638 【真・結城編】変わるぜオレ!!
六百三十八話 【真・結城編】変わるぜオレ!!
平日の朝・朝食後。
「ごちそうさま。 じゃあお姉ちゃん洗濯物干してくるから、ダイキは着替えておいで」
朝食を食べ終えた優香がゆっくりと立ち上がると、オレは待ってましたと言わんばかりにピースサインを向ける。
「もう洗濯機から取り込んで干してます!!!!」
「え、そうなの!? いつの間に!?」
「お姉ちゃんが朝ごはんを作ってるくれてる間にした!!!」
「そうなんだ……え、ありがとうダイキ」
この優香の表情、めちゃくちゃ驚いてくれてるじゃないか。
早起きしてやった甲斐があった……しかしこの程度でオレが終わるわけがないぜ!!!
オレは食べ終わった食器を優香のも重ねてキッチンへ。
皿を割らないよう流し台に静かに置くと、洗剤を爆がけしたスポンジで一気に洗い始める。
「えええ、ダイキ、そんなことまでしてくれるの!?」
「もちろん!! オレ、お姉ちゃんが少しでも勉強に集中できるよう出来るだけサポートするって決めたからね!! だから今後もお皿洗いは毎回するし、メールで事前に送ってくれてたら買い物もオレがして帰る!! だから、お姉ちゃんはその体力を勉強に割いてくれたら嬉しいな!!」
「ダイキ……ありがとう!! お姉ちゃん、ちゃんと勉強して難しい大学頑張って受かるよ!!」
「うん!! 頑張ってねお姉ちゃん!!!」
うおおおおおおお!!!!
やれば出来る……やれば本当に出来るぞーーーー!!!!!
このお手伝いでかなりの手応えを感じたオレは一気にやる気MAXに。
優香曰く買い物は週に3回くらい行ってるということでオレはその大体の曜日をスマーフォンに登録……優香に見守られながら食器を洗い終え、2人仲良く家を出たのだった。
「ふふふ」
「ん、どうしたのお姉ちゃん」
「ううん、ダイキがそこまで応援してくれて嬉しいなーって。 美咲にも早く自慢したいなー」
「星さんにも?」
「うん。 きっと美咲も一緒に喜んでくれる……今度美咲にも褒めてもらおうね!」
やったあああああああああああ!!!!!
◆◇◆◇
【受信・堀江茜】ダイきちくん。 明日……火曜日の放課後って大丈夫かな。
昼休み。 茜から届いたメールを目にしたオレはすぐに『了解!』と返信。 久々の茜との2人きりの時間ということで、知らない間に口元が緩む。
「ちょっとダイキ、お昼から何見てるのよ気持ち悪い」
隣の席のエマからのツッコミでオレはハッと我に返る。
「え、なんかオレ変な顔してた?」
「してたわよ、こう……ニヤーって。 どうせエッチな画像でも見てたんでしょ?」
「見てねーよ!!」
「どうだか。 それよりもダイキ、あれもう書いた?」
ーー……あれ?
