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589 【夏までNOルート限定】希の夏休み③・本音


 五百八十九話  【夏までNOルート限定】希の夏休み③・本音



 夜。 待ちに待った晩御飯……バーベキューの時間となり、佳奈が満面の笑みで串に刺さった肉に噛みつき頬張る。



「んーー!! おいちーーー!!!」



 肉から垂れているタレで口周りが盛大に汚れている件に関しては今回は仕方のないこと……そこを気にしていないということはそれほどまでにこのバーベキューを楽しんでいるということなのだろう。

 希はそんな佳奈とは対照的……服に油が滴らないよう細心の注意を払いながら小さく頬張り、視線を佳奈の隣に立っていたダイキへと移した。



「ーー……ぐぬぬ。 おい三好、1つでいいから肉をくれ」



 ダイキが口からよだれを垂らしながら佳奈の持っている串に手を伸ばす。



「ダーメだよーん。 バーベキューのお肉を賭けようって言ったの福田じゃん。 それで全部負けちゃった福田が悪いんだよーん」


「あれは完全に2対1……オレをはめてたじゃねーか!!」



 そう、先ほどまでやっていたババ抜きでの罰ゲームは、1回負けるごとにバーベキュー時のお肉を勝った2人に差し出すというある意味デスゲーム。

 ちなみにあれから10戦ほど繰り広げたのだが、全てにおいてダイキが全敗していたのだ。



「だって力を合わせちゃダメってルールなかったもんねー。 そんなのあるんだったら最初に言うべきだったんじゃないのー?」



 そう嫌味を言いながら佳奈はダイキの目の前で改めて最後のお肉部分をパクリ。

「あーおいちーー!!!」と先ほどよりもオーバーリアクションで頬張ると、目の前で苦しむダイキの頭をわしゃわしゃと撫で回した。



「ぐっ……覚えてろよ三好に西園寺……!!! 風呂上がったら第2ラウンド始めるからな……!!」


「そーなんでちゅねー。 じゃあ今度は福田の得意なゲームで勝負してあげまちゅねー」


「最大級の罰ゲームを考えておいてやるぜ……!」


「なるほどでちゅー。 とりあえす福田もほら、美味しい野菜が焼けてまちゅよー」


「クッソオオオオオオオ!!!!!」



 その後ダイキは希に肉を恵んでもらおうと擦り寄ってきたのだが佳奈が完璧にガード。

「希、私が守ったげるから安心して食べてね!」とタレまみれの顔でニカッと微笑んだ。



「なぁ頼むぜ西園寺……もうオレには優しいお前しかいねーんだよ」


「こら福田! なに情に訴えかけようとしてんのさ! 負けたんだから大人しく他の食べてなー!」


「しかしもう肉がない!! 西園寺の肉しかない!」


「だったら野菜に焼肉のタレかけて食べればいいじゃん」


「しかし肉じゃない!」



 ここで佳奈は何かを思いついたのかニヤリと口角をあげながら一瞬希に視線を向ける。



「え、どうしたの佳奈」


「へへ、いいこと思いついちゃった」



 なんという悪い顔。

 佳奈は希にまるでこれからイタズラを計画している子供のように笑うと、再び視線をダイキの方へ……ダイキをあざ笑うかのように人差し指を突き出しながらこう言い放ったのだった。



「じゃあ……はい。福田! お肉のタレが染み込んだ佳奈ちゃんの指、おしゃぶりでもしまちゅかー?」



 この言葉には希も驚愕。

 なんというドS発言……心の中に隠れていた自分のドMが過剰に反応し股がキュッと締まる。

 流石にその発言にはダイキも怒り狂うだろうなと思っていたのだが……



「ふっ……甘く見るな。 そして後悔するなよ」



「「!!」」



 まさに高速……まさに閃光。



 ダイキはクールの微笑むと一瞬で佳奈や希の視界から姿を消す。

 そして次に希の耳に入ってきたものは……佳奈の絶叫だった。



 ◆◇◆◇



 

「はぁ……マジでありえない」



 浴室。 佳奈と2人で湯船に浸かっていると、佳奈が右手人差し指をジッと見つめながら唇を尖らせる。

 その後「普通さ、あの状況で指舐める……というよりしゃぶる?」と指先を希の方へ。



「にしては佳奈、嬉しそうだよ」


「んなわけないじゃん!! ふつーにキモいし!!」


「でも好きなんだよね?」


「ーー……そこ言わないでよ」



 佳奈は恥ずかしいのか鼻下まで湯船に浸かると顔を赤らめながらブクブクと水面に泡を立てた。

 


