631 【真・結城編】運命のバッカ野郎!!
六百三十一話 【真・結城編】運命のバッカ野郎!!
それはオレが前世に捉われず、福田ダイキ100パーセントの人生を歩み始めて少し経った頃。
「そういやダイキ、あれ大丈夫なの?」
休み時間。 隣の席のエマが頬杖をつきながらオレに向けて小さく手招きをしてくる。
「あれ? ……ってなんだ?」
「いや昨日のことも忘れたの? あんた昨日算数のノート忘れて先生に提出してなかったじゃない。 それで『明日持っていきますー』って言ってたけど……もう提出したの?」
「ーー……あ」
「あーらら、やっちゃったわね。 このままじゃノート点0になるわよ? 内申点下がったら優香さん、悲しむでしょうねー」
「うわああああ!!!! 今から提出してくるうううう!!!!!」
オレは引き出しから算数ノートを抜き出すと駆け足で職員室へ。
しかしその途中、僅かなレベルなのだが尿意がオレを襲ってきたのだ。
「んーー、このまま職員室まで走ればこの休み時間中にノートは渡せるけどトイレに行く時間はない。 逆に先にトイレに行けば職員室に間に合うかギリギリのところ……」
オレはスマートフォンに表示されている時間を眺め、そして……
「うん、ノート提出は次の休み時間にしよう。 てかそもそも次その先生の授業だし、授業終わりに渡せば問題ないじゃねーか!!!」
こうしてオレはすぐに提出することをやめて行き先をトイレへと変更。
「いやー、スッキリしたぜ」と呟きながらトイレを出た……その時だった。
「あっ、福田……くん」
トイレを出て曲がった瞬間。 オレの目の前に立っていたのはオレのスイートエンジェル結城。 結城が驚いた様子でオレを見上げている。
「あ、結城さん。 結城さんもトイレ?」
「え、あ……ううん、ちょっと用事あって戻ってきたところだよ」
「そうなんだ」
「う、うん」
ーー……ん、なんだ?
別に親戚でも兄弟でもないオレが言うのもあれなんだけど、結城の様子が若干おかしい。
口を真一文字にしながら視線を泳がせていて……まるでオレに何かを言いたいんだけど、言っていいのかどうしようか迷っているようなそんな表情をしているぞ。
「結城さん? どうしたの?」
「えっ、なにが?」
「いや……間違ってたらごめんなんだけど、なーんか結城さん、オレに何か言いたそうだなーって」
「ーー……!!!!」
そう尋ねてみるとどうだろう。
結城は目を大きく見開いて顔を少しずつ紅く染め上げていく。
ーー……え。
もしかしてこれ、オレに告白したかったから照れてるやつ……てか顔真っ赤にして言うか言わないか迷うことって告白以外ないよなあああ!?
まったく……休み時間ギリギリにトイレに向かって正解だったぜ!!
オレのテンションは一気に最高潮。
しかももうすぐ授業が始まるため周囲にあまり人はおらず、告白されるには最高のシチュエーションときたもんだ!!!
うむ、だったらオレも少し告白されやすい状況を作ってやるとするか。
完全に告白されると信じ込んだオレはコホンと紳士的な咳をして静かに結城の前へ。
結城の耳元で「どうしたの結城さん、オレに言いたいことあるんだったら……なんでも言って欲しいな」と甘く優しく囁いてみたのだが……
「ーー……ぐすん」
「エ」
オレの予想とは真反対。
こんな展開、誰が予想した? 結城が涙を流しながら小さく体を震わせ始める。
「ぐすん、ぐすん……ひっく」
「ーー……ちょ、ちょっと、結城……さん? どうした……」
「うわああああああん」
「エエエエエエエエエエエエ!?!?!??!?」
おいおいおいおいおい!!!! 一体オレがなにをしたと言うんだ!!!
