612 【優香編】特別編・親友からのサプライズ【挿絵有】
六百十二話 【優香編】特別編・親友からのサプライズ
その日は3年生に必要な教科書等の教材を受け取りに行く日。
朝。 優香が一人で学校へと向かっていると、もうすぐ校門に到着すると辺り……後ろから「ゆ、ユカちーーん!!」と七瀬珠子の声が聞こえてきた。
「ん? タマちん?」
声の感じからして何か焦っているのだろうか。 優香は首を傾げながらも振り返ることに。
しかしその瞬間、優香は我が目を疑った。
「え……え? サッちゃん?」
優香の視界がまず捉えたのは珠子の隣にいたもう1人の友達・早乙女ひかり。
ひかりは背が小さく臆病な性格で、髪型もどこかもっさりしていて寝癖がチャームポイントになっているほどに印象的な子だったのだが……
「ど、どうしたのサッちゃんその格好ーー!!」
一体何があったというのだろう。
優香の瞳に映るひかりは以前のひかりにあらず。 髪は明るい金色になっておりお世辞にも似合っているとは言えない赤い口紅……そしてほんのり紫色のアイシャドウまでつけてきている。
なんとなくひかりが参考にしたのであろう人物は身近にいるのだが……だけどどうして。
「な、ほらサッちゃん。 ユカちんも驚いてるやん。 やけんサッちゃんは前のサッちゃんに戻った方がええって」
珠子が必死にひかりに正気に戻るよう肩を揺らしながら語りかける。
しかしひかりはそんな珠子の言葉には目もくれず、まっすぐ優香を見上げて口を開いた。
「ウチ、美咲さんに憧れたん。 似合っとる?」
ひかりは自分の中での最高のギャルポーズなのであろう裏ピースをしながら優香に尋ねてくる。
「ああ、やっぱり美咲か。 なんとなく雰囲気寄せてるのかなーって思ったよ」
「で、似合っとる?」
「ん、んーー。 まぁポジティブに言ったら明るくなったよね」
「うん。 これでウチ、ユカちんをヤンキーたちから守れるけん」
「え」
突然のひかりのまっすぐな気持ちに優香は言葉を詰まらせる。
「私を……守るため?」
「うん。 この格好になったらウチ、心の中に美咲さんが思い浮かんで強くなれる気がするけん。 これでユカちんがちょっかい出されてるところ見たら止めに入れるはず」
「ーー……」
ひかりが両手で小さくガッツポーズ。 優香は思わず珠子に視線を移すと珠子が小さく頷いた。
「私も会ってすぐにユカちんと同じことサッちゃんに聞いたんよ。 そしたらさっきと同じ答えが返ってきて……ビックリやんね。 あの引っ込み思案のサッちゃんが」
それから3人は再び歩みを開始して学校へ。 どうやら先ほどのひかりの言葉は本気だったようで、今まで優香に何かしらの害を加えてきた女子たちを見つける度にひかりは優香の前へ……まるでボディーガードのように優香を守ろうと奮闘し始めたのだった。
「どうユカちん、ウチ、頼りになる?」
ひかりが自身に満ちた表情で優香に微笑んでくる。
「うん。 ちょっと恥ずかしいけど嬉しいよ、ありがとねサッちゃん」
なんてありがたい……もしも今後ひかりや珠子に困ることがあったら全力でサポートしよう。
そんなことを優香は心の中で思いながら教材の受け渡しをしている簡易テントを発見。 2人に声をかけ一緒にその列に並んでゲームの話で盛り上がっていたのだが……
「この……クソ女!!!!」
「「「!?!?!?」」」
突然優香たちの元に勢いよく教科書が投げられる。
投げられた先に視線を向けるとそこには複数人の女子。 退学になった不良男子と付き合っていた女子リーダーを筆頭に、優香たちを激しく睨みつけていた。
「よくも私の彼氏を退学に……!!! 他にも友達の彼氏とかもいたんやけん!!! なんで受験生っていう大事な時期にそんな将来を踏みにじることするん!!!」
女子リーダーが鬼のような形相で優香たちに詰め寄っていく。
そしてそれを止めようとひかりが「待って。 それ以上ユカちんに近寄らないで」と間に割って入ろうとするも、女子リーダーは何の躊躇もなくひかりの頬を激しくビンタ。 体勢を崩したひかりはバサリと倒れ優香の視界から一瞬で消えた。
「!!!」
「さ、サッちゃん!!」
この状況にいち早く反応したのは珠子。
急いでひかりの元へと駆け寄るも、珠子もひかりと同様。 怒り狂った女子リーダーの蹴りが腹部に炸裂し、息を乱しながらその場でお腹を押さえて崩れ去る。
ーー……え、何? 何が起こってるの?
