539 【茜編】調査!!
五百三十九話 【茜編】調査!!
翌日の放課後。
どうやら茜の通う学校まではバスで向かうとのことで、事前に調べていた水島が「とりあえず一旦町まで出て、そこからバスだよー」と言いながらオレの手を引っ張り先頭を歩いていく。
「なぁ、本当に行くのか? 昨日お前に言われた通り茜には連絡してないんだぞ。 もしかしたら帰ってる可能性も……」
「だからだよー」
水島がくるりと振り返りニコリと微笑んでくる。
「え」
「普通なら4年生は5・6年生みたいに授業が遅くまでないよね? だから昨日のように先生同士が連絡しあってないと、クラブとかしてない限りは学校にいること自体おかしいの」
「……そうだな」
「まだ文化祭まで日にちあるのに準備してるなんて絶対におかしい。 なのにもしいたとしたら……?」
「いじめられてる……と?」
「せーかい♪ さすがご主人さまだぁー」
そう言うと水島は再び体の向きを戻してバス停の方へ。
オレはそんな水島の背中を見ながら『いや、さすがにそれは飛躍しすぎなんじゃないのかなー』などと考えていたのだが……
「あ、ちなみに花ちゃんの予想では、あの茜ちゃん、昨日もいじめられてたと思うよ」
突然の推理にオレは一瞬言葉を詰まらせる。
「ーー……なんでそう言える?」
「だっておかしくない? 脚のアザはいつのかは分からないけど、髪の毛だって乱れてたし」
「いやそれは乱れることもあるだろ。 体育とかあったかもしれないし」
「でも6年生の花ちゃんたちの方が授業多いし、あっちに着くまでに時間あったはずだよね?」
「それはそうだけどそこまで気には……」
オレがそれでもと反論しようとしていると、水島がううんと首を左右に振ってそれを止める。
「あのねご主人さま、女の子はそういうの結構気にしてるんだよ? とくに他の子よりも目立ってるような可愛い子は」
「そうなのか? てか自分で言うなよ」
「でもそうなんだもん。 だって考えてみて? 花ちゃんもそうだけど、小畑さんやエマさん、西園寺さんが学校で髪の毛とか……身だしなみをぐちゃぐちゃにしてたことある?」
ーー……。
オレは先ほど水島が挙げていったメンバーの顔・身なりを頭の中で思い出していく。
「ないな」
「そういうことだよ」
「なるほど」
くそ、これにはグゥの音も出ねぇ。
そう言われてみれば今の結城は髪とかちゃんとしてるけど、約1年と少し前……あの時は周りからイジメられてて髪の毛とか色々と荒れてた気もするぜ。
てことは茜は本当に……?
間違いであってくれと思いながらもオレたちはバスへと乗車。 目的地である茜の通う学校へと向かった。
「大丈夫だよ、ご主人さま。 もしさっき言った通りに茜ちゃんがイジメられてたとしても、花ちゃんがなんとかしてあげるから」
「お、おう。 なんか今回めちゃくちゃ頼りになるな」
◆◇◆◇
学校へと着いたオレたち。
校門をくぐり校舎に入ると、水島が「ちょっと待てってー」と駆け出し近くにいた1人の男子生徒に話しかけた。
「ねね、ちょっといいかな」
「え、可愛……なに?」
「私たち今度一緒に文化祭をやる学校の生徒なんだけど、キミ何年生?」
「ぼ、ぼくは6年だよ」
「そっか、じゃあ同い年だね。 それでさお願いがあるんだけど、4年生の靴箱ってどこにあるか教えてくれないかな」
「え、うん……いいけど」
なるほど、靴箱を確認して茜が外にいるか校舎内にいるかを調べるってことか。
どうやって茜を探すものかと考えてはいたのだが、そこまで頭が回らなかった……さすがは高校生並みの頭脳を持つ水島だな。
こうしてオレたちは同学年の男子案内のもと4年生が使用している靴箱エリアへ。
ざっと見渡してみるとほとんどの生徒が帰っているのだろう。 運動靴が入れられているのはごく少数で大半が上履きを入れられていた。
「んじゃ探そっか、ご主人さまー。 靴箱の上に名前シールが貼られてるし、運動靴が入ってるところだけ見たらすぐ分かるよねー」
「おう、そうだな! もう帰ってることを祈るぜ」
オレと水島は効率よく1・2組担当と3・4組担当の二手に分かれて捜索を開始。
オレは心の中で『頼む、何もなく帰っててくれ!!!』と両手を合わせながら運動靴の入っている靴箱とその上に貼られている名前シールを確認していったのだが……
「よ、よかった……。 水島、そっちはどうだ? オレが見た運動靴入ってるところは茜の名前なかったぞ」
もしこれで水島も見つけていなければ茜は既に運動靴に履き替えて帰っているということになる。
オレは期待と不安を半々に抱えながら水島の捜索終了を見守ることに。
そして数分後、水島が静かにオレの方へと歩み寄ってきた。
「ご主人さま」
「ど、どうだ!?」
「うん、花ちゃんが見たところも運動靴が入ってたところには茜ちゃんの名前シール、貼ってなかったよ」
「そ、そうか! それはよかっ……」
「でも」
「?」
一体どうしたと言うのだろう。 水島はオレの言葉を遮ると、そのまま視線を再び先ほど調べていた靴箱の方へ。
「ちょっとご主人さまも来て」と手招きをしながら4年2組の靴箱エリアの前へと案内してきた。
「ここ、見て」
水島が指差した先をオレは目で追う。
するとどうだろう……そこには運動靴ではなく上履きが入れられているのだが、問題はその中身。
上履きの中には大量の砂が入れられていて、その上には『消えろ』と書かれたメモ用紙が添えられているではないか。
「なっ……マジか」
恐れながらも上に貼られている名前シールに視線を移すと、そこに記されていたのは今一番見たくなかった【堀江茜】という名前。
水島の予想が当たってしまったというわけか。
オレが怒りのあまり拳を強く握りしめ震えていると、水島はスマートフォンを取り出し茜の上履きの惨状を1枚撮影。 その後中に入っていた砂を捨て、メモ帳をポケットにしまい込んだ。
「ねぇご主人さま」
水島がオレを見つめながらゆっくりと口を開く。
「な、なんだ?」
「ご主人さまってさ、こういう時の仕返しとか墓穴の掘らせ方とか……そういうの考えるの得意だよね」
「ーー……まぁな」
「それは花ちゃんも得意……とりあえず今日はここの先生方に挨拶だけして帰ろっかー」
「え、でもそれだと解決にならなくないか!?」
「うん。 今はね」
「今は?」
水島はオレの手を引きながら挨拶だけするために職員室へ。
そしてその帰り道、校門を抜けたところで水島がようやく本題を口にしたのだった。
「さっきの続きなんだけどさ、まだご主人さま時間ある?」
「時間? あぁ、まぁあるけど」
「じゃあさ、バス降りた近くでお茶しない?」
「え」
「2人の知恵合わせようよ。 そしたらきっと物凄い仕返し考えつくと思うんだー」
水島が……キレてる。
表面上はヘラヘラとしているが目の奥は笑っておらず。
優香やギャルJK星、西園寺もそうだけど、改めて普段怒らない人を怒らせるべきではないって思ったよね。
もちろんオレはこう言ってやったさ。
「水島、オレの外道レベルの脳について来れるか? 男なら無慈悲、女ならオレの変態の餌食にするぞ?」
「花ちゃんだって負けないんだからー」
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