588 【夏までNOルート限定】希の夏休み②
五百八十八話 【夏までNOルート限定】希の夏休み②
別荘に入った希たちは早速今夜寝泊まりするための部屋へ。
木造のいかにも別荘といったような階段を上り扉を開けるとそこは10畳ほどの洋室。 予め誰かが準備してくれていたのか綺麗に畳まれた布団が3つ三角折りの状態で部屋の隅に置かれていた。
「うわああああ!! 私別荘とか初めてかも!! やっぱ希の家も親戚も凄いわ!!!」
佳奈は目をキラキラさせながら我先にと部屋の中へ入ると、「くはーーっ!! 自然さいこーー!!」と山の中特有の香りを鼻いっぱいに吸い込んだ。
「ねね、希は毎年ここに来てんの!?」
「そうだね、いつもはここでお母さんと私の2人で過ごすんだ」
「そうなんだ! あれ、お父さんは?」
「あ、うん。 お父さんはアウトドア結構好きだからね。 夜は室内じゃなくて外にテント張ってそこで寝てるんだよ」
「なるほど……暑そうだけど楽しそうだね!!」
ひとしきりはしゃいだ後に佳奈と窓から外の様子を覗き込むと、真下にある庭では早速親戚の大人たちがテントを張ったり今夜食べるバーベキューの準備を始めているのを発見する。
「え、今日バーベキューすんの!?」
「そうだよー」
「そうなの!? やったあああ!! じゃあなんか私も手伝った方がいいかな」
「ううん、私たちは部屋でゆっくりしてていいよって言われてるから大丈夫」
「えー、でもなんか悪いなー。 ちょっと私聞いてこよっかな」
「じゃあ私もついてくよ、佳奈だけ聞きに行かせるのも申し訳ないし」
まさか佳奈がそこまでお手伝い精神に……女子力に満ち溢れていたなんて。
学校でのイメージだと天真爛漫で……だけどたまに素直になれない可愛い女の子って感じだったのだが家でもこうしてお手伝いをしているのだろうか。
希は自分も負けていられないなと佳奈の女子力に軽く嫉妬。 そしてこの1泊2日のキャンプで何か女としてレベルアップしようと意気込み佳奈とともに部屋を出ようとしたのだが……
「ねぇ福田は行かないのー?」
部屋から出る一歩手前。
佳奈が後ろを振り返り壁にもたれかかっているダイキに話しかける。
「ん?」
「いやだからさ、私と希はこれからお手伝いに行こうって思ってるんだけど……福田は?」
「いやオレはパスー」
ダイキらしいといえばダイキらしい。
普通ならば女子にいいところを見せようと男子が張り切る場面ではあるのだが、ダイキは普通の男子にあらず。 「せっかくゆっくりしてていいって言われてんだから、ここは子供らしくその言葉に甘えようぜー?」と大きく背伸びをした。
「えーなんで? 福田も一緒に行こうよー。 楽しいと思うよー?」
「ムリムリ、オレに合わん」
「どこがー?」
「いやだって外のおじさんたち見だだろ。 タバコ咥えてワイワイ準備してるんだぜ? オレタバコの臭いマジで苦手で……それに酒も飲んでるのかテンションも高いしさ、明らかオレに絡んでくるの目に見えてるのになんでそんな死地に行かねばならん」
ダイキは断固としてその場を動かず、佳奈と希にも「お前らもやめといた方がいいぞー。 せっかくの可愛い服にタバコの臭いが付くし、変にセクハラされるのがオチだからな」と行かないよう諭してくる。
「え、そうなの福田。 タバコってそんなに臭うの? というよりもセクハラってマジ!?」
「信じられないなら行ってみろ。 後悔しても知らんぞ。 その可愛いワンピースも可哀想に」
「え、福田このワンピース可愛……え?」
佳奈が目をパチクリさせながらダイキを見つめる。
しかしそれでも佳奈は何かしらにお手伝いをしたいのか「じゃあどうしよ……」と呟きながらしばらく考え、「ねぇ希、聞きたいことあるんだけどさ」と希に話を振ってきた。
「ん、なに?」
「タバコの臭いはいいとして、希は本当にセクハラってされると思う?」
「あーうん。 確かに去年とかもそこまで酷くはないけどセクハラに近い発言はあったかな」
「じゃあさ、そこは福田が私らを守ってくれれば万事解決じゃん!!」
「「え」」
なんという力技。 なんという無茶ぶり。
この佳奈の発言に希とダイキの心の声が口から漏れシンクロ。 その後流石にそれはダイキが理不尽だと感じた希は「いやいや、それは福田くんが可哀想じゃない?」とフォローを入れるも、佳奈は「そうかな、私的には案外福田なら上手く立ち回れそうな感じするけどな」と返答。
これには希も一理あるなと思ってしまったため言葉を詰まらせてしまったのだが……
「いや勘弁してくれ。 いいじゃねーかみんなで部屋にいようぜ」
一瞬静まり返った空気の中ダイキがゆるく発言。
隣に置いてあった自身のリュックにヒジを置きながら「なぁ、それでいいだろ。 ここだと冷房も効いてて極楽なんだし」とエアコンを指差しながら佳奈に同意を求める。
「えー、確かに外は暑いかもしんないけど……でもお手伝いしないと申し訳なくない? せっかく誘ってくれたんだし」
「んー、オレはせっかく三好や西園寺とこうして一緒にいられるんだから、3人だけの時間を楽しみたいけどなぁー」
「「ーー……っ!!」」
「ん、なんだ? なに2人顔赤らめてんだよ。 熱中症気味なんだったら余計に行くなよー? てかだったらオレトランプとか遊び道具結構持ってきたからそれやろうぜー」
その言葉は魔法の言葉。
ダイキの言葉を受けた佳奈が目を逸らしながらも「は、はああ? そんなに遊びたいんだったら仕方ないし。 福田の遊び相手になってあげよっかなー」と福田の前へと歩み寄っていく。
「なんだよ結局は遊びたいんじゃねーか。 じゃあなにやる? まずは王道なトランプで遊ぶか」
「べ、別になんでもいいし」
佳奈が照れながらも視線を希へ。
分かる……分かるよ佳奈。 そうだよね、そんな嬉しいこと言われたらそっち優先しちゃうよね。
希はそんな佳奈に小さく頷くと、若干開けていた扉をゆっくりと閉めた。
「おっ、西園寺も遊ぶ気になったか。 ていうかお前も三好に負けないくらい顔赤いな。 とりあえずこっち来いよ、オレのいる場所が一番クーラーの風当たるから代わってやるぞ」
「う、うんありがと」
「そんで2人とも充分に涼んだらババ抜きしよーぜ! もちろん負けた奴は罰ゲームな!!」
◆◇◆◇
ババ抜きの最中、外から聞こえてきた明らかに酒に酔った下品なおじさんたちの笑い声を耳にしたダイキが「ほら行かなくて正解だった」と希と佳奈に交互に尋ねる。
「まぁ……そうかも」
「うん」
「な。 西園寺も三好も、ぶっちゃけこうやって3人で遊ぶ方が楽しいだろ?」
「福田は卑怯だよねー」
「本当に」
「は? なんでだよ」
佳奈と希は互いの顔を見つめ合い微笑み合うとダイキの問いかけには答えずにババ抜きを再開。
バーベキューが始まるまでの間、二人結託してダイキの負けを連発させたのだった。
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