655 【真・結城編】始まり
六百五十五話 【真・結城編】始まり
ロリ天使が言うには、結城母や結城が不幸に苛まれている理由は約千年前にまで及ぶとのこと。
なんだかあまりにも過去過ぎて実感がないのだが……とりあえずオレは美香とともに話を聞くことにした。
『ちなみにこのことはワッチの隣におるコヤツも知らぬことなのや。 なのやからオニュシも心して聞くのやよ』
『え、ワシも?』
『なのや』
ロリ天使は深く頷くと大きく深呼吸。
『では始めるのや』と呟くとまだ昼前だというのに部屋全体が真っ暗に……まるでプラネタリウムを見ているかのように周囲に当時の光景が周囲に映し出された。
〜 特別編・全ての始まり 〜
約千年昔、美香……神がその地の守護神に任命されてしばらくが経った頃のこと。
当時その周辺地域では雨が降らずに作物の育たないまさに異常事態。 神がこの問題をどう解決しようかと近隣の社の先輩神々に相談して回っていると、とある先輩神から興味深い話を受けた。
『我とお主の村の境に大きな山があるだろう。 そこにはかつて龍神様が管理していた大きな水脈が通っていたはず。 もしお主が力を貸してくれるのならば……その水脈から水を溢れ出させることができるかもしれない』
『それは誠ですか!!』
この時神の脳裏に浮かんだのは自らを祀っている神社で忙しく奉仕してくれていた神主一家の一人娘・イチコ。
イチコは心の優しい女の子で、飢饉が広まる前までは巫女として自らにお供え物をしたり周囲の掃除をせっせとこなしていてくれていたのだが、最近の彼女の主な仕事は村人たちのストレスの捌け口。
はじめこそは『雨が降らないと作物が実りませんどうしたら』などの深刻な相談事だったのだが、日が経つに連れて『いつになれば雨を降らすんだ』やら『お前ら一族が真面目に祈祷しないから神様が願いを叶えてくださらないんだ』と徐々に理不尽な怒りをぶつけられるようになってしまっていたのだ。
ーー……もしその水脈から水が出れば干ばつは解決、作物も育つ。 そうなればイチコが辛い想いをしないで済むに違いない。
神はこの朗報に大歓喜。
詳しく話を聞いてみると、その水脈は山のかなり地下……あまりにも深い箇所にあるため、神とはいえ1人の力ではどうすることも出来ない……しかし2人の力を合わせれば、なんとか出来るかもしれないとのことだった。
『なるほどなのじゃ。 それでワシはどうすれば……!?』
そこで神が聞いた方法とは、先輩神が自分の力を借りて水脈の通る山を中心に大地震を発生させるというもの。 そこで水脈から地表まで亀裂を発生させれば今後困ることのない多大なる水が未来永劫流れるはず……ということだった。
『だ、大地震ですか。 しかしそうすれば確かに干ばつ問題は解決出来るやもですが、それ以上に人的被害も計り知れなくなるのではないですか?』
そう、大地震ともなれば周辺地域で生活を営んでいる人間たちにも大きな被害が出る。
その人たちのことを考え一旦この話を保留にしてほしいとお願いした神だったのだが、先輩神は静かに首を振り口を開いた。
『目先の命も勿論大事だが、我々はその土地を守る神。 何も動かず彼らが根絶やしになっていくのを見届けるのと、ここは目を瞑り永劫に続くであろう将来に託すのと……どちらが大事なのかは分かるであろう?』
確かにそうだ。
残り数年で全滅する未来よりは、一度大きな被害を出してでも未来へ続く選択をしなければならない。
そう……我々守護神はこの地を長く守護することが役目なのだから。
一度冷静になって考えたかった神は先輩神に一日だけ考える時間をもらうことに。
その後自らの社へと戻ったのだが……ここで予想だにしない出来事が神の目に飛び込んできた。
イチコ、突然の死。
いつもなら夜のお勤めと称して神主たちとともに祝詞をあげにきてくれる時間帯……しかし誰一人として自らを祀る御神体の前に姿を現さなかったことから少し心配になった神は本殿を出て神主たちの捜索を開始。 するととある真っ暗な一室……そこで家族に囲まれながらイチコが真っ白な顔で眠っているではないか。
『な、なんじゃと……!? どうして娘がこんなことに……ワシの居らぬ間に何があったと言うのじゃ!!!』
驚きのあまりその場で立ち尽くしていた神。
そして目の前で娘に抱きついていた神主から衝撃の事実を聞かされることとなる。
「なんで娘が……!! 私たちはちゃんと誠心誠意神に仕え、祈祷やその他全てのことを真面目にしていたはずなのに……! 何が生贄だ!!! 勝手に押し入って勝手に殺して……これではただの人殺しではないか!!!」
ーー……!!!
◆◇◆◇
このまま干ばつが続けば他の者までイチコと同じ末路を辿ってしまうかもしれない。
一刻も早く大地震を起こして干ばつ問題を解決しなければ……しかし先にすべきはイチコを殺めた者たちへの報復だ。
神はすぐに周囲の浮遊霊や地蔵神に話を聞き犯人である男たちを特定。
我欲のために人を……イチコを殺めたのだ。 酌量の余地はない。
向かった先は少し離れたところにある小さな山小屋で、足を踏み入れると人の命を奪った男たちが酒を浴びるように呑みながら自らの罪を擁護しあっている最中だった。
「俺たちは悪くないんだよな!」
「その通りじゃ! それにこれで雨が降るはず……我々は大勢の命を救ったのだ!!」
「顔は布で隠してたから儂らのことは誰も分からない。 この件は儂らで墓場まで持っていこう」
なんとも自分勝手。 なんとも愚か。
怒りに狂えた神はここで男たちに2つの呪いをかける。
1つはイチコ殺めた男たちが皆数日で不可解な死を遂げる呪い。 そしてもう1つはその一族に新たな命……子供が生まれたとしても、原因不明の病や突発的な事故に巻き込まれてすぐに亡くなってしまうというもの。
『愚か者の血など今世で絶たれるが良い!! お主らに未来はない……根絶やしじゃ!!!』
その後神は先輩神のもとへ。 翌日には巨大な大地震を発生させて周辺地域に潤いを与えると、男たちによって命を奪われた神主一家の娘・イチコの霊体とともに神主一家の暮らしが豊かになるのを静かに見届けたのだった。
そしてここからが神も気にして見ていなかったため知り得なかった事実。
数人の身勝手な行動により神の怒りを買ってしまい、失脚の運命を背負うことになってしまった一族の話。
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