663 【真・結城編】特別編・麻由香と美波は見た
六百六十三話 【真・結城編】特別編・麻由香と美波は見た
懇親イベント【海】グループが乗った帰りのバス車内。
【海】はダイキたちの選んだ【デスティニーランド】の日帰りコースとは違い一泊二日コースだったため、存分に海を楽しんだ生徒たちが一部ではワイワイ……また一部では疲れ果てて眠りについているという両極端に分かれていた。
そして昨夜温泉で大人の階段を上ったエマや希、花江、麻由香、美波たちはというと……
◆◇◆◇
【車内前方・エマ&希の場合】
エマたちの周りでは眠りに落ちているか、トランプやしりとりで小さく盛り上がっているグループばかり。
そんな中エマと希は互いに海で撮影した写真を見せ合い、スマートフォンで画像を送りあっていた。
「あ、これ見てよノゾミ。 この写真に映ってるエマたち結構よくない?」
エマがスマートフォンの画面を「ほら」と隣の席の希に見せる。
「ほんとだ。 エマの髪、いい感じに逆光になっててモデルみたいだね。 ーー……ていうかエマはモデルやってるからそのまんまか」
「ふふ、そうね。 もしかしてノゾミ、モデルに興味あるの? だったら鬼マネ……こほん、会社の人に聞いてみるわよ?」
「ううんいいよ、私は。 いざ写真撮りますってなったら緊張と恥ずかしさで汗かきそうだもん」
「汗だったら普通に撮影の合間で拭けるけど」
「ううん、流石に合間合間でパンツの中拭いてたら変な子に見られるでしょ?」
「ぱ、パンツの中……?」
「うん。 パンツの中」
幸いなことに周囲はそれぞれの遊びに集中していたため希の意味深な発言には気付かず。
それからも希はエマに自身が緊張や興奮した際、某所から溢れ出る『汗』のことを必死に説明し、エマは希から詳細を聞いているうちに思い当たるものがあったのだろう。 顔を真っ赤に染め上げながら希の口を覆い、「いい!? このことは誰にも相談しちゃダメだからね!」と小声で念を押していたのだった。
「え、もしかして恥ずかしいこと……だったりするの?」
「そうよ! だから本当に誰彼かまわず言っちゃダメ……特にダイキとかね」
「福田くん? 福田くんならもう知ってるけど」
「ええ!? そうなの!?」
「うん。 去年の夏頃だったかな、相談したら私の汗で濡れたパンツを直接手でパンパンして乾かしてくれたんだ」
「そうなのね。 ダイキ……今度シメとくわ」
◆◇◆◇
【車内中間・花江の場合】
ここでは流石、現・学年のマドンナといったところだろうか。
車内中間位置では花江を中心に大盛り上がり。 そんな花江の手には水着が握られていた。
「ほ、ほほほ本当ですか水島さんーーーー!!!!」
水島花江ファンクラブ【花江ちゃん大好き委員会】に所属している男子が鼻血を垂らしながら皆を代表して花江に問いかける。 それに対し、花江はやわらかスマイルで「そだよー」と頷いた。
「「「おおおおおおお!!!!」」」
その内容とは花江が今回着た水着をもう着る予定がないため、誰か欲しい人いない?……といったもの。
これには男子たちも大興奮。 同年代の女の子が着た水着を合法的に手に入れられる機会なんてそうそう無い……それも学園のマドンナ・水島花江の着用済みなのだから価値は尚更だ。
男子たちの熱い視線が花江と花江の手に持つ上下で分かれた水着……ビキニへと向けられる。
「ちなみに水島さん、それ……今日も海で遊んでた時着てたよね?」
「もちろんだよー。 だからほら、握ったらまだ普通に湿ってるし、海の香りするでしょー?」
花江はそれを触っていた手を問いかけてきた男子の鼻に。 「ほらー」と近づけ、花江の指先が男子の鼻先に微かに触れる。
「!!!!!」
先ほどまで花江がその手で握っていた箇所はビキニのトップの内側部分……
「ふ、フフフ、フンガーーーーーーーー!!!!」
気づいた男子は臭いを嗅ぐやいなや幸せの絶頂を経験。 体の一部分を覚醒させながら突然の眠りについてしまう。
「あららー、大丈夫ー?」
「ーー……ふへへ」
「眠っちゃったねー。 んじゃあただいまより、花ちゃんの水着ゲットゲームを始めまーす!! 試合内容はしりとりで5文字以上! よーいスタート……の『ト』からー!」
花江が即興で決めたゲームスタートを皮切りに男子たちは一斉参加。
ちょうど花江の近くに立っていた男子から始めることとなった。
「と、とととトルネードアタック!!!!」
「ばかお前それは反則だろ!!」
「はい水島さん、こいつ負けたんで俺から言います!! トウキョウタワー!! はい、次お前な」
「ワ!? わわわ、ワイルドアタック!!!!」
「だからそれダメっつってんだろ!!!」
本来であればすぐに決着が着くであろう5文字以上縛りのしりとりゲーム。 しかし優勝商品が着用済の水着なだけに参加していた男子たちのI.Qは飛躍的に上昇……参加者全てが次回のテストから覚醒することはまだ誰も知らない。
◆◇◆◇
【バス後方・美波&麻由香の場合】
「ええええー!! 麻由香、去年の宿泊学習で福田に抱きしめられたのーー!?!?」
前方で花江たちが盛り上がっている中、麻由香が「そういえば……」と話題に出した内容に美波が目を大きく開かせながら麻由香に顔を近づける。
「うん。 これ美波や佳奈にその日の朝言わなかったっけ」
