542 【茜編】行動力!!
五百四十二話 【茜編】行動力!!
翌週の平日の放課後。
この日はあっちの学校の実行委員数人を交えた話し合いがウチの学校の空き教室で行われ、その休憩時間のこと。
「あ、あった。 この子だよ」
オレと水島の前で茜がスマートフォンで撮影した靴や上履きの砂を入れる等のイジメをしていた犯人の写真を見せてくる。
そしてその映り具合はかなり完璧で、まさかの犯行中の写真……それにかなり近距離から撮れていたため顔がはっきりと撮影されていた。
「えー、茜ちゃんすごーい。 よくこんな近くから撮れたね」
茜のスマートフォンに映しだされている画像を覗き込みながら水島が小さく驚きの声を上げる。
「うん、実はこれ……少し前から薄々と感じてたんだけど、私って気配消すの上手いらしいんだよね」
「そうなんだー」
まぁその身体の元々の持ち主である美香がステルス機能を持ってたからな。
おそらくはその名残が残っているのだろう。
ーー……まぁその用途が無賃乗車やトイレの覗きとかもあったから茜にも黙っておくけれども。
そんなことを考えているオレの隣で茜はその写真に写ってる子の他にも数人いるっぽいことを水島に報告。
それに対し水島は「そっか、おっけーありがとー」と普通に対応していたのだが……
「まぁでも何人かは花ちゃん、もう目星ついてるんだけどねー」
「「え」」
まさかの水島の衝撃発言。
オレと茜が口を開け固まっていると水島は更に続けた。
「例えばだけどさ、4組の遠藤さんって女の子……昨日の火曜日から学校休んでるはずだよー」
◆◇◆◇
あの後すぐに話し合いが再開されたため、水島の話を続けて聞くことはできず。
なので話し合いが終了して茜たちが帰宅した後、オレは帰ろうとしていた水島を捕まえて話の続きを求めたのだが……それはまさにマドンナ水島らしい方法となっていた。
「実はね、花ちゃん、先週の土曜日茜ちゃんからの遊びのお誘い断ったでしょ?」
「うん。 家族でお出かけしてたんだろ?」
「ううん、実はあの日ね、実習生のお姉さんと会ってたの」
「え、何をしに……」
「そりゃー決まってるでしょ? 罠を張りにだよー」
「えええええ」
水島から聞いた話を簡潔に説明すると、どうやら水島は実習生とともに週末茜の学校へ。
実習生と一緒なら警備にも怪しまれないという理由だったのだが、そこで水島が張った罠こそ【わざと落としたラブレター作戦】というものだった。
「わ、わざと落としたラブレター作戦?」
オレが聞き返すと水島はニコニコ微笑みながらウンと頷き口を開く。
「そだよー。 思いついた時は花ちゃん、自分のこと天才かなって思っちゃったー」
「ちなみにそれはどういう……」
作戦名を聞いてもパッと思いつかなかったオレはその詳細を聞くことに。
すると水島は「ちょっと長くなるよ」との前置きを置いてわかりやすく教えてくれたのだった。
「まずね、茜ちゃんの上履きの上に2枚の紙を入れた封筒を置くの」
「うん」
「そしたら茜ちゃん、絶対に朝登校してきた時に『また嫌がらせかな?』って思いながらもその中身読むでしょ?」
「まぁな。 ちなみにその2枚って何書いてたんだ?」
「えーとね、1枚はラブレターで、もう1枚は茜ちゃんへの指示書って感じかなー」
「ーー……茜への指示書?」
「そだよ。 あ、一応その下書きだったらスマホのメモ帳に書いてるけど見る?」
そう言うと水島はポケットからスマートフォンを取り出し器用に操作。
茜の靴箱に入れた手紙とほぼ同じ内容らしき下書きを表示させてスマートフォンごとオレに渡してくる。
確認すると確かに1つはラブレターみたいな内容で、もう1つには……こう書かれていた。
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茜ちゃんへのお願い
深くは考えないで行動してね。
まずはじめに、一緒に入っているラブレターはフェイクです。 茜ちゃんはこの手紙を抜いた状態……封筒にフェイクのラブレターを入れた状態で教室に戻って席についてください。
そしてお手洗いを装うかなんかして席を外す際に、その封筒を落として教室から出てほしいのです。
あとは朝のホームルームが始まるギリギリに戻って来れば大丈夫。
この行動で茜ちゃんの今後の小学校生活が平和になる可能性があるので、是非とも実行して欲しいですお願いします。
(多分ないとは思いますが……ラブレターについて聞かれたら『まだ中身見てなかったけどどこかで落としたみたい』と嘘をついてください。)
茜ちゃんの味方より
