577 【水島編】特別編・ご主人様のように
五百七十七話 【水島編】特別編・ご主人様のように
兄の部屋の前。 花江は小さく深呼吸……兄に舐められてはいけないと心に誓い、以前までの優等生だった自分に切り替え扉を開けた。
「お兄ちゃん」
「は、花江……」
あぁ、なんて弱々しい姿なのだろう。
以前まで自分が勝手に感じていた兄の威厳は何処へやら。 前までの兄なら軽く鼻息を荒げながら自分に抱きつき、なんだかんだで可愛がってくれていたのだが……今の兄はどうだ? 背中を丸め、小さくなりながら売れそうなグッズを箱の中に詰め込んでいる。
この兄が数時間前まで威勢良くダイキの姉・優香やその友美咲に暴言を吐いていたなんて。
「どうお兄ちゃん。 今の気持ち」
「どうって……?」
「私、今までお兄ちゃんに何されても嫌だって感じなかった……むしろ大好きだったのに、それをお兄ちゃんは全部自分でめちゃくちゃにしたんだよ?」
「『私』って……なるほどな、俺が前に教えた清楚な優等生キャラか」
「そうだよ。 でもこのキャラを演じるのもこれでお終い……お兄ちゃんに教えてもらったからこそ、もうすぐいなくなるお兄ちゃんの前で終わらせようかなって」
「そっか」
花江はゆっくりと兄の前へ。
段ボールの中に何が入れられているのか気になったので見てみるとR18……成人向けのPCゲームが数本。 花江はその中の1本を取り出し、ため息をつきながらそれを見つめた。
「今まで黙ってたんだけどお兄ちゃんあれでしょ? 高校生のとき、女の子に誰にも振り向いてもらえなかったから……むしろみんなから嫌われちゃってたから私にこのエッチなゲームみたいなことして満たされようとしたんだよね」
「え」
兄が体をビクンと反応させながら視線を花江の持つゲームへと向ける。
「そ、そんなことは決して……」
「見苦しいなぁ全部知ってるよ? お兄ちゃん、そのゲーム私の前でよくしてたけど似たようなこと実際にしてきてたじゃない。 私のパンツを盗んでそういうことしてたり、私のその……ここが膨らみかけてきた頃からタイミングを見計らってお風呂場に入って来てたり。 もちろん私を抱っこするときにどさくさに紛れて触ってきたりね」
「ーー……」
やはり……というか確実に図星。
兄は花江の言葉に一切否定をせず「やっぱりバレてたか」と小さく呟く。
「そりゃ気づくよ。 私だってもう6年生……お気に入りのパンツだってあるし、成長しかけの裸を見られるのだって恥ずかしい……いつまでも何も知らない低学年じゃないんだよ?」
「ーー……」
「でもなんでそれでも黙って許してたかというとね、そんなことされてもそれ以上にお兄ちゃんが好きだったから。 お兄ちゃんが幸せそうだと私も嬉しくて……お兄ちゃんが笑ってるだけでちょっとでも嫌だなって感じてたことも全部忘れられたのに。 なのに……なんでたった1つ自分の思い通りにならなかっただけで、私の大好きな家族の空気を壊すの? 大好きなお友達の家族をバカにするの?」
花江は持っていたPCゲームを床に落とすと、その箱を勢いよく踏みつける。
「あ……あああああああああ!!!!!」
足をあげてみると箱の表面はグシャリとへこみシワだらけに。 中に入っていたディスクケースが割れたのかバリバリっと音がする。
もちろんこれには兄も反応。 顔を真っ赤にさせながら「なっ……!! ちょ、こら……!!! 花江!!!!」と花江の胸ぐらを掴み、「どうすんだよ!! こうなったら金にならない……売れないじゃないか!!!」と唾を撒き散らして詰め寄ってきたのだが……
「離して? じゃないと叫ぶよ? いいの?」
「ーー……!!」
花江は兄の恫喝に一切怯えず。
まっすぐ兄を見上げ冷静に語りかけると、兄も花江の本気さが伝わったのかすぐに手を離す。
「ちょ……そ、それは卑怯だぞ」
