536 【茜編】悲報
五百三十六話 【茜編】悲報
普段飲み慣れていないコーヒーなんぞを飲んだからなのだろうか。
若干の胃もたれを感じつつもオレは普段より少し遅めに家に帰宅。 すると先に帰っていた優香がリビングから顔を覗かせて「おかえりー」と声をかけてきた。
「あ、お姉ちゃんもう帰ってたんだ。 ただいま」
「ん? どうしたのちょっと様子おかしいけど」
流石は姉。 一目見ただけで弟の不調を見破るなんてな。
「実はちょっと大人ぶってコーヒーとか飲んじゃってさ。 それで胃がもたれちゃったっぽいんだよね」
「あー、ダイキ胸焼けしちゃったんだ。 確かそういう時って水や牛乳を飲んだら良かったんだっけ」
優香はオレをソファーに座らせると「ちょっと待っててね」と小走りで冷蔵庫へ。
「ちょうど今日買ってきたところだったんだよね」と牛乳を入れたコップをオレに渡してくる。
「はいこれ。 飲む時はゆっくりね」
「ありがとう」
胃もたれじゃなくて胸焼けか。 なるほどなるほど。
こうしてオレは優香にこっそりと訂正された言葉に『勉強になったなー』などと感じながらコップに口をつける。
そしてオレが口に含んだと同時だろうか。 「あ、そういえばさ」と優香が話を振ってきた。
「今日美咲が捻挫しちゃったんだよ」
ブフッ
牛乳を口から噴き出しそうになる一歩手前でオレはそれを我慢。
ゴクリと飲み込んだ後に若干むせつつも詳細を尋ねる。
「ええ!? そうなの!?」
「うん。 なんか美咲、最近パソコンのオンラインゲームにハマってるんだけど、イベントの時間に間に合わないかもってホームルーム終わったらすぐに教室を飛び出したみたいなの。 それで少しでも早く移動したかったんだろうね。 階段を3段飛ばしくらいで降りてたら途中でグキッてなっちゃったんだって」
「えええ……」
まぁ気持ちも分からないこともないが。
オレも似たような経験がかなりあるためギャルJK星の悲報に同情していると、優香が「まぁそれはそれとしてね」と話を続ける。
「ん?」
「それで美咲、あれから捻挫の具合見てもらうために病院に行ったらしいんだけど……これ見て欲しいの」
そう言って優香は自身のスマートフォンの画面をオレに向けてくる。
もしかしてギャルJK星のレントゲン写真……捻挫だと思ってたら骨折だったとかそういうやつなのだろうか。
だとしたらいろんな意味でオレもギャルJK星にはお世話になってるし、学校から家までの通学補助くらいならしないこともない。
そんなことを考えながらオレは優香のスマートフォンに視線を移したのだが……
「あー、やっぱり包帯を巻いて……って、え」
思わず声が口から漏れる。
そこに写っていたのはギャルJK星が院内で撮ったのであろう包帯の巻かれた右足の写真。
しかしその写真にはちょうどそのタイミングで目の前を通ったらしき女の子が写り込んでいて、それがどうみても茜なのだ。
そういや茜、今日もあれから病院に直行するとは言っていたけれども。
「あ、やっぱりダイキの知り合い?」
優香が嬉しそうに顔を近づけてくる。
「え、まぁ……そうだよ。 別の小学校の子だけど。 てかどうしたのお姉ちゃん、やけに嬉しそうだね」
「うんっ! だってこの子、美香ちゃんでしょ? お姉ちゃん、ちょっと前にこの子に助けてもらったんだもん」
ブフーーーーーッ!!!!!
まったく……今日は何回飲み物を噴き出せばいいのだろうか。
オレが「いや違うよ、その子は堀江茜さんって名前で……」と説明するも優香は「そうなの?」と不思議そうに首を傾げる。
「でもお姉ちゃんが見た美香ちゃんって子もこんな顔で同じような背丈だったんだけどな」
ーー……そりゃあ神様が身体を創造する時に参考にしたモデルが当時の茜ですからね。
「そ、そうなんだ。 でも写真に写ってる子は堀江茜って名前だから美香って子ではないよ」
「だったら美香ちゃんってどこの子?」
「え」
「前にダイキ、お姉ちゃんが『美香ちゃんって知ってる?』って聞いた時も反応してたよね?」
「いやいや!! お姉ちゃんあの時は『美香ちゃんって幽霊知ってる?』って聞いてきたんだよ!?」
オレが当時のことを思い出しながら必死に突っ込んでいると優香は「そうだったっけ」と頭上にはてなマークを浮かべる。
「あー、でも確かにお姉ちゃんそう言ってたかも」
「でしょ!? それにあの時の話題ってクヒヒさんの話をしてたじゃん。 幽霊の話をしてた時に一般人の女の子の話なんてしないでしょ」
「確かにそうだね。 てことはあの写真に写ってた子はただ美香ちゃんに偶然似てたってだけか」
「そ、そうなるね」
ふぅ……なんとか変に誤解されずに済んだぜ。
別のことに集中しすぎたせいもあってなのか、気づけば胃の調子も先ほどよりはかなり楽に。
その後優香は「あーあ、もし本人だったお礼したかったんだけどなー」などと残念がりながら夕食の準備に取り掛かったのだった。
◆◇◆◇
その日の夜。
放課後エマに教えてもらった画像の入れ替え方法を1人せっせと作業していると、茜からメールが届く。
【受信・茜】起きてるかな?
