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644 【真・結城編】特別編・その時少女たちは①


 六百四十四話  【真・結城編】特別編・その時少女たちは①



 懇親会イベント当日・デスティニーランド。


 ダイキを待たせて桜子と佳奈の2人が並んでいたのは屋内型アトラクション【スペースジャーニー】。 これは小型トロッコに乗りながら色んな星に立ち寄り神秘に触れるといったモチーフらしく、桜子が『あれ、気になる』と指差したことにより決定したもの。

 待ち時間は平日ということでそこまでかからず、およそ10分程度で2人乗りの空飛ぶトロッコに乗車。 スペースジャーニー……宇宙の旅へと出発した。



 ◆◇◆◇



 トロッコが進み出すとその先で閉まっていた巨大で重厚な木製の扉がガシャリと開かれ、その扉を抜けた先は見渡す限りの大宇宙……数多の星がそれぞれの輝きを放っており、その圧倒的なスケールと美しさに桜子は思わず「綺麗……」と呟く。



「本当だねー。 桜子はこういう宇宙系が好きなの?」


「うん、好き。 少し前にプラネタリウム行ってから、もっと好きになったんだ」



 桜子は佳奈の問いかけに答えながら6年生になって少し経った頃、ダイキとともに出かけたプラネタリウムでのアナウンスを思い出す。(第413・414話)



『宇宙にはたくさんの星があって、地球みたいに安全な星を人類はまだ見つけられていません。 それを見つけるということはまさに天文学的な確率……非常に大変なことなのです』



 ーー……本当にその通りだ。 安全な星を見つけるというのは難しい。

 それは人間関係もまた同じで、家ではママやママの彼氏に邪魔者扱いされ学校ではイジメられて……心から安心できる居場所なんてなかった。

 だけどそれを福田くんが用意してくれてそんな場所をいっぱい広げてくれて……。 



 桜子の脳内にはダイキの顔。 そしてそんなダイキを中心に優香や美咲、エマ、エルシィ、希、佳奈……その他大勢の顔が浮かび上がってくる。



 そう、全ての始まりは福田くん。



 桜子は今までダイキから施された愛を走馬灯のように思い出していった。



 あの時イジメられて泣きそうになりながら帰っていた私に『ハンカチ落としたよ』って声をかけてくれた。

 朝学校に行くと上履きに水を染み込ませた土を入れられてて困ってるときに手を差し伸べてくれた。

 リコーダーを隠されて怯えながら借りに行くと快く貸してくれた。

 当時イジメのリーダーだった西園寺さんから救ってくれて、それだけでなくイジメを無くして仲良くさせてくれた。

 ママや彼氏から家に追い出されて、夜に1人外にいたときに家に匿ってくれた。 部屋を貸してくれた。

 ママとの関係で悩んでるときも側にいてくれた。 

 ママとの仲を戻すのにも力を貸してくれた。


 他にもたくさん……。


 

 一体どれだけ多くの愛を彼にもらったのだろう。

 知らない間に彼が近くにいるのが当たり前になってきて、また知らない間に彼に頼ってしまっていた自分がいる。

 そんな自分を変えたくて……いつでも頼ったままではいけないと思って私は彼の元を離れ引っ越しをすることを決意したんだ。



 しかしどうだ? 



 結局は彼がこのデスティニーランドに決めたのも私が声をかけたから……『デスティニーランドを選んだのが私1人だったらどうしようって不安だった』と弱音を彼の前で吐いたからではないのか?

 そう口にしたら彼ならきっと同じ場所を選んでくれるはずだ……と。



 本当に私って弱くて最低な人間だ。



 空飛ぶトロッコはちょうど幻想的な音楽の流れる月ゾーンを通過したところ。 桜子が月の光を全身に浴びながら自分の愚かさに絶望して静かに涙を流していると、異変に気付いた佳奈が「どうしたの桜子」と顔を覗かせてきた。



「お腹でも痛い?」


「ううん、違う……ちょっと色々と思うところがあって」



 首を左右に振った桜子の手を佳奈が優しく握ってくる。



「思うところ?」


「うん。 私って本当恵まれてるのに最低だなって……。 私、福田……くんがいないと何もできない……!!」


「ふ、福田?」



 桜子が佳奈の手を強く握りしめる。

 すると佳奈の握力が一瞬弱まったかと思うとすぐに力強く握り返してきて、「大丈夫だよ桜子」と耳元で小さく囁いた。



「え」



 視線を向けると佳奈が優しく微笑みながらこちらを見つめている。



「か、佳奈?」



 一体何が大丈夫なのだろう。

 考えても思いつかない桜子だったのだが、佳奈はゆっくりと視線を上げて目の前に瞬く星を見上げながら静かに口を開いた。



「福田ってさ、凄いよね。 変態なんだけど、なんでもおっきな心で包み込んでくれるっていうかさ……本当凄い」


「佳奈?」


「桜子はさ、福田のこと好きなの?」


「え」



 佳奈から突然投げかけられた質問に桜子は大きく目を開かせながら動きを止める。



「私が、福田……くんを?」


「うん。 どう?」


「それは……」



 そんなこと、意識したこともなかった。 私は、福田くんのことが……好き?



 しばらく考えてみたが答えは見つからず。


 確かにダイキのことは人間的には大好きだし尊敬もしている。 しかしいざ付き合いたいか……結婚したいかと問われればすぐには答えが出てこない。

 桜子は素直に「うーーん、人としては好きだけど、恋愛では分からない」と返答。 すると佳奈は「そっか」とため息交じりに笑うと、「ここだけの話なんだけどさ……」と話を続けた。



「私、多分あいつのこと好きなんだ。 でも私にはあいつのことを好きになる資格なんてないし、付き合いたいとも思わない」


「え」


「だからさ桜子……、もし桜子があいつ……福田のことを1人の男子として好きだ、付き合いたいってなった時は私の分まで幸せになってほしいんだよね」



 佳奈の瞳から涙がこぼれ落ちる。

 桜子はそんな佳奈の頬を伝う涙を目にしながら、先ほど佳奈の言った言葉の意味を頭の中で考える。



 ーー……福田くんのことが好きなのに、好きになる資格がなくて付き合いたいとも思わない?

 


 好きなのになんで。


 

 空飛ぶトロッコが巨大な木星ゾーンの前を通過した辺り。

 桜子は意を決してその理由を佳奈に尋ねることにしたのだった。

 

 

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