オレが無言で返事に困っていると、エマは引き出しから1枚のプリントを取り出した。
「え、なんだっけそれ」
「いや今朝の全校集会での校長先生の話忘れたの? それに朝のホームルームでも先生がもう1回言ってたのに……学年別の懇親イベントのやつじゃない」
「あーー、なんかそんなこと言ってたな」
なんとなく思い出しながら引き出しの中を漁りプリントを取り出す。
確か新学期が始まってからいい感じに時間が経ち、隣町出身校の子とも仲良くなってきたから開催する……だったか。
オレは「それで何するんだっけか」と呟きながらプリントに目を通した。
(A)一泊二日。 海
(B)一日。 デスティニーランド。 翌日休み
(C)一泊二日。 山
「なんか3択になってんぞ」
「ほんと何も聞いてないのね。 そこから各自行きたいところ選ぶのよ。 ちなみに先に教えておくと、提出期限は明日の朝ね」
「なるほど」
となればオレはどこにするかな。
海は暑そうだから却下として、残りはデスティニーランドか山の2択か。
「ちなみにエマはどうすんだ?」
「エマ? エマは家に帰ってからエルシィの予定に合わせるわ。 まぁおそらく(B)のデスティニーランドでしょうね」
「そうなのか?」
「えぇ。 だってエルシィは2年生だし、流石にお泊まりはなさそうじゃない? だったらエルシィに寂しい思いをさせないようエマも当日限りのやつを選ぶわよ」
「なるほどなー、じゃあオレも(B)のデスティニーランドにしよっかなー。 翌日休みってのも嬉しいし」
オレは鉛筆を取り出して躊躇なく(B)をまるで囲む。
「え、そんな簡単に決めちゃっていいの? もしかしたらエマ、別のところにするかもしれないわよ?」
「構わん構わん。 その時は一言教えてくれるだけで大丈夫だ、孤独の準備だけはしておきたいからな」
「孤独って……まぁ分かったわ」
こうして翌日担任から怒られる心配のなくなったオレは気分を変えるために席を立ちトイレへ。
しかし男子トイレに入ろうとした手前、隣の女子トイレから何やら品のない笑い声が聞こえてくるではないか。
「ほら、ちゃんとこっち視線向けなって。 じゃないと誰かわからないでしょー!」
「そうそう、どうせ他の写真でも顔写ってんだから今更隠すなって!」
んーー?
耳を澄ましてみると先ほどの下品な笑い声の奥でかすかに聞こえてくる誰かのすすり泣いている声。
これってもしかして……イジメか?
ぶっちゃけかなり中の様子が気になるのだが、入ってしまってはオレが犯罪者になってしまう。
これはどうしたものかと女子トイレの前をウロウロしていると、いいタイミングで三好が「やほー福田ー」と声をかけてきた。
「おお三好。 三好もしかして今からトイレか?」
「ちょっと福田、そんなデリカシーのないこと言わないでくれる?」
「えええ、そうか、確かにそうだな。 それはすまん」
「まぁ別にいいんだけどさ。 ていうか福田は懇親イベントどこにすんの?」
「オレ? オレはデスティニーランドにしたぞ。 他のと違って当日限りで翌日休みだし」
「へー、そうなんだー」
「ちなみに三好はなんなんだ?」
「私ー? 内緒ー」
三好が舌を僅かに出しながら悪戯に微笑む。
オレはそんな三好に「なんだよそれ」とツッコミを入れていたのだが、ここであのことを思い出した。
「あ、そうそう三好、いきなりなんだけどちょっとお願いがあるんだ?」
「お願い?」
三好がポニーテールを可愛く揺らしながら首を傾げる。
「あぁ。 なんか女子トイレの中の様子がおかしくてな。 なんかイジメの匂いがする……ちょっと様子見てきてくれないか?」
「えええ、そうなの!?」
「うん、ほら耳澄ましてみろよ。 聞こえるだろ?」
「た、確かに」
そう伝えるとどうだろう、三好はおもむろにスマートフォンを取り出すと何やら誰かに電話。
一体誰だろうと考えていると、エマと西園寺の腕を引っ張りながらこちらにかけてくる小畑の姿を発見する。 なんだか小畑のやつ、目がキラキラしてるような……
「なぁ三好、さっき電話したのって小畑さん?」
「そうだよ」
「なんで?」
「うーん、詳しくは分かんないんだけど、最近美波から『イジメっぽい事件あったらすぐに教えて!』って言われたんだよね」
「えええ……」
オレと三好が「なんでだろうね」と話している間にも小畑が到着。 小畑は「佳奈、ここ?」と尋ねながら女子トイレ内を呼指差し、三好が頷いたと同時にエマへ視線を移した。
「わかったわ、行ってきなさい」
「っしゃああ!! 行くぞおお西園寺さん!!! もしもの時は護衛ヨローー!!」
「ええええええ」
小畑は西園寺を引き連れて女子トイレの中へ。
するとすぐにトイレ内が騒がしくなっていき……
「はーーい!!! イジメだめ絶対!!! ちなみに私の後ろで西園寺さんが撮ってるのムービーでーーす!!!」
な、なんだってええええええええええ!??!?
