649 【真・結城編】緊急
六百四十九話 【真・結城編】緊急
懇親イベントのデスティニーランドから帰ってきたその日の夜。
【受信・三好】やっぱさ、怒った?
【送信・三好】なんでオレが怒らにゃならんのだ。
【受信・三好】だってさ、私……ちょっと記憶が曖昧なところもあるんだけど、桜子に福田の秘密……いじめが原因で飛び降りた福田と今の福田が別人格だってこと、言っちゃったような気がしてさ。
うわあああああああ!!!
三好のやつ……とんでもない爆弾発言をしてくれたなぁ!!!
ちなみにそれに対する結城の反応はどんな感じだったのだろう。
かなり気になる……三好をとことん問い詰めたいところなのだが、あいにく三好はただいま絶賛風邪引き中。 熱もぶり返してきてるって言ってたし、無理をさせるわけにもいかないからな。
オレは三好に『そうか、まぁとりあえずそれは後日聞くかもしれん。 今日は安静にしててくれ』と返信を送るとすぐに電話帳を開いて【結城さん】をタップ。 こういうのは全て早めがいい気がする……オレは先ほど三好から聞いた件をそれとなく結城にメールで聞いてみることにした。
「えーと、なんて打てばいいんだ? 『今日のデスティニーランドで三好から聞いた?』とかでいいのか? あー、でもそれに対して『何を?』って聞かれたら反応に困るしなぁ……うーーん」
疲れていることもあってか脳が思った通りに回転してくれない。
オレはメールの本文を書いたり消したりを繰り返しているうちにいつの間にか寝落ち。 しかしそれはオレを起こそうとしてくる優香の声で目覚めることとなる。
「ーー……キ、ダイキ! 起きて」
「ーー……ん」
「ダイキ、ダーイキ!!」
なんだ? ご飯にしてはかなり執拗に起こしにきているような気が……今夜はもしかして自信作なのか?
ここまで頑張って起こしてくる優香も珍しくてかなり可愛い。 オレはゆっくりと起き上がり体を揺らしてまで起こしにきていた優香の顔を見ようと目を開けたのだが……
「んー、夜だけどおはようお姉ちゃん。 今日の晩御飯は……」
「あ、ダイキ! やっと起きた! さっき高槻さんから電話があって……桜子のお母さん、今までで一番危険な状態だって!!! だから今すぐ行くよ!!!!」
「ーー……」
え?
寝起きだからなのか優香の言っている内容がスッと頭に入ってこない。
一旦今の時間を調べるためにスマートフォンを付けてみると、結城からの着信通知が1件表示されていた。
◆◇◆◇
病院に着くと待合席エリアまで高槻さんが迎えにきてくれていたので、オレと優香は高槻さんの案内のもと結城のいるところへ。
向かっている途中、高槻さんは今の状況を簡潔にオレたちに教えてくれた。
「先に伝えておきますと、桜子のお母様は今緊急の手術を受けてます。 なのであまり刺激するようなことは言わないであげてくださいね」
「えええ、そんなに結城さんのお母さんヤバいんですか!」
「わかりました。 ダイキ、桜子に話しかけるときは優しくね」
着いた場所は手術室近くの小さな部屋……恐らくは関係者の待機部屋なのであろう。 静かに扉を開けると結城が両手で顔を覆いながら泣いており、そこから少し離れたところでエルシィちゃんがその様子を心配そうに見守っていた。
「桜子」
「結城さん」
声をかけるとオレたちの声に結城が反応。 真っ赤に充血した目をこちらに向けてくる。
「福田……くん、お姉ちゃん……」
結城の足元には今夜渡す予定だったはずのデスティニーランドのお土産の入った袋。 まだ渡せてないってことは本当に緊急事態だったのだろう。
「お、お姉ちゃん……」
「ん、どうしたの桜子?」
結城はゆっくりと立ち上がると力なくフラフラと歩きながら優香のもとへ。 こういう時ってやっぱり年上に頼りたくなるもんなんだな。 「お姉ちゃん、ママ……ママが助からなかったらどうしよう」と優香の胸に顔を埋めながら問いかける。
「お医者さんが頑張ってくれてるんでしょ。 桜子のママも頑張ってるし、今はお姉ちゃんと一緒に待とう?」
「でももしママが死んじゃったら……!」
「桜子、今マイナスなこと言っちゃダメ。 きっと……いや、絶対助かるって信じようよ」
「そんなの出来ない……!」
「出来る。 だってお姉ちゃんが前に事故して意識なくなってたときも、桜子の願いが伝わったから目を覚ますことが出来たんだから」
おお……なんて愛に満ち溢れた言葉なんだ優香。
この優香の言葉には結城も心に響いたのか埋めていた胸から顔を離して優香を見上げる。
「そう……なの?」
「そうだよ。 だからプラスに考えて待とう? お母さんの無事が確認出来るまでお姉ちゃんが一緒にいるから」
「うん……ありがとうお姉ちゃん」
す、すげーな優香。 ここに来る途中高槻さんが『刺激するようなことは言わないで』って言ってたけど、本当に優しい言葉で結城を落ち着かせることが出来るなんて。
オレには到底難しい言い回し。 さすがは年上……お姉ちゃんといったところなのだろうか。
「じゃあ桜子、そこの椅子に一緒に座ろ。 後ろからギュッてしててあげるから桜子はお姉ちゃんの膝の上乗る?」
「うん……」
これは……オレが入る隙がねぇな。
オレは空気を読んで入り口の扉付近でジッとしていることに。
するとエルシィちゃんがテチテチとオレの前まで近づいてきて、何か言いたげな顔をしていたので屈んでみると耳元で小さく囁いてきた。
「ねぇ、ダイキ」
「どうしたのエルシィちゃん」
「ダイキや、エッチーが、ユッキーちゃんに、できること、あるんな?」
もしかしてエルシィちゃん、ずっと結城のために何が出来るのか考えていたのだろうか。
まったく、優香といい高槻さんといいエルシィちゃんといい……ここには慈愛の天使しかいないのか?
「出来ること……、そうだな。 今は一緒に待つことくらいじゃないかな」
「そうなぁ? じゃあ、エッチーも、いっしょに、まちゅー」
「うん、いい子だねー、エルシィちゃん」
エルシィちゃんはオレだけに分かるよう小さく微笑むと、今度は体の向きを変え高槻さんのもとへ。 小声で何かを会話すると、エルシィちゃんと高槻さんは静かに部屋の扉を開けた。
「じゃあちょっと私たち、飲み物や簡単な食べ物買ってきますね。 ここでジッとしててもお腹は空きますから」
「そうよー? エマおねーたん、いってた。 ごはんたべたら、げんきになるのよー?」
なるほど。 エルシィちゃんが提案したのか。
確かにお腹が膨れればネガティブなことが少しでも緩和される……エルシィちゃんからしたらエマの言葉をただ覚えていただけなのかもしれないが、ナイスアイデアだ。
こんな状況下でのその発想は純粋なエルシィちゃんにしか出来ないこと。 だったらオレだけに出来ることって……?
オレは静かな空間で集中して頭を働かせる。
何か……何かいい案はないのか?
結城を眺めながら考えていると突然脳内でとある案が思い浮かぶ。
これは……いけるんじゃないか?
オレは早速それを試すべく部屋を飛び出した。
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