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578 【水島編】覚悟


 五百七十八話  【水島編】覚悟



 なんてことだ。

 これは……冗談だよな。 まさか学年のマドンナとも言われている水島の母親から『自分の娘と結婚してほしい』と言われるだなんて。


 オレはこの水島母の冗談とも分からない発言に対してはきちんとした返答はできず。

「ねぇ福田くん、どうかな?」と再度聞かれても「あはは……どうなんですかねー」とふわふわ浮いたようなことしか言えないでいたのだった。



 くそ……気まずいな。 早く水島戻ってこいよこのやろう。



 オレが心の中で早い水島の帰還を叫んでいると、これは奴隷に主人の言葉が届いたのだろうか。 2階の方から階段を降りてくる2人の足音が聞こえてくる。



「あれ、この音って……」


「そうね。 花江と……あの子かな」



 オレと水島母は小さく頷きあいながらも視線をリビングの入り口へ。

 するとすぐにリビングの扉が開かれ、先に水島が登場……その後少し遅れてまったく威勢の感じられない水島兄が入ってくる。



「え、あ……君はさっきの……」



 部屋に入ってくるやいなや水島兄はオレの存在に気づき、いかにも気まずそうな表情で顔を別の方向へと向ける。



「あー、あの、お邪魔してます」


「は、はい。 で、ででではその……ご、ごゆっくり」



 え、あれ? 水島と話がついたからその報告に来たんじゃないのか?

 水島兄はすぐに体の向きを反転。 オレに背を向けそそくさと自分の部屋へと戻ろうとしていたのだが……



「へー、いいのそれで」



 水島がすぐに兄の腕を掴むと静かに囁く。



「え、でも……花江のお、おおお、お友達が」


「いいの。 福田くんはアドバイザーだから」



「ア……アドバイザー?」

「アドバイザー?」


 

 オレと水島兄の声が重なる。

 しかしここにも水島は一切反応せず、淡々と言葉を続けた。



「そうだよ。 福田くんはね、テストの点数はイマイチなんだけど実は頭がいいの。 だからお兄ちゃんは普通に私とママとお話すればいいんだよ。 もしお兄ちゃんが変なこと……私やママを騙すようなこと言ったらきっと福田くんが気づいてくれるはずだから、そしたらその時点であの話は無し……正直に話すことをお勧めしておくね」



「え」

「え」

「え」



 何がどうしてそうなってしまったんだ。

 オレは水島に謎の大役を任命されることに。 そうして話し合いが開始……水島兄が家にいてもいい代わりに家事手伝いや学校にも行く……といったことを親子3人で話し出したのだった。



 ◆◇◆◇



 あれからしばらく。

 水島兄との話は順調に進んでいき、水島兄は母や娘の要求……家事手伝いや大学にもちゃんと行くことを約束。 就職活動にも精を出すことを誓い、残りはペナルティの話になった時のことだった。

 水島兄が驚くような発言をしたんだ。



「置いてくれるだけで社会不適合者の俺には本当にありがたい。 だからせめてもの感謝の意味も込めてPCゲームやグッズは全て売ってそのお金をお母さんや花江に……今までのお詫びとして全部渡そうと思ってる」



 この言葉には水島も水島母も絶句。

『あの兄が?』と言わんばかりの表情でお互いに顔を合わせると、今までの行動のせいで本当に信用されていないんだな。 「それは本当? ただ罪を軽くしてほしいがための言葉じゃないの?」と母が尋ねた。



「いやいやそんな。 部屋でグッズを箱に詰めてる時に気づいたんだ。 あぁ……自分はこんなにも多くのグッズ代にお金を……しかも親のお金を注ぎ込んでいたんだなって」


「やっと気づいたの?」


「あぁ……やっと気づいた。 バイトもせずに学校もサボって……お小遣いだけせびって気づけばこんなにも大金を親からむしりとって……本来ならそれを売ったお金で当分の生活費に充てようって考えてたんだけど、家に置いてくれるならそのお金は俺に必要ない。 少しはいい金額になるはずだからそれでお父さん入れた3人で美味しいもの食べたりしてきてほしい」



