559 【水島編】思いも寄らない方向へ
五百五十九話 【水島編】思いもよらない方向へ
土曜の深夜。 あれから何度か水島とオンラインで一緒にプレイをしたのだが、子供って本当に吸収が早くてすぐに上手くなっていくよな。
水島の成長はかなりのスピードで上達していき、流石にオレや優香・結城には及ばないまでも一緒にプレイしていてイライラするような動作やもたつき等、まったく見受けられなくなっていたのだ。
【送信・水島】なかなかやるな。 とうとう1回も敵にやられずにクエスト達成したじゃねーか。
【受信・水島】ほんと? 花ちゃんすごい? まだまだ上手くなるよー!
「まだ初心者コースとはいえ、まったく……可愛い奴め」
どうやら明日の日曜日は水島に予定があるためできないとのこと。 ただ1人でも練習すると言ってたし、やる気はめちゃくちゃ感じられる。
これはあれだな、月曜にでも直接褒めてモチベーションをさらに上げてやるとするか。
オレは水島とのやりとりを終えた後も深夜ながらにハッスルタイムを開始。
あの感覚をそう簡単に忘れるわけにはいかないだろう。
水島のお尻による圧迫マッサージは以前の宿泊学習の際、バスに酔った三好を足の上に乗せた時のとはまるで別次元。
もうなんというか……全体的に気持ちよかったんだよな。
だからこそ唸るぜ!! オレの妄想力!!!!
結果オレが寝たのは午前4時半。
しかもハッスル途中で寝てしまったもんだから翌日ベッドの上が悲惨なことになっていたことは言うまでもない。
◆◇◆◇
迎えた月曜日。
ちょうどオレがトイレに入ろうとしたところ、入れ違いで隣の女子トイレから水島が出てくる。
ちなみに水島はオレに気づいていないっぽい。 なのでオレはすぐに水島を呼び止めて早速褒めてやろうとしたわけだが……
「おい水し……」
ーー……って、え?
声をかけようとした瞬間。
水島の顔に何気なく視線を向けると、なぜか水島の目が真っ赤に充血していることに気づく。
それになんとなくいつもよりテンションが低いような気も……
「ーー……ハッ!!」
ここでオレの脳が勝手に推理を開始。 もしや水島のやつ、ゲームのやりすぎで目が疲れてかつ徹夜でやって寝不足からの体調不良なんだろうか。
仮にそうだったとしたらこのままでは危ない。 ゲームの覚えたてって一番楽しい時期だからな……水島を【マドンナ】から【廃人引きこもり】にクラスチェンジさせてしまうかもしれない。
オレは「おい水島」と改めて声をかけるとその腕を掴む。
すると水島は一瞬ビクッと体を反応。 オレの方へと視線を向けると「あ、ごしゅ……福田くん」と小さく呟いた後になぜかジッと見つめてきて……
「ん、どうした水島。 オレの顔に何かついて……」
「ーー……、うっ」
「う?」
「うわああああああん」
「ええええええええええええええ!?!??!?」
何事かと思えば突然の大号泣。
オレはもちろん驚いたものの、何故かかなり心は落ち着いていて瞬時に周囲の状況を確認。
見える範囲に生徒は何人かはいるがまだギリギリ間に合う。
「水島……ちょっとこい!」
「えっ……!」
オレは即座に水島の腕を引っ張り男子トイレの中へ。
個室の中に共に入ると水島の口を手で塞ぎ、「とりあえず落ち着け、ここでお前に泣かれるとオレがイジめたみたいになっちまうだろ」と耳元で囁いた。
◆◇◆◇
昼休みも残りわずか。
ようやく息の整ってきた水島に理由を聞くと、水島はゆっくりと口を開けて話し出した。
「あのね、昨日の日曜日、私予定あるって言ってたでしょ?」
「うん」
「実はそれ、お兄ちゃんが『シューカツ?っていうのをやりたい』って言ったからスーツを家族で買いに行ってたの」
「あー、就職活動……就活な」
「そう、それ。 それで花ちゃん、お兄ちゃんお仕事するんだ、カッコいいな、スゴいなーって思ってたんだけど……」
「ん?」
そこから水島の口から語られたのはまさかの結果。
なんと水島兄はその日の夜、両親にとあるお願い事をしたらしい。
それは『誠意を見せたから新しいゲーム機を買ってくれ』
