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553 【茜編】特別編・神の苦悩


 五百五十三話  【茜編】特別編・神の苦悩



 あれからピンク髪のロリに話を聞くことができたオレたち。

 やはりこのロリがオレたちをここへと呼び出した張本人だったようで、その理由を聞いたオレと茜は言葉を失った。



『あのやぁ、勝手に魂を別の身体に移すのは御法度なのやー。 あの神はそれがワッチにバレてないと思っていたらしいのやが……なめてもらっては困るのや』



 ロリがその見た目に似つかわしくない深いため息をつく。



「マジか。 それでお前……じゃない、あなたはなんでオレたちをここに?」


『そんなの簡単なのや。 ワッチはお主ら2人を輪廻転生させに……というのはゴッドジョークなのやが、あそこまであの神が特定の人間に拘るのも数百年ぶり。 一体どんな奴らなのかやと会ってみたかっただけなのや』



 なんとも笑えないゴッドジョーク。

 その後ロリは『とりあえずそういうことなのや』とニコリと微笑むと、『ほれ、せっかく魂同士、今なら何の嘘もなく話せるのや。 ワッチのことなど気にせずに、思う存分語り尽くすのや』とオレたちに話を進めてくる。



「え、あ……いや。 語り尽くせって言われても……なぁ」



 一体何を話せばいいんだ。

 それは茜も同じ考えだったようで、「うん、私も何話したらいいのか分からないかな」と苦笑いで頷いた。



『なんなのや? 話すことないのかや? お互いがお互いのことを気になっていることはワッチ、知ってるのや。 だったらせっかくもらった新たな身体……魂の炎燃ゆる限り、その生涯を2人仲良く謳歌して欲しいのや』



「えええ、お互いがお互いのことを気に……!?」

「どうしてあなたがそんなことを?」



 茜がオレのリアクションを遮りながらロリに尋ねる。

 するとロリは一瞬躊躇するような仕草を見せるも、『うーーん、そうなのやなぁ……』とゆっくりと口を開いた。

 


『これはワッチが言っていいものか分からぬのやが……』



 そこからロリが語り出したのは、神様が……過去に亡くなって天界にきた者の魂をオレたち同様現世の別の人間の身体に移した時の話。



『あれは数百年前のことだったのや』



 ====



 数百年前。 当時この周辺では……いやほとんどの地域で飢饉が流行っていた。

 雨もろくに降らず作物も育たない異常事態。 そんな中人々の心の拠り所となっていたものが、彼らの地域内に建てられていた小さな社。 そこに祀られていた豊穣の神だった。



『ほれ神よ、また人間が頼みに来ておるのや。 話を聞いてやらぬのや?』



 天界・冥界の秩序を正すべく見回りに来ていた当時のロリ……幼い少女神が豊穣の神と呼ばれている神に話しかける。



『無理を言わんでください。 神といってもワシはまだ新参……天気など操れぬ。 それに知ってるでしょう、皆はワシを【豊穣の神】と謳っておりますが、実際はこの土地一帯を守護するだけの神……人一人の運気を上げることはできても土地全土に恵みをもたらせることは不可能なのです』


『ふふふ、頼られるのも大変なのやなぁ』


『いいですねぇ貴方は。 ワシらの見回りさえしておけば、お咎めないのですから』


『なんなのや? 先輩にその物言い……蹴飛ばされたいのかや? これでも結構大変なお仕事なのや』


『あははは、冗談ですじゃ。 お声がけありがとうございます。 そうですな、何か出来ないか近隣を守護する神々とも話し合ってみますのじゃ。 最近は各自の守護する地域を見守ることで精一杯じゃったからな』


『まぁ頑張るのやー。 死に過ぎたら輪廻転生への道が混雑してしまうかやな。 んじゃワッチは行くのやー』



 こうして少女神はまた別の神がちゃんと働いているのかを調べるために空間を転移。 彼女の気配が消えたことを確認した神は、大きくため息をついた。



 ◆◇◆◇

 


『しかしどうしたものかのう。 そろそろ無理を言ってでも近隣の神々と話し合わぬとあの娘にも悪いしのう』



 そう呟いた神が視線を向けた先にいたのは1人の少女。


 この少女はこの神社に代々仕えていた神主一家の娘で、飢饉が広まる前までは巫女として神にお供え物をしたり周囲の掃除をしたりとせっせと働いていた。

 しかし今彼女の主な仕事は助けを求めて尋ねてくる人々の相談相手。

 なかには彼女に『いつになったら神様が雨を降らせてくれるんだ!』やら、『お前らがちゃんと祈祷しないから神様が願いを叶えてくださらないんだ!』と罵倒してくる者も現れ、肉体的にも精神的にも辛い日々を過ごしていたのだ。



