622 【ギャルJK星編】フェイク!!
六百二十二話 【ギャルJK星編】フェイク!!
まったく……今思えば最初からこうしておけばよかったんじゃないか。
「それじゃ、おばちゃんは懸賞に当たった温泉旅行行ってくるから、お留守番代行お願いしますね!!!」
某アニメに出てきそうなパン職人顔のギャルJK星の母が留守番代行サービスの女性社員2人に頭を下げる。
「はい、しっかり留守番しておきますので、素敵な土日をごゆるりとお過ごしください」
「娘さんは親戚の方と泊りがけで地方の遊園地でしたよね。」
「そうなのよー、ほんとなら一緒に行きたかったんだけどねー」
パン職人顔の母……パン母よ、なかなかの演技だぞ。
もちろんこれはオレたちで用意した台本で、留守番代行の社員も実は優香やギャルJK星のために特別休暇をとった女探偵と盗聴等に知識のある女刑事……『姫や美咲さんのためなら』と快く引き受けてくれたんだ。
これで家の中の捜索も完璧だろ。
「それじゃあユータローくんと、妹ちゃん。 美咲をよろしくね」
「はい」
「コクリ」
これも大体察していると思うがユータローは優香が男装したただのイケメンで、マスクをした妹がオレだ。
特にオレは女声とか出せないからな。 可愛らしく頷いておけば大丈夫だろう。
「じゃあ楽しんでおいでね美咲ー。 遊園地でいい出会いがあるといいわねー」
「う、うん」
ギャルJK星……やはり戸惑ってるな。 まぁ無理もない、この作戦は急遽決定……今朝優香がメールで簡単に流れだけを説明しただけなんだから。
その後タクシーで温泉へと向かうパン母を見送ったオレたちは別のワゴン車へ。 留守番代行役の2人に頭を下げると、家とは真逆の方向へと車を走らせてもらった。
◆◇◆◇
車を走らせてからおよそ30分。
「あー、やっぱ付いてきてるっぽいですね。 2台後ろの黒の軽自動車……さっきから距離空けてずっと同じ方向についてきてますわ」
「え」
「おっと、堂々と振り返らないでくださいよ。 それで勘づかれることもあるんですから」
車内のセンターミラー越しでオレたちにそう伝えたのは助手席に座っている助っ人の1人。
運転手に「じゃあいつも通りの手筈で行きましょうか」などと確認を取り、「とりあえずこのままこちらの有利な場所へ向かうので、それでいいですね姫」と後ろを振り返ってくる。
「うん、ごめんねありがとう」
「いえいえ、姫や美咲さんに危険が迫ってるのなら動くのは当たり前ですよ。 それにお2人には恩義を感じているんですから」
助っ人の男性が微笑みかけるもギャルJK星は表情を強張らせたままコクリと頷くだけ。
少しでもストーカーの視界に入りたくなかったのだろう。 小さく体を丸めて後ろから見える範囲を少なくしている。
「美咲もごめんね、いきなりこんなことになっちゃって」
「ううん、ゆーちゃんアタシのためにしてくれてんしょ。 嬉しいよ、ありがとね」
「この車内は安全だから」
「大丈夫ここでは泣かない。 今朝メールで『盗聴されてる可能性あるから声を出さないで』って来た時に静かに泣いたし」
今まで盗聴されていたって聞かされて動揺しない方がおかしいのだが、今はギャルJK星のメンタルが回復するのを待っている時間の余裕はない。
優香はギャルJK星の手を優しく包み込むように握りしめると、「じゃあ美咲、今は辛いしショックだろうけど、まずはなんでこうなったのかを詳しく説明するね」と話し出したのだった。
話をした内容としては以下の通り。
・室外機以外にも盗聴等されてる可能性があり非常に危険なため、留守番代行に扮した探偵とその道に詳しい刑事に速やかに調べてもらうために家を空けてもらった。
・オレや優香がこの格好……男装・女装をしているのはストーカー男に接触がバレたらお互いの身が危ないため。
・今日急遽こうなってしまったのは、普段ならストーカー男がいない時間帯……朝方にギャルJK星の家周辺に現れ、少し離れた場所に車を停めてジッと見つめていたと連絡があったため。
