550 【茜編】満員!!!
五百五十話 【茜編】満員!!!
マドンナ四天王の1人・エマが代表を務めているお店【プリンセスエマ城・謁見の間】。
そこで提供されているホットケーキを茜が食べたいとご所望で、胃袋が限界突破寸前のオレはどうにかして到着するまでに他へと寄れないものかと考えていたのだが……
「おお……助かった」
【プリンセスエマ城・謁見の間】
その教室の周囲には溢れんばかりの人だかり。
勿論男子やエマナイツはもちろんなのだが、特に目立っていたのは中高生の女子……おそらくはエマのモデル活動を知っている読者が一目会いに来ているのだろう。
「うわー、そんなに人気なんだねエマさんって子」
「まぁな。 そういやちょっと前に雑誌の隅に載ったって言ってたからそこでファンが出来たんだろ」
うむ、今まで何度もエマには救われてきたけど、今回も救われることになるとはな。
茜は「うーん、これだけ並んでると待ってるだけでお腹空いちゃうよね」と残念そうに呟きながらその場を後に。
オレはホッと胸をなでおろした。
「じゃあさダイきちくん」
「ん?」
「他にも3つくらいあったよね? そこ行かない?」
「いや、多分だけどどこも混み具合は一緒だと思うぞー?」
エマのところだけで激混みだったんだ。
他の3人もマドンナ四天王……行くだけ無駄だとは思っていたのだが茜がどうしてもと言うのでとりあえず行ってみることに。
「とりあえず茜、誰の店行きたい?」
「だったら顔見知りだし水島さんのところ行きたいな」
「おけ」
【マドンナ花ちゃんの、ゆるゆるメイド喫茶】
ここの大半を占めていたのは『花江ちゃん大好き委員会』の会員たちと茜サイドの生徒たち。
そりゃあ今回の文化祭に向けて何度か話し合いのために向こうにも足を運んでたからな。 あっちの目につく機会も多かったのだろう。
エマのところとは違いそのほとんどが子供だったため中の様子を覗き込んでみると、教室の中心でメイド服を身に纏った水島がニコニコしながら椅子に腰掛けている。
そしてそんな水島を囲むように机が並べられており、皆提供された焼きマシュマロを頬張りながら「花ちゃーん、こっち向いてー!」と水島に声をかけていた。
「はーい、こっちー?」
「かわいスギルウウウウウウ!!!!!」
「えへへありがとー」
「花ちゃーん!! 次はこっち見てーー!!!」
「はいはーーい」
何という仕組み。
恐るべしゆるゆるメイド喫茶……水島はただ皆の中心で座って体の向きを変えるだけで他は何もしない。
それなのに皆は自分の方を向いてくれるだけで大歓喜……これぞファン心理というものなのだろうか。
そんな光景に愕然としていると、茜が「あっ」と声を出しながら水島に熱い視線を向けている1人の女性を指差した。
「あの人、ちょっと前に教育実習終わった先生だ」
「え」
茜が指差した先に視線を向けてみると、確かにそこにはあの水島に一目惚れしたらしき教育実習生の姿。
これは……あっちの学校に頼み込んで参加させてもらったんだろうな。 目にハートマークを浮かばせながら何度も水島に向けてシャッターを切っている。
「ちょっとせんせー、ネットに上げないでよー?」
「大丈夫安心して!! これは私が家で楽しむだけにするから!!」
「まぁ先生以外にも撮ってる人いるからいいけど、みんなも自分1人で楽しんでねー」
「「「はーーい!!!」」」
なんとまぁ皆従順なのだろうか。
平和な世界だぜと感じながら見ていると、水島が何かに気づいたのか視線を別の方へ。 水島を静かに見つめていたおじいさんの方へと視線を向ける。
これに対しても茜が隣で「あっ……」と声を出していたのだがオレはそれをスルー。 一体どうしたんだと見守ることにした。
「どーしたの、おじーさん」
水島がゆっくりと立ち上がりおじいさんの座っている席の方へ。
