579 【水島編】突然の絆
五百七十九話 【水島編】突然の絆
「な……お、お兄さんマジですか!?!?」
グッズの詰められた箱の中身を覗き、一番上に置いてあった雑誌に目がいったオレはあまりの衝撃に心の声を口から漏らす。
「え、ど、どうした?」
「お兄さんこれ、ラブカツの初期……まだ人気の出ていなかった時期に発売された数量限定ファンブックじゃないですかああああああああ!!!!」
「エエエエエエエ!?!?」
「し、しかもその隣にあるのは伝説のエロゲ……【幼女開発魔法】!! これあれですよね、描写や声があまりにもリアルでかつやり込み要素もかなりあったため一瞬で完売……中古も出回らなくなったほどの超絶レアゲームじゃないですかああああ!!!」
「な、なんで知ってるのおおおおおおお!?!?!?」
オレが尊敬を込めた眼差しで手を差し出すと水島兄もそれに応え握手。
この瞬間に何物にも例えられない謎の絆がオレたちの間に発生した。
「もしかして君もその……やったことあるのか?」
「ダイキって呼んでくださいよお兄さん。 えぇもちろん。 そのソフトを入手するのにかなり本気出しましたよ。 ちなみにオレは猫耳エンジェル幼女を生み出すことに成功してます」
「あぁあれか!! すべてのイベントをクリアしてアイテムを回収すること50周でようやく生み出すことのできる激レア幼女だな!」
「はい! さすがお兄さん話が早いですね!」
「だったらサイバーゴッド幼女も知ってるよな!? 俺もあれ苦労したぜ」
「えっ……ま、まさかお兄さんガチですか!?!? それって確か100周の引き継ぎを必要とするだけじゃなく、すべてのストーリーで1度でも敵に負けてしまったら生成不可になる都市伝説級の幼女じゃないですか……! う、噂じゃなくて本当に生み出せたんですか!?」
「フッ……ダイキくん、引きこもりを甘く見てもらっちゃあ困るぜ」
「お、お兄さん!!」
「ダイキくん!!」
なんて……なんて趣味に命をかけている男なんだこの人は!!
あれだ、記憶こそ朧げにはなってきているのだが、まるで前世のオレと当時の親友・工藤と同等か……いや、それ以上。
当時は寝る時間をも犠牲にして激レア幼女の開発に充て大学をよく休んだものだが、そんなオレらを遥かに凌駕する存在が目の前にいるなんて……。
「お兄さん、これガチで売るんですか? 確かにこのゲームは当時8千円くらいで売られてて今だったらプレミアついて10万はいきますけど……売って後悔しません? もう手に入らないかもそれないんですよ?」
「おお、そこまで知ってるとは本当に詳しいねダイキくん! でもいいんだ。 花江も言ってたけどこれらすべて親の金……自分は何もしないで買ったものなんだから」
水島兄は「まぁでもこのゲームたちには楽しませてもらったから後悔はないよ」と小さく微笑む。
そうなのか……実に勿体無い。 前世のオレだったらレア系だけでも買い取れるんだがな……こういう時に好きに動けないのが小学生の辛いところか。
「そうですか。 ただ他にもプレミア価格付きそうなのもありますし、流石にこれはプラスでお金渡せそうじゃないですか? パッと見た感じ状態も全部良いですし」
オレはそうフォローを入れつつもまるでお宝を見つける感覚でダンボールの中を捜索していく。
そしてついに……ついに見つけてしまったんだ。 最高級にその道のオタクが見たら震えが止まらなくなるのであろう一品が。
「ちょっ……お兄さんこれ……!!!」
そう言ってオレが取り出したのは箱の真ん中に若干穴が開き、他とは違いかなりボコボコ状態になったエロゲーパッケージ。
それは先ほどオレが興奮し水島兄と熱い会話を交わした【幼女開発魔法】のアップデート版ボックスで、応募した人の中から500名にのみ配布された【現実妹モード】という新モードがが実装された神ソフトだったのだ。
「お兄さんこれ……当たったんですか!?」
「まぁね! こればっかりは運だったけど当たった時は本当に幸せだったよ」
「ていうかこの追加ソフトだけでさっきの【幼女開発魔法】の倍以上は値段するんじゃないですか!?」
「え、そこも知ってるんだね」
「もちろんですよ!! オレは外れた側の人間なんですけど、ネットオークションとか常に張り付いて勝負を繰り広げてましたもん!!」
ヤベェ、手の震えが止まらねぇ。
しかしここでオレは気になることを水島兄に尋ねることに。 それはもちろんなぜこの箱だけがボコボコなのかという件について。
出荷の際の事故なのか、はたまた水島兄の注意不足から踏んづけてしまったのか。
そしてその答えを聞いたオレは酷く動揺……それと同時に怒りがふつふつと湧き上がってくることとなった。
「あ、それか……。 うん、それも俺が全体的に悪いんだけど、さっき花江に踏まれたんだよね」
「え、妹さんに?」
なん……だと……
「それは……本当なんですかお兄さん」
「うん。 でも本当に俺が悪かったんだ。 君……ダイキくんのお姉さんにひどいこと言っちゃったし母や父にも暴言を……そりゃあ花江が怒るのも仕方ないよ」
「い、いや、それとこれとは話が別でしょう!! 別に他のを踏めってわけでもないですけどお兄さんの宝を……わざわざこの箱を踏んづけるなんて……」
軽く振ってみると中にも被害が被っているのかガシャガシャと小さな何かが上下に移動する音が聞こえてくる。
なんか嫌な予感がするぜ……。
「す、すみませんお兄さん。 中開けて確認しても良いですか?」
「良いよ」
「じゃ、じゃあちょっと中身失礼します」
オレはヨレたりシワシワになった上蓋を開けて中を覗き込む。
するとどうだろう……アップデートディスクが入っていたケースはバリバリに割れ、特典として入っていたらしきミニ資料集もグチャグチャに。 それでもディスク本体が無事だったら……と手にとってみたのだが……
パキッ
「え」
ヒビがすでに入っていたのかオレがそれを手にした瞬間何の力も加えることなく真っ二つに割れる。
「あぁ……怖くて見れなかったけど、やっぱり無事じゃなかったか」
水島あああああああああああああああ!!!!!!!!
オレは割れたディスクを箱の上にそっと置くとメールで水島だけを呼び出すことに。
その際水島兄には今から起きることは誰にも……もちろん両親にも何も言わないことを約束してもらい、水島がここへやってくるのを待った。
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