優しく甘く声をかけただけだというのに結城は突然の号泣……ただでさえオレにとっては一大事なのに、更に苦難が降りかかってくる。
「ちょっとダイキー、ここにいたのー? 先生がわざわざノート貰いに教室来てるけどアンタなんでこんなところで時間潰してんのよー」
「ーー……あ、エマ」
「なにー? 桜子と何話して……って、え?」
エマがオレの目の前で泣きじゃくっている結城を発見。
「え、桜子……、どうしたの?」と心配しながら小走りで歩み寄ってきた。
「ひっく、ひっく……、福田……くんが、私……の……、んぐ、うわあああん」
ゆ、結城さん。 そこで話を途切れさせるのやめてもらえませんかねぇ。
それじゃあまるでオレがあなたにさぞかし酷いことを……
「ダイキ……アンタ、桜子に何したのよおおおおお!!!!」
ほらこうなるううううう!!!!!
エマはオレに掴みかかるとギロリとオレを見上げ顔を近づけてくる。
「いいなさいダイキ!! 桜子に何したの!!」
「な、何もしてねえよ!!」
「うそ!! 何もしてないのなら泣くわけないじゃない!! 泣いちゃう前になにしたのよ!!」
「ちょ、ちょっと耳元で優しく囁いただけ……」
「それを痴漢って言うのよーーーー!!!! しかもわざわざトイレの前で……最低、痛みを知りなさい!!!」
エマの説教と同時に飛んできた急所蹴りが、文字通りオレの急所に炸裂。
「んぎゃあああああ!!! マジで悪いこともエロいことも何もしてないのにいいいいい!!!!」
まさにクリティカルヒット!!
オレは下半身を抑えながらその場でドサリと崩れ落ちる。
「とりあえずこのまま教室に戻っても桜子はこんなだし……一旦保健室行くわよ。 そこでエマがじっくり話聞いてあげる。 もちろんダイキも一緒にね」
「ーー……あい」
その後オレはエマに肩を貸してもらいながら内股&小幅でゆっくりと保健室へ。
相変わらず保健医はいなかったのでベッドに腰掛けると、オレは痛い箇所を押さえながら無言……エマは結城をなだめながら何があったのか優しく尋ねかけていた。
「大丈夫桜子……ダイキに何されたの? 耳元で囁かれたみたいだけど……その時に耳、舐められた?」
「ううん……」
少し落ち着いたのか結城は目を腕でこすりながら首を左右に振り否定する。
「じゃあ何? 耳に息でも吹きかけられたの? それか囁くついでにお尻でも撫でられた?」
おいおい随分な言い草だな。
しかしここでオレが割って入って否定しても気まずくなるだけ……オレは結城がオレの無実を語ってくれるのをひたすら待ち続けることに。
そしてついにその時が……
「ううん、福田……くんは何も酷いこと……してないよ」
待ちに待った結城の否定。
オレはそれにすぐに反応して「ほらああああああ!!!!」とエマに顔を近づける。
「聞いたかエマ!! ほらみろ、オレの言った通り何もしてねーだろがい!!」
「っるさいわね! トイレ前で女の子が泣いてたら誰だって勘違いするでしょう!!」
「にしては強く蹴りすぎなんだよ!! あれで潰れたらどうすんだ!!!」
「あーはいはいわかりましたごめんなさい!! じゃあソコにも謝ってあげるわよ! 痛かったでちゅねー、大丈夫でちたかぁー?」
「!!!!!!」
エマがオレの痛んでいた部分を赤ちゃん言葉であやしながらトントンと優しく叩く。
普通なら更に苛立つ態度なのだが……うん、やはりオレも男。 そんな素晴らしいことされたら怒りも消えていくってもんだ。
「はい、これでいいでしょ」
「うむ、許す。 むしろありがとう」
「ほんとそれよ。 なんでさっきまで怒ってた奴が興奮させちゃってんのよ」
こうしてオレはエマと和解。
オレの無実が証明されたことで、改めてエマは結城に「じゃあどうして泣いてたの?」と顔を覗き込みながら声をかけた。
しかしここで衝撃の言葉が結城の口から発せられる。
「あのね。 私、引っ越すことになったんだけど、それで……」
「「えええええええええええええ!?!?!?!?!?!?」」
結城のとんでも発言にオレとエマは大絶叫。
エマは「え、なんでそうなったの!?」と慌てながら結城に詰め寄りだし、オレはあまりのショックでその場で気を失ってしまったのだった。
ウソ……だろ?
こんな運命信じねーぞ!!!
ウソだって言ってくれ、結城いいいいいいいいい!!!!!!
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