「ーー……え、マジか」
あまりの急展開な話に言葉を詰まらせていると、水島が「うん」と力なく頷く。
なんでも水島兄は妹である水島がゲームをしているところを見て自分もオンラインでプレイしたくなったとのこと。
しかし水島兄はアルバイトもしていないためそれを買うための十分な資金も持ちわせてもいない。
なので本来就職活動をしていてもおかしくない年齢だった彼は重い腰を上げて行動を開始……その頑張りを讃えてゲーム機を買ってくれとのことだった。
「それで……どうなったんだ? まぁお前のその感じ見てたら大体察するが」
「うん。 パパもママもめちゃくちゃ怒ってお兄ちゃんと喧嘩になった。 それで花ちゃんはその間自分の部屋に籠って魔獣ハンターの練習してたんだけど、後でお兄ちゃんが部屋に来て『そんなに俺の前でオンライン出来るのが楽しいか』って」
「え」
「花ちゃん、お兄ちゃんを喜ばせたくてゲーム買って頑張って慣れようとしてたのに……なんで花ちゃんが怒られるんだろ。 ねぇご主人さま、今回のって花ちゃんが悪いの? 違うよね?」
水島が目に大量に涙を溜めながらオレに訴えてくる。
なんともまぁ勝手な逆ギレ……。
水島も災難だな。 喜ばせようとして行動した結果がまさかの真逆を生むなんて。
てかその兄、どんだけゲーム好きなんだよ。
普通誰が聞いても水島に非はないと言い切れる内容でそれは少し冷静になって考えたら本人でも分かるようなことなのだが、水島は大のお兄ちゃん好き……そんな存在から悪者にされたらそりゃあ動揺もするってもんだよな。
もちろんオレは水島に「そんなことねーぞ。 水島、お前は悪くない」と答える。
すると水島の目に溜まっていた涙のダムが勢いよく決壊。 しばらくの間水島はオレの胸に顔を当てて静かに泣いていたのだが、昼休み終了5分前の予鈴が鳴り響いたことにより水島は泣くのを気合いでストップ……「あはは、ごめんねご主人さま。 制服花ちゃんの涙で汚しちゃった」とわざとらしく笑った。
「構わん。 美人の涙ならなんら問題はない。 それと水島、もう一度言うけどお前は本当に悪くないんだから堂々としてればいいんだぞ」
そう声をかけると水島は涙を拭きながら「ーー……ほんと? 花ちゃん、悪くない?」と改めて問いかけてくる。
「あぁ全然悪くない。 多分お兄さんもオンラインでゲーム出来なくてムシャクシャしてただけだろ」
「そこまで辛いもんなの?」
「そりゃあ辛いぞ。 なんたって大好きなものを長い間我慢しなきゃいけなくなってるんだから」
そういやオレもこの身体に転生してからエロ漫画やエロ画像を見れなくて悶々とした日々を過ごしてたぜ。
そんなことを思い返し懐かしんでいると、水島が「ご主人さまで言ったら何?」と尋ねてくる。
「ん、オレで言ったら? そうだなーー……やっぱりエロ漫……」
「ピュッピュすること?」
「ーー……う、うむ。 あながち間違いではない」
そうだな。 確かにそれを禁止されたらオレは……というより一部を除いた同士たちは皆狂ってしまうに違いない。
あ、もちろん筋トレの話ね。
オレの答えに少しは理解したのか水島は「へー」と小さく頷く。
その後「男の子って大変だね」とクスッと笑い、もうすぐ次の授業が始まってしまうため、一緒にトイレを出て教室へと向かったのであった。
「ねぇご主人さま、もしまた家で辛いことあったら話してもいい?」
「うむ構わん。 てか居づらかったら……数日とかなら家に来てもいいぞ。 もちろん水島のパパママのOKが出て、オレのお姉ちゃんのOKも出たらの話だけどな」
「ほんと?」
「あぁ。 もちろん魔獣ハンター持ってこいよ? オレのお姉ちゃんもかなりの魔獣ハンター好きだから3人プレイしたら喜ぶだろうし」
「分かった。 じゃあその時は電話するね、ありがとうご主人さま」
お読みいただきましてありがとうございます!!
今日は12/24! 優香ちゃんの誕生日です!! ハッピーバースデー優香ー!!
本編より先にこの日が来てしまったので急ぎここでお祝いを 笑




