576 【水島編】Hanae's Idea!
五百七十六話 【水島編】Hanae's Idea!
カラオケで予約していた時間は19時までのフリータイム。
しかし流石にそこまで長々とゲーム機の充電が続くわけもなく、大体16時頃だろうか。 そろそろ帰ろうかといった流れになりつつあった時だった。
「お姉さんや美咲ちゃんはこれから予定あるの?」
ゲーム機を小さなリュックに直した水島が優香とギャルJK星に尋ねる。
「私は特にないよ。 お買い物して帰るくらいかな」
「アタシもそーだなー、華のJKなのになんもねーや。 花ちゃんの件もこれ以上面倒ごとにならないっぽいし、家に帰るくらいだべ」
「ほんと? じゃあさ、これから福田くん借りてもいい?」
「うん、いいよ」
「おっ! 美女からのご指名じゃんか! やったなダイキ!」
「え、あ、はい」
まぁ元から行く予定だったんですけどね。
そこをあえて優香たちに確認をとる辺りさすがはマドンナ……気配りに長けているぜ。
そうして連れてこられたのは水島家。
インターホンを押すと玄関から水島母が顔を出し、「花江ちゃん、おかえり」と満面の笑みで水島に歩み寄ってきた。
「福田くんはここまで花江を送ってきてくれたの? ありがとう」
「違うよママー。 福田くんにはまだちょっといてもらわないと困るの」
そう言うと水島は「ほら福田くん、ここは寒いしリビング行こ」とオレの腕を無理やり引っ張り家の中へ。 「ママにも話があるのー」とのことで、オレと水島母はリビングのテーブルに座らされた。
◆◇◆◇
「お兄ちゃんは?」
席に着くなり水島は水島兄の部屋があるのであろう2階の方に視線を向けながら母に尋ねる。
「今自分の部屋で荷造りさせてるよ。 あとアニメのグッズとかも全部売ってもらうからダンボールに詰めてるんじゃないかな」
おお、本当に追い出すつもりだったとは。
普通なら可愛い我が子をそこまでしないと思っていたのだが……まぁでも今回は結城と結城母のような難しい関係でもないからな。 水島兄はあれだけ自己中心的に生活してたんだ。 そりゃあ見放されるのも仕方ないか。
とりあえずこれで荒ぶる水島兄の件は一件落着……なのか?
しかしながらオレはカラオケ店での水島の発言……『花ちゃんいいこと思いついちゃった』がずっと気になっていたため聞いてみることに。 すると水島はニコッとオレに微笑んだ後に水島母へと視線を移した。
「ん? どうしたの花江ちゃん」
「ねぇママ、ほんとーにお兄ちゃん追い出すだけで……それでいいの?」
「え?」
水島母が「今更何を」と言いたげな表情で水島を見つめ返す。
ちなみにオレも心の中で『こいつ今更何言ってんだ?』などと突っ込んでいたのだが、オレや水島母の心情など気にしていなさそうな水島は話を続けた。
「花ちゃん思うんだー。 もし今のお兄ちゃんを外に……野に放ったら、何か犯罪起こしそうじゃない?」
「「え」」
「だってカラオケでもずっと福田くんのお姉さんや美咲ちゃんの胸とか脚をニヤニヤしながら見てたんだよ? 失うものがなくなった人はなんでもするってテレビでも犯罪評論家の人言ってたもん」
「「え」」
「だから普通に追い出すのはやめて、逆にこれを最後のチャンスだと思わせてお兄ちゃんの行動を操ればいいと思うんだけど、どう思う?」
「「?」」
「お兄ちゃんを奴隷……コホンコホン、お手伝いさんにしよーよ」
「「えええええええええええ!?!?!?!?」」
◆◇◆◇
水島の話ではこうだ。
お小遣いが欲しければ大学にはちゃんと行き就職活動をするのは最低条件として、家ではまずはお皿洗いや掃除・洗濯などの簡単な家事をしてもらう。
ちなみにお小遣いは月末に1万円支給するが、何かをサボったりミスするたびに500円ずつ減少……最後に残ったお金が支払われる。 なので8回ミスれば4千円がマイナスされた6千円が支払われるってことだな。
うん。 確かにそれなら水島兄はお金が入るし家族も安心できる……オレはなかなかいい案だなと感心していたのだが、水島母は何か引っかかることがあるような表情。
