575 【水島編】勝敗!!
五百七十五話 【水島編】勝敗!!
あれから30分くらい経っただろうか。 なんとか水島が泣き止み落ち着いたのを確認したオレは「とりあえず……もうお兄さんとの対決はやめて帰るか?」と提案。
すると水島もそうしたいとのことでオレが水島の手を優しく引っ張りながら部屋へと戻ったわけなのだが……
◆◇◆◇
どうか血の海みたいな惨劇だけは勘弁してくれ……そう願いながら扉を開けると、そこにはオレや水島の想像を遥かに越えた光景が広がっていた。
扉を開けた先……そこでは優香とギャルJK星が真顔で座っており、2人の向けていた視線の先を追ってみると顔をパンパンに腫らせて小さくなっている水島兄。 そしてそんな水島兄の隣には何故か水島母の姿。
「え、なんで水島のお母さんが?」
「なんでママ……?」
オレたちが唖然としているとそれに気づいた優香が小さく手招き。
意味が分からないまま優香の隣に座ると、優香が簡潔に事の顛末を話してくれた。
「実はね、お姉ちゃん……ゲーム始める前にお兄さんに確認してたでしょ?」
「え? あー、こっちが勝ったら……みたいなやつ?」
「そうそう」
話によると、どうやらあの時優香は1人でも証人を増やしたかったらしくスマートフォンを通話状態に……水島母のスマートフォンと繋がった状態で確認をとっていたとのこと。
そのまま対戦をして勝敗の分かる音声を水島母に聞かせようとしていたらしいのだが、まさかのタイミングで水島兄が優香に暴言……ブチギレた優香国の民・水島母が部屋に乗り込んできて往復ビンタを喰らわせ今に至るということだった。
「ごしゅ……福田くん、優香国の民ってなに?」
「あー……それはいずれ教えてやるよ」
オレは答えづらい水島の質問を一旦保留。
「とりあえず今は目の前のことだろ」と再び水島兄の方へと視線を戻した。
「ほんっとアンタは!! 今回ばっかりはお母さんも我慢ならないわ!!! 姫に……ううん、女の子にあんな暴言まで吐いて恥ずかしいと思わないの!?!?」
水島母がこめかみに血管を浮かび上がらせながら息子にぶちギレる。
「ずびば……ぜん」
「今まではあんまり怒っても意味がないって半ば諦めてたけど……もうこれで目が覚めた! もうあなた家を出ていきなさい! 大学費用もこれからは自分で頑張って働いて払うこと、いいね!?」
「え」
水島兄は信じられないといったような顔で水島母を見上げる。
「そ、それは流石に……俺無一文だし」
「だったら持ってるゲームやグッズ売ればいいでしょ!!! それに私が来るまでにゲーム対決でもやられたんだし……ほら、さっさと荷物まとめて出ていきなさい!!」
「え」
「「え」」
水島兄の声とともにオレと水島の声もシンクロ。
水島母が来るまでにゲームでもやられた……?
一体どういうことかと優香の方へと視線を戻すと優香はオレと水島に顔を近づけ、小声でその件についても簡単に話してくれたのだった。
「実はね、あれからお姉ちゃん言ってやったの。 『そんなに私がGOD装備を持ってることが信じられないなら、私と1vs1のPVPやって確かめてみますか』って」
「そうなの?」
「うん。 それでお兄さんも乗り気になっちゃって『じゃあそれで俺が勝ったらその装備品は全部もらう。 代わりに俺が負けたらもうこれ以上ガタガタ言わない』って言ってきたんだけど、結局お姉ちゃんが勝ったんだよね」
「「え」」
「だからもう3人でする必要も無くなって……それでもお兄さんが『GOD装備は卑怯だ』ってグチグチ言ってきてね。 それで美咲が怒って『じゃあアタシもやったげるよ』ってPVPしてもらったんだけどまさかの美咲が勝っちゃってさ。 そこでお兄さんが発狂しだした時に花江ちゃんのお母さまがきたんだよ」
なんともまぁ格好の悪い。
優香の見立てではS級装備かつ復帰して数日のギャルJK星は流石に勝てないと思っていたとのこと。
しかしだからこそ勝てた……水島兄の敗因は最新システムでのオンラインに慣れてしまっていたのが原因。 どうやら今作から色々と新モーションが追加されたことで前作まで主流だった動きが完全に廃れてしまっていたため、その動きに対応しきれていなかったんだと。
「そ、そんなこともあるんだね」
「そうだね。 例えば今のツインセイバーは連続斬りからのジャンプで後ろに回り込んで……そこからまた斬り続けるっていうのが主流なんだけど、前作はジャンプなんてなかったからね。 美咲も一応新モーションの動きも覚えたけれどやっぱり戦ってると前作の動き……操作がまだ染み付いてるからどうしてもそっちよりになってしまう。 だからこそお兄さんは新モーションと旧モーションが入り乱れた美咲の動きについていけなかったんだよ」
「な、なるほど」
こうしてまさかのオレや水島の知らない間に戦いは終了。
水島兄が水島母に引っ張られながら部屋から連れ出されていく。
「ちょ……お母さんごめんって……そんな厳しくしなくてもいいだろ」
「知りません!」
「は、花江からもなんか言ってくれよ! このままじゃ俺……花江と一緒にいられなくなるぞ!?」
見苦しいぞ水島兄よ。 こうなったのは全てお前が原因……流石に今の状況はオレも急すぎるとは思うが、お前は優香を愚弄した。 その罪とくと思い知れ。
もちろん水島は先ほどオレに口にした通り水島兄のことはもうどうでもいい様子。 水島兄が必死に水島に話しかけていたのだが水島は「知らなーい。 バイバイお兄ちゃーん」と呑気に手を振っている。
「ーー……いいのか水島。 こんな結果で」
「いいよ。 それに花ちゃん、さっきいいこと思いついたし」
「いいこと?」
「うん。 だからごしゅ……福田くん、夕方くらいにちょっと付き合ってくれる?」
「ん? まぁ……うん、いいけど」
「やった。 ありがとー」
水島、お前は何を考えているんだ。
その後水島は優香とギャルJK星に「お兄ちゃんが酷いこと言っちゃってごめんなさい」と深々と謝罪。
しかし優香もギャルJK星もほとんど気にはしていない様子だったので「別に花江ちゃんが悪いんじゃないから大丈夫だよー」となんとも優しい空気が流れていた。
「んじゃーどうすっか? まだ時間あるし……魔獣ハンターでもするべ?」
「いいねー美咲。 花江ちゃんはどう?」
「えー! やりたいー!!」
ーー……ん、オレは?
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