552 【茜編】恐怖!!
五百五十二話 【茜編】恐怖!!
例のお化け屋敷の列に並んでいたオレたち。
オレは出てきた客の声に耳を傾けていたのだが、確かに少し前に茜が言っていた通りの反応となっていた。
とある夫婦曰く……
『あー、みんな必死に頑張っててよかったね!』
『本当に』
しかしとある中学生カップル曰く……
『なんで私を置いて逃げ出すわけ!? 信じらんない!』
『仕方ねーだろ本物っぽい幽霊が後ろから来てたんだから!!』
『あー、そうやってピンチの時は私を置いて逃げ出すんだ! もう別れる!』
『ーー……』
なんという温度差。
どんなことが起こればこんなにも体験した人の感想に差が出るのだろうか。
まさに謎が謎を呼ぶこのお化け屋敷。
気づけばオレたちの番となっており、受付の生徒が扉を開け誘導してきている。
「楽しみだねダイきちくんっ」
「お、おう」
絶対に茜の気分を害するような行動・言動は意地でも避けよう。
オレは密かにそう決意していたのだが……
扉が開けられたのでゆっくりと中へ。
そして静かに扉が閉められたと同時にオレはピタッと歩みを止めた。
「ーー……え、ダイきち……くん?」
茜が不思議そうにオレの方を振り返ってくるも、今のオレには茜の言葉は耳に入ってこず。
ただ目の前に広がっている信じられない光景に身体も脳もフリーズしていた。
「ーー……うそだろ。 何がどうなってんだ?」
オレは必死に先ほどまでの行動を思い出し整理することに。
確かについ数秒前……お化け屋敷の中に入る寸前までは、目の前は黒く塗りつぶされた段ボールの壁が視界に入っていた。
なのに今はどうだ?
扉が閉められたと同時に視界が歪み、気づけばまるで雲の上のような真っ白な世界。
もちろんそこには見覚えがある……そう、天界だ。
それだけではない。 数メートル先にはこれまたはっきりとは覚えていないのだが、ぼんやりと記憶のある輪廻転生へと続く道が奥へと延びていて、オレの一歩先でこちらを振り返っている茜なのだが……
「え、いや……なんで……茜」
「え?」
「なんで茜……前の姿になってんだ?」
もしこれが神様の悪戯だと言うならばはっきり言おう。 趣味が悪いと。
先ほどオレが口にした通り、オレの視界に映る茜はいわゆる以前の美香の姿にあらず。 数ヶ月前に病と戦いその人生に幕を下ろした……以前の黒髪ロングの茜が当時の入院着を着てそこに立っていたのだ。
そしてそんな茜からも衝撃の一言が。
「だったらダイきちくんだって……、なんでそんな大人になってるの?」
「え!?」
慌てて自分の身体に視線を下ろしてみると、確かに茜に言われた通りオレの身体は前世の……大人の身体。
そしてあの時のことは若干忘れつつあるが……茜が入院着を着てることからも推測できるけど、おそらくオレはこの格好で死んだのだろうな。 Tシャツとトランクス姿なのがかなりダサい。
そういやオレってどんな状況で死んだんだっけか。
そんなことを思い出そうとしていると、不思議そうにオレを見上げていた茜が「ダイきちくん……だよね」と不安そうに尋ねてくる。
あー、そうか。 そうだよな。
オレは前の茜のことも知ってるけど、茜はオレの前世の姿なんて見たことないんだもんな。
「え、あ……うん。 ごめんな。 そう、オレはダイキだ。 安心してくれ」
「そっか。 声や見た目は違うけど、その話し方は確かにダイきちくんだ。 よかった……違う人だったらどうしよって思ってた」
安心したのか茜は「あー、よかった」と呟きながらホッと胸をなでおろす。
「すまんな、ちょっとの間だけど不安にさせちまってて。 オレは茜の前の姿を知ってたからそこは不安になってなかったわ」
「もう……置いてかないでよ」
「ごめんごめん」
アラサー男がJCに頭を下げているというなんともカオスなこの状況。
しかしあれだな、改めて前の茜とこうして対面できているわけだが……頬を若干膨らませている旧茜もクッソ可愛いじゃないか。
オレがガチで恋をして初めて唇を奪われた少女が目の前に。
そう考えると急に胸がドキドキし始め目の前にいる茜と目を合わせられなくなっていったのだが、そんななか茜から思いもよらない一言が。
「ダイきちくん、ちょっと……いいかな?」
「ん?」
話しかけられたので勇気を振り絞り茜に視線を戻してみると、何やら茜は身体をモゾモゾしながら何度かオレをチラ見してきている。
「どうした」
「あのね、今こういうこと言うべきではないって分かってるんだけど、でも……」
茜の様子がおかしい。
顔も真っ赤になっているし、もしかすると茜も今のオレと同じ気持ち……恋い焦がれている状況なのではなかろうか!?!?
