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630 【結城編/真・結城編 分岐前】特別編・桜子、選択する


 六百三十話  【結城編/真・結城編 分岐前】特別編・桜子、選択する



 それは結城桜子が6年生になって少し経ったある日の夜。

 桜子が誰もいないキッチンで自らの母親代わり・高槻舞の帰りを待ちながら晩御飯の料理を作っていると、突然自身のスマートフォンが振動……確認してみると母親代わり・舞からの着信だ。



「ん? ママ? どうしたんだろ……また残業かな」



 急遽仕事や厄介ごとが舞い込んだ場合、たまにこうして舞の帰りが遅くなることは多々ある。

 おそらくは今回もそう……桜子は「はぁ……」と小さく息を吐きながら通話ボタンをタップ。 スマートフォンを耳に当てた。



「もしもし、ママ? 今日も残ぎょ……」


『あ、桜子!? 今おうち!?」


「うん、家だよ。 どうしたの?」


『福田くんたちは!?』


「今日は帰ってからずっと1人だけど……」



 舞の声の様子からしてかなり焦っているように感じる。

 桜子は一体どうしたんだろうと理由を尋ねてみたのだが……



『お母さんの容態が急変したらしいの!! ママは今から直接病院に向かうから……桜子もタクシー呼んでこっち来れる!?』


「ーー……え」


『タクシーの電話番号、電話の隣に貼ってるから……なるべく急いで!』


「わ、わかった!!」



 なんてことだ、最近まで容態は落ち着いていたのにまさかここに来て急変するなんて。



 桜子は調理をすぐに中断。

 火を消しエプロンを外し、タクシー会社に電話をかけると、一目散に玄関を飛び出した。



「あ、そうだ! 一応このこと福田……くんやお姉ちゃんにも……!!」



 扉の施錠後、桜子は一瞬上の階に住む福田家へ視線を向けるもすぐに首を左右に振る。



「だ、ダメダメ。 そんなことしたら福田……くんたちに余計な心配かけちゃうもんね。 それよりも早くママのところへ……」



 桜子はスマートフォンを強く握りしめると駆け足で下の階へ。

 マンション前でタクシーに乗り、実の母親が入院している病院へと向かった。



 ◆◇◆◇



「ママ!!!」



 入院部屋の扉を勢いよく開けた桜子。 その瞳に映ったのは口に吸入器を取り付けられた母親の姿。

 愛娘の到着に気づいた母親が、虚ろな目でゆっくりと顔を桜子の方へと向けてきた。



「ママ……ママ!! 大丈夫!?」



 目に涙を溜めながら母親のもとへ駆け寄ると、母親はゆっくり……そして小さくコクリと頷く。

 どうやら危険な状態は脱したようで、隣で椅子に座っていた母親代わりの舞も「さっき容態が落ち着いたのよ」と桜子に優しく声をかける。



「そう……なんだ」


「でもまだお母さん、薬の影響でうまく喋れないらしいから……桜子、近くにいてあげて」


「うん、わかった」


「あ、それと……ちょっと桜子に大事な話があるの。 気持ちが落ち着いたら教えて欲しいな」



 私に話ってなんだろう。



 桜子はそんな舞の話の内容を少しは気になりつつも、やはり目の前で弱っている実の母親の方が何より大事……母親が眠りにつくまでずっと手を握り続けていた。



 ◆◇◆◇



「それでママ、話って?」



 静かに眠る母親を起こさないよう、桜子は声を最小限に抑えながら舞に尋ねる。



「あのね、桜子はお母さんにいつでも会いたいよね?」


「うん」


「それだったら……もし桜子がよかったらなんだけど、お家をこの病院の近くに引っ越そうと思うんだけど……どうかな?」


「え?」


「転校はしないでもいいって校長先生から許可は貰ってるの。 あとは桜子が決めるだけ」



 舞が桜子の目の高さになるようしゃがみこみ、まっすぐ瞳を見つめてくる。



「ーー……引っ越し、いいの?」


「うん。 でももちろんだけどそうなった場合、福田くんやエマちゃんたちと今後一緒に学校行くことはなくなっちゃうし、一緒に過ごす時間減っちゃうけどね」


「あっ……そっか」


「すぐには決めなくていいから。 桜子が本当にどうしたいかが決まったらママに教えて欲しいな」


「うん、ありがと……ママ」


「じゃあ明日も早いし帰ろっか」


「うん」



 こうして桜子は静かに眠る母親に「またくるね」と小さく告げて舞とともに家へ。

 帰宅途中のタクシー車内。 桜子が無言で俯いていると、舞が「どうしたの桜子」と頭を撫でながら話しかけてきた。



「あのね、ごめんねママ。 引っ越すか引っ越さないか……答えが出るまで結構時間かかるかも」


「いいよ。 ちなみにどこで悩んでるの? やっぱり福田くんたち?」


「うん。 引っ越せば学校帰りとか、すぐママに会いに行けるのは嬉しいの。 でももう福田……くんたちと学校に行ったり帰ったり、放課後一緒にいられないって考えたらちょっと寂しいな」


「そうなのね。 そんなに大きな存在なんだ、福田くんたち」


「そうだよ。 私が学校に馴染めたのも、こうして今のママと出会えたのも、ママと仲直り出来たのも、全部福田……くんのおかげだもん。 福田……くんがいなかったら私、多分今も学校では1人でイジメられてて、きっと今のママ……高槻先生とも会えてない。 それにまだママは怖い彼氏と一緒にいると思う」


「そっか。 じゃあ納得いくまで考えぬかないとね」


「うん」



 そう……福田ダイキと出会っていなければ、おそらく今とは全てが真逆の人生。


 彼はいつでも自分の味方でいてくれる……そんな彼と離れ離れになって、果たして自分はこの先うまくやっていけるのだろうか。

 それが甘い考えだと言われようとも、今の桜子にとってダイキはそれくらい大きな存在。

 ダイキとの時間と母との時間……そのどちらも失いたくない桜子は舞の肩に寄り添いながら静かに考え、知らない間に眠りに落ちていたのだった。


 

 私は……。


 

お読みいただきありがとうございます!!!

さて、いざ参りましょう!! ラストを飾ります、真・結城編!!!

以前の結城編と少し重なるところも少し出てきますが、その違い……そして結末をお楽しみください!!




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― 新着の感想 ―
[良い点] 今更だけどこのギャルゲ路線ほんと好き
[一言] ついにオーラスか・・・ 感無量ですな(後方腕組勢顔)
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