567 【水島編】イブ
五百六十七話 【水島編】イブ
あれから数日。
優香が何度か水島母と電話をしたりしてくれていたらしいのだが状況は一向に変わらないまま冬休みに突入……水島家は両親VS水島兄が継続中のため、水島込みでのクリスマスイブ……優香の誕生日を迎えることとなった。
優香誕生日当日・早朝。
朝8時頃にインターホンが鳴り響き、扉を開けるとギャルJK星。
「はよーうダイキ!」
「おはよ星さん」
「ゆーちゃんは?」
「夜遅くまでゲームしてたからまだ寝てるよ」
「そか。 じゃあ起こして……ちょっくら行ってくるわ。 夜くらいに帰って来ればいい?」
「うん、ありがとう。 じゃあ星さん、よろしく」
「あいよう!!」
オレと数回会話を交わした後、ギャルJK星は優香の部屋へと直撃。
ぐっすり熟睡中の優香を揺さぶり起こすと、未だ状況が飲み込めていない優香のことなどお構い無しに顔を近づけた。
「はよー!! ゆーちゃん!!! イブ・デートすんべーー!!!」
「ーー……え、美咲? なんでこんな早く……ていうかイブ・デート? そんな約束してたっけ」
「まーまー!! 夜くらいには帰る予定だからさぁ行くのだ!! てことで、はいバンザーイ」
「んんん? ……ば、バンザーイ?」
優香は頭上にはてなマークを浮かべながらも目の前のギャルJK星のしているポーズを真似して両手を上へ。
そしてそれを確認したギャルJK星はすぐさま優香のパジャマを掴んで上へ……まるで母親が赤ちゃんの着替えをするかのようにパジャマを強制的に脱がせ始めた。
「ちょっ……え、えええええ!?!? 美咲ーー!?!?」
「ほら早く準備すんべ! てかゆーちゃん可愛いブラしてんねー」
「み、見ないでよ!! あ、でもダイキや花江ちゃんは?」
「2人にはもう伝えてるから問題なし! ていうか急がないなら美咲ちゃんがもっと手伝ったげようか? どさくさに紛れていろんなところ揉んじゃうかもしんないけど」
「いや揉みながら言うことじゃないよね。 わかった……ちょっと待っててすぐに支度するから」
こうしてギャルJK星は準備を終えた優香の手を強引に引っ張りながら玄関へ。 「んじゃダイキ、そこの美人ちゃんと2人でお留守番よろしゅにー」と優香を連れてイブの街へと繰り出していったのだった。
「へー、あの人が前にご主人さまが話してた星さんなんだねー。 お姉さんとはタイプが全然違うんだー」
「そうだぞ。 実はあぁ見えて中身は真面目でクソ優しい……あの見た目とのギャップが堪らないんだよな」
◆◇◆◇
さて、ギャルJK星に優香を連れ出してもらった理由は1つしかない。
そう……その間に水島とともにバースデーケーキを作るためだ。
水島は油で揚げる系の料理はほとんど経験がないらしいのだがお菓子作りは結構得意とのことで、優香の誕生日の少し前に水島の方から「ねね、お姉さんの誕生日もうすぐだけど、一緒にケーキ作ってあげない?」と提案されたのだ。
「うっし、じゃあ水島……まずは何からすればいいんだ?」
早速キッチンへと移動したオレは腕まくりをしながら水島に尋ねる。
「うん、まずはスポンジ生地を作るから卵を溶きほぐして砂糖を入れて泡立てるところからかなー」
「なるほど混ぜる系か……よし体力を使う系ならオレに!!!」
「あーそれは大丈夫だよー。 電動のハンドミキサー見つけたからー」
そう口にした水島の手には確かにハンドミキサー。
オレが呆気にとられて立ち尽くしている目の前でボールに卵を入れ、「んじゃ始めるよー」とスイッチを入れる。
「ーー……え、オレ何すればいいの?」
「そうだなー、じゃあご主人さま、包丁使える?」
「ま、まぁ……スキルはないけど握れるぞ」
「だったら上に乗せるイチゴを何個か残して、中に挟む用のイチゴを半分に切ってもらっていいかなー」
「半分……とは? 横に?」
「何言ってるのご主人さまー。 縦にだよー」
「あははははは。 で、デスヨネー」
こんにゃろう水島め。
オレが料理できないことは知ってるんだからもっと分かりやすく説明しろっつんだよ。
ま、まぁでも水島がいないことには作れないわけだから強く当たれないんだけどよぉ……。
オレは水島に言われた通りにイチゴをたてに置いて上から包丁を下ろしてスパン。
なんとも見事な縦割り……オレが心の中で自画自賛していると、水島が目をパチクリ出せながらオレを見ていることに気づいた。
「ん、どうした」
「あのねご主人さま。 ちゃんとイチゴ洗ったー?」
水島が水道を指差しながら首をかしげる。
「え」
「あとヘタついてるよー。 とらなきゃダメだよー」
「ーー……いやでもさっき水島、お前はイチゴをたてに切れって」
「それは洗ってヘタも取ってからの話じゃんー。 ハミガキ説明するときに歯磨き粉乗せてから口に入れるって言うー?」
こ……こいつーーーーー!!!!
それからもオレは切ったイチゴの割合がこっちの方が大きすぎる……などの小言を言われながらもなんとかイチゴ切りを完了。
その後やれることはなかったため、ただただ水島の作業を見つめていたのだった。
◆◇◆◇
イチゴを切り終えてからどのくらい経っただろう。
流石に水島1人をキッチンに残してサボるのは気が引けたのでずっと隣にいたオレだったのだが、息を殺してあくびをしたタイミング……水島が静かに口を開いた。
「なんか……こういうの手作りっていいよねー。 お姉さんもきっと嬉しいと思うよー」
「え?」
「花ちゃん、初めて手作りのお菓子もらったのがお兄ちゃんからでね。 今思い返したらあれかな、そこからお兄ちゃんのこと、もっと大好きになったのかなー」
なんだよきっかけあったのかよ。
そんなことを心の中で突っ込んでいると、それを察した水島は「聞きたいー?」と尋ねてくる。
「いいのか?」
「うん、だって花ちゃんご主人さま大好きだし、誰にも言わないって信じてるからー」
「お、おう」
そこから水島が話しだしたのは、水島がまだ幼稚園の頃の話。
オレは先ほど自然に水島の口から出た『ご主人さま大好き』に胸を高鳴らせながら水島の話に耳を傾けることにした。
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