麻由香の問いかけに美波は全力で首を左右に振った。
「言ってない言ってない!! てかそれ言ってたら佳奈めっちゃ嫉妬してたんじゃない!?」
「あれ、でも確かまだその時は佳奈、福田のこと好きじゃなかったよね」
「ん、そーだっけ覚えてない……。 じゃなくて、そこは置いといてなんで抱きしめられたのさ!」
「うーーん、なんでだろ。 ウチもよく分かんないんだよねー。 普通に翌日の朝にトイレ前でばったり会って、いきなり抱きしめてきたから。 でもその時だけだよ? その後なーんにもしてこなかったし」
あの朝ダイキから何か言われたような気もするも、あまり思い出せなかった麻由香はそこをスルー。 「逆にどうして抱きついてきたと思う?」と美波に問いかけた。
「えええ、なんだろ。 初めての泊まりの行事だったから家族が恋しくなって……寂しかったからとか?」
「でもなんでウチ?」
「だよね。 もし抱きつくんだったら怒らなさそうな桜子とか……それこそ佳奈とか良さそうだけどね」
「でしょー。 それがウチの中で謎だったんだー。 あー、ずっと忘れてたけどまた気になりだしたわー」
麻由香は手を口に当てながら「んーー」と考え出す。
しかしそんな面白そうな話を美波が黙っているわけではない。 美波はトントンと麻由香の肩を叩くと、「麻由香的には福田どーなん? ありなし?」と目を輝かせながら麻由香の腕を引っ張った。
「うーん、別にどっちでもかなー。 昔の福田だったら絶対拒否だったけど、5年の最初に飛び降りて……退院してからあいつ何か変わったじゃん? 今の福田のままだったら別にアリじゃない? まぁもしそうなったら佳奈には悪いけど」
「あははは! おもろー! 今度その話、佳奈にもしてみよーよ!」
「ちょ、やめてよ? 喧嘩だけはイヤだからねウチはー」
その後も2人の雑談は続いていたのだがそれもすぐに中断。
バス後方ということで早速酔ってしまった2人は顔を真っ青にしながら前方の席へ。 エマと希に頼み込み、最強の車酔い対策……足の上に乗せてもらうことにしたのだった。
「うはーーっ! エマの太ももスベスベで柔らかー!! 福田のとは比べものになんないし!」
「そうなのミナミ」
「そーだよー! まぁ確かに福田の上に乗ってると固くなったのが股に当たって重心を取りやすいってのはあったけど、エマの太ももの方が乗ってて気持ちいいわー」
美波はそんなエマの高級感溢れる太ももの上を思う存分堪能。 そして美波の下でエマは「ダイキ……本当に一度シメないといけないようね」と、こっそり呟いていた。
◆◇◆◇
そんなこんなで気づけば学校へ到着。
そこで皆は解散し、美波と麻由香は2人仲良く家へと帰っていたわけだが……
「あ、ごめん麻由香、忘れもんしたわ。 バスまだあるかな」
美波が若干焦った様子で来た道を振り返る。
「え、なに忘れたの?」
「お土産ー」
「うわー、それヤバいじゃん。 でも最悪バスなくても職員室に届けられてるかもしんないし、行ってみる?」
「うん、ごめんね麻由香」
「いーよー」
幸いなことに気づいたのはまだ学校を出てから数分の場所。
2人は呑気に「ほんと美波っておっちょこちょいだよねー」やら「これでもマドンナ四天王だかんねー?」などと笑いながら話して学校へと戻っていると、麻由香が突然「あっ」と声を出しながら前方を指差した。
「ん、どした麻由香」
「ほらあそこ……校門のとこ。 福田と桜子だ」
私服姿のダイキと桜子が仲良く並んで校門へと向かっている。
「あー、ほんとだ。 そういや福田たちってデスティニーランドだったよね。 てことは今日は休み……デート?」
「佳奈じゃなくて!?」
「シーーっ! あっちに聞こえんよ麻由香。 もうちょいボリューム下げて」
「え、あ、ごめん。 でも何してんだろ」
麻由香と美波の視界には手を振りながら校舎へ向かう桜子を見送っているダイキ。
学校に一体何の用だったのだろう……そんなことを考えながらも少しずつダイキたちのいる校門へ距離を縮めていっていた……その時だった。
「ゆ、結城さん!」
突然顔を真っ赤にしたダイキが校門奥にいる桜子の名を大声で叫ぶ。
「ん、なんで福田、桜子の名前呼んでんの?」
「分かんない。 あれじゃない? 桜子が校門の向こうで転んだ……とか」
「あはは、ありえるかもー」
とはいえ校門奥の桜子が少し気になる。
ダイキの顔が赤いってことは転んでパンツでも丸見えになっているのだろうか……2人は互いに顔を見合わせながらクスッと微笑むと、桜子のドジっ子な姿を見るべく歩く速度を速めることに。
しかし次にダイキの口から発せられた台詞に2人は我が耳を疑った。
「オレ、結城さんのことが好き……大好き……です! だからその、付き合ってくれると嬉しい……です!!!」
「「ーー……え」」
えええええええええええええええ、告白したああああああああああ!?!?!?
2人は咄嗟に目の前にあった電柱に姿を隠す。
その後若干顔を覗かせてダイキの様子を伺っていたのだが、これは……フラれたのだろうか。
ダイキは青ざめた顔で、背中を丸めながら1人トボトボと帰っていったのだった。
「ね、ねぇ美波。 ウチら……」
「うん。 とんでもないとこ見ちゃったかも」
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