662 【真・結城編】まさに危険!
六百六十二話 【真・結城編】まさに危険!
あぁ、世界が……視界が、真っ白だ。
結城に告白は出来たものの、『YES』とも『NO』とも言われず逃げるように拒否られたオレは背中を丸めながらトボトボと家路に着いた。
◆◇◆◇
玄関の扉を開けるとちょうど優香が帰ってきていたようで、リビングの入り口から顔を出し「おかえりダイキ、どこ行ってたのー?」と制服姿で声をかけてくる。
「お姉ちゃん……」
「どうしたの元気なさそうだけど。 あ、そうだ。 今日の夜はダイキの大好きなハンバーグだよ。 その上に目玉焼きも乗せちゃおうね」
優香のその慈愛に満ちた笑顔、心に染みるぜ。
オレは優香を心配させないよう込み上げてくる涙を必死に我慢。
ただし今のオレには心のエネルギーが必要だ。 オレはおぼつかない足取りで優香のもとへ近づくとその胸に顔を埋め、しばらくのあいだ優香の体をギュッと抱きしめた。
「ど、どうしたのダイキ。 なにかあったの?」
「ーー……なんでもない」
「そう? ならいいんだけど……甘えてくるの久しぶりだね」
優香の香り、感触、温もり……それら全てがオレを包み込み癒していく。
オレはそんな優香の全てに包まれ安心したのかいつの間にか寝落ち。 ハンバーグ独特の甘辛ソースの香りで目を覚ました。
「あれ、オレ寝てて……」
体を起こすとオレはソファーの上。
それに気づいた優香が「あ、ダイキ起きた? もう出来るからねー」とキッチンから声をかけてくる。
「あ、うん。 ありがとう」
まだ心が痛い。 これが失恋の恐ろしさか……初体験だぜ。
オレはゆっくりと立ち上がると優香のもとへ向かい晩御飯の配膳をお手伝い。
その後優香と向かい合いながら優しさ満載の料理を食べ始めた。
「どうダイキ、美味しい?」
あれかな。 オレの元気がなさそうだったから優香、ハンバーグにしてくれたのだろうか。
それにしても失恋したばっかりだというのになんと美味。 これが愛の力か……一口食べるたびに乾ききった心に潤いが与えられていくぜ。
「うん、美味しい。 というよりお姉ちゃんの料理で美味しくないものなんてないよ」
「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいなー。 ハンバーグ、もうちょっと小さいのだったらおかわりあるからね」
「ありがとうお姉ちゃん」
オレはまるで心の傷をそれで癒そうとするかの如く優香の料理を次々と胃袋の中へ。
その甲斐あってか少しずつ元気を取り戻し始めていたのだが……
「そういやダイキ、あれから桜子と連絡とかした?」
グサァ!!!!
唐突に優香から発せられた結城の話題。
その言葉が巨大な槍となりオレの心に深く突き刺さる。
「ぐ、ぐふぅ!!」
オレはあまりの動揺で食べ物を喉に詰まらせる。
そしてそれを見た優香が慌てて「え、ちょ、ど、どうしたのダイキ!! 大丈夫!?」とオレの背中を擦りにきた。
もしかして優香にもオレがフラれたって情報が届いてるんじゃないか? オレは軽く咳き込みながらもそのことを危惧して「な、なんで?」と尋ねる。
「それはだって心配だったんだもん。 ほら、今朝お姉ちゃん、桜子のお母さんと軽くお話ししたじゃない? あれから桜子、夕方に高槻先生とお見舞いに行くって行ってたけど実際に行けたのかなって思って」
よかった……バレてないっぽい。
「な、なるほど。 でもごめん、そこは分からないや」
「そっか。 ごめんね食べてる途中で話しかけちゃって」
「ううん、大丈夫。 美味しすぎて口に入れすぎたオレの自業自得だから」
そう答えて再び優香の料理の味を楽しみだすとどうだろう。 優香が目をキラキラさせながらこちらを見ていることに気づく。
「ど、どうしたのお姉ちゃん」
「んもーう! 今日どうしたのダイキ! 帰ってくるなりお姉ちゃんに甘えてきたり料理もいっぱい褒めてくれたり……なに、今日はお姉ちゃん褒められる日なの!?」
「え」
「お姉ちゃん久しぶりにこんなにダイキとスキンシップとれて幸せ……今日はお姉ちゃんとっても嬉しいからお皿洗いもお姉ちゃんがやるね。 それでお風呂掃除もお姉ちゃんがやるから、今日は一緒にお風呂入っちゃおっか」
「え」
えええええええええええええええ!?!??!?
こうして優香とお風呂に入ることになったオレ。
もちろん見るところはちゃんと目に焼き付けて優香とのお風呂タイムを楽しんだぞ?
しかしお風呂から上がって約30分後、優香の部屋の前を通った時のこと……
ん、なんだ。 優香の部屋から話し声が聞こえてくる。
これは……誰かと電話でもしてるのか。
優香も女子高生……JKゆえに夜に友達と電話をすることは珍しくない。
しかし最近の優香はこの時間勉強に集中してたのに何を話してるんだ?
少しだけ気になったオレは扉に近づき会話を盗み聞きしてみることに。
そしてそこで耳にした優香の言葉にオレは改めて自分がいかに心に傷を負っているのかを理解したのだった。
「ーー……うん、うん。 そうなの。 なんか今日ダイキ元気なくて。 そう、さっき久しぶりにダイキと一緒にお風呂入ったんだけどね、全然おっきくしなかったの。 うん、……え、いや、違うよ! ちゃんと今まではダイキおっきくしてたもん! 美咲ほどじゃないけど私も普通にある方なんだからね! ……だーめ! それで美咲でおっきくしちゃったら私の立場がないじゃない!」
Oh。
確かに今思えば楽しめはしていたがそこまで興奮はしてなかったような気がする。
まさかオレの誇るべき最強のエロ心を上回るとは……どれだけ今オレのメンタルは危険状態なんだ。
それからオレは少しでも早くメンタルを元に戻すべく早く寝ることに。
就寝前にスマートフォンを見るも結城からのメールは無し。 オレは小さくため息をついて部屋の明かりを消した。
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