564 【水島編】特別編・優香と花江
五百六十四話 【水島編】特別編・優香と花江
その日の午後。 福田優香の通っている高校では小さな騒ぎが起こっていた。
6時間目の授業が始まる少し前。
優香の近くの席に座っていた男子たちの声が聞こえてくる。
「ほんとだって! 俺見たんだよ」
「何を」
「天使! あれは絶対人間界に降りた天使だった……俺、目があったんだけどエンジェルスマイルで手を振ってくれたんだよ! 他のクラスのやつもメロメロだったぞ!!」
なんとも夢物語のような話……疲れているのだろうか。
優香はその時周囲を3人の女友達に囲まれて話をしていたのだが話の内容は至っていつも通りの化粧品や恋話……特に自分の興味をそそる話ではなかったため、目線は友達へ……しかし耳は男子たちの会話へと向けていた。
「てか一緒にあとで見にいこうぜ!! 一階の校長室隣の応接間付近なんだけど……!」
「いやいい、俺にとっての天使は福田さんだから」
「あ、奇遇だな。 俺もだ」
「可愛いし優しい……それに母性に溢れてるんだよなー福田さん」
「「わかる!!!」」
ーー……!!!!
あまりにも唐突な発言に思わずバランスを崩しかける。
「んー? どうしたの優香ー」
「顔赤いよー? 風邪?」
「ううん、ごめんねなんでもない、あははは」
母性……か。
◆◇◆◇
無事授業を終えた優香は現在福田家にしばらく一緒に住むことになった弟ダイキの友人・水島花江と合流するためメールを送信する。
すると花江曰く『校長室で校長先生たちと遊んでいるよー』とのことだったので早速向かったわけなのだが……
「失礼します」
声をかけ扉を数回ノックするも返事がない。 しかし中からは明らかに盛り上がっている声が聞こえていたためゆっくりと扉を開けると、そこには衝撃的な光景が広がっていた。
「うわぁ、このお煎餅おいしー。 校長先生、ありがとー」
「うわあああああ!!! その笑顔……可愛すぎる!! 君その制服はあの小学校の子だよね!? 名前はなんて言うんだい!?」
「花ちゃん? 花ちゃんは水島花江だよー」
花江がお煎餅にかぶりつきながらなんとも柔らかな笑みを校長・教頭へと向けている。
そのスマイルに中年男性たちは大撃沈。 2人とも目の奥にハートマークを浮かべながら花江にすり寄っていた。
「水島花江ちゃん!!! 分かった!! もし中学3年生になってウチに来たくなったら言ってくれ!! 花江ちゃんは名前を教えてくれるだけで合格させてあげるよ!!! なぁ教頭先生!!」
「その通りですねー!! 私にも花江ちゃんと同じくらいの孫がいるんですけど反抗期なのか構ってくれなくて……こんな愛想の良い子なら大歓迎ですぞーー!!!」
「ほんとー? じゃあお姉さんも通ってる学校だし、花ちゃんここにしよっかなぁー」
「聞いたかね教頭先生!! 今すぐ枠を1つ埋めてこい!!」
「了解致しましたー!!!」
呆然と立ち尽くしている優香の隣をまるで50代とは思えないフットワークで教頭が駆け抜けていく。
その後背後からも声が聞こえたため振り返ってみると、そこにはさっきの男子たち……「ほら可愛いだろ!!」と花江を指差して叫んでいた。
「あー、確かに可愛い」
「だろ!?」
「うん可愛い」
「でもなんで福田さんもいるんだろ」
あーなるほど。 さっきあの男子が言ってたのは花江ちゃんのことだったのか。
優香は心の中で静かに納得。 しかしこのまま校長たちと戯れている姿を見ているだけというのも時間の無駄だったため少し大きめの声で呼んでみることにした。
「花江ちゃーん、お待たせー」
「あっ! お姉さんーー!!!」
「おぉ! 姫っ!」
校長から離れた花江が待ちわびたかのような笑顔で優香のもとへ。
優香は校長にお礼を述べると花江と手を繋ぎ……早速買い物へと出かけることにした。
「えへへー。 お勉強お疲れさま、お姉さんー」
「えー? なんでそんな大人な会話知ってるのー?」
「花ちゃん実はしっかり者の演技上手いんだよー?」
「へー、そうなんだ。 じゃあ今度見せてもらおうかなー」
「うんっ! いいよー」
そんな優香と花江を後ろから見つめる男子4人組。
優香は彼らが影で交わしていた話の内容を知る由もない。