中からは「お前誰だよ!!」やら「部外者は消えとけ!」の声。
しかしそんな罵倒に押されることなく小畑の力強い声がそれをかき消していく。
「私を知らない!? マドンナ四天王の1人なのに!? 伝説のセンターなのに!? あちゃーー!! 人生損してますわキミらーー!!!」
うわあああああ!!! 何がどうなっているんだああああああ!?!?!??
しばらくすると小畑はイジメられていたのであろう服のはだけた女の子を引き連れてトイレの外へと連れてくる。
不安そうな顔をしている女の子に「もう大丈夫だよ!!」と眩しいアイドルスマイルを向けた。
「え、あ……ありがとう、ござい……ます」
「いいのいいの気にしないで!! それにさっきの奴らは西園寺さんが睨みきかせたし、この後先生にチクるから安心して!!」
「でもなんでクラスも出身校も違う私を……?」
「そこも気にしちゃダメ! ただ私の『小畑美波』って名前だけ覚えてくれてたらいいから!!」
「小畑……美波ちゃん。 はい」
な、なんだなんだなんだあああああ!?!?
あのドSの女王に何があったんだああああああああああ!?!?!!?
オレが混乱している間にも小畑は「ほら、じゃあ証人で西園寺さんと佳奈、一緒に来て!」と女の子を連れて職員室へ。
そんな3人の背中を目で追っていたオレだったのだが、ようやくエマが「はぁ……あの行動力、ほんと流石よね」と大きくため息をつきながらオレに話しかけてきた。
「え、エマは知ってんのか? あの小畑さんの行動」
「もちろんよ。 それで多分だけど、そのことをダイキに説明させるためにエマだけ置いてったんでしょうね」
「オレに説明させるため?」
ますます話が見えないぜ。
オレが結局どういうことなんだと考えていると、エマが耳元で小さく囁く。
そしてその内容にオレはかなりの衝撃を受けたのだった。
「ダイキは知ってると思うけど、ミナミ……来年アイドルデビューするじゃない? なんか武勇伝が欲しかったんだって。 イジメられてる子を勇敢に助けた……みたいな正義のヒーロー的な」
ーー……は?
その後エマは「エマも証言してくるわ」と職員室へ。
オレは1人寂しく教室へ戻ったのだが、教室に入るやいなや結城と目が合い……結城が「ねぇ福田……くん」とオレに小さく手招きをしてくる。
「ん、どうしたの結城さん」
「福田……くんは懇親イベントどこにしたの?」
「オレ? オレは(B)のデスティニーランドにしたよ」
「そっか……じゃあ私も一緒にしていい?」
「え」
思いもよらなかった結城の言葉にオレは一瞬言葉を詰まらせる。
「えっと……なんで?」
「私も元々翌日が休みの(B)にしようと思ってたの。 でも選んだのが私1人だったらどうしようって不安だったから……。 でも福田……くんがいるなら安心。 ママにも楽しい話できそう」
あー、なるほどな。
確かに結城的には翌日休みの方が母親といる時間が増えるから最高に嬉しいわな。
それにしても結城、そんなにもオレのことを信頼してくれていたなんて。
ぐすん!!!
この結城の発言によりオレの中でデスティニーランドに行くことが完全に確定。
もし西園寺やエマたちのような美女全てが海を選んで水着姿を拝めないとしても、オレはオレを必要としてくれている結城を優先するぜ!!
オレは引き出しからあのプリントを取り出すと結城の目の前でボールペンで更に丸を囲み、「これでオレは絶対にデスティニーランドだから、一緒に楽しもう!!」とオレの出来うる最大限のイケメンスマイルを結城に向ける。
ふふふ、これって結城のからしたらオレの好感度爆上げ行動だよな。
それに加えてこのイケメンスマイル……ヤベェ!! もしかしたらデスティニーランド行く前に付き合えちゃうかもしれないぞ!?!?
オレは自分に都合のいい結城とのラブラブ妄想デートを脳内で展開。
もうすぐこの妄想が現実になるかもしれない……、そう考え妄想レベルを更に加速させていったのだが……
「ど、どうしたの福田……くん、そんなに眉間にシワよせて……顔痒いの?」
うわああああああああああああああああん!!!!!!
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