「卑怯? 私の大事なお友達のお姉さんたちにあれだけ酷いこと言って迷惑かけておいて……よくそんなことが言えるよね。 卑怯なのはお兄ちゃんでしょ? たくさんの人たちの前であんなみっともない姿見せて私の印象を悪くしたんだから」
「え」
「お兄ちゃん知ってるでしょ? 私が学年のマドンナだって。 あ、もしかしてそこからも落とそうとしての行動だったってこと? それは流石に醜いよお兄ちゃん」
「は、はぁ!? さ、流石に俺もそこまで考えては……」
「そうだよね。 お兄ちゃんは私が何も気づいてないと思って行動がエスカレートしていっただけのただの勘違いバカだもんね。 それにパパやママが今までお兄ちゃんに怒らなかったのはすでに諦められていたからってことにも気づかなかった鈍臭い男なんだもんね」
「な、なん……!!」
花江は再度足下にあったPCゲームを踏みつけると、ボコボコになったそれを兄の方へ軽く蹴る。
その後くるりと兄に背を向け、部屋から立ち去ろうとする『演技』をした。
ーー……そろそろいいかな。
花江は兄の部屋から出る一歩手前でピタッと足を止めると静かに後ろを振り返る。
さっきの言葉が完全に効いているのだろう、兄はこちらには一切視線を向けず頭を抱えながらその場でうずくまっている。
流石にちょっと言いすぎた感はあったけれどこれも作戦のうち……自分のご主人様・ダイキならこうするはずだ。
そう、落としてから上げて、時々縛る。
以前自分もダイキをハメようとして返り討ちにあった際、あの時は完全に自分の学校生活は破綻するものだと思っていたのだが実際表向きは何も変わらず……今まで通り周囲からはマドンナとして慕われ、ダイキも別に皆の前で高圧的な態度で出てくることなどもなかったのだ。
あの一件から花江のダイキに対する感情は【絶望】から少しずつ【服従】……そして【好感】へ。
なのでまずは花江もあの頃のダイキと同じように兄を一度落とし、少しずつ上げて【服従】へと持っていき、最終的には完全に行動を縛ろうと考えたのだ。
だからこそ最初に兄に掛けてあげる言葉はこれしかない。
「助けてほしい?」
「え」
兄は花江の救いの言葉にすぐに反応。
藁にもすがる表情で赤くなっていた目を大きく開きながら花江を見上げる。
「そ、それは本当なのか花江」
「うん。 なんだかんだでお兄ちゃんだしね。 それにまだほんの少しだけど情はあるし」
「だ、だったら頼む!!! 俺は家事もできないしバイトもできない……!! このまま1人外に出されても野垂れ死ぬだけなんだ!! だから花江、どうか俺を……!!!」
「そうだよね。 お兄ちゃんは1人じゃお菓子作り以外何もできない。 私がいないと……」
「そ、そうだその通りだ!! 俺には花江がいないと生きていけないんだ!! だからお願いだ、俺を助けてくれ!!!」
まさに必死。
兄が四つん這いのまますり寄ってくると花江の腰に力強く抱きついてくる。
なので花江はゆっくりと体を兄の方へ向けると、自らの足の甲を兄の股間部分に軽く押し付け、上下に摩りつけた。
「は、花江!?」
「ーー……うん、この行動は心からの行動みたいだね。 興奮してない」
何がとは言わないがむしろフニャフニャでどこにあるのかすら分からないくらい。
ということは本当に追い詰められている……第一段階クリアということだ。 それを確認した花江は小さく安堵の息を吐くとゆっくりとしゃがみこんで顔を兄の前へ。
絶望の淵にいるような表情の兄の耳元でこう囁いたのだった。
「いいよ、助けてあげる。 でも条件付き……これを破ったら即刻出て行ってもらうからね」
「わ、わかった!! 条件なんでも受け入れるよ!! だからどうか俺を……!!!」
「うん、じゃあ今からお兄ちゃんは奴隷ね。 条件は一階にママがいるからそこで話し合おっか」
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