 水島兄のやつ……崖っぷちに立たされてようやく己がしてきたことについて気づいたようだな。

 オタクがグッズを手放すなんてそう簡単にできることじゃない……こいつは本当に反省をしているようだ。



 オレは水島兄の心を入れ替えるとも取れる決意に感動。

 優香を愚弄したことは今後一生許すことはないとしても、先ほどの言葉はなんだかんだで信用に値する……オレは「それでいいんじゃないかな。 なぁ水島」と、この件についての話を終わらせにかかろうとしたのだが。



「だーめ。 騙されちゃダメだよ福田くん」



 水島は首を左右に振りながらオレの言葉を遮り、頬をぷくっと膨らませながら兄を見上げる。



「えっ花江、な、なんで……」


「あのねお兄ちゃん。 さっきのお兄ちゃんの言葉は確かに反省してるんだなって思わせられるかもしれないけど、私は騙されないよ? グッズを売るって言っても全部中古なんでしょ? 中古品がそんな高く売れるわけがない……それにそんなことで誠意を見せようとしないでほしいな」


「そ、そんなつもりじゃ……」


「ううん、ダメ。 そういうのは自分で動いてから少しずつ結果を見せてくれないと。 なんでママたちのお金で買ったグッズを売ってそのお金を渡すことが反省に繋がるの?」


「ーー……」



 水島兄が力なく俯く。


 まぁ……確かにな。 アニメやゲームにしても、それ関係のグッズってぶっちゃけそれを好きな人にしか大切なものだと分かってもらえないもんな。

 だけど水島の『自分で動いて結果を見せて』も、実際にマドンナとして色々と周囲に目を向けている水島だからこそ言える言葉……水島兄の心意気も分かるけどそれに納得出来ていない水島の気持ちも痛いほど分かるぜ。



 オレはどうしたものかと一瞬窓の方に視線を向けると、もう外は真っ暗。



 あぁ……早く帰りてぇなあ。



 このまま平行線のままでは話がさらに長く……そしてややこしくなりかねない。 これに父親まで加わったらもっとカオスになりそうな予感……それまでに落とし所を意地でも見つけないといけないよな。



 オレは何かヒントがないものかとぐるりと周囲を見渡す。

 しかしこれと言って何もヒントとなるようなものは見つけられずに視線を水島兄の方へ。 こいつもオタク……自分の大事なグッズを売ろうとしているんだからその勇気に免じて少しはフォローしてやりたいんだがなと考えていたのだが……

 


 ーー……ん、待てよ。



 ここでオレの脳が急速に回転。

 水島兄の今までの行動や、先ほどの彼の言動を思い返していく。



 水島兄はオタクで、確か水島が5年生になる前からアニメやゲームで家に引きこもっていた。 ということはオタク歴は結構なもの……集めてたグッズやゲームなどの量もかなりあるはずだ。

 それを今回水島兄は売ることを決意。 それについて先ほど『そのお金を当分の生活費にするはずだった』やら『少しはいい金額になるはず』と言っていたよな。

 ということはもしかして……



「あのーすみません」



 オレは小さく手をあげながら水島兄に話しかける。



「な、なにかな」


「お兄さんはオタ……ううん、アニメやゲームを好きになってどのくらいなんですか?」


「え?」


「お願いです教えてください」


「そ、それはもうあれだよ……花江が小学校に上がってすぐくらいだから少なくとも5年は経ってるよ」


「なるほど」



 これはもしかしたらワンチャンスあるかもしれないな。



 オレはその場でおもむろに立ち上がると「そのグッズを良ければ見せてもらえませんか?」と提案。

 しかしそれに対し水島兄は「え、でもそこには18禁とかも……」と少々渋っていたのだが、もうこれしか方法はなさそうだしオレも早く帰りたいんだ。 ここは無理を言ってでも見せてもらうぜ。



「大丈夫です理解あるんで」


「え?」


「お願いします。 悪いようにはしません」


「ま、まぁ……ならいいけど」


 

 こうしてオレは水島と水島母の2人を残して水島兄とともに彼の部屋へ。

 彼の売ろうとしていたグッズの詰まった段ボールの中身を見せてもらうことにしたのだった。



「あのダンボールだよ」


「なるほど、ダンボール5箱……結構ありますね」


「まぁオタク歴長いからね。 気持ち悪いだろ?」


「いえいえそんな。 オレには分かりますよ。 グッズ手放す覚悟」


「え」



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