あの神主っぽい服装……そうだ、ちょっと前にオレがぶつかったあのおじいさんだ。 何故か最初一緒にいたピンク髪の少女は見当たらないのだが、おじいさんは皆が水島にスマートフォンのカメラを向けている中、1人静かに水島を見つめていた。
「ねー、おじーさん?」
水島が顔を近づけながら尋ねると、おじいさんは「いや……なんでもないよ」と静かに答える。
「そうなのー? でもなんかおじーさん、ちょっと寂しそうだよー?」
「そうかい? 気にしてくれるなんて、優しいのう」
「ていうかなんだろ、おじーさん……花ちゃんとどこかで会ったことある? なーんか初めて会ったって感じしないんだよねー」
「気のせいじゃ。 わしはお主を初めて見たぞ?」
「そっか。 じゃあおじーさんは他にもお店あるのに、花ちゃんのところに来てくれたんだね。 ありがとー」
「ふぉっふぉっふぉ。 実に優しい子じゃ。 花江ちゃん、今は楽しいか?」
「え、なんで花ちゃんの名前……あ、うん。 楽しいよー」
「そうかそうか。 なら良かった」
なんとも謎ではあるが微笑ましい光景。
ていうか水島のやつ、どうしてあそこまであのおじいさんにこだわっていたのだろう。
そんなことを考えていると、茜がオレの服の袖を引っ張りながら耳に顔を近づけてくる。
そこで茜は小さく囁いたのだが、それを聞いたオレは驚きのあまりその場からしばらく動けないでいた。
「ねぇダイきちくん、あれ神様だよ!」
「え」
「私、覚えてるもん! 1回目は昔の初詣に行った時……そしてもう1回は前の私が死んだ時に天界で……。 そういやあれから会いに来てくれないなって思ってたけど、もう天界に帰ってたんだね」
「ーー……マジか」
茜に言われ改めておじいさんの顔を確認してみると、確かにあんな顔だったような……。
となれば神様は水島に最後のお別れでも言いに来たのだろうか。
美香の格好で来たら茜と間違われるから本来の姿で……。
それにしても温かな雰囲気。
そういや水島も『初めて会った気がしない』って言ってたし、心の片隅にはまだ美香の名残が……そしてそれをちゃんと神様から感じ取ったってことなんだよな。
これぞ愛。
神様は満足したのかゆっくりと席を立つと、水島に「今日はありがとう。 おかげさまで楽しかったよ」と声をかけ教室を出て行く。
「え、もう帰っちゃうのー?」
「あぁ。 他のところで孫を待たせとるでな」
「そっか。 じゃあそのお孫さんにもよろしくね! あと投票も覚えてたらでいいからよろしくお願いしまーす」
「ふぉっふぉっふぉ。 任せんしゃい」
その後神様が座っていた席にはまた新たな客が座ったのだが、水島は神様の後ろ姿が見えなくなるまでその背中を視線で追っていたのだった。
「茜はいいのか? 神様に挨拶しなくて」
「うん。 また普通にお礼参りに行くよ。 今は神様のプライベートなんだから邪魔したくないかな」
「そっか」
「じゃあここも満員だし、他のお店行こっか」
「おう」
オレはそう答えると、スマートフォンを取り出して遠くからではあるがメイド服の水島をパシャり。
今回も茜のパンツと引き換えとはいえ、色々とお世話になったし今度さっきの写真を現像してお供えでもしてやろう。
撮った写真を確認してみると、そこに映し出されている水島は中々良い角度で良い表情。 オレは満足気に頷いて「んじゃ行こうぜ」と茜の手を引っ張り次も満員であろう店へと向かった。
「そういや茜、さっき茜が言ってた『今度お礼参り行く』ってので思い出したんだけどさ」
「うん」
「茜の家って柔軟剤何使ってんの?」
「なんで?」
「あーいや、なんとなく」
「確かフレグランスなんとかって書いてた気がするよ。 普通に売ってるピンクのパッケージの」
「そうか、ありがとう」
「変なダイきちくんー」
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茜編……もうすぐ終わります!!!