優香の説明をあらかた聴き終えたギャルJK星は「そう……なんだ」と小さく呟く。
より一層恐怖心が増してしまったのか身体をガタガタと震わせはじめ、「ごめん……ちょっとこうさせて」と優香に寄り添い強く抱きしめた。
「うん、いいよ美咲。 落ち着くまでこうしてよ。 私は……ううん、私もダイキも……もちろん今回の作戦に協力してくれてる人みんな美咲の味方だから。 恥ずかしがったり強がったりしないで私たちに任せて」
「ありがと……」
うむ、なんとも尊き友情かな。
2人の親密空間に足を踏み入れることのできなかったオレはこれからの動きを知りたかったこともあり助手席に座っている助っ人に話しかけてみることに。
「ちなみにこれからどこに向かうんですか?」と尋ねると、オレが想像していたよりも遥かに複雑な回答が返ってきた。
「うん、とりあえず今から高速道路に入ってとあるサービスエリアに向かうよ」
「高速ですか」
「そうだよ。 だって地方の遊園地に行くって名目上だからね。 それでそこには仲間がこの車と同じ見た目のワゴンを複数台用意してるから、僕たちはストーカーの目を盗んで別のワゴンに乗り換えて移動……そしてさらに念には念を入れてまた別のサービスエリアで今度は違う車種に乗り換えるんだ」
「な、なるほど……?」
それからも助っ人さんはその後のことも色々と教えてくれたのだが……まぁ凄かったよ。
その後の予定としては、オレたちはその更に乗り換えた違う車種の車に乗って速やかに自宅へ帰宅。
ストーカーが追う予定のこのワゴン車は実際に地方の遊園地へと向かい、そこには急遽用意したギャルJK星と同じ身長・髪型のマスク女性がいるのでその女性を単独行動させてギャルJK星と間違えたストーカー男に接触させる。 そしてそれを近くで監視している刑事さんに現行犯で捕らえてもらう……とのことだった。
「なんかもう凄いですね、お二人も警察の方なんですか?」
「いーや、違うよ。 どっちかというと僕たちは『闇』方面かな」
「ーー……え」
それってつまりヤク……
言葉を詰まらせたオレが良からぬ考えを脳内で繰り広げていると、それを察した助っ人さんが「いやいやいや!! 犯罪してるわけじゃないから安心して!!」とすかさず言葉を挟んでくる。
「ちょっと姫、弟くんにも教えてあげといてくださいよー。 勘違いさせちゃったじゃないですか」
「ごめんね。 そんな余裕なかったから」
「まぁそうですよね、それに姫も僕たちのこと説明するの難しいですもんね」
助っ人さんが優香からオレへと視線を戻す。
そしてようやく謎だった2人の正体を明かしてくれたのだった。
「多分小学生のキミには難しいし分からないと思うんだけど、僕たちは夜逃げ屋さんなんだ」
「夜逃げ屋?」
「うん。 誰にもバレないように夜中にこっそり速やかに引っ越しをするお仕事なんだ。 だからキミがさっき思っていたそういう人たちからしたら迷惑な存在かもね。 だってそういう人たちの被害にあっている人も逃すわけだから」
「な、なるほど」
本来なら夜逃げは夜中。
しかし今回は日中とのことで、いかに相手の目を誤魔化せられるかを考えたそう。 そうして探偵さんや刑事さんとも話し合い、なんとかこの作戦が構築されたらしい。
ていうかあれだな、今回は警察や探偵、夜逃げ屋……なんてドリームチームなんだ。
まさに光と闇の共演。 これなら本当にギャルJK星を助け出せることができるかもしれない。
オレたちは最初の目的地でもあるサービスエリアに到着。 身を低くさせながら同じ車種のワゴン車へ移動し、更に別のサービスエリアで違う車種……キャンピングカーに乗り込んで家へと戻ったのだった。
そしてその道中、朗報が舞い込んでくる。
「うん、仲間から連絡があったんだけど、例のストーカー男の乗った車……まんまと騙されて地方遊園地行きのワゴン車のあとを追いかけてるらしいよ」
よし!!!!
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