534 【茜編】きっかけは水ポチャ?
五百三十四話 【茜編】きっかけは水ポチャ?
それは大体10月に入った頃のこと。
もうすぐ文化祭があるらしく不運にもくじ引きで実行委員に選ばれてしまったオレは、雨の中一人とぼとぼと帰路についていた。
「はぁ……こういう時は前に撮った結城の寝顔写真や水島の奴隷画像でも見て元気を……」
利き手でもある右手は傘を持っていたのでオレは器用に左手をポケットの中に突っ込み、スマートフォンを取り出して電源をつける。
その後は慣れた手つきで画像フォルダをタップして過去の画像へと遡っていると……
ツルン
「え」
ポチャン
「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
あろうことかオレのスマートフォンはまるで水に焦がれる魚のように割と大きめの水溜りへとダイブ。
オレはそれをすぐに救出……拾い上げ服で包んで水気を飛ばしながら無事であってくれと心から祈っていたのだが……
「じゅ、充電出来ない……」
こうしてオレはスマートフォンを充電出来ないまま、翌日は土曜日だったため優香に同行してもらいスマートフォン修理専用ショップへ。
そこで診断してもらった際に言われた言葉はなんとも無情なものだった。
「あー、これは派手に濡らしちゃいましたね。 防水仕様でもないですしもう買い換えるしかないですよ。 ケーブルを繋いでも反応しないので、もし大切な画像や動画があれば、今のうちにメールなどで他のパソコンや携帯に送るしか……」
なん……だと……。
◆◇◆◇
「ダイキ、本当にいいの? 大切な写真とかあったらお姉ちゃんのパソコンやスマホにメールで送ってくれてもいいんだよ?」
「ううん……大丈夫。 そこまで写真とか撮ってなかったし」
「そうなの? まぁでももしそうしたくなったら遠慮なく送ってきてね。 とりあえず明日はスマホ買いに行こっか」
「うん、ありがと」
できればオレだってお言葉に甘えて優香のパソコンとかに送りたいよ!!! でも……でもさぁ!!! 同級生の女の子の寝顔接写写真とかパンチラ写真をなんの躊躇いもなく送れるほど鋼のメンタルを持ってねえんだよ!!!!
修理屋から帰宅したオレはガクリと肩を落としながら自分の部屋へ。
バッテリーの残量はまだある。 画像の件はあとでゆっくり考えるとして、今は他にできることを優先するべきだ。
オレは早速ノートを取り出すと電話帳に登録していた電話番号やメールアドレスをそこに書き記していくことに。
なんだかんだで結構な人数を登録してたんだなーなどと考えながらスペルミスや数字の間違いに気をつけてペンを走らせていたのだが……
【堀江 茜】
「あっ」
茜の名前を見つけた途端ペンが止まる。
みんなは覚えているだろうか。 堀江茜……幼い頃から病気と闘い、最後は負けはしたが陽奈に臓器を提供し神様の力により美香の身体として新たな生を受けた心優しい女の子だ。
そういや新学期が始まるくらいに引っ越すみたいなことを言ってたけど、結局どこに引っ越したのだろう。 まぁでも今更聞くのもちょっと恥ずかしいし、なにより今は特にスマートフォンの充電がないからな。
オレは近いうちにでも勇気を出して電話をかけてみようと決意。
そして翌日には優香に新しいスマートフォンを買ってもらい、画像フォルダは空のまま翌週を迎えたのだった。
◆◇◆◇
「バカねぇダイキ。 そんなときはこうすれば画像なんて一瞬よ」
「おお……なるほど。 確かにそれだったら誰にも見られないまま移せるな」
「でしょ? てか誰にも見られたくない画像ってどんななのよ」
「そ、それは言えねぇ」
月曜日の放課後。 エマにケーブル等を使わずに別のスマートフォンに画像を送る方法を聞いたオレが時代の進化に感心していると、ホームルームを終え職員室へと戻っていたはずの担任が「福田、ちょっといいか?」と声をかけてくる。
「え、はい。 なんですか?」
「ちょっと文化祭のことでな。 福田、実行委員だろ」
「はい」
「もう1人は誰だったか……どこにいるか知ってるか?」
「あー、そういやいませんね。 帰ったんじゃないですか?」
「そうか。 じゃあ福田、とりあえず一緒に来てくれ」
「え」
オレは担任とともに教室を出て職員室へ。
移動中に話を聞いてみたのだが、それは理不尽極まりないような内容で……
「実はな、別の地区の小学校の子が一緒に文化祭で何かしないかと提案してきたんだ」
「そーなんですね」
「それで向こうの代表者が来てるから一緒に話をしてくれないか? なぜか4年生の子なんだが」
「え、でもオレ学校全体の実行委員じゃないですよ?」
「いいんだそれは。 というよりも5年6年で各クラスの実行委員が今日に限ってみんな足早に帰ってしまっていてな。 福田しかいなかったんだ」
「なるほど。 じゃあオレが断れば合同はしないってことでいいですね」
「なんで話を聞く前からそうなるんだ」
「だってもし合同でするってなったら話し合いとか今後していくわけでしょ? オレそこまでやる気ないですもん。 実行委員だってハズレくじ引いただけですし……」
こうしてオレはブツブツと愚痴を言いつつもさっさと話を断って帰ってやろうと考えながら職員室へ。
「あちらの応接室で待ってもらっている。 くれぐれも失礼な態度だけはやめてくれよ」との注意喚起を受けながら扉を数回ノック。 小学生らしい態度で「こんにちはー」と中に入ったのだが……
「ーー……え、ダイきち……くん?」
「ん?」
ダイきち?
ここでは聞き慣れない呼び名に違和感を覚えつつも視線をオレの名を呼んだ女の子の方へ。
するとどうだろう……そこには懐かしくもかなり見慣れた顔の女の子が立っていて……
「え、あ……茜?」
「やっぱりダイきちくんだ!」
「ええええええええ!?!??」
なんという偶然……いや、運命だろうか。
そこで待っていた女の子は数日前に連絡しようと思っていたあの茜だったのだ。
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