目の前には頬を抑えて倒れ込んでいるひかりと腹部を両手で強く押さえながら丸く蹲っている珠子の姿。
さっきまであんなに楽しく幸せに……頼もしい声ももらったのに。
次はこいつらか。
奥底に眠っていた黒い何かが優香の心を一気に包み込み、それと同時に激しい憎悪と殺意が女子リーダーへと向けられる。
あぁ、もういいや殺す……完膚なきまでに。 もちろんお前を産み育てた家族も同罪だ。
優香はすぐにスマートフォンを取り出すとSNSアプリをタップ。 自分を『姫』と慕ってくれている親衛隊を呼び出し制圧してもらうべく文字を素早く打ち込んでいく。
【〇〇高校運動場、すぐに来て】
あとはこれを送信すれば目の前のこいつらは終わり……優香は送信ボタンの上へと親指をスライド。 敵の殲滅だけを望みながらそれをタップしようとしたのだが……
「分かってるんやけんスマホ使って何かしてるのは!!!!」
「!!!」
これは……先日しょけーした男子から聞いていたとでもいうのだろうか。
優香が送信ボタンを押すギリギリのところで女子リーダーは持っていた傘を思い切り振り下ろし優香の手を思い切り叩く。 そしてやはり覚悟した者の行動には一切の迷いがない……女子リーダーは優香の手からこぼれ落ちたスマートフォンが地面に落ちたことを確認するとすぐにそれを蹴り上げ仲間のもとへ。
合図を送ると仲間の女子がそのスマートフォンの画面を下にした状態で思い切り地面に叩きつけた。
「はは!! 見てや福田あんたのスマホ、もうバッキバキやけん使えんね!!!」
女子リーダーがゲラゲラ笑いながら優香の使用不可能になったスマートフォンを傘で指す。
ぶっちゃけデータ自体はパソコンにバックアップを取ってあるため何の問題もないのだが、これでは助けを呼ぶことができない。
「あーははは!! どーする!? なんか分かんないけど警察みたいな変な大人たちもこれで呼べんね!!!」
「ーー……謝ってももう遅いから」
「は? 何? ここにきてまだ強がり?」
「あぁめんどい……これだから低脳は」
「えーやだー。 1人でブツブツこわーい!!」
女子リーダー1人なら自分1人でもおそらく制圧くらいは出来るとは思うのだが、流石にそれをすれば自分の進路……内申点に傷がつく。
というよりもそれ以前に敵が1人ではない時点で複数で来られたら流石にやられるか。
一体どうすれば。
教師に助けを求めることも考えたのだが、生徒に溢れたこの状況ではおそらく教師たちからは見えないし声も届かない。
そしてそれを逆手に取った女子グループは速やかに優香の左右の腕を拘束……さらに教師たちの目の届かない校舎裏に移動するべく優香を引っ張っていく。
「離して。 汚い」
「は? 私からすれば大人使って彼氏退学に追い込んだお前の方が汚いっての。 これからたっぷり仕返しさせてもらうから」
力を込めて抵抗しようとするもやはり所詮は女子1人の力。
複数人相手では力で勝るはずもなく……
◆◇◆◇
連れて来られた場所は桜が咲き始めた体育館裏。
「あはは、やっと心置き無く福田、あんたをボコボコにできるわ」
両手を押さえつけられた状態で壁に押しやられた優香の目の前には女子リーダー。 ニヤリと口角を上げながら傘を思い切り振りかぶる。
「そんなことしていいの? 普通に血とか出るし犯罪。 後で確実に警察沙汰にするけど」
「いい!! どうせもう彼氏との学校生活できないんやったら私もうここに通う意味ないけん!!!」
なんて頭の悪い理由。
当の本人は真実の愛だと信じているのか「よくも〇〇をーーー!!!!」と彼氏らしき男の名前を叫びながら傘を勢いよく振り下ろす。
流石にこれは避けられない……ただこれで完全な傷害事件が成立する。 念のために仕込んでいたボイスレコーダーで声も録音してあるし、後でどんな制裁を加えてやろう。
優香は今までで1番の処刑を彼女たちにすることを決意。
その後少しでも自分への被害を抑えるために瞳を強く閉じ、来たる衝撃に備えることにした。
ーー……のだが。
「みーつけた♪」
聞き覚えのある声が聞こえたかと思うとすぐその後に女子リーダーが「ちょ、何だよお前ら、は、離して!!!」と絶叫。
それと同時になぜか自分の腕の拘束も解かれ、一体何事かと優香は目を開く。
「え」
その光景を目にした途端、優香を包んでいた黒い何かは一気に消滅。 優香の瞳に光が戻る。
それもそのはず……なぜなら優香の瞳に映っているものとは……
「み、美咲? それと……」
「ふふふん、何の挨拶もなくゆーちゃん転校しちゃったから、みんな悲しんでたんだべー?」
美咲が優香と視線が合うなり白い歯を見せながらニカッと笑う。
「み、んな……?」
「おう!! ゆーちゃんと同じクラスの仲間……全員集合さっ!!!」
何というサプライズなのだろうか。 そこには美咲を中心に以前同じクラスだったクラスメイトたちの姿。
皆が「優香、久しぶり!」やら「福田さん!! 寂しかったぞーー!!」などと熱い言葉を投げかけてくる。
「みんな……なんで?」
もちろんこの突然の状況に理解できない女子リーダーたちは一斉に動揺。
それを見た美咲は一歩前へ……自信に満ちた声でこう声をかけたのだった。
「なぁ、そこの多分同い年らしきキミら。 見たところゆーちゃんに大勢で酷いことしようとしてたみたいだけど……アタシらも参戦していいよな、もちろんゆーちゃんサイドで。 人数はこっちが多いけど気にすんな、キミらだって大勢で相手してたんだから」
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