「なぁ、あれって福田さんの妹なのか?」
「いや、弟がいるんじゃなかったっけ。 それで学校終わっても割とすぐに帰ってるんだよな」
「いいじゃん家庭的……最高じゃん。 でもじゃあ妹もいたってこと?」
「わからないぞ。 もしかしたら性転換の可能性も……ていうかやっぱり女っていいよな。 あぁやって簡単に福田さんに触れられるんだから……俺も切ろっかな」
「「「え」」」
◆◇◆◇
優香と花江が向かった先は優香の高校から近くにある中規模のスーパー。
そこで花江の下着数着と、花江もすでにそういう年齢から生理用品が必要とのことで優香のオススメを交えて買っていったのだがその途中……家電コーナーでカミソリ……電動シェーバーを探しているところで花江が「あっ」と小さく声を漏らした。
「ん、どうしたの花江ちゃん」
「お兄ちゃんだ……」
「え?」
花江の指差した先はおもちゃ屋さん。 そこに設置されているゲームソフト売り場のところで少々ぽっちゃり気味のメガネの男性が1人ゲーム機を見つめている。
「あの……ゲーム機の前にいる男の人?」
「うん」
「えっと……ごめんね、メガネをかけてる方かな」
「そうだよ」
確か花江の母から聞いた話では大学生ということだったが……見るからに30代後半。 それに何と言っても妹と似てるところが全くと言っていいほどない。
「でもなんでお兄ちゃんあんなところにいるんだろ……」
「確かにね。 お兄さん就活するんだっけ?」
「そうだよ、それでちょっと前にスーツ仕立ててもらってたの。 でもそれをする代わりにゲーム機買えってママたちと喧嘩になっちゃって……それまではみんな仲良しだったのに」
「あー、なるほどねー」
優香は花江の母と話した内容を思い出す。
確かあの母は父の少しグレーな趣味を見て見ぬふりをしたり……しかし思い立ったらすぐに先行してしまうところがあった。
ということはあの息子の件も同じ……勉強をしなくても何も言わず、今の今まであの母が息子の人生のレールを引いてあげていたのだろう。 その結果、自分では何もできない何も決められない……しかし自分の思い通りにならないと機嫌の悪くなる人間が出来上がったと。
「あれ、お兄ちゃん誰かと電話してる」
「花江ちゃん、気になる?」
「うん」
「じゃあ私の後ろにくっついてバレないようにね」
気になった2人は少しずつ花江兄に気づかれないよう距離を縮めていくことに。
そこで聞こえてきた内容に優香は耳を疑った。
「はー!? 住み込みのバイト!? ふっざけんなそんなのしてたらゲームできないだろ!? 仮にできたとしてWi-FiあるのWi-Fi!! あ、あとご飯が出るのかとか洗濯もしてくれるのかどうかもね! そこ聞いといてもらわないといくら日給良くてもやらないよ!!! え、そうなの? じゃあやらない。 そういや花江が最近ゲーム買ってたでしょ? あれ俺にあげるよう説得しといてよ。 そしたら俺別にバイトとかしなくていいんだからさぁ」
ーー……。
「ちょ、ちょっとお姉さん、痛いよー」
花江兄の言葉を聞いていた優香は知らず知らずに握力を強めていたのか、手を繋いでいた花江が手をブンブン振ってくる。
「え、ああごめん。 ちょっと私力入れすぎちゃってたかな。 ほんとごめんね」
「お姉さん……どうしたの? 花ちゃん、お兄ちゃんが何言ってるのかほとんど聞き取れなかったんだけど……ちょっと顔くらいよ?」
「ううんなんでもないの。 このままじゃ私どうにかなっちゃいそう……あ、そうだ。 ご馳走するから1階のカフェ行こっか」
「ほんと? やったー♪」
これは桜子の親問題までとは言わないが、結構厄介な部類なのかもしれない。
優香は花江の長期滞在を予想。 カフェ終わりには別の店で洋服等も追加で買っていったのだった。
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前回のは更新忘れ分だったので早朝ですが本来昨夜更新するはずだった話を…! なので今夜も更新予定です!!
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