「ふふ、ごめんね」


「それに……希だってそうなんでしょ?」


「そうだね」



 こういった2人だけの空間というものが珍しいため、2人の話題は自ずと恋愛方面の話へ。 希が「ちなみに佳奈はいつから福田くんのこと気になりだしたの?」と佳奈に尋ねると、「は、はああ!?」と動揺しつつも小さく口を開いた。



「う、うーーん、いつだろ。 最初はそんなでもなかったんだけどね。 特にこういうことがあった……とかではないんだけど、気づけば……って感じかな」


「同じだね」


「え、そうなの!?」



 佳奈が前のめりになりながら希に顔を近づけてくる。



「うん。 私もそうだよ。 佳奈と一緒でこれがきっかけって言うのはないんだけど、気づけば友達としての『好き』から1人の男の子に対しての『好き』になってたんだよね」



 共通点があるというのは話が捗るもので、それから希と佳奈はダイキのどういうところに惹かれたのかをお互いに話すことに。 ちなみに希は『突き放されてるようで、なんだかんだで隣にいてくれてるところ』で、佳奈は『普通なら怒ったり見放されるようなことでも全て包み込むように許してくれるところ』。

 2人はそれぞれの思うダイキの良いところに「あるあるー!」「だよね」と盛り上がっていたのだが……



「てかさ、なんで希はまだ告白してないの?」



 突然佳奈が路線を変更。 不思議そうな顔で首を傾げ尋ねてくる。

 


「え」


「希だったら美人だし可愛いし優しいしマドンナ候補だしで、すぐにOK貰えそうだけど」


「あー……それは……」



 希は一瞬言葉を詰まらせ言うべきがどうかを判断。

 結果、佳奈は同じ人を好きになったいわばライバルでもあり仲間……少しくらいなら言ってもいいかという結論に至り、「今の私だと、まだ福田くんに相応しくないって思うから」と若干濁しながら答えた。



「福田に相応しくない? 希が?」


「うん」


「なんか難しそうだけど……きっと私には分かんない色々があるんだろうね」



 佳奈は相手の表情を読み取ることが得意なのだろうか。

 これ以上そこに関して踏み込まない方がいいと理解してくれたのか佳奈はそこで希への質問を中断。 自分も聞いてしまったからなのか、「逆に希が私に聞きたいこととかある?」と自ら尋ねてきた。



「え、いいの?」


「いいよ、私だって言いにくそうなこと聞いちゃったし」



 希はこの佳奈の言葉に甘えることに。

「じゃあ実際のところ佳奈はどうなの? 佳奈だって福田くんとは夫婦のように息ぴったりの言い合いとかしてるけど、なんで告白しないの?」と聞いてみたのだが、佳奈から返ってきた答えは希の耳を疑うものだった。



「んー……いやさ、本音いうと私、福田に告る気ないんだよね」



 一瞬浴室の空気が凍る。



「ーー……え、そうなの?」


「うん。 てかむしろ早く誰かと付き合って私を諦めさせてほしいくらい」



 佳奈が頭を掻きながら「えへへ」と笑う。

 もちろんそれについての理由を聞こうとしたのだが、そこに関して佳奈は詳しくは答えてくれず。 ただそこから追加で教えてくれたのは『今後もし福田の方から告白してきてくれたとしても、断ると思う』といった内容だけだった。



 佳奈も自分と同じように、何か大きなものを心に抱えているのだろう。

 それはもしかしたら自分のそれよりももっと大きな何か……告白されたとしても断るなんて相当だ。



「佳奈は……それでいいの?」


「うん、福田が幸せだったら私はそれでいいかな」



 ーー……!!!



 なんて儚げな笑顔。

 気づけば希は佳奈の腕を掴んでおり、そのまま自分の方へとゆっくり引き寄せ優しく抱きしめる。



「え、えええ!? の、希!?!?」



 佳奈は突然の希の行動に大焦り。

「ちょっ……私別に女の子同士がいいとかそういうわけじゃないよ!?」と言っていたのだが、希はそんな佳奈の耳元で小さく囁いた。



「なんか……理由は違うと思うけどお互いに難しいね。 でもだったらこんな時間って貴重だし……早くお風呂上がって福田くんとの思い出増やそっか」


「ーー……だね」



 こうして2人はお風呂から上がり、いざダイキ1人が待っていた寝室へ。

 ダイキはその後早く2人にリベンジを果たしたかったのかものの数分でお風呂を終わらせ部屋へと帰還……早速新たな罰ゲームを賭けた第2ラウンドが幕を開けたのであった。


お読みいただきましてありがとうございます!!

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