656 【真・結城編】あの一族
六百五十六話 【真・結城編】あの一族
前語りを終えたロリ天使の隣で美香の姿をした神様がワナワナと震えながら拳を握りしめる。
『な、ななななんじゃとおおお!?!? あの一族……滅びてはおらなんだのか!!!』
おいおい凄い怒りようだな。
オレは「とりあえず落ち着いてくださいよ」と言いながら横にスタンバイさせておいた麦茶を渡す。
『う、うむ……すまないなダイキ』
「いえいえ。 もうその美香の姿でその喋り方……とかはもう突っ込まないんですけど、神様が呪いをかけた一族がこっそり生きてたってこと気づいてなかったんですね」
『そりゃあ仕方ないじゃろう。 ワシからしたら愚かな一族が滅んでいく様を眺めるよりも、イチコの霊体とともに神主一家の復興・繁栄を見守ることが重要だったのじゃから』
そこまで壮絶な過去があったなんて驚きだぜ。
前に茜とともに神社を訪ねた際に簡単には教えてくれていたけど、あの時の神様の言葉……
『イチコにちょっと不幸があってな』
まさか病気とかではなく理不尽に命を奪われていたなんて。
これは確かにイチコを殺めた一族は滅んでも仕方ない……オレはそう納得しながら『んなや、続きいくのや?』と再び語り始めようとしていたロリ天使の声に耳を傾け、周囲の映像に意識を集中させた。
〜特別編・私たちは何もしていないのに〜
未曾有の大地震が発生してから約一年。
地震の影響で地下水脈が一気に地上へ溢れ出た影響でその年は類稀に見る大豊作。 皆が笑顔で農作業やら各々の仕事に精を出している中、山麓にある小さな小屋……ここではボロボロの衣服を身にまとった女性陣がひっそりと話し合いをしていた。
「昨日唯一の男手だったハナさんの息子さんも原因不明の病で亡くなってしもうた。 これでワシら一族は女のみとなったわけだが……」
小屋の中にいるのはボサボサな白髪の老婆と一族に嫁いできた女性たち3名。 皆時をほぼ同じくして伴侶を……さらには愛すべき宝とも言える息子や娘をも失ってしまい、不幸のどん底へと突き落とされていた。
「女手しかいない私らでは力を必要とする農作業にも限りがあります。 ここはおとなしく一族を解散するしか……」
唯一その腹に子を身ごもっていた妊婦……ハルがお腹をさすりながら提案すると、先日旦那を失った女性……フキが半ば狂乱しながら妊婦・ハルへと飛びかかり胸ぐらを掴みあげる。
「それは駄目だ!! そげなことをすれば私らの旦那たちが浮かばれぬではないか!」
「ではどうするんですか!? 周りからは呪われた一族と言われ、男がいないということで田畑も好き勝手に荒らされているんですよ!? これを女しかいない私たちだけで何ができるというのですか!」
「それをどうするべきかの話し合いではないのですか? 私も先日、もうすぐ10になる最愛の息子を亡くしましたが解散には反対です。 解散するということは息子たちとも縁を切るようなものだと思いますから」
嫁いできた女性3人のうち2人が解散に反対しているという状況。
しかしハルは断固として解散を支持し、反対の2人も本気でハルを説得しようと言い争っていたのだが……
「私は早くここから出たいんです!! 本当にこの家系は呪われてしまっている……このままではお腹の子も旦那や他の皆さんと同様不幸な未来が待っているかもしれないんですよ!? それだけは避けたいんです!!!」
「何を恩知らずなことを!!! そのハルさんの腹の子だってこの一族の血が流れているんだぞ!? だったら同じこの一族で精一杯育てて行こうとは思わないのか!!」
「その通りです。 ハルさんのお腹の子は私たちの最後の希望。 どうか私たちから離れていかないで」
「ーー……黙れ」
「「「!!」」」
突然の老婆の言葉に3人が反応。
部屋の中が一気に静まり返ると、ようやく老婆が口を開いた。
「落ち着くのじゃハル、フキ、ハナ。 ワシは言い争いをするためにここへ皆を集めた訳ではない。 無論解散の話し合いをするための集まりでもない」
「「「?」」」
「この負の連鎖……どうにかなるやもしれぬのじゃ」
老婆がそう口にすると、ほぼ同じタイミングで扉が開かれる。
入ってきたのは高級そうな羽織ものを身につけた男。 男は老婆を目が合うなり小さくお辞儀。 ここへ来た理由を説明し出した。
「私は宮廷に仕える陰陽師。 此度はそこのトメさんにお願いされてここへ参りました」
◆◇◆◇
男の正体は宮廷に仕える陰陽師。
昔若かりし頃に山で獣に襲われそうになっていたところを老婆によって助けられ一命をとりとめたという。
そして今回のこれはその時の恩返し。 特別に悩みを解決しにきた……とのことだった。
「私らの悩みを解決……ですか」
「はい。 大体のことはトメさんから聞きました。 おそらくは……いや、十中八九それは人ならざる者から受けた強力な呪い。 あなた方の一族の誰かが神の怒りを買ってしまったが為に起こっていることなのです」
男は女性陣を見渡すと「なるほど」と呟く。
「ど、どげんしたかですか! 私ら何か憑いとるとでも!?」
先日旦那を失ったフキが男の言葉を信じられないような表情で睨みつける。
「そうですね、憑いてるといえば憑いてます」
「何が憑いとるというんですか!! そうやって私らを騙そうと……旦那が憑いとるとか言ったらいくら宮廷お墨付きの陰陽師とて許さんからね!!」
旦那を亡くしたショックがまだ残っているのだろう。
フキは先ほどハルにしたように男に突っかかろうと立ち上がる。 しかし男は微塵も怯えた様子はなくフキを無視……ハルとハナに視線を移して静かに口を開いた。
「私にはあなた方の中の誰がどんな過ちを犯したのかは分かりません。 ただあなた方全員の背後に漆黒の渦……負の力が働いています。 しかしこの渦は非常に強大。 これを消し去ることは私ども国中の陰陽師の力を合わせても到底不可能でしょう」
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