551 【茜編】満員!!!②
五百五十一話 【茜編】満員!!!②
【プリンセスエマ城・謁見の間】と【花ちゃんのゆるゆるメイド喫茶】が満員だったため、オレたちは西園寺が代表を務めているお店に向かった。
「ねぇダイきちくん、今から行くところもやっぱり混んでるのかな」
「そりゃあそうだろ。 なんたって西園寺は成績優秀・文武両道……男子だけじゃなくて女子人気もエゲツないからな」
【西園寺邸・契りの儀】
なんだかんだで行くだけ行ってすぐに引き返すことになるのだろう。
そんなことを考えながら向かっていたオレだったのだが、到着してまず入ってきた光景に我が目を疑った。
「ここは……小学校だよな」
そう言葉が漏れるのも無理はない。
【西園寺邸・契りの儀】……そこは先ほどのエマや水島とは違い、使っている教室は和室。 そして大人びた雰囲気に飲み込まれているのもあるのだろう、列に並んでいる人々は大人・子供問わず皆静かに待っているのだ。
茜も「なんかここだけ異世界にきたみたい」とポツリと呟く。
ちょうど良い感じに扉が開かれていたので中の様子を覗いてみると、ここは西園寺組の組員が多いことは当たり前なのだがそいつらの親御さんや祖父母に当たる人なのだろうか……黒い着物を着た西園寺と数名の女子がたてたお茶をリラックスした表情でそれを飲んでいる。
「あ、ここはお茶とお饅頭なんだね」
「ぽいな」
エマや水島の店と比べると一見質素にも見えるのだが、親世代たちからしたら和室でゆっくりくつろぐにはもってこいなのかもしれない。
それにお茶は西園寺たちが直接作って提供しているんだ……推しから出されるお茶を飲めるなんて機会滅多にない。 そりゃあ西園寺推しの奴らは飲みに来たくもなるか。
そして今更だけど西園寺のやつ……茶道も出来ることに驚きだ。
なんという大和撫子。 ブチギレたら怖いけど、これで本性ドMってんだからギャップもあって最高だよなぁ。
出来ることならオレも西園寺に出されたお茶を飲んでみたいのだが、なんだかんだでかなりの行列ということもあり今回は断念。
大人な雰囲気を醸し出す西園寺の姿を目に焼き付けてその場を後にしたのだった。
「さっきの黒い着物着てた子が西園寺さんって子?」
「そだぜー。 美人だろ」
「うん。 なんか私よりも中身大人って感じがした。 勉強だけじゃなくて茶道に武術もしてるんだ……私もどれか挑戦してみようかな」
「いやいややめとけ。 同じ土俵に立とうとしないほうがいいぞ、どのジャンルにおいても比べちゃって悲しくなるだけだ」
「むーっ、なにそれー!」
「ほら、次行くぞ」
◆◇◆◇
【伝説のセンター美波ちゃん☆ファンミーティング!】
残るは後1つ。
そう、少し前にメイプルドリーマー・妹グループオーディションで最終審査合格まで上り詰めて辞退した、別名『伝説のセンター』と呼ばれているドSの女王・小畑が代表の店だ。
そこに近づいていくとともに大歓声が聞こえてくる。
さっきまで静かな場所にいたから余計に耳が敏感になっているのだろう。 目的地に到着するとそこはもう他の3人のところとは比べものにならないくらいの大盛り上がりとなっており、そこにいる多くは動画を見てファンになったのであろう中・高・大学生の男がその大半を占めていた。