『誠に申し訳ない……もうしばしの間我慢しておくれ。 早速近隣の神々に掛け合ってくるでな』



 それから数日、神は自らの神社を離れて近隣の神々の社・寺院へ。

 此度の飢饉の件を相談してみたところ、どうやら他の神々もそのことについて少女神に煽られ、しかしどうすることも出来ずに悩んでいたとのこと。 

 良い案など出るわけもなく神が途方に暮れながらも相談に回っていると、とある社の神が興味深い話を口にしたのだった。



『我とお主の村の境に大きな山があるだろう。 そこにはかつて龍神様が管理していた大きな水脈が通っていたはず。 もしお主が力を貸してくれるのならば……その水脈から水を溢れ出させることができるかもしれない』


『ーー……!! それは誠ですか!!』



 思ってもみなかった朗報。


 詳しく聞いてみると、その水脈は山のかなり地下……あまりにも深い箇所にあるため、神とはいえ1人の力ではどうすることも出来ない……しかし2人の力を合わせれば、なんとか出来るかもしれないとのことだった。



『それでその方法とは……!』



 出来ることならば今すぐにでも実行したい。

 そう提案した神だったのだが、相手の神から出た言葉はあまりにも非情なものとなっていた。



『我がお主の力を借りて、かの山を中心とした大地震を発生させる。 そこで水脈から地表まで亀裂を発生させれば今後困ることのない多大なる水が未来永劫流れるはずだ』 



 大地震……それを聞いた神は全てを察する。

 


 そういうことか。

 大地震を発生させれば水源は確保できるが、それと代償にその周辺で生活を営んでいる人間たちにも甚大なる被害が出てしまう。


 もちろん神は一旦保留することを近隣の神にお願い。

 すると相手の神はまるでこちらに悟らせるようにこう言い放ったのだ。



『目先の命も勿論大事だが、我々はその土地を守る神。 何も動かず彼らが根絶やしになっていくのを見届けるのと、ここは目を瞑り永劫に続くであろう将来に託すのと……どちらが大事なのかは分かるであろう?』



『一日だけでいい。 考えさせてくれ』



 どちらも大事な魂……そう簡単に決めることなど出来るはずがない。 神はそう告げると一人静かに考え抜くため数日ぶりとなる自身の社に帰還。

 連日の疲れも溜まっていたことだし少しの間ではあるがゆっくり身を休めよう。 そう考えていたのだが……その夜、事件が起こった。



 夜。 そういえば神主や娘の姿が見当たらない。

 いつもなら夜のお勤めと称して、神主たちとともに祝詞をあげに来てくれる時間帯のはずなのに。



『なんじゃ、疲れて休んでおるのかの? まぁそういう日があっても一向に構わんが……ちょっと心配じゃのう』



 気になった神は自らの部屋……本殿を出て娘を探してみることに。

 するとどうだろう、探していた娘はすぐに見つかったのだがその様子は見るも無惨。 ロウソクの灯りで照らされた6畳ほどの和室の中……家族に囲まれながら真っ白な顔で眠っていたのだ。



『な、なんじゃと……!? どうして娘がこんなことに……ワシの居らぬ間に何があったと言うのじゃ!!!』



 驚きのあまりその場で立ち尽くしていると、神主が苦しみの声をあげながら娘に抱きついている。

 そしてその際口にしていた彼の言葉は、神の耳に深く突き刺さった。



『なんで娘が……!! 私たちはちゃんと誠心誠意神に仕え、祈祷やその他全てのことを真面目にしていたはずなのに……! 何が生贄だ!!! 勝手に押し入って勝手に殺して……これではただの人殺しではないか!!!』



 ーー……!!!



 自分は色々と遅かったのだろうか。



 神はすぐに犯人を捜索。

 見つけてすぐに神罰を下すと、一日も待たずに近隣の神のもとへ。

 まるで鬼の形相……近隣の神の前に到着するなりこう言い放ったのだった。



『もう待ってはおれぬ!! このままでは他の者まで不幸になってしまう……!! 明日じゃ……明日の昼早速やるのじゃ!! ワシの力、思う存分使うが良い!!!!』



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― 新着の感想 ―
[良い点] 神様の昔話か……。 ヤバそうな雰囲気だ……。
[一言] なんということだ・・・ やはり人間は害悪・・・滅ぼさねばならぬ(死んだサカナみたいな目つき)
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