だとしたら年上のオレがリードしてやらねばなるまい。
オレはすぐに自分の雰囲気をクールモードへと変更。 年上イケメンっぽく「どうした茜、言いたいことがあるならなんでも言ってくれ」とスマートに尋ねてみることにした。
「あのね、ダイきちくん……今、下は下着だけでしょ」
「うん。 それがどうした?」
「その……はみ出てるよ。 その状態だと直すの難しいかもしれないけど、隠してくれたらありがたいかな」
「ぎゃああああああああああああ!!!!!!!」
そうだった……ズボン履いてないこと忘れてたあああああああ!!!!
「なんで今そうなってるの?」
「え!? いや……あーーー!!! これはだな……!!!!」
オレは茜から送られてくる股間への視線に必死に耐えながらもこの下半身の状況についての言い訳を考えることに。
しかしベストな返答が脳内から降りてくるわけもなく、かつオレの興奮も治らず。
このままではもし元の世界に戻れたとしても変な空気になってしまうに違いない。
そんなことを危惧し始めていたオレだったのだが……もうなんでも有りってことなのか?
それはいきなり起こった。 どこからともなく『ふふふふふー』といったロリボイスが周囲に響き渡ったのだ。
「ーー……ん、なんだ?」
「えっ?」
周囲を見渡してみるも誰もいない。
少しは気になるのだが、流石に今のオレはそれどころではないんだよな。
オレはすぐに思考を切り替え周囲を木霊しているロリボイスを完全に無視。
いかにしてこのオレの恥ずかしい状況を誤魔化すかについて、再び考えようとしたのだが……
『かやぁーー!!!!』
「「!!!」」
それも突然。 まったく怖くもない……むしろ可愛げのある叫び声とともに、オレと茜が向かい合っているそのちょうど中間地点の足下……雲の中からピンク髪のロリが勢いよく顔を出してくる。
「わわっ!」
「おおお、ビックリしたー」
もしここで出てきたのが鬼や醜悪な顔の幽霊とかだったのならオレたちも恐怖から絶叫していたのだろう。 しかしながらモグラ叩きのように地面から顔を飛び出してきたのはピンク髪のロリ……オレたちはまるで近くで風船が割れた時並みのテンションで驚くと、揃って視線をロリの方へと向けた。
『はっはっは、これが驚かせる側の面白さ! 恐怖で声が出ないのかやぁ? なんと愉快かやぁー!』
オレたちに注目されていることに満足しているのか、してやったりな表情を浮かべたロリがフフンと鼻を鳴らしながらオレたちを交互に見比べる。
「「え」」
『どうかやこの2段構え!! まずは汝等の共通でもある前世……転生前の姿で対面させて、すかさずワッチが地面から登場……! これで驚かない輩がおるわけないかやぁー!!!』
「「ええええええええええええ!?!?!?」」
今の言葉を100パーセントは理解できないとしても、この状況は目の前のロリ……こいつのせいだったってことか!
そうと決まれば話は早い。
オレはロリの目の前まで歩み寄ると、その場でゆっくりとしゃがみ込む。
『なんなのかや?』
ロリがキョトンとした表情でオレを見上げ首をかしげる。
「あのな、いきなりで悪いんだが聞きたいことがあるんだ」
『なんや? 怖かったかや?』
「あー怖かった。 それでな、なんでオレたちはこんなところに連れてこられて……かつこんな見た目になってんだ?」
そう尋ねてみるとどうだろう……ロリから返ってきた言葉はまったく逆のものとなっていた。
『その前にそれしまうかや。 目障りなのや』
「すいやせん」
ーー……あ、下着ね。
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