小さく首を傾げながら「じゃあさ花江ちゃん、ちょっといい?」と質問を挟んだ。
「どうしたのママー」
「あのね、花江ちゃんの考えは凄く考えられてて良いって思うんだけど、もしすぐにお小遣いが0円になっちゃったらお兄ちゃん……その月は何もしなくならないかな?」
「んーとね、じゃあそのマイナスは翌月に繰り越しで、1年で2回マイナスになったらその場で家から出て行ってもらうことにする? そしたらお兄ちゃんも必死にすると思うなー」
「「おお……」」
オレと水島母の声が同時に漏れる。
おそらくは水島もそこまで深くは考えていなかったとは思うのだがこの対応力……流石は高校生にも匹敵する脳の持ち主だぜ。
これには水島母も「確かにそれならあの子も必死にやることになるかもね」と感心からか大きく首を縦に振っている。
「でしょー? それで、ママもこれお兄ちゃんにされたら嫌だなーっていうのを決めて、それをお兄ちゃんがした瞬間にお小遣いマイナス五百円にすればいいんだよ」
「それいいかもね!」
「ね、そうしよー」
ーー……。
先ほど水島も口を滑らせかけていたけど、普通に聞いているだけでも水島兄への扱いがもはや奴隷……オレが以前水島を掌握したときのそれとだいぶ酷似している気がするぜ。
もしかして水島のやつ、オレの行動からヒントを得たとか……いや、まさかな。
結果、水島は母への説得を完了。
すぐに水島は兄には自分が説明してくると言い、オレと水島母をリビングへと残して兄の部屋へ……しかしあれだな、水島もここまでは気が回らなかったようだ。
オレの目の前には水島母。 そして2人だけの空間。
「ーー……」
「ーー……」
なんとも気まずい無言の時間が流れ出し、ここはオレが適当に話題を振った方がいいのでないかと感じてとりあえず「あ、あの……」と話しかけようとしたのだが……
「ありがとうね、福田くん」
オレが声を出すよりも先、水島母がオレに深々と頭を下げる。
「え、どうしました急に」
「姫……いえ、お姉さんにも迷惑かけて。 でもおかげで助かったわ。 それにあの子のいつも通りの雰囲気見てたら、福田くんのお家に泊まってる間も何不自由なく大事にされてたんだなって」
「あーー、まぁ大事な同級生……友達ですしね」
「それに聞いた話だと花江ちゃんに『素の自分を出した方がいい』ってアドバイスをしたのも福田くんらしいじゃない? あれからあの子、今まで以上に生き生きしてて……そこもお礼が言いたかったの。 改めてありがとう」
水島のやつ、そこまで言ってたのかよ。
オレはあいつが変なこと言ってないだろうななどと疑いつつも水島母との会話を続ける。
「いえいえ。 あまりの変わりように流石に驚きましたけどね」
「いいのそれで。 なんて言うのかな……これは母親だからこそ分かるのかもしれないんだけど、花江ちゃんの中で重しになっていた何かが落ちたっていうのかな。 あの辺から今まで以上に笑うようになってね、私たち夫婦も安心してたのよ」
「そうだったんですねー」
そこからも結構話は続いていたのだが、ほとんどが家での娘のこと。
なのでオレは途中から「はいはい」・「なるほど」・「それは良かったですー」の3択で答えていたのだが、それは突然起こった。
「だからね、やっぱり花江には自分を出せる相手がいるってことが大事だと思うの」
「はいはい」
「福田くんみたいな理解あるお友達に出会えて本当に良かったわー」
「それは良かったですー」
「このまま2人お付き合いしてくれないかなー。 福田くんみたいな優しい男の子が彼氏……ゆくゆくは旦那さんになったらあの子も幸せになると思うの」
「なるほど」
ーー……ん?
今、なんて言った?
オレは目を大きく見開きながら水島母を見つめる。
「あ、あの……今なんておっしゃいました?」
「え? だから福田くんが花江とお付き合いしてくれたら嬉しいなーって」
ーー……え。
「ええええええええええええええええ!?!?!?!?」
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