中をのぞいてみると教室前方に特設ステージが建てられており、そこで小畑が歌って踊ってを披露している。
「美波ちゃーーん!!! 好きーー!!!」
「ミ・ナ・ミーー!!! ラビューー!!!」
「俺来年で大学卒業する22歳だけど結婚してくれーー!!!」
「将来ニート有望な俺氏だけど結婚してーー!!!」
なんとも他と比べてカオスな空間。
しかしこれもアイドルオーディション出身だからなのか女子の姿もチラホラと見受けられ、ある者は尊敬や憧れの眼差しを……そしてある者は恋心を抱いているのか顔を真っ赤にしながら見つめていたり、男どもの声に負けじと大熱狂しているものも見受けられた。
「茜はちなみにメイプルドリーマーって知ってるのか?」
「もちろん。 ちょっと前に急にブレイクしたユウリちゃんがリーダーしてるところだよね。 それにテレビでだけど妹グループオーディションも観てたよ。 顔とかその時の参加者の名前とかは覚えてなかったんだけど、ここの学校の生徒……ダイきちくんのお友達だったんだね」
「まぁな」
「まさかあのナオチーとスズちゃんと一緒に最終オーディションを受けて……なおかつそこでセンターで歌って踊ってたなんて凄いよね」
茜も「凄いなー本当に」と呟きながらパフォーマンス中の小畑をうっとりした表情で見つめている。
「あ、やっぱ茜もアイドルになりたいとかあったりすんの?」
「うーん、私は別にいいかな」
「そうなのか」
「うん。 だって私運動音痴だし。 跳び箱3段も飛べないんだから」
「それはエグい」
「でしょ? それに運動ができたり歌が上手いだけじゃアイドルにはなれないっていうのは知ってるし……あんなキラキラしたもの私は持ってないもん」
「そうだな。 どっちかといえば逆……キラキラオーラというよりは気配を消せるサイレントオーラだもんな」
それからもオレたちはしばらくの間小畑のパフォーマンスを楽しむことに。
そしてそれは大体30分くらい経ったころだろうか。 小畑が「ちょっと休憩入るから、売ってる食べ物でも食べてゆっくりしててねー!」の言葉を合図に茜がオレの腕を引っ張ってきた。
「ん?」
「ごめんダイきちくん。 ちょっとお手洗い行ってきてもいいかな」
「あーうん。 いいぞ」
「ごめんね、すぐ戻ってくるから」
「いーや、別に急いでないからそこは焦るな」
こうして茜がトイレに向かったためオレはその場でジッと待つことに。
特にやることのなかったオレはスマートフォンを取り出しながらも周囲の声に耳を傾けていたのだが……
「どう、2人とも。 こうして実際見てみて」
「いや……なんていうか元気そうでよかったです。 でも良く親戚でもないのに入らせてもらえましたね」
「それはまぁ色々とね。 少し前にモデル始めた子がいて、その子がここの学校の生徒なんだ」
「ほへぇー、そうなんだー! ありがとうございますユウリさん!」
「こら五條、その名前で呼ぶな。 これで周りにバレたらどうすんの」
「あっ、いけない。 ごめんね橘さん」
「その名もここでは禁止。 え、バレて小畑の邪魔したいの?」
「あああ、ずみまぜんーー」
ーー……ん、ユウリ?