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一通り目を通したオレはスマートフォンを水島に返す。
しかしオレがこの手紙の意図をまったく理解していないかもと思ったのだろう、水島が「どう? これで分かった?」と尋ねてきた。
「ーー……いやすまん。 さっぱり分からん」
「えええええ、なんでー? 仮にもご主人さまは去年の宿泊学習の時に花ちゃんの罠に気づいて……あの時どうやられたかは思い出せないんだけど、花ちゃんを倒した頭の持ち主なのに……なんで分からないのー?」
水島が信じられないといった表情でオレを見てくる。
まぁあの時は神様……美香が水島に呼び出される前にオレに助言をくれてたからな。
あれがなかったらオレは確実に水島の策に溺れて破滅していた……でも今は美香もいねーし言えるわけねーだろ。
オレは顔を近づけ問い詰めてくる水島に「仕方ねーだろ、あの時は偶然気づいただけなんだよ」と説明。
その後そのフェイクラブレターがどう動いていくのかについて尋ねると、水島は「しょうがないなー」と若干呆れ気味にため息をつきながら話してくれたのだった。
「もしイジメられてる子がラブレターをもらったってなったら、イジメっ子たちはどうすると思う?」
「え、そりゃあそのラブレターを盗んで回し読みしたり……とか?」
「そう。 それであわよくばこのラブレターを書いたのが一体誰なのかを調べようとするよね」
「うん」
「でもほら、花ちゃんが書いたフェイクのラブレター……この最後の文章見て?」
「ん? なになに?」
水島が再びスマートフォンの画面をオレに向けてくる。
そこに表示されたフェイクラブレター最後の文章……オレは目でそれを追いながら声に出して読むことに。
「もし、この手紙を読んだなら、今日の放課後……夕方4時半に、教室に来てください?」
読み上げ終えたオレが水島に視線を戻すと、水島がオレを見つめてきていることに気づく。
「分かった? ご主人さま」
「え」
「4年生は遅くても授業が終わってホームルームが終わるのが3時半すぎなの」
「うん、ーー……あ、そうか!!!」
オレは両手をパンと鳴らせながら大きく頷く。
「水島、つまりはこういうこと……何も用事のないはずの教室に何人かの生徒の影があったとしたら、そいつらが茜をイジメたりしている犯人だってことだな!」
「うーーん、半分正解!」
「む」
「花ちゃんの狙いはね……、あっ」
気づけば水島の家の前。
水島は「あはは、話してたら家に着くのすぐだねー、方向違うのに一緒に帰ってくれてありがとー」と笑いながら答えを言って家に入っていったのだった。
水島が教えてくれた答え、それは……
『まず1つはね、実習生のお姉さんに夕方4時半過ぎになって教室付近にいる子がいたら「早く帰りなさい」って言いつつ名札を覚えてもらうんだ』
『うん、それで?』
『それ以前にまずラブレターがフェイクだから誰もそこに来ないよね。 そしたら誰もこない現状に隠れて待機してた子たちはどう思う?』
『んー、イライラする……かな』
『そうだよね。 それで最近は低学年でもSNSとかしてるから、それに対する愚痴を言ってる子を見つけるんだよ』
『えええ、でもそんな子を探すのってできるもんなのか?』
『出来るよー。 【〇〇小4年】で検索したら何人か出てくるからあとで調べてみてー』
『なるほど。 それで何人かはそこから監視すると』
『うん。 まぁ花ちゃんの場合は匿名装ってSNS内のメールで脅しただけなんだけどねー』
『ーー……』
ちなみにこの水島が脅したのが最初に言っていた遠藤という女子らしい。
そしてその遠藤、水島の策にまんまとハマり自らの罪を懺悔……誰にも言わない代わりに茜のイジメに加担していたメンバーの名前を聞き出すことに成功したとのことだった。
一人で家に帰っている途中、オレは水島にメールを送る。
【送信・水島】なんか……水島、めちゃめちゃ動いてくれてたんだな。 ありがとう。
【受信・水島】いいよー。 茜ちゃんをいじめたあいつらが悪いんだからー。 それに「誰にも言わない代わりに……」って下りはご主人様のやり方使わしてもらっちゃったー。 あの方法いいね、ありがとー。
【送信・水島】う、うむ。
【受信・水島】あ、そうそう。 今夜は遠藤って子から聞き出した名前と月曜の放課後に実習生のお姉さんが注意した子たちの名前が合ってるかを確かめるから、明日にはもっと詳しく犯人分かるはずだよ。 待っててねー!
ーー……待って、オレまだ何もしてなくね?
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