まったく、あれだけオレに気遣う必要なんてないって言ったんだけどな。
まぁそれだけ茜が大人……優しい女の子ってことなのだろう。
オレは茜を心配させないようすぐにメールの返信をすることに。
【送信・茜】もちろん。 てか今日はメール来ないのかと思ってこっちから送ろうか迷ってたところだったぞ。
するとどうだろう、このまま茜とのメールのラリーになるものだと思っていたオレだったのだが、次に届いたのは茜からの着信通知。
オレは内心少しドキドキしながらも通話ボタンをタップした。
『も、もしもし? ダイきちくん?』
夜だからなのか声を控えめに出した茜の声がスピーカーから聞こえてくる。
「あぁ。 どうした茜。 電話なんて」
『へへ、ダイきちくんなら許してくれるって思ってかけちゃった』
ズギャウン!!!
スピーカーから飛び出してきた天使が思い切り矢を居抜き、オレの心にクリティカルヒットさせてくる。
ぐ……ぐあああああああああ、なんじゃそりゃああああああああああああ!!!!!
可愛いにも程があるだろおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
オレは茜に聞こえないよう静かに深呼吸。
このドキドキを必死に隠しながらも「お、おう」と声を震わせて頷いた。
「そ、それで……何か電話じゃないとダメな用だったのか?」
『ううん、そうじゃないけど……やっぱり迷惑だった?』
「いやいやそんなことは!」
『そっか、よかった。 あのね、今日ダイきちくんが合同の文化祭を了承してくれたけど、その詳細を言えてなかったなって思って』
ーー……。
「あー、なるほどね」
『まだ起きてる? ちょっと長くなるかもだけど』
「構わん」
そこから大体10分くらいだろうか。
茜は今回の合同文化祭の詳細をオレに話しだす。
『今まで私のいた学校って別の私立の小学校と合同文化祭をしていたらしいの』
「うん」
『でも……私はあんまりよく分からないんだけど、1学期が始まった頃にヤンキーみたいな子たちが何人が転入してきたらしいんだよね。 それでそれを知った私立の学校が難色を示しちゃって「今年から無しで」って断ってきたみたいなんだ』
「えええ、勝手だな。 てかよくそんなタイミングで何人もヤンキー入ってきたな」
『うん。 聞いた話だと廃校になったんだって。 それで元々は受け入れ先の学校あったらしいんだけど、そこに弾かれたり辞めさせられたりした子たちがこっちに流れてきたみたいだよ』
ーー……。
「あー、ナルホドネ」
それでうちの学校に提案しにきたと。
『え、ダイきちくんもその話知ってるの?』
「あー、まぁ。 その受け入れ先って多分うちのことだし」
『え、そうだったんだ』
あのクソ学校、潰れてからもいろんなところに迷惑振りまいてたんだな。
その後なぜ茜があっちの学校の代表として来たのかを聞いてみたのだが、茜も不運にもくじ引きで実行委員に選出されてしまい、その中でも受け答えがはっきりしていたからという理由で代表者に仕立て上げられた……ということだった。
「なんか……茜も大変だな」
『だね。 でもそのおかげでダイきちくんとまた会えたんだもん。 私はやってよかったなって思ってるよ』
「まぁなんかオレに出来ることがあったら言ってくれ。 出来る限り力になる」
『何言ってるの? ダイきちくんも実行委員なんでしょ?』
「あー、そっか。 そうだったな」
ちなみに茜は次は3日後くらいにうちの学校を訪問するとのこと。
オレたちは「その時はまたじっくり話そう」と約束をして通話を終えたのだった。
そしてここで突然の悲報が。
通話を終えたオレが旧スマートフォンの電源ボタンを押して作業を再開しようとしたところ……
【バッテリーがなくなりました。 充電してください】
ぎゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!!
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