聞き覚えバリバリの名前が聞こえてきたため周囲を見回してみると、いつぞや見たような黒い帽子を深くかぶった赤髪の女の子の姿を近くで発見する。
あれは……間違いない。 エマの前世・小山楓時代の親友でメイプルドリーマーのリーダー・ユウリだ。
それとそこにはあと2人いるのだが、その顔自体はどこかで観たことがあるような気もするのだけれども残念ながら思い出せない。 1人は高校生か大学生なのだろうか……ユウリより長身で茶髪セミロングな美人。 そしてもう1人はユウリと同じような背丈なことから中学生なのだろう。 太めの眉がなんとも幼く可愛い女の子だ。
まぁユウリと一緒にいるってことでアイドル関係者だとは思うのだが……
「それで……2人とも、何か掴めた?」
「「え」」
「これ前も言ったんだけど、最近の2人はなんていうか輝きがあまり感じられなかった。 それは最終オーディションのステージが一番輝いてたって言っても過言でもないくらい。 だからこそあの頃のセンターがいるところに2人を連れてきたんだけど」
ユウリがそう言うと2人は黙り込んで静かに俯く。
「うん? どうしたの?」
「やっぱりそうですよね。 もちろんそれは私も五條も気づいてます。 でもそれは2人ではどうしようも出来なくて……今までも必死に考えてたんです」
「そうだったんだ」
「はい。 私も橘さんも合格もらってからは必死にレッスンとかしてあの頃よりは……技術面はかなり向上したっていう実感はあるんですけど、やっぱり2人で歌って踊っててもどうしても真ん中が寂しいっていうか」
うん、この会話の内容からするに、ユウリと一緒にいる2人はオーディション最終審査に受かった2人なのだろう。
どちらか1人は小畑と一緒に受かった子。 そしてもう1人は小畑が辞退して繰り上げ内定した子ってことなのかな。
ていうか最終審査受かってデビューしても色々と悩みが尽きないとか……どんだけ大変な職業なんだよ。
そんなことを感じながらも耳を傾け続けていると、ユウリが「じゃあ……どうする? 期間は空けるけど、メンバー追加オーディションしたいって鬼マネに提案してみる?」と2人に提案する。
それを聞いた2人は驚いた様子で同時に顔を見合わせていたのだが……
「ーー……ん? どうした? 頼みにくいならユ……私から頼んであげようか?」
ユウリがそう尋ねると、2人はすぐに首を横に振った。
「やらなくていいの?」
「はい、お言葉はありがたいんですけどそれはちょっと。 私たちのセンターは小畑だけなので」
「そうなんですー。 もし美波ちゃんが応募してくれるなら、私たちは大歓迎なんですけど……」
「そっか。 じゃあ今はあの子の元気さを目に焼き付けてまた明日から頑張るようにね」
「はい、ありがとうございます」
「それにしても美波ちゃん、元気そうでよかったぁー」
現役アイドル2人に今もなお必要とされてる小畑って一体……。
それからも3人は色々と話していたのだが、これ以上聞いたら申し訳ないような悩み・内容だったためオレはその場を離れ茜を迎えに行くことに。
すると同じタイミング……ちょうど茜がこちらへと歩いてきていたので「とりあえずどこも満員だったな。 屋台にでも戻るか?」と尋ねてみたのだが……
「ううん、他に行きたいところ出来たんだけどいいかな」
「え」
「トイレ向かってる時にすれ違った人の話し声を聞いたんだけど、お化け屋敷が面白いらしいよ」
茜が目をキラキラさせながらオレに顔を近づけてくる。
「そうなのか?」
「うん。 なんでも出てきた人の感想が2つに分かれてるんだって」
「ん? どう言うことだ」
どうやら茜の聞いた話では、そのお化け屋敷の名前は『ドロドロ! 恐怖の墓地!!』らしいのだが、とある人の感想は『子供が必死に驚かそうとしてきて怖かった』。 しかし別の人は『あれは絶対にどこかの業者に委託してもらっている。 あれは怖すぎた』と言っていたらしい。
「ーー……つまりはどう言うことだ?」
「わからないよ。 でも気にならない?」
「まぁ……確かに」
「じゃあ決定ね! 行こっ!」
ぶっちゃけオレはあまり乗り気ではなかったのだが茜がそこまで言うのだから仕方ない。
それにオレは陽奈の姉・愛莉やクヒヒさんで幽霊の耐性はそこらへんのオカルト好きよりも高いはずだ。 何かあればオレが茜にいいところを見せつけるチャンスかもしれない。
こうしてオレたちは例のお化け屋敷へ。
一体何が待ち受けているのかドキドキしながら足を踏み入れたのだった。
でもまぁ……あれだな。 このお化け屋敷がきっかけでオレたちの運命が一気に変わるなんて思いもしなかったぜ。
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