香に甘えようとも考えたのだが、土日は優香とギャルJK星は受験勉強に本気……心配させないよう無理に平静を装っていたのだ。
「学校行ったら目の前の席が結城……これってかなり気まずいやつだよな」
朝食を食べ終えたオレは大きくため息を吐きながら洗面所へ。 重たい体で歯を磨いていると、優香が心配そうな顔でこちらを覗き込んでいるのを鏡越しに見つけた。
「ん?」
「あっ」
目が合った優香は焦った様子でその身体を引っ込める。
オレが「ど、どうしたのお姉ちゃん」と尋ねると観念したのか姿を現し、「ダイキ、大丈夫?」と声をかけてきた。
「なにが?」
「うーん、やっぱり金曜からダイキの様子がおかしいから、もしかして何かあったのかなーって。 行きたくない理由があるんだったら別に学校休んでもいいんだよ?」
「え」
学校を休んでもいい……あぁ、なんて心に響く言葉なんだ。
一瞬オレはその言葉に甘えようとするも必死に抵抗。
もしその言葉を受け入れてしまえばオレはおそらく今後更に学校に行きづらくなるに違いない……そうすれば前のダイキみたいになり、優香をもっと心配させてしまうからな。
「う、ううん。 大丈夫。 なんか眠いだけだから」
「そうなの? じゃあお姉ちゃん今日は日直で先に行くけど……途中で辛くなったら早退させてもらうんだよ?」
「うん。 ありがとうお姉ちゃん」
その後優香は「行ってくるね」と先に登校。
オレも遅刻はしないよう適度に動きながらギリギリの時間まで家で待機……設定していたタイマーが鳴り、諦めて玄関へと向かい扉を開けた。
「おはよ、ダイキ」
「え」
扉を開けてすぐオレの目に飛び込んできたのは言うまでもなくエマ。
腰に手を当てオレの顔をじーっと見つめてくる。
「ど、どうしたんだよエマ。 ていうか昨日メールでしばらく1人で学校行くって送っといただろ。 なんでいるんだよ」
「優香さんに頼まれたのよ」
「お姉ちゃんに? なにを……あ、あとエルシィちゃんはどうした?」
エマの周囲を見渡してみるもいつも一緒にいるエルシィちゃんの姿が見当たらない。
どこかに隠れてオレを驚かそうとしているのだろうか……エルシィちゃんが隠れてそうな箇所に視線を向けながら玄関を出ると、エマが「そんなことより遅刻する……早く行くわよ」とオレの手を引っ張りスタスタと歩き出す。
「ちょ、ちょっと待てってエマ。 だからエルシィちゃんは?」
「エルシィなら優香さんに途中まで一緒に連れてってもらってるわよ。 まったく……誰のせいでこうなってると思ってるわけ?」
「へ? へ?」
「だーもう、鈍いわね。 昨日の夜、優香さんから『ダイキの様子が変だから悩みがあったら聞いてあげてくれない?』って頼まれたのよ。 エルシィがいたらダイキも話しづらいかと思って優香さんに頼んだわけ。 だから優香さん、今日いつもより早く家出て行かなかった?」
「あ」
日直って言ってたの……オレとエマを2人にさせるための口実だったのか。
それからオレはエマに手を引っ張られたままマンションを出る。
その際、エマに「一体なにがあったのよ」と優しい口調で尋ねられたのだが……
「あぁ……その話か」
「なによ。 何か理由があるんでしょ? ほら、誰にも言わないから話してみなさい?」
このエマの問いかけによりオレの脳内では結城が目に涙を溜めて走り去る姿が思い起こされる。
せっかく不幸の呪縛から解放された結城を……オレは泣かせてしまったのか。
「オレはその……最低なんだよ」
オレはそう溜息混じりに答える。
するとなぜかそれに対しエマが「知ってるわよ」と返してきた。
「え?」
「ノゾミやミナミから海行った帰りに色々と聞いたわよ? ダイキあんた、ノゾミのその……湿ったパンツを直に手で触ってパンパンしたり、ミナミをおっきくしたそれの上に乗せたりしてたらしいじゃない」
ーー……。
え、なんでエマがそのこと知って……あいつら喋ったのか。
小畑は別として、そういえば西園寺にもそのことに関しては口止めしてなかったような気が。
本来ならば必死に言い訳をするところなのだがオレの脳は絶賛エラー中。 オレは素直に「あぁ、そんなこともあった。 それもオレは最低だ」と認めることに。
するとどうだろう……エマは途中で足を止めるとオレの方へ振り返り、繋いでいた手を少し強めに握りしめながらオレを見つめてきた。
「エ、エマ?」
一体何事かとオレが考えるよりも早くエマが先に口を開く。
「確かに優香さんの言ってた通り、おかしいわね」
「え」
「いつものダイキならさっきの話聞いたらすぐに言い訳をする場面……なのに素直に認めるなんて絶対にどこかおかしいわ」
エマは顔を少し近づけながら「で、なにがあったの?」と再度優しく尋ねてくる。
これは……エマを頼ってもいいものだろうか。
オレがエマに「絶対に言わない?」と確認すると、エマはすぐに「当たり前よ」と即答。 「追加すると、そこまで悩んでることなんだったらなにを聞いても笑わないわ」と続ける。
「ほんとにほんとか?」
「えぇ。 ほんとにほんとよ。 エマとダイキの仲じゃない」
「エ……エマああああああああああ!!!!!」
「ちょ、ちょっと抱きついて来ないでよ暑苦しい! てかただでさえ暑いんだから朝から勘弁してよ!」
なんて頼もしいんだ。
オレは意を決してエマに先日あった出来事……オレが結城に告白し無様にも玉砕してしまったことを話すことに。
エマは最初こそ「えっ?」と目を丸くして聞いていたのだが、最後には「なるほど、そういうことね」と終始笑わずに理解してくれたのだった。
「ほ、ほんとに笑わないんだな」
「当たり前よ。 なんで人が頑張って想いを伝えた結果で笑わないといけないのよ。 ダイキはよくやったわ。 結果はどうあれ、何も言わないよりもかっこいいわよ」
「エマ……」
「わかった。 そういうことならエマに任せなさい。 桜子とダイキ、お互いにまた慣れるまではエマが間に入ってあげるから」
「ありがとう……、なんとお礼を言ったらいいものか」
「いいわ。 エマだってダイキにはかけがえのないもの、たくさん貰ってるんだから」
「ん、なんか言ったか? すまん感動してて聞いてなかった」
「ううん、なにも! ほーら、エマに話して少しはスッキリしたでしょ? じゃあ行くわよ!」
持つべきものは信頼できる仲間だな。 確かにエマの言った通り口に出したら少し軽くなった気がするぜ。
オレは再び頼れるエマに手を引っ張られながら学校へと向かった。
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